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6-13

閑話的な内容となります。


それはある獣人族の少女の話。

その少女は国を治める王の娘で俗に言う王族と言う立場の1人だ。


現王である父は力を認められ祖父から王座を譲り受けた由緒正しき王で

政治の世界でも才能を発揮し国を発展させて民からも強い支持を得ている。


母である王妃は獣人族にしては珍しく回復魔法の才があり教会等で癒しを与たり

街へ降りては市井と触れ合あう気さくさを持ち人気がある。


武力だけではなく頭も切れる賢王、そしてそれを支える優しき王妃。

身内びいきかもしれないが少女から見て両親は民からの信頼も高く人気もあった。


少女には上に2人の兄が居る。

上の兄は獣人族らしく強さを求め騎士団の訓練に混ざったりして

体を鍛えてる事が多く背が高くガッチリして強面で言葉使いも荒い。

粗暴な所もあるけれど筋が通ってない事が嫌いで

相手が誰であっても悪い事は悪いとキッパリと言う性格。

逆に自分が悪いと理解すれば立場を気にせずに頭を下げる潔さを持っていた。


長男は少女には優しくて何時も豪快な笑いで楽しい話をしてくれる。

時々、城の高台で肩車をしてもらい夕日を一緒に見るのは特にお気に入りだ。


2番目の兄は体が弱い。

病気等では無く単純に一般的な獣人族としての平均値よりも身体能力が低かった。

代りと言っては何だが獣人族としては珍しく魔法が使える。

適性は土系統と水系統の2系統で母の素質を継いだのだと思う。

体を動かすよりも本が好きで知識と魔法を追い求めた。

少女にも難しい内容でも噛み砕いて分り易く話してくれるので

色々な話をねだっては困らせたが何時も優しく微笑みながら話をしてくれる優しい兄だ。


そんな兄達に比べて少女は中途半端だったと言える。

次男の様に身体能力は低くは無いがそこまで高くもなく

長男とは違い魔力はあるものの制御力は低く簡単な魔法しか使えない。

獣人族として平均的な身体能力と他種族よりも劣る魔法関係。

有体に言えば何処にでもいる普通の獣人族の少女だ。


溌剌とした元気な姿は周囲に笑顔をもたらし城内を明るくする存在だ。

第三者から見ても王族には問題は無いし国も安定していた時代。

少女は両親と兄達に愛されて幸せに成長していた。



パーセラム王国には王になる為の儀式がある。

現王は祖父から継いだが王としての実力を示さなければ王座に座る事は許されない。

それは"選定の儀"と呼ばれ王になる資格を問われる儀式。


パーセラム王国を支える各部族の代表で作られる評議会に資質を認めらた上で

過酷な儀式を突破しなければ王とは成れない。

現王も祖父の後押しを受けてはいるが評議会に資質を認められ

儀式を無事に突破し正式に王座へと就く事が出来た。


"選定の儀"自体は評議会が資質を認めさえすれば誰でも挑戦できる。


"強くあれ"


