7-14
世界の管理者と元魔王と元勇者と知り合いの森山実留です。
うーん、これって良く考えたら凄い事じゃね?
この世界の中心人物達ですよ!・・・・・って俺もある意味そうなのか?
知名度が全然違いますが・・・・
☆
王国南方領までの道のりは特に難しい事はなく
時折襲ってくる野盗や魔物を退けながら街道を通り幾つかの集落や宿場を経由し
危なげも無く最寄の街まで来る事が出来た。
以前とルートは違うが少し雰囲気が変わったかなと思う、活気があると言うか人が増えている気がする。
パーセラム王国自体は中立のままだが他国との交流を強化しているとの事なので街道の往来が増えていると言う事だろう。
それでも王国南方領が危険地帯と言うのは今も昔も変わりはないらしい。
王国も街道沿いの最低限の安全確保以外は放置というのも変わらないし森自体も
未だに少しづつ成長しているようなので今後はもっと森は深くなっていくのだろう。
~
「ミノルよ、我は少し別行動を取るぞ」
宿兼食堂で何時ものように食事をしているとルエラが急に言い出した。
「え?どうしたの急に?パーセラムまでは後少しだよ?」
「少し気がかりな事があってな
次の国はそのまま入れるのだろう?
現地で合流したいと考えている」
「う~ん・・・国境のようなモノは無いしどの街も身分証の提示とかも無いハズ
ロージー、そこらは変わってない?」
「そうだね、そこら辺は変わってないと思うよ
でも以前より交流が盛んだから人の出入りは多くなってて
不正行為や獣人族への害する事や侮辱等も以前よりもずっと厳しくなってると聞いているね
ひょっとしたら警備等は厳重になっているかもしれないよ」
「ルエラを1人で行かせるのは物凄く不安だ・・・・
と言うか何で別行動?一緒じゃ駄目なの?」
「うむ・・・・・王国南方領に近づいた事でやっと分る程度なのだが
この辺りにはほんの極僅かだがラカリスティン様の力を感じるのだ」
「それって例の表側の管理迷宮的な?」
ルエラが言っていた魔王城地下のように世界を維持する為の機構が幾つかあると。
ラカリスティンの力が感じれるのなら付近にもあるのかもしれない。
因みに魔王城の地下の迷宮は城に残った魔王が直接指揮を取り攻略を進めているとの事。
まぁ魔物の強さ的に相当時間が掛りそうではあるけどな。
気を抜くと魔王でも死に兼ねないとか言ってたし。
「それが分らんのだ
我には迷宮の場所等の情報は与えられていない
実際に近づいたからこそラカリゥティン様の力を感知出来た位だからな」
「それがどうして1人で行く事になるのさ」
「感知出来た反応が微弱すぎてな我でも判断がつきかねる
それを調べる為に余計な要因は含ませたくないのだ」
「なるほどね・・・俺の体とロージーを抑えてる神力が邪魔って事か」
「すまぬな、今も感知が出来るかどうかと言った程に微力なのだ
なに、無理はするつもりもないし向こうもそのつもりはないだろう」
「向こう?」
どうも反応の見るに極僅かなラカリスティンの神力を
束ねて指向性を持たせて訴えかけている存在が居るんじゃないかと言う事だ。
ただそれも受けれるかどうかのギリギリの低出力なのと明確に誰かに向けてる訳ではなさそうらしい。
それらを踏まえると迷宮自体の緊急システムかもしれないし管理者、守護者のような存在が居るのかもと。
「わかった、この世界に出てきた理由の一つだもんな
ルエラなら危険はないと思うけど無茶はしないように」
「なんとなくだが我を心配していないような気がするが?」
「うん、どっちかと言うと周りが心配だよ」
納得出来てない顔をしているルエラはとりあえず置いといて
今後の予定と合流ポイントの目星をつけて翌朝にルエラと一時的に別行動に移った。
~
「それにしてもミノル君と2人旅とはこれまた面白い事になったね」
ロージーは楽しそうに笑う。
こうしてみると本当に可愛い町娘だよな。
「うん、まぁこんな状況の時に言う言葉じゃないけどね」
「2人で森に入って半日でコレとはミノル君と居ると本当に飽きないよ」
「うん、まぁ今の状況が楽しいならそれはそれで俺は良いんだけどね」
今、俺達は盗賊達に・・・・いや、盗賊団そのものに囲まれている。
そして俺の前に立つロージーの足元には幾人もの盗賊が倒れ
俺とロージーの間には若い女性が3人程怯えて座っている。
正確に言うなら俺にしがみ付いている。
そもそもこんな謎の状況になったのは
突き詰めればロージーとルエラが別れる前の飲み会が原因だ
朝方近くまで飲んだくれた事により出発がかなり遅くなったのがマイナス1点。
次にそれでも出発すると言いはって出発したのがマイナス1点。
ルエラは時間は関係ないと言って睡眠も取らずに出発していったが・・・・・。
そして当たり前のように森の中の街道で日没を迎えたにも関わらず
移動を辞めなかったのがマイナス1点。
そこにタイミング悪く盗賊団に出くわしたのがマイナス1点。
更に言えばロージーが問答無用で強襲したのがマイナス1点。
マイナス5点満点ですよ!こりゃ!
