6-14
本年もよろしくお願いします。
え・・・・っと何だか妙に重い話をぶっこまれた森山実留です。
あの・・・いや・・・・ちょっと・・・・ねぇ?!
長くも短くも感じる話が終わった。
「その少女が・・・・」
「そう、私だ
死ぬギリギリの瀕死から加護を得て戻る事が出来た
私も"死に戻り"のようなものなのさ」
その後は何とか生き残って今に至るって所だな。
と乾いた笑いと共に呟いた。
まだ出会って少ししか一緒に居ないが
こんな重い過去があるようには見えないが・・・な。
それだけ必死にもがき苦しんで生きてきたって事なんだろう。
過去を感じさせない位に強くならなきゃいけない位に。
先代を家族諸共亡き者とする・・・か。
後に問題になるかもしれない禍根を絶つ為ってとこなのかな。
先代の息子達が王座を求めてくる事が無いようにしたって所かな。
何か他にも色々とありそうではあるが・・・・。
「それでその話を聞かせてどうすると?」
「私に協力して欲しい」
「目的は復讐?」
「復讐・・・・と言えばそうなんだろうな
だが、直接にどうこうする訳じゃ無い
私が"王"となりこの国を取り戻す」
「自ら?王に?
今の王だって先代には手を出したけど
王座自体は正当に認められたんだろ?」
俺の質問にミガが一瞬詰まるも答える。
「確かにそれはそうだ・・・・
だが今の国の在り方は何か変だ
以前に比べて不可解な部分が多すぎるんだ
私は先代の血を継ぐ者としてそれを正したい」
「ミガの言う内容まではわからないんだけど・・・
だが現王の側にはその何とかが居るんだろ
正体がバレたら命を狙われるんじゃないか?
それに相手が"死に戻り"に注意してないとは思えないんだが」
「それについては問題ない・・・とまでは言えないが大丈夫だろう
瀕死状態なのは本人も見てるし腐乱状態の死体も確認されている
それに私の年齢も外見もアイツが知っているのとは違うしな」
「どういう事だ?」
「私の毛は元々赤毛でね
それが今は白に近い銀髪さ
瀕死になったからか加護を受けたかは不明だけどな
歳を取るのも遅くなったのは加護のお陰だろうが
そんな訳でアイツが知っている私は赤毛で年齢ももっと上だ」
瀕死の状態のまま神の加護を受けたミガは仮死状態となっていたらしく
それを見つけて回復させたのがララだそうだ。
腐乱死体はララが用意しそれを後日、手先の者が確認しているし
目もギルドでの依頼中に受けた怪我が元と記録されているらしい。
まぁ死体も記録も偽造だけどなと笑う。
「それでどうだろうか?
協力して貰えないかな?」
そう問うミガの顔は真剣だ。
「俺にどうしろと?」
「行動はある程度こちらの指示に従って貰う必要があるが
闘士として自由に戦ってくれればそれでいい」
「闘士として戦うだけで良いのか?」
「基本的な動きは闘士としてだけで良い
他にも迷宮や辺境での行動中に手を貸して貰えればありがたいがな」
「戦力としては良いのか?
現王からの抵抗や妨害があるとは思うんだけど」
「正直に言えば戦力としても期待したい所ではあるがな・・・
だが王として問われる素質には個人の強さもそうだが
身の回りの従者や率いる者の強さも重要視されるからだ
ミノルが闘士として名声を得れば主である私の評価にも繋がると言う事だ」
なるほど・・・・王の素質は個人の強さだけでは無く
どれだけの人の上に立つ事が出来るかも問われるって感じか。
「俺の役割についてはまた後で話すとして俺にメリットは?
奴隷から解放して貰った事については感謝するけどさ」
感謝はするし同情もする。
だが国の実情もわからないし俺が協力する必要もない。
解放してくれた分の礼はしようと思うけどね。
だから暗に従わない旨を匂わす事を忘れない。
「立場は同等・・・いやこちらがお願いする形になるな
しかも先程は唐突に攻撃を仕掛けているんだ
闘士としての報酬は全てそちらに渡すしこちらで出来る事は全てしよう
無論、私が王になった際には別途報酬を約束する」
ふむ、ミガが国王になれた場合は1つの国に繋がりが出来る。
恩を売っておけば色々とメリットは大きいだろう。
勇者と魔王と繋がりが出来てしまった今となっては
俺独自の後ろ盾があっても良いのかもしれない。
「私からも貴方に提供できるモノがあると思うわ」
横からララが口を出してくる。
「たとえば?」
「そうね
私が提供出来るのは知識と技術ね
魔道具等も色々とあるけど
貴方にはそちらの方が良いでしょう?
