5-58
さくらの季節がやってまいりましたね。
花見をしたい陽気です。
老人神を絶賛抑え込み中の森山実留です。
・・・・すいません・・・・ちょっと盛りました。
対応しているは魔王とファーバンです。
自分はフォローと電池役です。
どこぞの低軌道リングにあるレーザー掃射を攻略するマイスターな感じです。
ファーバンが叫ぶなり老人神の足元に魔法陣が展開された。
それに抵抗するかのように一気に膨れ上がる神気。
「クッ」
ここで初めて魔王が苦悶の表情を浮かべる。
老人神を抑えつけている鎖が所々弾け飛ぶ。
その都度、鎖を再生成し幾重にも巻きつけていく。
「ハハ・・・流石は神の力よ・・・手強いな・・・・
ミノル君よ
ちょっと助けては貰えないか?」
声は平然を装ってはいるが表情は少し険しくなってきている。
状況も押され始めているように感じるし。
「どうすればいい?」
「少し力を貸して欲しい・・・手を」
俺は魔王の手を握った。
暖かく柔らかい手だ。
「接続、経路生成」
ピリッとした後に自分の中に何かが繋がったような感覚がある。
上手くは表現出来ないが大きな湖・・・いや・海か?
たゆたう大きな何かに繋がったような感覚だ。
魔王は手を放し再度両手で剣を握った。
「では力を借りるぞ
経路解放、増加開始」
「ウグッ」
魔王の言葉と共に体から力と言う力が抜けていく。
体力も魔力も何か大きな力までもが。
海に繋がる川の様に力が流れ出ていく。
「フハハ、 強烈だな
流石に世界神の加護よ
思わず溺れてしまいそうになる」
「な・・・何を・・・・?」
弱々しく呟く俺とは対照的に恍惚とした表情をする魔王。
「ミノル君の力を借りただけだ
体力も魔力も何もかもを・・・そう神の加護すらもね
それらを借りて増幅して使っているのさ
私のとっておきさ」
不敵に笑う魔王を見ながら俺の意識は飛びそうになる。
つうかどこまで吸い取る気だよ・・・・。
膝をつき肩で息をするが力が抜かれていくのは止まらない。
気が遠くなるのにつれて身体能力も下がって行く。
これ元に戻るんだろうな?
幾つか残しておいた質の良い"魔核水晶"を放り込みバリバリと噛み砕く。
ググっと魔力が回復するも追い付かない。
「くそ・・・このままじゃ意識が・・・・」
四つん這いの状態で何とか対策を考える。
何か・・・何かあるはずだ。
しかしもう顔をあげるのもしんどくなってきた。
もう床しか見えない。
「床・・・・・床?」
残った"魔核水晶"や魔道具を一気食いし一時的にでも回復させる
そのまま短刀を取り出し全力で床に突き立てる。
ザクッと音がし刃先が床に突き刺さる。
そのままグリグリと穿るとポロっと床が少しだけ削り取れた。
ファーバンが"迷宮の基本保護もオフになる"ような事を言っていたしな。
元々が非常に硬い素材なんだろうけど今なら削る位は出来るような。
汚れは気にせずに口に放り込む。
瞬間、突き抜けるような美味さが体を突き抜ける。
そして一気に回復していく魔力。
迷宮の構築素材を食べたのはゴーレム以来か。
あの時よりも美味しく感じるし回復量も多い気がするのは
状況の所為なのか素材が違うのか。
次々と放り込み何とか危険域を脱する。
我に戻り周囲に気を配ると俺自身の障壁はとっくに解除されていたが
俺の力を吸い取った魔王の力は圧倒的だったようだ。
老人神を抑え込みつつ俺達を障壁内に収めていてくれた。
吸引は終わっていたが繋がっている感覚はまだある。
「こんな事になるなら一言説明してくれ
意識飛ぶ所だったじゃねーか!
今はもう吸われて無いようだけど・・・」
「すまないね
この方法は私が秘匿してる技術の1つでね
余り詳しい説明はしたくないんだ
それに吸わないんじゃなくてこれ以上は吸えなくてね
他人の力を借りて増幅して己の力とするんだ
色々と制限もあるのさ」
フフフと笑う魔王はとても美しく見とれてしまうような妖艶さを放っていた。
「よし、強制送還準備完了だ!
アイツを完全に捉えた
もう大丈夫だ」
ファーバンが老人神の抑え込みに成功したらしく
放出される神気が見る間に衰えていき圧力が消えた。
「フゥ、何とかなったか
さが流石に私も限界だな
これ以上は抑えられん
借りた力も空っぽだ」
魔王も表面上は強がっていたが内面ではギリギリだったに違いない。
俺では上限が分らない程に圧倒的な魔力だが
相手は残骸と言えども神の力を持った人ならざる存在だ。
現世の者が抑えつけれる方がオカシイんだって話だしな。
「じゃぁとっとと送り帰してくれ」
「そう急かすな
後は各種設定して送るだけだ
ここまでくればアイツも暴れられん」
とりあえず一安心なのかな?
まだ気を抜かずに老人神に集中している魔王を置いて
キリルとリースの元に向かう。
キリルも捕らわれていた身だ
盾神の加護で守りは得意だと言え限界だったに違いない。
リースを守るように膝をつき全身汗まみれだ。
魔王の障壁内に居なければ危なかったかもしれないな。
「大丈夫か?