国の理念が詰まったシステムだ。

逆に言えば誰でも現王にとって代わる事が可能なのだ。

民衆の誰でも良いし他国の者でも構わない。

王国を強く正しく導ける者であれば素性は問わない。


勿論、悪しき者や国の為にならざる者を弾く為に評議会が資質を持つかを選定する。

だが各種族の思惑や様々な要因により潜り抜け参加資格を得る者は居る。

"選定の儀"も生半可な力量や覚悟では突破出来ない程の試練で命を落とす事も多々あるが

それを物ともせずに強さを示せる者も居る。


センドゥールと呼ばれた若者は評議会に認められ"選定の儀"に挑戦し見事結果を出した。

荒々しい性格ではあるが群を抜いた身体能力と武は王と呼ばれるに相応しいとされた。


世代交代した王は相談役として国に残り親族も手厚く守られるが

そうしなければいけない訳でも無くかなりの裁量で自由に身の振りを認められている。

王都には残らず隠居生活や地方自治に尽力する者も居たし

過去には1部族として認められ自然と共に生きる道を選んだ者も居た。


代替わりした方もされた方も相手を尊敬し敬う。

それがパーセラム王国の"選定の儀"に参加する為の資質の1つだと言えよう。

王が強くあれば国も強くなる。

現王も強き者が出た事により安心して任せる事が出来ると王座を譲った。


その際に「国が乱れる時が来たのかもしれない」と呟いたと言う。

安定した世代だから現れたと言っても良い存在なのかもしれないと。



兎も角、王の交代は成り父が選んだ道は「辺境で今迄の身分を捨てて悠々自適に生きる」だった。

家族と共に野に下り少女は王族ではなくなった。

相談役として残って欲しいという要請はあったそうだが頑なに断り

それも一つの生き方だと新しい王は認め国民はそれを快く送り出した。

曾祖父から続く王座は3代で終わりを告げたのだ。


あまり騒がれたくも無いので知人を頼り新たな身分を発行して貰っての生活が始まり

当初は容姿で何かバレるかもと思ったが辺境過ぎて王族の姿を知らない者達しか居なかった。


住居を移した家族は馴れない生活に四苦八苦するも元々、堅苦しい生活が苦手だって事もあり

1年もすれば生活にも馴れリズムが出来てきた。

父と長男は畑仕事をしながら狩りをし次兄は村長の手伝いをする。

母と少女は家事をしながら服を作ったり編み物をしたりと楽しい日々だ。


1年が経ち2年目の冬も間近に迫っている頃には安定した生活を送れるようになった。

長男は父の手伝いをしつつ春には冒険者として村を出る事が決まり

次男も本格的に村長見習いとしての立場を得る事が出来て忙しく活動している。


少女は前にもまして元気で良く笑うようになった。

父の畑仕事を手伝い、長男に剣を教えて貰い、次男に知識を教えてもらう。

母には家事と魔法について学ぶ。


冬に向かっていく時期だが家族には暖かい時間が流れていた。

王座を去った事により本当に家族だけの時間を得る事が出来たのだ。




だがそんな生活に唐突に終わりが来る事となる。

そろそろ本格的に冬の準備をする頃に魔物と魔獣の襲撃があった。

勿論、辺境に住む者達だ、多少の襲撃なんて馴れたもので村が一丸となり対応した。


だがその時の襲撃は普段とは規模が違った。

しかも餌が少なくなる冬季にはまだ時間があるような頃なのに

人里を襲ってまで獲物を求めるには少し違和感がある。

襲ってきた数は多いも個々がそこまで強くないのが幸いではあったが

普段交わらないような種族まで混在していたので村長は危険だと判断し国に救援を求めた。



父と長男は交替で前線に立ち敵を倒していく。

母は怪我人の手当てをし次男は物資等の采配を的確にサポートしていく。

少女も戦えはしないものの門と塀に囲まれた村を走り回り手伝えることを手伝った。


近場から救援が来るのは早くても半日から一日は掛る。

逆に言えばそれまで持ちこたえれば良いだけとも言える。

それ位であれば何とかなる程度の戦力が無ければ辺境で村を維持なんて出来ない。

全員が覚悟を決めて耐えていると救援は予想以上の早さで現れた。


どうも近くで演習をしていた兵士が駆け付けてくれたようだ。

