6-12
お待たせしました。
すいません。
養成所を出る事になった森山実留です。
建物と乗り物以外での初めての外です!
これはもうアレですね!脱ニートってやつですね。
譲渡が終了し養成所から出た。
日は既に高く上り昼前ってとこだな。
ミガは外に出る際には目を隠すようにサングラスとゴーグルの中間の様な物を装着した。
「必要な物を購入してから宿に向かう
そうだな・・・とりあえず荷物持ちでもしてもらうか」
と言いつつ渡されたのは小ぶりのリュックが1つだけだった。
しかもさほど重くも無い。
「さて、ララよ
まずはどうするか?」
「そうですわね・・・
ギルドにも行かないといけませんけど・・・
先に頼まれていた物を納品しちゃいましょう」
「アイツの所か・・・・」
「ふふ、貴方は嫌いでしょうけど上客には違いませんよ」
「まぁ・・・仕方がない
嫌な事は終わらせてしまおう」
そう言って歩き出すミガとララ。
俺は歩く2人を後ろから付いて行く。
俺の正式な主人であるミガは預けていた武器を腰に戻している。
それはどう見ても刀・・・日本刀に見える。
詳細な部分を見て行けば多少の違和感はあるものの
全体的には間違いなく日本刀と言って良いデザインだ。
チョコっと見てみる。
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≪妖刀・ムラマッシャー≫
ドパール卿が自らの知識を元にアースランドの
技術と素材を使って試作した"ジャパソード"の1本
ララ・ドパールによって改良され実用化された
魔力を通す事により切れ味、強度、刃渡りが変化する
種類:武器
等級:遺物級
品質:良品質
作成者:ララ・ドパール
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なんじゃこりゃ?
色々と突っ込み所満載だな!
つうかジャパソードって日本刀だよね?
それにドパール卿?またも?しかもララ・ドパール?
と色々と悩んでいるとララが俺を見ていた。
「な、なんでしょうか?」
「君・・・・・今、≪鑑定≫を使っわよね?」
「ん?技能持ちか?
ララに言わせると"スキル"とか"アビリティ"だったか」
「呼び方はどうとでも・・・
意味としては同じようなものですし
それよりも君、どうなのかしら?」
急にスキルの事を突っ込み妙に艶のある目で見つめてくるララ。
ミガは何が面白いのかニヤっとしてるだけだ。
さて素直に言えばいいのかが良くわからない。
確かこの世界では"スキル"のような能力は"技能"として一般的に認識されている。
だがそれらの多くは俺の"スキル"とは違い経験から得られる技術や種族的な能力等の認識だ。
だが俺が持つスキルの≪竜血脈≫なんかは人族の俺が絶対に持ちえない能力だし
条件さえ達成すれば取得出来てしまう俺の"スキル"と世間一般での"技能"とは別物だ。
≪鑑定≫は効果、使い方、認識では同じ意味合いだから俺が使えても問題はないハズ。
ここで問題なのは俺が≪鑑定≫を使ったって事なんだろう。
商人や冒険者等は≪鑑定≫持ちの者は多い。
と言ってもそれが俺と同じ≪鑑定≫なのかは謎だけども。
何はともあれ今、問題なのは奴隷の少年が≪鑑定≫を使えるか?だ。
稀に親の職業によって子が引き継いで生まれる事もあるので全くないかと言えばそうじゃないが・・・。
ちなみに"技能"は各ギルドや施設で確認する事は出来るので調べる事は可能だ。
話し方からすると確信があるようだしな・・・ここは素直に話しておくか。
ララにはちょっと興味も湧いて来たし。
「使いました・・・・すいません・・・・」
なるべくしょんぼりとしながら申し訳なさそうに答える。
「あら・・・・やっぱりそうよね
それは"技能"なのかしら?
"スキル"なのかしら?
それとも・・・・」
「おい、ララよ余り燥ぐな
私が小僧を見た時から何かがあるとは分っていただろ?
それはじっくりと宿で聞けばいい」
「そう?ならこのまま宿で良いわね
途中で食べ物を買って行きましょう」
「おお!そうだな!
確かこの通りに良い酒を扱ってる店があったハズだ
・・・・ってララよ、納品は良いのか?ギルドは?」
「あんなクズな客や役所仕事のギルドなんて待たせておけばいいのよ
それよりも今はこんなにも素敵な"観測対象"を優先するに決まってるじゃない」
ララの目は潤み、既にそこだけ夜の帳が降りているかのような妖艶さを醸し出す。
あれ?俺って問い詰められてたんじゃないの?
それが何で俺をうっとりと見つめたり酒飲むぞー!みたいな感じで盛り上がってんの?
とりあえず下手な事は言わないでおこうと後を着いて行く。
あっ、途中の屋台で買って貰った串焼きが美味しかったです。
「んでお前はなんだ?