「つうかなんで突撃した!・・・・って大体は分るんだけどさ
どうせ楽しそうってのとこの女性達だろ?」
「概ね正解だね
更に言うとその女性達は獣人族だろ?これから会いに行くのは
そこの王だろう?少しぐらいは話しの切っ掛けになるかと思ってね
それにこの盗賊団は多分、ねぐらを移す為に移動中だったとしたら
ほぼ全員が揃ってると見て良い・・・・・ゴミ掃除は纏めてやるに限るよ」
突然襲ってきた町娘風の女に容赦なくボコボコにされた上に女性達も奪われた盗賊達が
俺達を見逃すつもりも無く周囲をグルッと囲っている。
盗賊団の全員が揃ってると言う事は人数も多いのは当たり前だな。
「コレが全員じゃなかったりした場合は?後、逃げる奴も居そうだけど?」
「それこそ私が知った事じゃないよ
今はただ目の前に居たゴミを片付けようってだけだからね
ここは私の国でも無いんだしさ」
「それもそうか・・・・少なくともちょっとは綺麗になるんだしな」
「そう言う事だね
まぁ只の暇潰しを兼ねたストレス解消って事だよ」
先程から引っ切り無しに魔法や矢が飛んでくるが俺は結界を張り女性達を守り
ロージーは面白そうに軽口を叩きながら細身の片手剣で飛来物を簡単に切り払う。
つうか魔法も剣で切れるのかよ、威力は兎も角あの量を簡単になんて化物だな。
「まだ結構残ってるけど任せていいかな?
この人数の攻撃じゃ俺だと個別には捌ききれないよ」
「この程度の攻撃密度を何とか出来ないなんてミノル君もだらしないな
こういうのは技術と経験と少しの気合さ」
「いや、俺はこの人達を守りつつだからね?」
「ん?私ならこの倍でも守りながら全て撃ち落としてみせるけどね
そこら辺のコツは後で教えてあげるから今は女性達を頼むよ」
散歩でも行くかのような軽い足取りで盗賊に突っ込んで行くロージー。
盗賊達もムキにならずに逃げれば良いのに・・・・・。
もっとも囲ってる盗賊達の更に大枠に結界を張って逃げれなくはしてあるけどね。
更にその範囲外に居る奴はさっさと逃げ出してるみたいだけど。
突っ込んできたロージーに戸惑いながらも引くに引けない盗賊達は戦うしかない。
本人は魔力が大幅に下がり身体能力も一般人よりも少し上程度とは言うが
数十人を相手に無双出来るのは長年・・・・気が遠くなるほどの長い時間を掛けて
積み重ねてきた技術と経験の成せる技なんだそうだ。
俺から見ると人外レベルとしか見えないけどな。
それに絶対に身体能力については嘘を付いていると思う。
動かないで守るだけの俺達にも雨あられのように攻撃が来たが
ルエラ謹製の結界魔法を破れるハズもなく俺は維持に気を使えば良いだけだった。
~
ロージーが盗賊団をボコボコにするのにさほど手間は掛らなかった。
途中から明らかに手を抜いているのが分ったが一切問題は無かった。
盗賊団が使っていた荷馬車の一番程度が良い奴と元気な馬を拝借し身包みを剥ぎ金銭も全て奪った。
残った馬は逃がしたので元気よく生きて貰いたい。
まぁこの世界の馬は元世界よりも遥かに強く賢いので大丈夫だとは思う。
盗賊団も五体満足は少ないが命に係わる程度ではないし
回復魔法が使える者か回復薬があれば何とななるレベルだろう。
少しは身動きも出来るだろうが素っ裸に近く怪我だらけなので
早目に対応しないと魔物か同業か賞金稼ぎの良い餌になりそうだけどな。
持物は奪っただろって?知らんよそんな事は。
「悪い事をした奴らは同じような状況に陥って反省すべきだね
なに、運と実力があれば死にはしないだろうさ・・・・多分ね
少なくとも全滅って事はないだろうさ」
なんて悪魔の所業だよと思ったがそもそも元魔王だから悪魔みたいなものか?
