6-4
少し気温も下がって過ごしやすい日が増えましたね。
まだまだ外では汗ビチョですけど・・・。
変な教官が担当になった森山実留です。
ちょっとばかし実力を示したら軽く勝ってしまいました。
うーん、どうすれば良いんだ・・・。
すげぇ気まずいんですけど!
「訓練生同士の試合ですか?」
「あぁ、前回の不合格者の再調整も進んでいるし
そろそろ試験に出せそうな奴も出てきたしな
それに補充の新人も幾人か入ったからそれらの評価付けも兼ねてだ」
ディズの下で訓練を初めてから2週間以上が経った。
部屋では相変わらずでサエリアと言葉を交わす事も少ない。
そういえばサエリアは訓練所では教官とマンツーで訓練をしていたな。
それだけ実力を認められてると言う事だろう。
ディズから教わった事は個人戦での動き方や戦い方なんかがメインだ。
他には試様々な武器を使う必要性があるのでそれらの扱い方もあったが
≪武器熟練≫の効果で一般闘士レベルまでは万遍なく扱えるようになった。
武器縛りは一定以上の人気があるそうだけども
戦槌オンリーとか弓オンリーの試合とか渋すぎんだろ。
更にディズの"とっておき"も教えて貰えた。
内容としては"魔力の使い方"だった。
厳密に言えば"魔力を体内で瞬間的に使う"方法だ。
拘束の魔道具は"体の外に魔力を放出しようとすると反応する"が主な機能だが
設置されている逃亡防止用の魔道具のエリア内から出る事も防いでいる。
この魔力反応の感知は実は体内にも適用されている。
外に出る魔力よりも感度は低く許容量も高いけどね。
そりゃ身体能力を爆上げして脱走とかも有り得るだろうし
試合中でも魔力があるほうが有利になりかねないしね。
その隙間を抜け感知される前に"一瞬だけ魔力を爆発"させ瞬発力を得る。
魔道具による制限があるので持続的な効果が得られるわけでは無いし
アシスト力もさほど高くは無いがタイミングを見計らって使えば効果は覿面だろう。
魔力自体を暴走させると言う無茶で負荷も高い技法ではあるけどもね。
当初は加減がわからず魔道具を発動させてしまう事が多かったが
何とかタイミングと魔力量のコツが得られた。
本当に少量の魔力しか使えないので俺のような多すぎる魔力量と言うのも扱いにくい。
因みに魔道具の反応だが訓練場内に限り教官の許可があれば他者へのリンクは
一時的に解除する事が可能だ。
なので思う存分訓練が出来たって寸法だ。
ピローン
> スキル≪魔力爆瞬≫を手に入れました。
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≪魔力爆瞬≫
説明:魔力を燃焼し爆発させ大きな宇宙力を!
燃えろ俺の魔力!コォォォォォォ
効果:魔力を暴走させ爆発させる事に
より肉体を瞬間的に強制アシストする事が可能
肉体への反動については考慮されない
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ふぅー、俺の何番目かのセンシズを爆発させるのは手こずったが
スキルが手に入った事により自在に操れるようになった。
まぁ魔力が使えなくても素の体にスキルだけでもディズに勝てるんだが
スキルを入手しておくのは良い事だしな。
そういえば最近は"まともな食材しか食べてない"から
魔物系なんかのスキルが手に入ってないな。
訓練や経験から得られるスキルばっかりだ。
骨時代が懐かしいぜ・・・。
まぁ・・・・食いたい訳じゃないんだけどさ。
「それにしてもお前って呑み込みがはえーって言うか
成長速度おかしくね?」
「そうですか?