20人程度ではあったが集団で突撃し門まで辿り着き村長の指示で迎き入れた。

「外で戦ってる者は代わって休憩を取ってくれ」

「後から正式に国から救援が来る!それまでの我慢だと」

兵士達はそう励まし2ヶ所ある門に分かれ行動に移った。


少しして少女と家族は村の中央にある村長の家に集まった。

兵士達が魔物を抑えている間に休める者は休むようにと言われ戻って来たと。

守りの硬い村長の家に呼ばれたのは一応は父が先代の王と次男の職場だと言った所だろう。

父と長男は疲れてはいたが大きな傷も無く安心し。

次男が食料を手に入れてきて母が簡単に作った食事を皆で食べる。

脅威は去ってないが落ち着いた少女がウトウトとし始める。



遠くの方から大きな音と共に悲鳴があがった。

少しして傷だらけの村人が駆け込んできた。


「扉が突破され魔物が大量に押し寄せてきた」と。


村中が混乱し大きな音と怒号と悲鳴が聞こえた。

父と長男が飛び出して行き母も後を追い次男に連れられ少女は奥に隠れた。

しばらくすると唐突に少女の体を轟音と共に衝撃が襲った。

そこから先は記憶が曖昧だ。


気が付けば少女は降りしきる雨に打たれながら次男に抱かれて深い森の中に居た。

隣には長男も居たが両親の姿は見えずに少女が長男に聞くと怖い顔をしながらも教えてくれた。


「父と母は私達を逃がす為に殺された」と。


「殺された?」


死んだのではなく殺されたと言う単語に少女は引っかかった。


「あぁ、村に来た兵士達だ

 あいつらは現王の差し金だったんだ・・・・

 魔物共の襲撃も仕組まれた事だ」


そう話す長男は鬼の形相だ。

だが何処か覇気は無く顔も青白い。

良く見れば木に寄りかかって座っている長男の足元には血溜まりが出来ていた。

次男の魔法で治療されてはいるも母とは違い回復魔法は何とか使えると言った程度だ。

応急処置にはなるが根治までは至らない。

少しづつ失われていく長男の命を見て次男は泣きそうな顔をしている。


「大丈夫だ、2人ともそんな心配そうな顔をするな

 俺がタフだってのは知ってるだろ

 お前に治療もして貰ってるし近場の村か町までは持つさ」


そう言って両手でグリグリと次男と少女の頭を撫でる。

あぁ・・・・多分・・・・長男は・・・・・。

少女はそう感じたが口に出すと本当の事になってしまいそうで

泣くのを我慢して無理矢理笑顔を作った。


休憩しながらの進みは遅く日も暮れてしまったので3人は見つけた大木の洞で休むことにした。

元は何かの獣の巣だったりしたのだろう。

狭く臭いが2人の兄は少女を安心させるように温めるように身を寄せ合って寝た。



少女は急に起こされた。

外はまだ暗く闇が支配している時間だ。

獣人族は夜目が効く者も多く少女もそうだった。

雨は止み薄暗い月明かりに見えるのは村に来た兵士だ。


「あれが僕達の村を・・・・父上と母上を殺した奴らだ」


次男は少女を守るように抱いて悔しそうに教えてくれた。

長男は弱った体に鞭打って洞の前で剣をかざし3人の兵士を威嚇している。

そしてスッと振り返り次男を見つめコクリと頷いた。


「落ち着いて僕の話を聞いてほしい」


長男とタイミングを合わせて魔法を放つから隙を見て逃げると。

次男は覚悟を決めた顔で少女にそう告げた。

その顔を見て少女も何も言わずに覚悟を決める。


「おら!どうした!怪我人相手にそんなものかよっ!

 俺達を殺したいんだろ!

 センドゥールの犬どもが!」


挑発しながらも兵士達に切り掛る。

本来であれば長男の方が実力は上だろうが複数を相手取るには怪我が酷い。

相手もそれを分っているのだろう時間を掛けて確実に仕留めるような動きだ。


長兄は足を怪我しているのにあれで走れるの?と次男に聞くと

大丈夫だよと答えてくれたがその顔は今にも泣きそうだった。


幾度かの攻防の後、「今だっ!」の長男の掛け声と共に次男は魔法を放つ。


兵士達の前の地面が爆発すると共に指向性を持った衝撃が襲いかかり

2人が吹き飛んだが残る1人に長男が躍りかかると次男は少女を抱えて駆け出した。


「俺の大事な弟と妹だ!

 お前らのような雑魚にやらせるかよ!

