7-8
もう9月だ・・・
またもや閉じ込められている森山実留です。
どうやっても外に出させないつもりなんですかね・・・。
☆
エネルギーを潤滑に回し世界を維持管理する役目がある迷宮は
基本的に外部供給がある事を前提に構築されている。
仮説ではあるが封印され外部からの供給が受けれない状態となっている。
そうするとリソース不足となる事が間違いないが
それを解消する為の方法として内部のみでエネルギーを循環させる事にしているのではないかと。
更に迷宮の機能を一部制限する事で何とか維持を成功させていると。
制限された機能は多岐に及んでいるようで世代を残す事も含まれている。
つまり迷宮内での子作りを制限したのだ。
個体が増えるのを抑制しリソースの消費を抑えたんだろうな。
残された個体や生態系に支障をきたさない程度の最低限数で寿命も長く設定された。
そして世代交代もせずに女神の力にずっと当てられて少しづつ異常を来したのではないか。
調整により少しだけ猶予を持たせていた分が積もってあのような状況を引き起こすと。
数十年に一度の周期であんな地獄の様な光景が繰り広げられていたと予想している。
ルエラの言い様がハッキリしないのは迷宮の情報や機能一覧ですら
改竄させてる可能性があるそうで状況を示す値を読み取って出した仮説だかららしい。
それを確認する為にも封印の要所と思われる入口の確認が必要なんだそうだ。
「次は入口目指して行くのか
先は長そうだね」
「時間が掛るのは仕方あるまい
入口までの地図は有るのである程度は短縮できるであろう
もっとも情報が正しければだけどな」
「何とも不安な感じだね」
「情報が正しければ階数は多いが罠の類は少ない
魔物の強さも我が迷宮程ではないだろう」
「迷宮の入口に向かうのであれば転送陣を使えばよい
システム登録済なので使用可能だ」
俺とルエラが話していると迷宮ボスが助け舟を出してくる。
「あれは使えるのか?」
「起動は確認し設定も迷宮入口になっている
そなた等の話が本当であれば設定自体が操作されている可能性はあるので
安全かどうかは私には判断出来ないので使うかは其方にお任せする」
「そこまで改竄されてるの?」
「私には正常としか判断出来ないのだ
だが情報が改竄されている可能性が高いと言うのであれば
私自身もそれに含まれているのも否定できない」
「ラカリスティン様が直接関与した迷宮の最深部まで手が入ってるか・・・
地上はどうなっているのだろうな」
「ここからじゃ分らないの?」
「大きな変動や自然災害は起きていないが
その情報すら怪しいと言う事だ」
「結局は外に出るしかないからどちらにせよ
入口に行く必要があると」
「そうなるな
仮に封印されていたとすれば解放すれば齟齬が発生し
迷宮の自浄作用により何かしらが起こるハズだ」
転送陣が何事も無く使えれば有難くはあるんだけど・・・不安だ。
ルエラが徹底的に調べたが機能自体は問題なないがそれすら疑わしいんだから厄介な事だ。
「私の眷属の者を送ってみるのはどうか?」
使うか使わざるか悩んでいた所に迷宮ボスに提案され試してみる事にした。
選ばれたのは移動速度に長け隠密行動が得意な徘徊型の中ボスクラスが三体だ。
戦闘力自体はそれほど高くは無いが兎に角素早く気配を消す事が上手い。
なんせ転送陣は片道のみしか使えず帰りは100階を踏破しなければいけないからな。
あ、因みにこの迷宮は100層もある深層型だった。
システム管理下に置かれた魔物と言えども従わないヤツも居れば
それらが理解出来ないような理性が無い奴も居る。
そもそもが管理状態にあるかどうかも不明なんだしな。
ついでに言えば情報収集も得意らしいので現在の迷宮の状況を
少しでも把握するのに役に立つ。
出発は遅れる事になるが転送陣の安全性と最短ルート付近限定になってしまうが
迷宮の状況を知れるのは双方にとって有難い。
中ボスクラスを三体で武装も通常よりも上等な物に変更する
更に特殊な設定を施して調査に当たらせるとなるとコスパ的には大丈夫なんだろうか?
「通常状態の迷宮バランスを考えればかなり無理な仕様ではあるが
現状の私にそれを判断する基準が存在しない
其方の話が正しければ神の力を消費する事が正常化に繋がるのだろう?