その中身は外見通りじゃないだろ?」
途中で買った酒と肴を心底美味しそな顔で楽しんでいるミガが
思いっきりストレートに聞いてくる。
「えーっと・・・その・・・なんだと言われても」
「ミガ駄目よ
そんなに焦っちゃ
時間はあるのだからゆっくりと聞けば良いのよ
それで君がさっき使ったのは≪鑑定≫で間違いないわね?」
これはほぼ確信してるな。
隠し通すのは無理だ・・・・謎魔道具も装着しているし・・・。
ならば最重要事項以外はぶちまけた方が早いか。
世界神と転生辺りを≪誤魔化し≫つつ"落ち人"って事で説明した。
「なるほどね・・・・落ち人か・・・・
だが養成所での資料を読む限りではお前の体はこの世界の者だ
そんな事がありえるのか?」
「そうね・・・
この国に良く見られる現象で"死に戻り"って言うのがあるわ
アレは簡単に言えば死んで魂が抜けた後に
神の加護を受けて戻ってくるってイメージね
それに"落ち人"の精神が融合したって所なのかしら
流石に私も事象を確認しなければ何とも言えないわね」
「それなら何とか理解は出来なくもないか・・・
私の目では詳しい事はわからないがララから見てどうなんだ?」
「ん・・・そうね・・・
現状では明確な答えはでないけど敢て言うなら"落ち人"としての
意識が優先されていると思われる位かしら
それでもこの話しが本当なら相当な当たりクジね」
だろうと笑うミガは随分と楽しそうだ。
「それでな小僧、小僧・・・小僧か・・・・
これから一緒に行動するってのにその呼び方もなんだかな
ララ、良い名前でも付けてやれよ
流石に養成所のA17じゃ可哀想だしな」
「ミガ、それは駄目よ
"落ち人"であるなら前の名前があるハズよ
"死に戻り"の前の名前でも良いけど」
「よし、小僧
名前は何と言う」
ここは本名を名乗りたい所だが以前から懸念している名付けの謎状況を回避すべし。
「はい、名前をアライスと言います」
「アライスか・・・・・
よし、ならば今日からお前の事はアラ」
途中まで言いかけた時にミガの体がビクっとして言葉を止める。
「ミノル・・・よし、ミノルだな
お前の事は今からミノルと呼ぼう」
うおおおぉぉぉぉぉ!
またか!またコレか!
明らかに何かあるじゃねーか!!!
「あら?ミガ、貴方から"神の干渉"を感じたわよ」
「なに?本当か?」
「正確に言えば"神と思われる存在の干渉"ね」
ふむ、と考え込むミガ。
なんか色々とマズイ気がするぞ・・・・。
「アラ・・・いやミノルか・・・
確か進化神の加護を持っているとか言っていたな」
「は、はい」
俺に加護をくれてる神で階位が一番上なのがスイリーヤだったんだ。
中級神なら問題ないだろうとの考えだったんだが・・・。
「私も神の加護を授かっているが上級神だ
確かスイリーヤは中級神だったな」
マジかよ!
そんな都合良く上級神の加護持ちとか居るわけねーだろっ!
って文句言っても仕方がないか・・・。
「そうね・・・私の中の知識ではそうね
進化神は人族には余り関わり合いがないから詳細は不明だけど
聡明で気高い魂を導く美しい女神と伝えられているわ」
あれが?聡明?で何を導くって?
いや・・・確かに外見は美しいし女神としての凛とした姿はやはり神だ。
だが聡明ってのは何か違和感がありまくりだ。
普段は引き籠りの大学生みたいな恰好だぞ。
「中級神が上級神の加護者に割り込む事がありうるのか?
そもそも"人族には余り関わり合いがない"神の加護をどうやって得るんだ?
確かこの国で"死に戻り"が起りやすいのは闘心神バルバルサのお陰だろ?」
「そう言われているわね
まぁ階位で言えば同じ中級神同士だし神々の事だから色々とあるんじゃないかしら
私達の考えが及ぶ存在じゃないのよ」
そう言い放つララは凄く微妙そうな顔をしていた。
神に対して何か思う所があるんだろうか。
「ふむ、どうにもミノルの言う事はチグハグな気がするな
それに養成所の隣室で待機している時に
教官に対して何かをしたな?」
なぜ?わかった?
何か感知系持ちか?
それにしたって全て外には漏らさない様にしたんだぞ。
それが上級神の加護の能力か?
くそぉ、ジリ貧だ・・・・。
何か手は!起死回生の手は無いか?!
俺の手持ちのカードはなんだ。
「あまり命令はしたくないんだがな
"ミノルの隠している事を全て話せ"」
悩んでいるとミガが強硬手段に出る。
魔道具≪Slavery Choker≫による自白だ。
猛烈に抗いがたい欲求が出てくる・・・全て話してしまいたいと。
だがここで話してしまうと間違いなく面倒な事が起きる。
外の世界から来た俺だってそろそろ世界神の加護がどんなもんかは理解出来る。
此処は強さも求める獣人の国。
そこの奴隷がそんな加護を持っていると知れ渡ったとしたら・・・。
いかん・・・ここで即転生フラグを立てる訳にはイカナインダッァッ!