 オラオラ!来いよ!」


気合を入れるかのように豪快に笑いながら戦う長男の声が遠ざかって行く。

心配そうに見上げた少女が見たのは次男の涙だった。

それを見た少女は何も言えずにしがみつく事しか出来なかった。

長男は私達を逃がす為に残ってくれたんだと涙が教えてくれた。


心配するなと言わんばかりに響く長男の声は何時の間にか聞こえなくなった。


それから3日、森の中を彷徨って辿り着いたのは何処かの廃村だ。

人が居なくなり随分と経ったのだろう家屋はボロボロで今にも崩れそうだ。

だが「屋根があるだけありがたい」と次男と少女は少しだけ休息する事にした。

周囲を警戒しながらの逃避行は2人を極限まで消耗させたしまった。

そんな場所が危ないなんて事に気が付かない程に。


少女の次の目覚めは熱さと痛みだった。

左腕の肘から先が無くなり暖かい液体がボタボタと零れ落ちていた。

多分、悲鳴を上げたんだと思うが痛みのあまり自分の声すらも聞こえない。

次男が何かを叫でつつ回復魔法を使ってくれたのだろう痛みが和らいだ。


だが良く見ると次男は右腕が肩から無く少女以上に血が流れ出ている。

それに気が付いた直後、少女は腹部に衝撃を感じ壁まで吹き飛ばされた。


「ククク、こんな分り易い所に来るなんて

 本当にお馬鹿さんですねぇ」


咳き込む少女の耳に届いたのは気持ちの悪い話し方をする男の声だった。

全身を黒い布で包む背の低い男だった。


「クリリッカ様、どうしますか?

 ここで始末してしまいますか?」


クリリッカと呼ばれた男は予備動作も無く何時の間にか手に持っていた

短剣を振り切ると隣に居た兵士の首が落ちた。


「名前を呼ばないでくださいよ

 元王族にバレたら困るじゃないですか・・・・まぁ殺しちゃうんですけどね

 あ、となると君の死は無駄でしたね」


申し訳ないと首の無い兵士に謝るとまた気持ちの悪い笑いをする。


「クリリッカ・・・・確か新王の従者の中で聞いた事のある名だな」


次男が右腕を押えて立ち上がる。

治療したようだが完全に血が止まるまで行っていない。


「おや・・・・まだ動く元気がありますか

 それに私の名を知っているとは・・・流石ですねぇ

 私は裏方なんですけどねぇ」


「その兵士達はお前達の差し金か?

 それにあの襲撃もっ!」


「ククク、よくお分かりで・・・・・」


「何の為に・・・・こんな事を・・・」


「ククク、私はねぇ不安が嫌いなんですよ

 貴方方の存在がね私には不安でしょうがないんですよ」


「だから消すと?

 それが現王の!センドゥールの考えなのか!

 パーセラムの国王として恥ずかしくないのか!」


次男の言葉にクリリッカの雰囲気が更に暗く深く変わる。


「あの方の考えはもっと遙か高みなんですよ

 貴様の様に王族に生まれたのに王城に閉じこもり

 安寧とした生活を送っていた若造に言われたくないねぇ」


こんな馬鹿は苦しめた方が良いねぇと言いながらクリリッカは次男ではなく少女に近寄る。


少女は動こうとしたが片腕が無い事でバランスを崩してしまう。

やけに光って見える短剣の刃と何か大きい物が覆いかぶさってくるのが最後に見た世界だった。

襲ってきたのは激痛と生暖かい液体に全身が濡れた感覚だ。


「やれやれですね

 最後は妹を庇って死ぬとは獣人族なら向かって来いって感じですよねぇ

 そこの貴方、体を処分をして首を持って行きなさい」


「妹の方は?」


「ククク、そのままにしておきなさい

 その怪我じゃ助からないですし此処は魔力も濃い

 ゾンビなり死霊なりに変貌するかもしれませんしね

 それはそれで面白いじゃないですか」


少女は怪我と失われた血で意識が朦朧としたが

そのお陰で痛みも余り感じずに話を聞いていたがそれも短時間で闇に沈んで行った。





少女は死んだのだと思った。

何故なら夢に神が出てきたからだ。


「私の眼にならないか?」


目の前に現れた神はそう少女に問い掛けた

色々と在り過ぎて混乱している少女は神に聞いた。

今はどうなっているのかと?


神は答える。


次男の体を賭した決死の守りで本来なら首を切られる所を

死にそうではあるが辛うじて生きている状態だと。


左手は肘から先が無く両目も潰れている。

どうやらあの飛び込んできた大きな物は次男で

そのおかげで両目が切られるだけで済んだと少女はすんなり理解した。


私にどうなるの?

お前の生はもうじき終わる。


私にどうして欲しいの?

私の眼となり様々な者と物を見て経験をしろ。

さすれば"力"を与えよう。


私に何かさせるつもりなの?

制限は何もしない。

自分で考え動き自分の生を全うしろ。

その景色を私に見せるのが対価だ。


少女は神に聞いた。

国の事を家族の事を。

何故、少女がこうなったのかを。




全てを聞き理解し決意し少女は神の手を握った。

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