自覚はないんですけど」
「他と比べたら明らかにおかしいだろ
まぁ俺にとっちゃ有りがたいから問題はないけどよ
それに・・・・お前の戦い方ってたまに何処かの型を使ってるだろ?」
「え?そうですか?」
「おう・・・・なんつうか・・・・基本は自己流なんだけど
時折、妙に洗練された実戦向きな動きをするよな?」
あれかな?≪聖神流騎士≫系の事か。
あれ便利なんだよな。
動きをアシストしてくれるから助かるんだ。
勿論、スキルに任せっきりは危ないが織り交ぜて使うと効果的だし。
「いや、よくわかんないんですけど
別に駄目な訳じゃ無いですよね?」
「ハハ、そりゃ駄目じゃねーさ
どこぞの頭でっかちや見栄え重視な流派でも無さそうだしな
動き自体も妙に実戦向きな印象を受けるな
それにメインが自己流なのも良いな
流派を持ってる奴は強いが攻略されたら壁が出来ちまう
本当に極めた強い奴はそうでもないけどよ」
「ディズ教官は自己流なんですよね?
それで何処まで行けたんですか?」
「あぁ?
俺はそうだなぁ・・・・・上位陣の1人ではあったが
その中だとまぁ下辺りだろうな
上に行けば行くほどに化物がウヨウヨいやがるんだ
俺がどう足掻いても勝てそうもない連中がな」
「教官がですか?
全く敵わない相手なんて居るんですか?」
「しかも足を怪我する前の全盛期の状態でだからな
だがまぁ魔法使用の有無でもまた違うな
俺は魔法無しの方だったが
あっちは生物兵器みたいなのもいるからな
勝負以前の問題で生物としての格が違うわな
もっとも管理は向こうの方が厳しいけどよ」
「そりゃ生物兵器なんて呼ばれるレベルで奴隷なんて
主人にすれば恐怖以外何物でもないでしょうしね」
「そのレベルになれば基本的には奴隷はいねーぞ
魔法組は元々奴隷の割合はこっちよりも少ないしな」
「そうなんですか?」
「闘士ってのは外部からの受付もしてるって言ったろ
魔法ありの場合はそれが多くてな
特に冒険者なんかの腕自慢が多い
前にはどっかの国の宮廷魔導師様が来た事もあったっけな
名声、金、地位、経験とまぁ目的は色々だな
勿論、魔法無しにもそう言った奴は沢山居るけどな」
「金は理解出来るんですけど地位や名誉も得られるんですか?」
「そりゃお前、国での公式事業だぞ
幾つも闘技場はあるし大きな大会だってある
小さな大会ならそれこそ頻繁に開催してるしな
この国が強さを求める傾向があるってのも手伝って
パーセラム王国は腕自慢や強くなりたい奴が集まる国でもあるのさ
奴隷でも勝ち続ければ国の騎士団に引き抜かれるなんてのもな
それに登り詰めれば国王ってのも」
「国王?奴隷からですか?」
「あぁ、この国の王は世襲制じゃないからな
評議会が認めた者なら誰でも王に挑戦出来る
勿論、実力や名声は相当に必要だがな
それに王に挑戦する前の"選定の儀"ってのは相当に苛烈だって話しだ」
「でもそれだと色々と問題があるんじゃないですか?
他国の者が乗っ取ったりなんかもあるんじゃ?」
「まぁそこは評議会が良しとした者だけらしいからな
判定基準は明かされていないが今迄そう言った問題はないみたいだぜ
それに王を目指す奴なんざそうそうに現れないしな」
「強さを求めていくと一番上は王なんじゃないんですか?
それこそ己の手で一攫千金じゃないですか」
「そりゃな
権力も金も手に入るし出来る事はそりゃ増えるだろ
だがよ・・・王になったら先はどうなる?
己の強さを証明した所でそれをどう使うんだ?
王自らが闘士として試合に出るのか?
