6-29
評価ありがとうございます。
何だかよくわからない事態に陥っている森山実留です。
ミガとセンドゥールのお互いの認識が違うような?
センドゥールは何か知ってはいそうですが教えてくれません。
これはもう拳で語り合うしかないですよね。
「さぁ!存分に殺りあおうぜ!
お前の全てを見せてみろッ!!」
獰猛な笑顔を浮かべ覇気が漲ってくるセンドゥール。
どうやら腹が据わって気持ちが一線を越えたらしくヤル気に満ち溢れている。
まだ余力があったって事に驚くぜ。
「最後に確認だけさせてくれ
俺が圧勝したら協力してくれるんだな?」
「良いぜ
俺に圧倒的な敗北を味あわせてくれるならな
この国でそれが出来る奴がいるとは思えんがな」
ソレこそを望んでいるんだと心底楽しそうに笑う。
「此処には俺達以外は誰も居ないし隣から出てくる事も無い
そして何があっても他言しない
それで良いか?」
「あぁ間違いないしそれで良い
俺を楽しませてくれるならな」
「わかった
なら俺も全力をだそう・・・・死ぬなよ・・・ってか殺さないけどね」
「ハハ・・・アッハハハハ・・・
良いぜ!良いぜ!お前!
ゾクゾクするな!俺を楽しませろ!絶望させてみろ!」
一気に躍り出てくるセンドゥールは先程よりもずっと早く斬撃は鋭く重い。
魔力を一点集中で絞りだし防ぎ弾き返し距離を取る。
「こっちの準備がまだだぜ
あわてんなよ」
俺はそう言うとスキルを全開にする。
≪竜血脈≫を稼働率80%で起動させ下地を強化する。
メキメキと鱗が生え背中にも翼が生えてくる。
これ以上上げると外見がアレだし冷静で居られないからな。
間違っても殺す訳にはいかないし致命傷も拙い。
神謹製スキルで増えた魔力が更に増えていく。
強化された体に魔力をぶち込み≪身体魔補≫≪身体能力強化≫≪闘気錬纏≫≪魔纏≫等を高出力で並列起動させる。
≪骨硬化≫≪百足硬皮≫≪毛皮硬化≫なんかも起動だ。
更には≪聖戦闘衣≫≪王者の眼光≫も追加だぜ。
今の俺は全身をツヤツヤした鱗が覆い背中から翼が頭には角が生え
体中から闘気が湧きあがり鎧を形造り全身を魔力が薄っすらと覆って猛烈な威圧感を醸し出している。
全身に暴力的な力が駆け巡り今にも爆発してしまいそうだ。
明らかに異常でどう見ても人族の少年の姿じゃない。
「お、お前・・・その・・・姿は・・・・
いや・・・別に関係ないな
お前がどんな存在であれ感じる力は本物だ
俺もやっと本気が、全てを投げ捨てた本気が出せる」
先程とは違う何か解放されたような笑顔をるとセンドゥールの体も変化を始めた。
バキバキと音を立てながら鍛えられていた体のボリュームが増大し2回りほど大きくなる。
爪は太く鋭く伸び闇の様な黒さで牙も同様だ。
全身から湧き上がる力強さは先程までが子供のようにも感じる。
「お互いに・・・・恨みっこなしだ」
瞬間、センドゥールの姿は消え俺は斬撃を食らい吹き飛ばされた。
なんて素早さだよ!
≪軌道予測≫≪知力向上≫≪視力≫≪聴力≫≪感覚強化≫≪魔力感知≫
≪見切り≫≪思考高速化≫≪周囲探索≫≪生物感知≫≪視界情報補正≫と補助スキルも大盤振る舞し
スキルからの情報と研ぎ澄まされた感覚は確実にセンドゥールを捉える事に成功する。
周囲の時間の流れが遅くなったように感じる中で
荒れ狂う野生の獣が恐ろしい切れ味の武器を持って襲い掛かってくる。
表情もハッキリとわかり動きも酷く遅い。
そんな中でゆっくりではあるが普通に動ける俺は剣を弾き踏込んで牙と爪を躱し
ガラ空きのセンドゥールの腹に拳を叩きこむ。
一応、武器を使わないのは殺してしまわないようにだ。
鎧が砕け撒き散らしながら吹き飛び轟音と共に壁に衝突した。
「やべ、やり過ぎたか?」
警戒しつつ近づいていくとズルズルと壁に背を預けながらセンドゥールが立ち上がる。
「グフッガハッ」
口から血をボタボタと吐きだすも目はまだ死んでいない。
腹からはシュウシュウと煙があがり表面が蠢いているのが見える。
どうやら高速で治癒してるようだ。
「グフッ・・・ベッ・・・
カカ・・・・ハハハハ・・・・凄いな・・・・
俺の本気の姿でも一発でこれかよ」
満足に力が入らないだろう体でもセンドゥールは強がる。
「まだ・・・まだ終わりにはさせねーぞ
楽しい・・・・本当に楽しいなッ!」
明らかに先程よりも速度が遅くなってはいるが力強い動きだ。
動きながらも動きが少しづつ戻って来るし治癒能力も高いんだな。
襲い掛かる剣を爪を牙を拳を蹴りを躱し防ぐ。
何回か攻撃を加えるも致命傷を与えぬようにしているので浅いのか
すぐに回復して襲い掛かってくる。
センドゥール俺の魔法を防ぐか打ち消してきたのに強引に突破するようになった。
今の姿は肉体強化重視らしく魔法は使えなくなるようだ。
魔法を放てない代わりに全身にまとっているので斬撃や爪で魔法を切り裂けるようになり
防御力も大幅に上がっているので近接能力は異常なまでに高い。
多分俺のスキルと同様に魔力で肉体を強化するタイプなんだろう。
何度ぶっ飛ばしても立ち上がってくるので
素手での攻撃ではセンドゥールを再起不能に出来ないと判断した。
身体能力だけで言えば今の俺での最高出力状態なのにだ。
かと言って短槍、魔銃なんかじゃ本当に殺ってしまう。
この状態を楽しみ今なお急激に成長しつつあるセンドゥールの技術は段々と差を詰めてきている。
このまま行けば倒し切る事は難しくなるかもしれない・・・・。
ここはスキルで何とかすべし!
