6-5
夏が何時の間にか居なくなりました。
なんか寒いんですけどー!
闘士志望の森山実留です。
志望というと正確ではないですが目指しているのは間違いないです。
つうか外に出れるなら魔物や魔獣を倒しまくって
素材で荒稼ぎすればすぐにでも買い戻せるのに・・・・。
1戦目。
相手は槍を使い鋭い突きを放ってくる。
槍の優位点を生かした距離をとった戦い方だが
それでも突く事に意識を向けすぎで他が疎かだ。
連続突きを多用してくる所をみると体力には自信があるとみた。
俺は突きの圧力で上手く動けない振りをしつつ
最小限の動きで躱す練習を行い上半身の動きだけで躱し
下部への攻撃は最小限のステップで対応する。
スキルをオフにした状態を確かめつつ無駄な動きを減らしていきギリギリを攻める。
時折、攻撃を食らって吹き飛んだり浅い傷を作るのも忘れない。
最後は相手の体力が切れたのを見計らって懐に踏込み
そのまま体当たりで相手にぶつかって倒す。
その際に相手の手を短槍の柄で殴り武器を落とさせて無力化し
何とか立ち上がった体を装い相手の首に武器を突きつけてお仕舞。
ふぅ、疲れたぜ主に精神的にだけど。
戦闘や身体能力に関係するスキルは全てオフだけど
本当に誤魔化せてるんだろうか・・・・。
2戦目。
長剣を使う大柄な相手だ。
体格だけみると周囲とは明らかな差があるのに
試験に合格してないって事は此処に来て日が浅いのだろう。
長剣も標準的な物よりも少し大き目だ。
年齢も訓練生にしては上に見えるので
多分だが元々肉体労働系の奴隷かなんかで売買されたと予想するね。
鋭い踏込みで正確な剣筋を繰り出してくる。
・・・・が、それだけだ。
確かに素早く的確な攻撃だが動きがシンプル過ぎる。
剣撃の威力や鋭さはかなりのモノがあるが単調過ぎるので圧力が足りていない。
恵まれた体格から繰り出される攻撃は新人としては頭一つ抜き出ているが
まだまだ動きや技術が未熟だ。
それでも長剣の重さを気にせずに実直に繰り出してくる力強い攻撃は
新人にとっては驚異的だろう。
まぁ俺にはどうとでもなる程度なんだけどさ。
今回は躱すのを最小限にし小手と剣で攻撃を逸らす訓練をした。
正面から真面に受ければ剣も小手も持たないのでギリギリで見極めて捌いていく。
甲高い音と火花が飛び散り一方的に攻撃されてるように見えるだろう。
これも最終的には相手の体力が少なくなるのを見計らい
動きが鈍った所を交差するように短槍の柄で相手の腹部を突いて終了させた。
相手が向かってきた所に上手い事入っちゃった感を
演出してみたんだが周囲にはそう見えているんだろうか?
この戦いが後何戦あるかは不明だ。
勝ち抜きやトーナメントと言うよりは実力を見たいから色々な組合せを見てるようだ。
回復役が居るってのはそこら辺も関係がある気がする。
俺も怪我と体力を回復させて貰ったが回復させてもらってない者もチラホラと居るし。
スキルの方はオフにしてるのにも関わらずスキル熟練度が僅かだが成長してる。
オフにしててもスキルに該当する行動を取れば熟練度は上がるみたいだ。
勿論、オンの方が上がり易いし効果も受けれるが少しだけ何かが違う気がするな。
体に馴染むと言うか染み込むと言うか・・・・。
アレだな!下地が出来たからスキル効果がより発揮されるようになった。
そんな感じを受ける。
たとえて言うなら超野菜人状態を維持した親子のような感じかな。
・・・・・うん、何か違うような気もするけどそんな感じだ。
どうもスキル任せや神システム任せにするよりは
素の状態で訓練を続けた方がより恩恵を受けれるようだ。
スキルや魔力での強化の方が手っ取り早く強くなれるのは間違いないんだけどさ。
その後も3戦続いたが俺はスキルをオフにしたまま試合を続けた。
≪誤魔化し≫はオンにしておいたが行動にも効果があるのかは不明だ。
熟練度は上がってたので一応、発動はしてるみたいなんだけど・・・。
因みに素の身体能力だけでも余裕だったとだけ言っておく。
圧倒しないように手加減するのに疲れたけどね。
そして迎えた6戦目。
相手はサエリアだった。
両手には逆手で短剣を持っている。
左手は少し大ぶりで肉厚、右手は細身でやや短い。
腰には支給品の短剣が差してあり短剣3本の変わったスタイルだ。
防具は同じ物を使っているが肩の部分を外してあり動き易そうにしている。
「これがお前と俺の最終戦だとよ」
「そうなのか?」
「あぁ俺の担当教官がそう言ってた
どうも俺もお前もあそこに居る誰かの興味を引いたみたいだぜ」
そういってクイッと首を向けたのは全体が見渡せる場所に設置されている天幕だ。
「サエリアは注目されてそうだね」
「フッ、お前もだけどな」
「そう?