まぁそれでも良いと思う位には随分と俺もこの世界に馴染んだようだ。
保護した女性達は大きな怪我は無かったが随分と弱っていたので
ボロとはいえ荷馬車が手に入ったのは良かった。
盗賊達も何処かに突き出せば金にはなろうがこの人数を連れて行くのも面倒なので放置とする。
彼らの運と実力・・・主に運に期待して頑張って貰うとしよう。
~
荷馬車はゆっくりと森の中の街道を進む。
盗賊団は壊滅させたが他の盗賊団や魔物が来る可能性はある。
警戒も兼ねて御者はロージーがやってくれている。
まぁ後始末は俺に任せるって感じなんだろうけどな。
女性3人は服はボロボロだったので手持ちの外套や布地を渡して身を隠している。
作り置きをしておいた暖かいスープを出すと3人は少し落ち着いたようだ。
「落ち着いたら少し話しをしても良いかな?」
「え、えぇ・・・・落ち着いたわ
助けてくれてありがとう」
話してくれたのは3人でも最年長だった女性だ。
他の2人は少し若いのか未だに緊張が解けていないようだ。
と言っても獣人族は年齢が分り難いからよく分んないんだけどね。
「君達は知合い?パーセラムの者達で良いのかな?」
「そうね、私達は王国側の王国南方領近くの村の者よ」
聞くと山菜やキノコや薬草等を採りに来た所を捕まったと。
最近はどうもそう言った人攫いが多いんだそうだ。
「ここ十数年でパーセラム王国の人口が急増しているんだ
その為、生活圏が広がった事による弊害だろう
確か警備隊を設立したと聞いた事があったが現状ではまだ対応が追い付いてないようだね」
御者をしながらロージーが補足してくれた。
国が栄えるのは良い事も多いが反面って感じだろうな。
「私達も注意して1人では森には入らない様にしていたのですが森の中で突然囲まれて・・・・」
危険だと分っていても森の恵みは生活には必要だし採取にしろ狩りにしろ森には入らなければならない。
そもそも獣人族は身体能力が高く人族よりも単純に強いイメージがある。
この女性達だって同人数の人族相手なら逃げる事も戦う事も出来たハズだ。
それを補うには魔法を使うか大人数で囲むかだろうな。
だが魔法が苦手な獣人族の国では魔法は目立つし感知されかねない
大人数だと鼻や耳が良い獣人には見つかり易い。
何かしらの対策を取っているハズだが魔道具らしき物は無かった。
となると使い捨ての魔道具か・・・・他の手か・・・・内部の手引きがあるか・・・。
魔道具を持っていた盗賊があの場に居なかったって事もありうるし
これ以上は国に任せるしかないだろう。
「そうか・・・・・辛かっただろうとしか言えないけど
これからの事は安心して欲しい
森を抜けたら君達の事は近い内に家に帰れるようお願いしてみるよ」
「ありがとうございます・・・・お礼をしたいのですが私達には返せるモノが・・・」
「あぁ、そこは気にしないで良いよ
通り掛って何もしない訳にもいかないしね
そうだな、今度近くに寄ったら何か料理でも食べさせて欲しいかな」
「えぇ村自慢の料理があります
それを楽しみに行商に来る方も居ますよ」
「それは楽しみだ
じゃぁそれを楽しみにしてるよ」
「・・・・・・ありがとうございます」
俺の言葉にポロポロと涙を流しペコペコと頭を下げる。
獣人族は好戦的な者も多く強さをなにより大事にするが
恩や儀を重視しする者が多いのも特徴だ。
この子達もその気質のようだ。
「少し寝ると良い
さっきも使った魔法をこの馬車に掛けるから安心だよ」
「・・・・・はい、本当にありがとうございます」
安心したのか3人はそのまま崩れるように寝てしまった。
「この国の発展が・・・成長が急すぎるのかもしれないね
国の中枢と周辺では成長速度がズレると言うのもありがちではあるんだけどさ
もっとも獣人族は基本的に魔族と違って短命だ
私とは別の考えがあるのかもしれないけどね」
ゴトゴトと揺れ乗りこごちが良い訳でもない荷馬車の上で泥のように眠る3人。
国が大きくなり豊かになる事は良い事だが悪い事をする奴らも増えるってか。
「私が聞いた限りでは現王は良くやってると思うよ
それでもこうした出来事は何処にでもあるものさ」
深夜の夜道を進み空が白けだす頃に荷馬車は王国南方領を抜けた。