状態はそのままに≪重撃≫≪魔力爆瞬≫を重ね掛けして一気に踏み込んで叩きこんだ。
ボッ
そんな音がしたと思う。
そしてセンドゥールの腹には大穴が開き中身がぶちまけられた。
吹き飛ばされながらもセンドゥールは俺と自分の状況をみて何故か満足したような顔をする。
上半身と下半身がギリギリ繋がっているような状態でドチャっと地面に叩きつけられ
回復も行われず明らかに虫の息だ。
「が・・・・ガハッ・・・・・
まさか・・・ここ・・・ま・・・で・・・とわな
これ・・でアイツ・・・・が・・・王・・・だ」
意識が無くなったのか目から光が消えた。
口からは止め処なく血が溢れ腹からは内蔵が飛び出ているし
下半身はピクリとも動かず周囲は血と臓物で咽かえるほどの匂いだ。
と言うか僅かな皮膚と筋肉でギリギリ繋がってる状態だ。
「うわーーーーーーーー!!
待って!ちょっと待ってーーーー!」
まだ帰還用の転送陣が現れてないので死んではいないハズ!
魔力を消費する強化スキルを全て解除して残った魔力をありったけ≪創造魔法≫に回す。
「今すぐ!センドゥールを癒せ!」
呪文も何もないただの要望を叫びに応じるかのようにスキルは起動し
センドゥールの全身が淡く光り出す、特に腹部は強い光だ。
逆再生をするかのように傷口が塞がって行くと同時に俺の魔力も急激に消費される。
神謹製スキルで増えた魔力も底を尽きかけ≪竜血脈≫が維持出来なくなり強制解除される。
強制的に底上げされていた魔力も無くなり一気に危険ゾーンに突入する。
魔力残量がどれだけだろうがお構いなしに消費され俺の意識が朦朧とする代わりに
センドゥールの大穴は塞がり出血も止まった。
そして魔力枯渇により俺は気絶した。
目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。
・・・・が見知った顔は沢山居た。
ミガ、リース、キリル、ミリーが覗き込んでいたからだ。
「ここは?」
「隣の控室だ」
「状況は?」
「疲れ切ったセンドゥールがお前を運んできて数時間と言ったトコだな
本人は「俺は此処で良い、ベットはミノルに使わせろ」と言って床で寝てる」
下を見ると確かに豪快に床で寝ている。
何かを食い散らかした後があるので食ってから寝たんだろう。
つうかあんな大穴あいたばっかで食えたのかよ。
どうやら治療は無事に終わってたようで一安心だな。
「それでどうなったんだ?
担ぎ込まれたって事は負けたのか?」
勝敗で言えば買った様な気もするがこの部屋に戻ったのはセンドゥールだ。
となると負けたのかな?
これはどうしたものか。
「いや、俺の負けだ
それも完敗だな」
ムクッとセンドゥールが起き上がり簡単に説明してくれた。
俺と戦い死に掛けた上にギリギリで助けられたと。
勝負が付いたので俺を背負い戻って来ただけとね。
「体は大丈夫?