こっちは一生懸命なだけだよ
そっちと違って武器も普通だし」
「俺のスタイルは独特だしな
これも別に用意して貰った武器だ
まぁ闘士になる前から借金が増えちまったけどな」
冗談っぽく言うが目には燃えるような光が宿っている。
だが何かを諦めた様な影がチラついてもいるようにも感じる。
「無駄口をたたくな
始めるぞっ!」
審判役の教官がリング外から叱咤してくる。
「まぁそういうこった
話してても仕方がない
全力で来いよ?」
そう言ってサエリアは鋭い踏込みで距離を詰めてきた。
サエリアの攻撃は独特のリズムがあり読みにくい。
タイミングを見計らった伏兵のような鋭い突きの右。
防御を重視し攻撃力もある左。
それを支えるバランスの良い鍛えられた体。
時折、織り交ぜてくる体術もなかなかだ。
スキルをオフにしても身体能力だけで圧倒できる程度には
差はあるんだが流れが読めず後手に回ってしまう。
今迄どれだけスキルに頼ってたのかを実感するな。
そうは言っても初動を見てから反応しても対処できるので
やはり負ける要素は無いのだけれども。
元々経験があるだろうと思われる動きを読みながらどうするかを悩む。
勝つ事は簡単だがサエリアに勝っても良いのだろうか?
サエリアの実力は他者よりも明らかに上だ。
総合的に見て頭が1つ所か2つは飛びぬけている。
「それに諦めて死にたくないだけで戦ってる奴の目じゃないよなぁ」
「何か言ったか?
反応が遅れてるけどそろそろ限界か?」
「あぁ、ちょっと強すぎんだろ」
俺の呟きにサエリアが乗ってくる。
手加減してる事には気が付いてないようだな。
それも段々とコツもわかって来たし。
ピローン
> スキル≪手加減≫を手に入れました。
=========================
≪手加減≫
説明:体力をギリギリ残して倒さないようにする
これで捕獲も容易になるぞ!
まぁ嘘だけどな
効果:身体能力を制限する
他の有効スキルが発動中はそちらが優先される
=========================
っとスキルが追加された。
ふむふむ、良くある説明だなと思ったら嘘かよ!
単純に能力が制限されるだけじゃねーかよ!
何にせよ≪誤魔化し≫の熟練度も上がってる事だし
≪手加減≫を追加すれば更に隠せるだろう。
と言う訳で早速、スキルオンだぁ!
「おいおい、急に動きが鈍くなったぞ
疲れが出てきたんじゃないか?」
≪手加減≫で身体能力を3割程度に指定してみたら
動体視力も反応速度も筋力も一律で落ちやがって流石にキツイ。
各項目ごとに指定も出来そうだけど今は検証する時間が無い。
必死になって応戦するもサエリアに勝ちを譲る結果となった。
≪手加減≫で身体能力を制限した上での全力だから
必死さは出たし伝わっただろうから問題はないと思うけど・・・。
俺は6戦5勝1負でサエリアは7戦7勝0負だ。
つうかあの動きで7戦目だったのかよ。
回復させて貰えるとは言え凄い気力と体力だな。
そんな全勝のサエリアは教官に連れられて天幕の奥に消えて行った。
あそこまで実力があればそりゃそうだろうな。
次の試験では間違いなく合格するだろう。
そういやなんでまだ闘士じゃないんだ?