ならば無駄でも無いと判断する」
「うむ、値を見る限りでは相当に消費されているが感じる濃度はまだ高い
そもそもが神の力なのだ魔物を数体作った程度は誤差に過ぎぬだろう」
二人がそう言うなら良いんだろうって事で早速作業に取り掛かかり
使者を送りだせる状態になったのは3日後。
ルエラと迷宮ボスが念には念を重ねて調整したら
とんでもない化物レベルが出来ちゃったけど仕方がない。
素早さは通常時の50%UPで隠密も目の前に居るのに気を抜くと気配が掴めなくなるほどだ。
物理防御と魔法防御も格段に上がった分、攻撃力自体はそれほど高くないが
1体目が物理攻撃、2体目が魔法攻撃、3体目が補助魔法や罠等に特化する事でカバー。
長時間の活動が可能なように耐久性とスタミナも高く設定した。
勿論コストが爆上げとなったが今後は迷宮ボスの
補佐として動いて貰うつもりなので無駄にはしない。
もっとも倒されたりした場合は大損害になってしまうけどね。
因みに俺はこの3体組を迷宮隠密番と呼ぶ事にした。
~
隠密番が転送したのを確認した後はやる事が無い。
帰って来るのを只管待つだけだ。
ルエラは送られてくる隠密番からの情報を分析して現状と照らし合わせるのに大変だし
迷宮ボスは修復が一段落したので細かな調整や何だと忙しい。
・・・・・うん、俺だけ暇だ。
折角なので魔法訓練を開始した。
今迄も続けてはいたんだけど暇なんだし本腰入れて魔力が枯渇するまで延々とね。
簡単な魔法を展開して放つ。
攻撃、防御、回復、補助と様々な魔法を間を置かずに続けて放っていく。
地味練だがこういった基礎を続けるのは後々に効いてくるんだそうだ。
ルエラの本体にプリセットしてもらった構築式の展開速度や強度も向上に繋がるしな。
要は魔法に馴れろって事なんだけどさ。
魔力が付きたら仮眠を取って食事作りだ。
こっちの迷宮で仕入れることが出来る食材で新しい料理を色々と試す。
勿論、ルエラの迷宮・・・裏迷宮に比べると質は落ちる。
とはいえ最上級食材には違いないんだから色々と味付けや志向を変えて楽しんだ。
10日経った頃に隠密番が帰還した。
1日で10階か・・・・速いか遅いかわからんな。
普通に考えれば異常なまでに早いがルートを知っていて
大半の魔物がスルー出来ると考えると遅いとも取れる。
嫌な予感がする・・・。
~
「我が想定していたよりも迷宮の状況は悪い」
「そんなに?」
隠密番の持ち帰った情報を元に分析が進むと予想以上に状況は悪いようだ。
再構築された最下層付近は正常化が進んでいるがそれ以外は
各地で破壊前の此処と似たような事が起きているし魔物も理性を失った者が多い。
「そんな状態でも迷宮としては正常の判断なの?」
「私にはそうとしか判断出来ない」
創造神が作った迷宮ボスすらも欺けるなんて出来るもんなのかね。
なんにせよ転送陣自体は無事に作動する事が確認出来たので使わせて貰う事にした。
転送先は小部屋でやはり出入り口のような物は無かったとの事だ。
後は現地に行って確かめるしかない。
「でわ、行くとするか」
「だね」
準備が終わってる俺達は迷宮ボスに別れを告げ早速転送陣に入った。
~
転送先は特に何もない小部屋だった。
迷宮側への出入り口はあるのに肝心の迷宮外への出入り口が無い。
「どう何かわかる?」
「ミノルよ、壁の此処に手を置いて集中してみるがよい」
ルエラが迷宮側とは反対の壁を指すので言われた通りにする。
「違和感を感じるけど何がどう変なのかわからないな・・・・
滞ってると言うか何かの力を感じると言うか
コレが原因?」
「隠蔽されているがそこが件の封印部分だろう
迷宮の情報を上書きしている一部でもあるな」
「じゃぁこの向こうは出口?」
「うむ、その可能性は高いだろう」
感覚を研ぎ澄まして違和感を追ってみても構造すら把握出来ず
試しに短剣で思いっきりゴリゴリと封印壁を削ってみるが傷すら入らない。
迷宮の他の壁に比べても強固なのかもしれない。
スキルのない俺なんてこんなもんだよな・・・・。
「ルエラは封印解除できそう?