それとも戦争だ迷宮だ辺境だと先陣きって戦うか?」
「武を極めた者が戦いから一番遠ざかる・・・って事ですか」
「そういう事だな
違う次元での戦いはあるだろうけどな
それはもう己の強さとは関係がなくなっちまう
それにこの国である程度の実力があれば金には不自由しねぇしな」
「なるほど
だから奴隷を闘士にする戦奴なんてのも成り立つんですね
もしそうなったら王自ら制裁される事もありえますしね」
「そういうこったな
どちらにせよ俺達には関係が無い世界だって事だ
訓練を再開すんぞ
明後日からは内部試合だ
回復師も来てくれるから怪我の心配はしなくても良い」
「回復師?」
「治療師とか色々と呼ばれてるけどな
要は魔法で治療が出来て専門にやってる奴の事だ」
「でも此処には普段居ませんよね?」
「そりゃ絶対数が少ないからな
それに闘士なんて怪我が付き物だからよ
足元見やがって結構な値段を吹っかけてくんだよ」
なるほどなるほど。
やっぱり治療する者は居るんだな。
獣人系は魔法が苦手な者が多いと聞いた事があるので
需要に供給が追い付いてないって実情もあるんだろうけどな。
「それにまぁ闘士になったとしても安心すんなよ
あいつらを使うには金が掛る
手持ちが無きゃ治してくれねぇからな
奴隷のままなら自分の値段に加算されちまうし
怪我をせずに行き残るのが本当に強い奴って事だ」
ふむ、そうなると魔法組の方が外部参加者が多いのも理解出来るか。
自分で治せるなら世話になる事もないしな。
魔法なしの場合は使えても試合中は封印されるから
イザって時は間に合わないかもしれないし。
「わかりました
注意しておきます
・・・・ところで武具はどうなるんですか?」
「最初は支給品だろうな
自分で手に入れるのは自由だ」
「今の立場だと?」
「まぁ借金だな
自分の値段に加算されるだけだ」
「ですよね」
「まぁそれでも生き残っていりゃチャンスもあるし
強くなる事も出来る
自分への先行投資だと思えば悪くねぇだろ」
「そっか・・・・・」
「まぁそんな顔すんな
そこまで良い物はやれねーが
登録試験には俺が前に使ってた奴ならやるよ」
「良いんですか?」
「支給品よりはマシな程度だから期待すんなよ」
「楽しみにしてます」
「おう、頑張れよ
俺を潤わすためにもな」
カカカと豪快に笑うディズは良い奴なんだろうなと思う。
他の教官に比べて若いが腕は確かで面倒見も良い。
反面、厳しくないので他の教官から疎まれてはいるが
訓練で手を抜くわけじゃないので何とかなっている感じだ。
基本的にはスパルタ教育だしな此処は。
内部試合が定期的にある事を考えると
教官達の手腕も問われているんだろう。
此処だって商売でやってるんだし無能な教官は雇いたくないだろうしな。
面倒な気がするけどある程度は頑張らないとディズの評価にも影響するんだろうな。
2日後。
一番大きな訓練場には簡易的ではあるがリングが3個作られていた。
固定したロープで囲っただけの土のリングだ。
イメージで言えば土俵に近いかな。
その周囲にぐるっとそれぞれの教官に率いられた訓練生が居る。
少し高台になっている場所には天幕が張られ中を伺う事は出来ない。
完全装備の兵士が幾人も警護しているので要人が居るんだろう。
ここの主人だと思うが・・・・ぶち殺したら解放してくれねーかな。
全力で行けば魔法使わなくても制圧できそうだけど・・・・。
とか考えちゃ駄目なんだろうなぁ。
最初は補充された新人の戦いだ。
まだまだ幼い者も多く、武器を扱った事が無い者も居るので素手だ。
ポコポコと殴り合う者。
泣き出して動けない者。
等の微笑ましい試合が続くが此処での立場は奴隷だ。
肉体労働や性的な事を強制させられる事は無いが
自分の命を掴む為に相手を倒し時には命を奪わなきゃいけない時が来るだろう。
願わくば今の気持ちを忘れないで欲しいが・・・・無理だろうな。
補充は全部で30人ちょっとだった。
中には体も大きく年齢も少し上の者も居たり