俺よりも長そうだし試験を受けるチャンスはあったと思うんだけど・・・・。
まぁ何か事情があるみたいだし俺が気にする事でもないか。
そんな俺はディズが上機嫌で出迎えてくれた。
「おう、お疲れ
上手くやったじゃねーか!」
「そうですか?
今一つ上手く出来た気がしませんでしたけど」
「多分大丈夫だろ
最後なんて体力が切れた感が凄かったぞ
随分と上手い事やりやがったな」
「あれは本当ですよ
最後にガクっと来ちゃいまして」
「本当だぁ?」
ディズは完全に疑ってる目だ。
少しフラフラしてる今の状態ですら演技だろ?と言わんばかりに。
「いや、本当ですって」
「・・・・・・・・フンッ」
いきなりディズが踏込みと共に拳を突きだしてくる。
≪手加減≫を発動中な上に試合後の俺の体は反応出来ずに
思いっきり鳩尾に突き刺さる。
「ゲボォハァ」
「あ、あれー?
だ・・・・大丈夫か?」
ディズの声を遠くに聞きながら俺の意識は遠のいて行った。
あぁ・・・この状態だと耐久力も下がるのか・・・・。
ちゃんと設定内容を・・・確認・・・しないとな・・・。
目が覚めると何時もの部屋では無く何処かの部屋で寝かされていた。
しかも寝具の上に寝かされていて背中が痛くない。
「気付いたか?」
声のした方を見るとディズが机で寛いでいた。
手には盃を持っていて部屋には酒と食べ物の匂いが漂っている。
「ここは?」
「養成所内の俺の私室だ」
「自分は何でここに?
何時もの部屋じゃないんですか?」
「あぁ、どうも此処の主人が試合結果に満足したらしくてな
俺達を労いたいとか言い出してよ
炊き出しが振る舞われてたりしててな
訓練生達もおこぼれにありついてたんだ」
「なるほど
それで何でここに?」
「まぁお前も頑張ってたし炊き出しなんて滅多に無いからな
味あわせてやりたくてよ」
「それで一時的に教官が保護して大部屋に戻すのを止めたと」
「そうだな」
「では今から外に?」
「いや、今から行くのは何時もの大部屋だ」
「・・・・話が見えないんですが?」
「お前が寝てる間に終わっちまったんだよ」
「・・・・なるほど
つまり炊き出しには間に合わなかったと」
「そうなるな」
「教官の指示通りに試合は頑張りましたよね」
「そうだな」
「でも炊き出しにはありつけないと」
「ざ、残念な事にな」
「あれ?教官は何を食べているので?
それにお酒を嗜んでおられるようですが」
「う・・・うむ・・・・」
「なるほど・・・・
つまり自分は奴隷なんだから薄暗い大部屋で
硬くて冷たくて不味いパンでも食べるのがお似合いと」
「い・・・・いや・・・そうとは・・・・」
「でわ、戻りましょうか!ディズ教官!
もう試合も終わりましたし炊き出しも終わりました!
自分が此処に居る理由なんてないですからねっ!」
盛大にため息を吐いた後に部屋から出て行こうとする。
「わーた!わかったよ!
俺が悪かった!」
クルッと振り返ってニコリと笑う。
「なんですか?
何がわかったんですか?」
「確かに褒美がなきゃやってられねーよな
だがそれは今じゃねぇ
それは理解しろよ!
・・・・・おっと何かちょいと腹が痛てーな」
「はい?」
「痛ててて
こりゃちょっとトイレに行くしかねーな
おい、俺はちょっと席を外すが此処で待ってろよ
勝手に出たら魔道具が反応しちまうかもしれねーからな」
「え?教官?」
「机の上には酒の肴だが食い物も残ってるし
そこの戸棚には俺のとっておき酒や保存食なんかが入ってるが
いいか?手を出すなよ?
俺は席を外すからな
絶対に手を出すなよ!
腹が痛いから少しの間は戻って来れないからな!」
そう言ってディズは出て行った。
「演技が下手くそだな
あれは完全に食えって事だろ」
さて、ご厚意に甘えて腹ごなしをするかね。
机の上の肴を味見しながらディズのとっておきを漁る事にした。
モリモリ食うぜー!