むぐぐぐぐ!
気合でなんとか持ち応えてやるZE!
あ・・・・でも・・・駄目かも・・・・。
ピローン
> 神システム対象者の魂魄に対して外部より強制介入が確認されました
> 敵勢エネルギーが基準防御値を超えました
> 自動防衛機構(Ver1.02)が自動発動します
> 防壁を展開します・・・・・展開に成功しました
は?なにこのアナウンス?
妙にスッと楽になったけど。
> カウンターシステム(Ver10.525)が自動発動します
> 敵勢エネルギーの回収を開始します
うぉい!ちょっと待て!なんだカウンターシステムって!
つうかVerがたけーよ!アイツ何やってんだよ!
> 敵勢エネルギーの回収値が規定値を突破しました
> カウンター行動に入ります
ボシュっと小さな音がしたと思うと≪Slavery Choker≫は灰となり崩れ落ちた。
は?今のは何だ?
ちょっと分らない事が多すぎるんですが・・・・この状況とか・・・・。
だって今、完全に命の危機ですよ?
拘束の魔道具が灰になった瞬間にミガの腰にあった刃は俺の首元に添えられて
ララが何処からか出した・・・・銃は俺の眉間にピッタリとくっ付けられている。
「な・・・何を・・・・?」
「それは此方の台詞だな
私に干渉する程の神の加護を持ち
魔道具の効果すら跳ね除けるとはな
ただの闘士、ただの奴隷と言うには無理があるな」
「そうね・・・観察対象としては物凄く魅力的なのだけど
私の作った魔道具をあっさりと突破されるのはね・・・ちょっと」
ミガは獰猛な笑いで獲物を見る目だし
ララはもうそれ戦う目じゃないよねって程に潤んでる。
それでも両者共に俺を下に見る訳ではなく隙がない。
つうか神システムも余計な事をしやがる。
こんな時に勝手に動くなよ・・・・。
多分、魔王に魂を消しかけられた時を参考に
新しく構築されたシステムなんだろうけどよ。
それにしたって発動基準がよくわかんないし。
何にせよ命のピンチ。
死んだって転生すりゃいいんだがそうポイポイ転生すんのもな。
・・・・幸いなことに拘束する魔道具は無いんだ。
全力出したって問題ないよな?・・・・・ないよね?
俺は全てのスキルをオンにし魔力を一気にぶち込んで身体能力を強化した。
それと同時に威圧の為に余ってる魔力を前面に押し出す。
ミガが慌てて刀を引くも勢いも無い引いただけの刃じゃ俺の防御力は突破出来ないし
ララの銃・・・魔銃か、も俺の額に輝く魔法障壁で弾かれてダメージを与えられていない。
「な・・・・・なんだ・・・この圧力は・・・・」
「今の一瞬で障壁を展開したの?!」
意図した状況では無いとは言え攻撃されたのは間違いない。
もうここまで来たら仮面を被るのは止めよう。
寧ろここで逃げれたら実里達の情報を集めに行けるんだから俺としてはラッキーかな。
「先に攻撃を仕掛けたのはそちらって事で良いのかな?
養成所から出して貰って申し訳ないんだけど・・・・
こちらにも事情ってモノがあるんだよね」
言葉と態度は申し訳ないと言いつつ
ヤル気満々の状態はどんな感じに映ったんだろうか。
チンッと清んだ音と共にミガは刀、ジャパソードを鞘に納めた。
ミガを見たララも同様に魔銃を下ろすが警戒は解いて無い。
それでも何処か諦めた様な顔をしている。
「もう・・・・貴方はいつもそうね・・・
良いわ好きになさい」
「すまんな
使えそうな物は掴んでおくに限るからな」
なんだ全然話が見えないぞ。
つうか今回は俺の意志とか関係なく進んで行きやがるな。
「なんの話だ?」
武器を収めたミガの眼は真剣に俺に向けられていた。
「すまない・・・・
こちらから攻撃をしておいて何だが
私の話を聞いて貰えないだろうか?」
「え?なんで?
随分と急だね」
「ふふ、私にも目的があってね
その為に出来る事はやっておきたいのさ
二度と・・・・地獄を味わいたくないからな」
とりあえず此方に攻撃の意志は無いと言って2人とも武装解除し
体から武器を遠ざけ椅子に座りなおす。
「急な事で申し訳ないと思うが
それだけ此方にも余裕が無いって事でね
まぁ暗く楽しくもない話だが聞いてはくれないかな?」
ミガが俺に着席を勧めララはとっとと茶を飲みだした。
なんか良くわからん流れだが攻撃の意志は無いようだ。
うーん、状況がわからん。
とりあえず話しだけでも聞くか・・・・。
俺は何時でも対応できる状態を維持したまま着席すると
ミガは1つの話をした。
1人の少女の話を。
咄嗟の攻撃で突破出来る程度の防御力じゃありませんのです。




