6-25
評価&感想ありがとうございました。
励みになります。
此処の所、俺の料理を食う人が増えて大変忙しな森山実留です。
ミガなんて弁当まで作らせるし・・・・。
「計画を最終段階に進める準備が整った
私は少しの間、不在にするけど心配はない
呼出しがあるかもしれないからしばらく此処に居てくれ」
ミガの私室に呼び出された俺にミガはそう言った。
隣にはララも一緒だ。
「"選定の儀"だっけ?
それを受けれるって事?」
「いや、それはまだだな
今回は評議会に挑戦資格の有無を問う場を作るまでは漕ぎつけただけだ
半数以上には伝手を作ってあるし実績も問題なく通るとは思うがな・・・
そこを通過すれば"選定の儀"を受けれる
大きく言えば評議会の審査も"選定の儀"の一部とは言えるけどな」
「ここまで来るのは長かったわね」
ララが呟くと応じるかのようにミガが少し遠い目をする。
「あぁ、身分を隠して冒険者から初めてな
少しづつ強くなって実績を作って顔を広げて・・・・
1人の少女がこんな酒飲みになっちまう位には長かったな」
「そうね
知り合いも随分と様変わりしたしね」
確か以前に聞いた話しではミガは見た目通りの年齢じゃ無いハズだ。
詳しく聞いてないし獣人族の年齢は分りにくいが若く見える。
人間で言えばまだ30歳付近に見えるらしい。
獣人族は人族と同じかやや短命が多いらしいが長寿の種族も居る。
更に言えば各種族で優劣を付けず尊重する考えもあるので
年齢については特に疑問に思われる事はないそうだ。
確か今の王は若い内に王座に座ってから結構な年数が立ってるんだよな。
未だ衰えぬ鍛え抜かれた肉体を持ってはいるそうだ。
長寿な種族だとしても老いが遅いので何かしらの神の加護を受けているとの噂があり
妾は居るが正妻は居なく独身のままらしい。
最近、思うのだが長く王を務め前王時代よりも国は栄え未開エリア開発も進み管理迷宮も増えた。
国力も強くなり中立国として安定していると言えよう。
それでいて獣人族主体としてはいるが他種族を迫害するようにもなっていない。
簡単に言えば国を繁栄させてる善王だって事だ。
ミガの話を疑う訳では無いが前王を襲って皆殺しにしたってのも今の王の評判と妙な違和感を感じる。
教えてはくれないが裏では色々とやっているとの事だが・・・。
その後はララと最終調整があると言う事で2人で部屋に閉じこもって朝まで出てこなかった。
「それだは後を頼んだぞ」
フル装備に品の良い外套を身に纏い幾つもの収納鞄に
これでもかと各種道具や薬を用意してミガは翌朝に単独で出掛けて行った。
ララはメタモーゾは共にミガよりも早く出掛けており屋敷は俺達4人だけとなった。
ディズと何故か協力してくれる事になったリュードラルも各所で動いているらしい。
基本的に俺は闘士としての実力を認められた配下(協力者)って立場なので
今迄の実績が大切であり今の所は自ら何かをしなければいけないって事はない。
王城から呼び出しがあるかもしれないとは言われてはいるけどね。
基本的には俺かキリルが居る事にし交替で買い出しや用事を済ませる事にした。
「それでコレからどうなるので?」
「調べたり聞いたりしたんだけどよくわかんないんだよね
まず"選定の儀"を受けれるかどうかを
獣人族の各部族の代表が集まる評議会とやらで決めるらしい
"選定の儀"は王城の地下の試練場とやらを単独で突破だってさ」
これは有名な話でこの国では小さい子でも知っている。
だが評議会では何を評価されるのか?試練場の内容は?
"選定の儀"は試練場突破だけなのか?突破したら王になれるのか?