治してはみたんだけど正直自信が無い」
俺からの問いかけにセンドゥールは何かを割り切ったような笑顔だった。
「あぁ・・・治った・・・・寧ろ前よりも調子が良い位だな
これで王は、ミガ・・・いや、ミガ・バリリアよ
お前がこの国の王だ」
これでついにミガが王か。
ミガ・パーセラムの誕生って事だな。
そういやバリリアって家名だったよな。
元は王族だから家名は無いが下地作りの為に興した家で他に誰も居ないらしいけど。
「国としては正式には戴冠式を行う必要があるが
ここらの仕組み的には転送陣から戻れば王と認識されるハズだ
原理は謎だし俺も知らんぞ
知りたきゃ自分で調べてくれ」
「そうか・・・・ついに・・・・辿り着いたのか・・・」
「立会人と評議会の者よ
センドゥール・パーセラムはミガ・バリリアに王座を譲る事を宣言する
今をもってこの国の王はミガ・パーセラムとなる」
お互いの立会人と評議会は復唱し宣言を受け入れた。
意外とアッサリと言うか簡単におわっちまった感があるけど
これをもって正式にミガが王になった。
「それでどうする?王よ
ミノルに話を聞いたが俺は先代の怨敵になるんだろ
何処かの部族を頼り血を絶やさずに居てくれたことは感謝するが
俺はどうすればいい?首でも刎ねるか?」
センドゥールが何時の間にか俺の事を呼び捨てにしてるのが気になるが・・・よし放置だな。
「いや・・・・どうも私が掴んでいる事実と状況に食い違いがある
それを精査するまでは死なれては困るな
全てが終わるまでは生きていてもらおうか」
「そうか・・・ならば全力で俺も手伝おう
知らない所で何かが起っていたのは間違いないようだしな」
「助かる
・・・あぁそういえば私は先代の子孫ではない
実の娘だ」
「はぁ?実の娘だと?
アレは死亡が確認されているし毛色だって年齢だって全然?!
そうか・・・・加護を受けたか?」
「目も片腕も無くし瀕死の状態で神に拾われてな
老いも遅ければ外見も変わってしまった」
「そうか・・・・お前があの時のお嬢ちゃんか・・・・
王が不甲斐ないばかりに苦労を掛けさせちまったな」
「謝罪は要らない私は真実を知りたいだけだ
私に起きた事、そしてこの国に起きている事をな」
「俺は既に王ではないがこの国の民だ
全面的に協力し過ちが発覚したならば素直に罰を受ける事を新王に誓おう」
「協力は感謝しよう
真実が判明するその時まで尽くすが良い」
センドゥールはミガの調査に協力を約束したが本当に信じられるのだろうか?
代変わりした場合は先代に敬意を持って接するとはあるがミガの父親は暗殺された訳だし。
念の為に一緒に行動している時は警戒はしておいたほうが良いだろうな。
とりあえず此処でやるべき事は終わったので転送陣を起動させ帰路に就く。
転移が終わった瞬間にスキルが何かの存在を感知し視界の端に鈍い光が複数見え
暗闇から小さな黒い人形のようなモノが複数躍り出てくるとナイフを四方から投擲してくる。
軌道から狙いはミガのようだが転送陣の発光が終わってないのでミガは気が付いていない。
「ミガ危ない!キリル!リース!」
魔力が回復しきってないが体を強化しミガの前に飛び出ながら短剣を魔弾と短槍で弾くも
数が多く幾つかの体で防ぐが殆どを防御突破出来ないが少しだけ肌を浅く切りつけられてしまう。
念の為に起動しておいた≪毒耐性≫が反応したので毒も塗ってあったんだろう。
稼働率をあげて無効化し問題無しだ。
「クリリッカ!どういう事だ!
貴様の仕業だろう!」
センドゥールが怒声を張り上げながらもカバーに入る。
キリルとリースも守りを展開しミリーは黒玉を人形に解き放つ。
急な襲撃に焦ったものの黒い人形達は制圧された。
誰一人怪我もなくミガも無事だ。
「今の襲撃は?センドゥールは何か知っているのか?」
ミガがセンドゥールを問い詰めようとしたが。
ブオン。
耳元で低く唸ったような音が聞こえ視界がブレたかと思うと黒人形が再度四方から襲いかかってきた。
だが何故か周囲は灰色のモノトーンで自分の体が重く動きにくい。
あれ?この光景ってさっき見た様な・・・・・?
床に倒した人形も無いし誰も気が付いてない?
魔弾を放とうとしても起動すらしない。
何とか短槍で防ごうとしたが体が動かずナイフが幾つも突き刺さる。
息が苦しくなりスキルも動いていない。
ドクン・・・・ドクン・・・・心臓の音が大きく聞こえる。
「ミノルっ!」
何故か遠くから叫んでるようなミガが俺を呼ぶ声だけがやけに良く聞こえた。
暗い場所、そうとしか言えない場所に俺は立っていた。
そして目の前には白いフワフワした存在が居た。
なんとなく女性のような気もするが違うような気もする。
「やっと・・あ・・え・・出来た・・・・」
え?何て言ってる?
「ごめ・・・貴方の・・・時間・・・・戻・・・て・・・」
時間?戻して?
「わ・・・たし・・・お・・世界・・・で・・・・迷惑・・・」
え?何?つうか何で俺は声が出せないんだ。
「そ・・シ・・・テム・・・は・・・あな・・お・・・き・・・け・・・・」
少しづつフワフワした存在が薄くなってきて声も遠くなってくる。
「すこ・・・し・・・・な・・・」
おい!あんたが誰だか知らないが何を言いたいんだ!
「おね・・・が・・・・ど・・か・・・・」
もう殆ど消えかけてるフワフワが寄ってきて俺を包み込むと
暖かくも何処か懐かしい感じと共に眠るように俺は意識が遠ざかった。
世界神の加護を受けた者を舐めんなよ!
(但し世界神からの強化は殆ど受けてないし口外も出来ない)