勿論、魔道具や武具なんかも便宜を図るわよ」
まるで答えが分っているかのように微笑むララ。
確かに情報は欲しいしララが例のドパール卿に関係がある者なら
色々と知ってそうだし様々な技術も持っているだろう。
それは随分と魅力的に感じるし俺にデメリットは無さそうだ。
・・・・・・よし。
「わかった協力しよう
俺からは国王になった後にも友好的な関係を築いて欲しいってだけだ
状況が動いても敵対関係にならないって事だけは守って欲しい
最悪の場合は中立で俺には手を出さないって事だけでも良い
ただし個人ではなくて国としてだ」
「それだけで良いのか?
王の従者扱いなんだある程度の立場だって望めるぞ?」
「それで構わない
この世界で絶対的に裏切らない国があるってだけでも安心できるしな
それにパーセラム王国って中立国だってのも良いな
奴隷から解放っていう報酬は先払いで貰ってるし」
「そ・・・そうか・・・・
その程度の事で良いなら私の名を賭けて保障する
但し、パーセラム王国に牙を向いた場合はその限りではないぞ?」
「勿論だ、それで構わない」
「よし、正式に内容を決めたら契約を結ぶとしよう
他にもあればその時に追加してくれ」
「こう言っちゃなんだけど奴隷の新人闘士で死に戻りで落ち人なんて
明らかに怪しいと思うんだけど
自分でもわからないけど魔道具も効かなかったみたいだし・・・
俺が裏切らないって信用できるのか?」
「ミノルを信じるのを決めたのは私だ
それを信じて貰うしか私には手がない」
「その自信はどこから?」
「そうだな・・・・信じて貰うには全て話す必要がある
私が加護を授かり九死に一生を得た神は
魔眼の神であるクゥオーナ様だ
命を助けて頂いた際に魔眼も授かってな
ミノルを選んだのもそのお陰だ」
どうやら内部試合をミガも見ていたらしい。
その時から気になっていたそうだ。
やっぱりあの試合は出資者や購入希望者に向けてって意味合いもあったようだな。
「魔眼の能力を聞いても?」
「授かったのは"境界"の魔眼だ」
「境界?」
「そうだな・・・・
説明するのは難しいんだが
私が見たいと思った内容の境界、境目が分る
それと大体の属性や気持ち等が色で見る事が出来る」
まず全てシルエット状態で見えるのが基本なんだそうだ。
人なら人型のシルエットが見える。
物なら物の形のシルエットとして見える。
つまりは外枠(境界)でしか見る事が出来ないって訳だ。
机の上に花瓶等が有る場合でも机と花瓶の境界は見えるので
失われた視力の代りになると言うが何とも微妙だ。
全てがのっぺりとした影絵のような感じなんだろうか。
各種属性やその時の気分等が大まかな色で判断出来るってのは
怒ってる人は赤黒い人型が見えたり冷たい飲み物は水色に見える等だ。
他人には理解しがたいが馴れると普通と変わらん、なんだそうだ。
何となくしかイメージ出来ないが本人がそう言うならそうなんだろう。
だが戦闘ではその真価を発揮するのだと言う。
境界が見えると言う事は魔法やガス等の不可視の類ですら
境界線が見分けられると言うのは相当に有利だ。
何を見るか?どこまで見るか?は本人に依存されてしまうらしく
見ようとする意志が無ければ何も見えないのが不便ではあるが
相手の大まかな気分が分るので交渉や品物の目利き等にも利用できると。
便利だか不便だか何とも言い難い能力だ。
常時"見る"と言う事に意識を向けなければいけないなんて凄く疲れそうだけどな。
「この眼でミノルを見つけたんだが
私には外見と内面が明らかに差異を感じた
明らかに内包する力が強すぎると見えたんだ
なのにとても色は澄んでいた
正体までは私にはわからなかったけど
落ち人としての魂の強さだったと言う訳だな」
「そんなモノまで判別できるのか?」
「私が理解出来る出来ないは別として見ようとすれば見る事は可能だ
もっとも私の想像や知識、予想を超えるモノを見ようとするか?