等々の詳細は不明だ。
王座への挑戦は誰でも受けれるが評議会の場に辿り着く前に殆どの者が
落とされるのは周知の事実と言うか恒例化しているらしい。
この国に訪れた際についでに受けてみたら?位の気軽さなんだそうだ。
それ位に窓口は広く開け放たれている。
だがミガのように評議会の前に出れる者は一握りだ。
そこで素質を問われ"選定の儀"に挑戦出来るのは本当に僅か。
そして突破し王となるのは数年~数十年に1人と言った割合だ。
因みに"選定の儀"を突破出来なかった者は尽く命を落としているらしい。
僅かとはいえ関わった者達はいるので時折、情報が流れるが嘘か本当かも不明だ。
それに評議会自体も各部族の族長から構成されているので代替わりもあるしな。
何はともあれ俺達が出来る事は何もない。
そのまま"選定の儀"に挑むのか一旦帰って来るのかすらわからないんだしな。
キリルと訓練しリースに魔法と弓を教わりミリーと散歩をしたりする日々を送った。
因みにミリーは最初の大会以降は俺とは戦いたがらない、それが訓練と言えどもだ。
勿論、大人しいとか戦いを好まないとかでは無いんだけどね。
街で誘拐しようとした者や俺を馬鹿にした者等を拳で黙らせる姿を見ているしな。
見た目は少女だから皆騙されるんだよなぁ・・・・。
それでいて中身は化物じみた強さだなんて卑怯だよね。
10日が経過しミガからは一切連絡は無かった。
ララからは定期的に手紙で現状報告は着た。
メタモーゾとこの国の研究機関を一通り回ってるらしくしばらくは戻れないそうだ。
20日が経ってもミガは戻っこず30日を迎える頃にミガが戻って来た。
その姿は少し疲れているように見えるが怪我も何もない。
「待たせたな
こちらには何か動きはあったか?」
「特に何もなかったよ
何も無さ過ぎた位かな
そっちは?
"選定の儀"とやらは終わったの?」
「そうか何も無いならばそれでいい
こっちはやっと評議会の承認を得られただけだ
それが酷く手間取ってな
肉体的にはそうでもないが精神的には流石にキツかったな
今日はミノルの手料理ととっておきの酒でパーっと行きたいが良いか?」
あれだけの過去を持ったミガが精神的にキツイとこぼすなら
それは相当に苛烈な1ヶ月だったんだろう。
「あぁ、腕によりを掛けて作ってやるぜ」
俺は料理をずんどこ作り食卓に並べていく。
それを凄い勢いで消費していく面々。
タイミングを合わせてララも帰って来た。
メタモーゾも一緒なのはまだいい。
ディズも・・・何とか理解出来る。
リュードラル!お前が何故ここにいる?
そりゃミガに協力してくれてるのはわかるけどさ。
しかもディズが自分の事のように俺の料理を自慢げに語ってるし。
そんなリュードラルはメタモーゾの魔道鎧と戦わせろだとか
キリル、リース、ミリーの三人組に再戦しろとか言ってる。
コイツ案外馴染んでやがるな。
そして黒鍋の生産量を上回る消費量。
神器すらも越えてくるこいつ等の胃袋に戦慄を覚えるぜ・・・。
ミガは料理に愉しみつつ別卓でしんみりと飲んでいた。
どうも今日はディズとワイワイやる気にはなれないようだ。
「それで評議会では何があったの?
内容は話しちゃいけないんだっけ?」
「いや、特に制限は無いぞ
私が受けた現時点での評議会での話しになるけどな
問われる素質は変わらないが何をもって証明するかは
状況や時代、評議会のメンツによって変わるからな」
ミガの話では評議会では内面、つまり精神面を見て
"選定の儀"と言われる試練場への挑戦で肉体面と極限状態の精神力を試すんだそうだ。
試練場は王城の地下にあるとされているが生き残った本人、つまり王と
一部の案内人しか知らない事からミガは転送陣か何かで移動するんじゃないかと予想しているらしい。
「いやぁ、休む暇もなく評議会に呼び出され審問されるのは軽い方で
閉鎖された暗闇で心身を拘束されたまま数日間閉じ込められるとかな
魔法でずっと幻覚に襲われるのは永遠に続くかと思ったぞ・・・・」
他にも色々と出てくる内容に聞くだけでも辟易する。
休みもなく畳み掛けられまともに睡眠も取れず弱って来た辺りからは
賄賂や脅し、ハニートラップのような物まであったそうだ。
「そんな事までやるものなのかね」
「追い詰めて限界まで行った時の精神状態を見るのが目的のようだしな
そこで平常心を保てるか様々なモノに心が屈しないかね
王たる者は流されず他者に屈しず自分の意志で判断すべしってね」
「それだけ王ってのは責任重大って事なのかね」
「そうだな
中立国であるがゆえに他国からの干渉が無いからな
自国内においては権限が絶大だ
評議会もあるが最終的には王の意見が通る事も多い」
「評議会も各部族の代表だろ?