素早く動いて相手の隙を突くような者も居たりだ。
同じ奴隷と言っても出身は色々って事だ。
それが終わると俺達の番だ。
番号が読み上げられそれぞれのリングに向かう。
「Bの10番、3番リング」
ってな感じだな。
武器は支給品の中ならば好きな物を使って良いって事なので
殆どの者が剣、槍、拳を選択する中で短槍を選んだ。
今のままだと余りに他の者達と身体能力に差があり過ぎるので
人気の無い武器を使えば差を誤魔化しやすいだろうと言う作戦だ。
この作戦はディズから提案されたもので
「お前さ今度の試合は本気を出すなよ
手を抜けって訳じゃ無いが手加減しろ
多分だが本気を出しちまったらマズイ事になるぜ」
確かに今の状況で目立つのは俺も本望じゃない。
と言う訳でディズの案に乗る事にしたのだが注文を付けられた。
・こちらからの自主的な攻撃行わない
・防御は行わず最小限の動きで躱す事
但し武器や小手によるパーリングは可とする
・相手に大怪我をおわさずに勝利する事
・≪魔力爆瞬≫の使用は不可
「なんか・・・・色々と面倒ですね・・・・」
「馬鹿野郎っ!こんなとこで目立っちまったら
お前の評判が上がって担当替えになるかもしれねーだろうが
それに・・・・賭けで儲けらんねーじゃねーか」
「賭け?」
「おう!闘士の試合ってのは賭けが出来るんだけどよ
新人闘士だとオッズが上がる事が多いんだ
そこでお前にガツンと賭けりゃ大儲け出来んだろ
変な噂や事前情報が流れたらオッズが下がっちまう」
「それは不正なんじゃ?」
「そりゃぁ組織的に大っぴらにやったら没収されんだろうな
だが個人単位で賭ける分にはそこまで煩くねーさ
それに賭けをやってる所も様々だから分散すりゃ更に良い」
「随分と個人的な理由ですね・・・」
「ハハ、何言ってんだ
これはなお前の為でもあるんだぞ」
「自分の?」
「個人で賭ける分には問題無いって言ったろ
それはな闘士自身も含まれるんだ」
「自分自身の勝ちに賭けれるって事ですか?」
「他者が賭けるよりは配当はグッと少なくなるし
賭けれる条件も厳しく決まってる
八百長で稼ごうって奴は少なからず出てくるからな
まぁその防止策って事だ
それでも自分を買い戻す助けにはなるだろうぜ」
「でも自分が早く解放されてしまえばディズ教官への戻りが少なくなるんじゃ?」
俺が闘士になった場合、身分を買い戻すまでは"勝利者の栄光"に所属となる。
試合に出場すれば金が"勝利者の栄光"へと支払われる。
勝利すれば更に賞金もだ。
俗に言うファイトマネーって奴だな。
そこから担当教官にキャッシュバックがあるという仕組みだ。
つまりは俺が奴隷のまま勝ち進んでいけばディズの懐は潤うって事だ。
逆に言えば買い戻して奴隷じゃ無くなれば"勝利者の栄光"に支払われてた金は
自分の手元に入ってくるって寸法だ。
「そりゃそうなんだけどよ・・・・・・」
ディズは頭をガリガリと掻きながら困ったような顔をする。
「お前は闘士で上に登ってくような感じは受けねぇんだよなぁ
とっとと身分を買い戻した方が良いんじゃねえかってな
まぁ・・・ただの俺の勘だけどよ」
「勘ですか」
「なんとなくそう思っちまったんだよな
まぁ頑張った所で身分を買い戻すなんざ結構な先の話だ
今は少しでも有利にする事を考えるんだな
それに今回の試験だって技術を学ぶには持って来いだ
訓練だと思ってキッチリやってこい
俺が結果に満足すれば賭けの最初の資金は出してやるぞ
勿論、利子つけて返して貰うがな」
「わかりました
とりあえず接戦を演じてみますよ」
そこに俺の番号が呼ばれた。
リングは1番だ。
「ハハ、その意気だ
期待してんぞ」
ディズに見送られリングに向かう。
さてどうしたものか。
今迄見てきた感じだと相当に手加減した所で圧倒的に勝ててしまいそうだ。
・・・・・スキルを全てオフにしてみるか。
そう言えばそんな事をやるのは初めてだな。
全く使わないのなんて犬の最初だけじゃね?
フフ、なんか少し楽しくなってきたぞ。
ディズさんイケメンですわー。