とするかは疑問だから結局は私次第にはなってしまうけどな
今回は"死に戻り"と言う事が触れ込みと言うのもあるから中身を見ただけさ
後は身体能力が多少強くなった程度だ」
魔眼の力で俺を見初めたって事なのかね。
そういや最初に会った時はジッと"視られた"って感じたのは魔眼の力を感じてたのかもな。
「戦い方は近接戦闘が主だ
そこそこの魔力を持ってる様なんだが
獣人族の常として魔力操作が苦手でね
それでも訓練の甲斐あってか簡単な魔法なら使えるようにはなった」
やはりミガは近接戦闘が主体か。
剣術と体術をメインとして簡単な魔法を織り交ぜてくるタイプ。
魔眼があるとは言え相当に苦労しただろう。
元は王族で戦いとは無縁だったようだしな。
「わかった
それでそっちは?」
次はララの番だと俺は促す。
「そうね・・・・最初に言っておくけど
私は貴方に興味があるしミガの手助けもして欲しいけれど
一方的な関係になるのであれば契約を破棄するのも辞さないわ
ミガと貴方の関係までは口を出すつもりもないけど
私と貴方の立場は同等と理解して良いのかしら?」
「それで構わない
寧ろ一方的になるとコッチも気まずいしな
協力体制を組むなら出来れば仲良くしたいしな」
「ふふ、なら良いわ
貴方はとても魅力的ですもの・・・・」
「な・・・・なんか・・・怖いんですけど・・・」
「なら早速、私の事を知って貰いましょう
貴方・・・ミノルさんはドパール卿と言う名を知っているかしら?
この世ではソコソコ有名な名なのだけれど」
知ってるも何も卿の作品になった事もあるし
聖神教で作品にあった事もあるしな。
「凄腕の魔道具工匠として名だけは・・・」
「フフ、奴隷なのにドパール卿の名を知っているのね」
「あ、いや・・・」
「あら、別に指摘してる訳じゃないのよ
それにミノルさんの事も後でちゃんと教えて貰えるのよね?」
「あぁ」
「それなら良いわ
私はそのドパール卿のコピー体の1つで
人族を素体とした"魔道ボディ タイプ:ララ"
なのでララ・ドパール、それが正式名称となるわね」
「はぁ?」
「ある程度の自己修復も出来るし能力値的には人族の平均よりも高いわ
ミガやミノルさんには及ばないけど・・・」
「え?ちょ?」
「欠点としては内在魔力は割とあるのだけど素の状態で魔法は一切使えない事ね
人族の生体ベースなので食事も睡眠も出来るけど絶対に必要かと言えばそうではないわ
最低限、周囲の魔力を吸収していれば活動は可能よ」
「あの?聞いてる?」
「勿論、人族としての機能は全て実装してる訳じゃないわ
性行為は可能だけれど子供は作れないわね
排泄も出来なくは無いけど意図的に機能させないといけないから
特別な理由がなければ普段は行わないわ
ミノルさんが望むならそれもアリだけど対価は覚悟してね」
「ははは、ミノルはララに気に入られたみたいだな
自分の事をこんなに話すなんて初めて見たぞ」
「そ、そうなの?」
「だって私の事を沢山知って貰えばミノルさんの事を沢山知れるでしょ?
欲しい物があれば対価を差し出すのは何事も大事よ」
艶のあるララの笑顔が物凄く怖い。
ミガとは違う感じのぶっちゃけっぷりだ。
「その体は人工体・・・ゴーレムって事か?」
「人族の体をベースとした生体ゴーレムと言うのが近いかしら」
「人体改造されたって事?」
「端的に言えばそうね
でも安心して欲しいのだけど
ベースになったのは献体と記録されているわ
無理矢理な人体実験等は行っていないのは保障するわよ」
「戦い方は?」
「基本的には魔銃で中距離からのね」
と魔銃を取り出して見せてくる。
以前にリノンから見せて貰ったタイプで言うと月鐘だかのハンドタイプだ。
デザインはより洗練され作りも良くなっているように感じる。
「さっきもそうだけど銃を見ても余り驚かないのね
闘士で使う者は余り居ないし居ても魔法組のハズよね?
そもそもこの世にまだまだ魔銃の知名度は低いハズだけど」
ぐぬ。
ぐぬぬ。
と言うかまぁ全部話すつもりだから今更か。
「銃を用いて戦う神官ってのに心当たりがあってね」
「それはイヴァングライド教団の事かしら?」
「確かそんな名前だった気がするけど
何か知ってるの?」
「知ってるも何もあそこの立ち上げは
私と同系のコピー体の1人よ
もっとも技術部門担当だから裏方のハズだけど」
まじか?!
「ララ、話す事は色々とあるだろうが少し抑えろ
これで私達の背景は大筋で話したと思うんだが
そろそろミノルの事も教えて貰えないかな?」
「あぁそうだな・・・・・まず最初に言っておくが
俺は正確には"落ち人"ではない」
「そうなのか?」
「あぁ、俺は"転生者"
別の世界で死んでこの世に新たな生を受けた者だ」
俺は全てを話す事を決めた。
生まれも育ちもこの世界での目的も。
根無し草の俺が安定する地を手に入れる時が来たのかもしれない。
怒涛の展開に!
・・・・・なると良いなぁ。