それが纏まるものなの?」
「そこも色々とあってな
友好的な部族も居れば排他的なのもいるし
敵対してたり同盟を組んでたりもな
評議会に入れない部族だっているんだ一枚岩なんてのは淡い夢だな
だからこそ各部族毎に試してくるから大変さ」
「それで都度内容が変わるんだ」
「あぁ、それでも根元にあるのは
"我らを強く導ける強者"だからな
向こうも必死さ」
「評議会が各部族からの代表から成り立ってるとなると
それぞれ優秀な奴を出して来たり依怙贔屓って訳じゃ無いけど
何かしらの融通や賄賂なんかがあったりしないの?」
「それを監視する為に評議会という形をとっているのもあるな
勿論、部族の代表が推してくる者には有利と言う点は間違いない
少なくとも評議会の何人かには話も通ってるだろうしな
だがそこにはペナルティ等も幾つか用意されている」
「そんなのがあるの?」
「評議会を健全に保つ安全策として幾つか用意はされているな
推薦者を出すのは構わないが連続して結果が伴わない場合は
その部族が評議会から外れるとかな」
「なるほどね
出すのは勝手だが結果が伴わなけりゃ責任は取れって事か
評議会を外されるリスクを冒してまで下手は打てないね」
「他にも色々とあるが王を選び国を安定して運営させる為に存在し
評議会に入るってだけで部族としては誉れでもあるからな」
「で、ミガは事前に各部族に事前に渡りをつけてたって事?」
「時間は掛るがちゃんと記録が残るようにギルドを通してや商会を通してな
主要な部族には殆ど顔を出して通じれる様になった
評議会に参加出来ない部族についても同様にな」
ミガの過去は出生不明で現職業は冒険者となっている。
戸籍だ何だと有る訳ではない世界で出生や過去は問われないとしても
後ろ盾が無いのは不利なのは間違いない。
その為に各部族に顔を覚えて貰い実績を積み重ねていった。
勿論、過去や出生を問わないと言っても自国や他国での犯罪者等は問題外だけどな。
「それでも手加減をしてくれる訳でも融通してくれる訳でもなかったけどな
寧ろ知ってるからこそ苛烈に試された位だろうな」
何時もと違う様子で料理と酒を淡々と楽しみつつミガは言う。
「だがまぁこれで後少しだ
"選定の儀"を突破すれば良いだけだ」
「それで王になれるの?」
「わからん
試練場の突破自体を"選定の儀"とするのか他にも何かがあるのかはな
だが次は試練場とやらに挑むのが決まってるだけだ」
「いつ挑むの?」
「5日後だな」
「ならそれまでに色々と準備しないとな
魔弾の在庫もあった方が良いだろうし長期戦を考えての魔道具も必要だろ」
「あぁ、それにミノルの料理もな」
「おう!タップリと用意してやるぜ」
それから5日間はバタバタと準備が忙しかった。
長期戦も視野にいれての魔道具の準備。
これはディズに作ったのと同様だが高ランクの素材を惜しげもなく投入したので効果は上だ。
他にも幾つか役に立ちそうな物も作った。
メイン武具の改良とメンテ、予備の武具の用意。
各種回復薬や治療薬を揃え非常食も1ヶ月分用意した。
俺の料理もタップリと3ヶ月分程度用意した。
魔弾もミガが扱えるタイプを出来る限り用意し
念の為、扱いが難しいが威力が高いのも少し作って渡しておいた。
ララの分の収納鞄も使い用意した全ての物を詰め
5日目の朝に十分な睡眠と食事を取りミガは笑顔で出かけて行った。
そして半年が経過しても帰ってくる事は無かった。
神(神器)を(胃袋的に)越える者達(食いしん坊)の集い(食事)ですね。