俺は全くなんだけど・・・」
「我にも解除は無理だな
分析すれば何とかなるかも知れぬが時間は相当掛かるだろうし
機材も補助も足りん」
「ルエラでも無理か・・・・どうしようかね
助けを借りるにももう一度下に降りる必要があるか・・・
他の場所も調査を進めれば何か手がかりが掴めるかな?」
「なに、他にもやりようはある」
ルエラは悪巧みをした子供のような顔を見せ封印壁の前に立つ。
魔力を爆発的に高め全身に魔力装備を生成する。
これって・・・・。
「あ、ちょ・・・「ドガーーーーーーン」
俺が止める間もなくルエラは全力で拳を封印壁に叩きつけるのが見えた直後に
小部屋の中で爆風と轟音が荒れ狂い吹き飛ばされる。
「イテテテ」
「ハハハハ、我に掛かればこの通りよ」
煙が晴れると封印壁には人が余裕で通れる位のドデカい穴が空いていた。
壁の向こうにも小部屋があり似たような転送陣がある。
「あれ?表じゃないんだね?」
「うむ、そのようだな
・・・・・・・しかし何だ?この気配は?
神の力は感じるが・・・・いや・・・・・」
「何かおかしなことで・・・・グ・・・アァ・・・ッ!」
急に猛烈な頭痛が襲ってくると同時に脳内にアナウンスが流れる。
> シグナルを受信、神システム再起動します。
> 接続先の情報を取得・・・・成功しました。
> リンク情報の再定義を構築中・・・・成功しました。
> 再リンク開始します・・・・・異常が発生しました。
> 重大なエラーが発生しました。
> 個体情報のリンクパターンが不正。
> 外部からの不正なアクセス形跡を感知。
> 個体情報がロックされています。
> 現状での神システム再リンク不可能。
> エラーを回避してください。
> エラーを回避してください。
> エラーを回避してください。
> エラーを回避し・・・・・。
ついに頭痛に耐え切れずに俺は意識を手放した。
~
目を覚ますと背中に負ぶさっていた。
「・・・・・ルエラ?」
「気が付いたか?」
「どれくらい飛んでた?」
「それほど時間は経っておらん」
「ごめん」
「気にするな
それよりも体は大丈夫か?」
「うん・・・・もう大丈夫かな
降りるよ」
迷宮の通路でルエラから降りる。
頭痛は随分と治まったら奥の方で疼くような感じは残っていた。
冷水を取り出して頭から振り掛ける。
ヒヤっとした感覚で幾分、意識がハッキリとして気持ちが良い。
「ここはどこ?」
「壁の反対側の転送陣を使った先だ」
「転送陣は起動したんだ」
「うむ、小部屋の先に迷宮管理者らしき者がが居たので
試しに倒してみたら起動したんでな」
ついでに倒したって感じなのかよ。
封印壁破壊も割と簡単そうだったしルエラ半端ねーな。
「だとすると入口に近いって事なのかな?
俺の知ってる迷宮の作りだとボス倒すと転送陣で戻れるんだよ
つうか転送陣使ったらまたボスが居たって事になるから普通じゃないとは思うんだけど」
「此処が特別なのか細工をされたからなのかは不明だな
情報は一切無かったから後者だとは思うがな
それに随分と変わった世界のようだ」
「変わった?何か変なの?」
「ラカリスティン様の力を全く感じん
それに比べて雑多な神の力を感じるが
それも阻害されているかのような印象を受けるな」
「それも迷宮の仕業なのかな?」
「出てみればそれもわかろう
風の流れを感じる方に向かっていたが出口が近いのではないかな
迷宮以外の匂いも感じる」
「そう?俺にはわからないけどルエラがそう感じるならそうなんだろうね
此処に居ても仕方がないし行こうか」
「少し休まなくて良いのか?」
「うん、少し頭が鈍く感じるけど大丈夫」
「無理をするでないぞ」
周囲を警戒しつつ歩き出す。
確かに迷宮独特の空気か止まった感じではなく僅かに流れてるような気がする。
もっとも迷宮にも様々な環境があるので一概には言えないが先に何かはあるようだ。
少し歩くと何かが頭の片隅に引っかかる。
「どうしたミノルよ
何かあったか?」
「変だな?なんか・・・・見覚えがあるような」
なんだろう・・・妙にデジャブを感じると言うか・・・・。
「あっ!」
「どうした?」
「やっぱりここ知ってる所だ・・・・」
目の前には荘厳な入口と上へと続く階段があった。
ここは・・・・魔王城の迷宮だ。