状況が落ち着いたみたいだ」
アイテムボックスから水を取り出してキリルに渡す。
リースは老人神からの力の強奪がきつかった様で未だに目を覚まさない。
横たわらせた後に布を湿らせて顔を拭いてあげた。
俺の魔力も残り僅かだが回復魔法を使うと
顔に色味が戻って来たので大丈夫だろう。
落ち着いて見てみると相変わらずの可愛さだ。
ちょっとだけ覚えている顔とは違うのは成長の証かな。
横では一息ついたキリルが思い出したように俺を見ていた。
「ミノル様・・・また・・・また会えましたね
ずっと・・・ずっと待ってました」
「あぁ待たせたな
キリルもリースを良く守ってくれた
それに聖女にも力を貸してくれてたんだな」
「いえ・・・ミノル様に頼まれた事ですから」
キリルは涙ぐんだように俯いた。
そして唐突に俺に突撃してきた。
「グホッ
どどどどどうした?」
「ずっと待ってました!
リースとずっと待ってたんです!」
キリルの肩に手を置いた時に気が付いたが≪竜血脈≫を維持したままだ。
稼働率は下がっていたが手は竜鱗で覆われているし外見にも影響が出てる。
「つうか・・・俺はこんなだぞ・・・外見も何もかも違うし・・・
良く分ったな」
「ミノル様が生きているのは何となくですがわかっていました
何処に要るかまではわかりませんでしたが・・・
リースもそうだと言うので2人でずっと待ってたんです
ミノル様の外見がどうあれ私とリースが間違えるハズありません」
「そっか・・・待っててくれたのか
俺の言葉を守ってくれてありがとうな」
力一杯しがみついてくるキリルの頭をポンポンと叩く。
「ん・・・・ん・・・・」
そうしているとリースも目を覚ます。
リースはパチパチと瞬きをしたがボーっとしてるみたいだ。
「大丈夫か?」
俺が声を変えると目にみるみる力が戻ってきて・・・。
「おねぇじゃーーーーん」
泣きながら突撃された。
キリルに続きリースにまで抱きつかれた。
「フフ、モテモテだなミノル君は」
どうやら危険は去ったと判断したのだろう魔王も警戒を解いたようだ。
流石に疲れたなと言ってドカっと座り込んだ。
妙齢の美女が胡坐はどかと思うが・・・。
「ミノル様
先程は聞けませんでしたがどなたでしょうか?
私達を守ってくれていたようですが・・・」
リースは新しい人物の登場で恥ずかしくなったのか俺の後ろに隠れ
キリルは何かを警戒したが先程の件もあるので敵対して良いのか微妙な感じだ。
「あぁ・・・君達が聖女君が言っていた協力者かな?
私はこの国を治めさせて貰ってる者だ」
「へ?治める?・・魔王・・・様・・・?
でも自分が知っている・・・・?」
「あぁ・・・それな・・・
外見は違うけど本物の魔王だぞ
詳細が知りたければ本人に聞いてくれ
俺が勝手に話すと危なそうだからな
まぁ気にしない方が良いと思うけどな」
「なっ?えっ?本物の魔王様?」
「うむ、まぁ証明する気はないが私は魔王だ
信じようが信じまいがどうでもいいがね・・・フフフ」
そう言うと魔王は唐突に殺気を放ってくる。
「ミノル様!逃げてください!」
それに反応し瞬時に迎撃姿勢を取るが体力が限界に近いのだろう
キリルは盾を構える事しか出来ない。
「おい、あんまり悪ふざけするんじゃない
お前だってギリギリだろうに」
「フフフ、流石はミノル君だね
ちょっと試したかっただけさ
君をそこまで慕う者に興味が湧いてね
そちらのお嬢さんんもキツイだろうによく反応するもんだ」
見るとリースは少ない魔力をかき集めたのだろう
弱々しい威力ではあるが指先に魔法を発動可能状態で展開していた。
「キリル、リース大丈夫だ
魔王はちょっと試しただけで敵対するつもりはないさ・・・今はな」
「フフ・・・今は・・・ね」
多少の警戒はしているものの2人は言うとおりに従い
魔王は殺気を納めた。
チラっと老人神を見ると展開された積層型の立体魔法陣に
完全に覆われておりガラクタ山から降ろされていた。
ファーバンがクルクルと周囲を回りながら手を加えて調整していた。
念の為にスキルでの警戒はそのままにしておくが
神気も全く感じられないので大丈夫だろう。
アイテムボックスから水と食料を取り出し配る。
魔王には肉多めの大きいサンドイッチをキリルとリースには暖かい野菜スープだ。
どちらも黒鍋で仕込みをした品で出来立てのままだ。
アイテムボックスは本当にありがたいな。
「ほう、これは美味いな
ミノル君は料理も出来るのか」
「この味だ!この味です!」
「美味しい!お姉ちゃん美味しいよ!」
魔王は遠慮なく食べキリルとリースは
うっすらと涙を流しながらスープを口に運んでいた。
それを見ながら俺も食事を取る事にする。
腹が満たされれば少しは動けるようになるさ。
「じゃぁ・・・軽く説明するから」
今回の状況を改めて説明した。
更には俺についてもある程度する事となった。
世界神の加護を受け死しても転生で再び戻ってくる事を。
魔王がジッと見つめる目が怖かったてのもあるが
もう隠し通せるような状況じゃなかった。
色々と言って無い事もあるが嘘はついてないので良しとしよう。
本音を言えばキリルとリースだけに事情を話したかったんだけどな。
食事も終わった頃についにファーバンの準備が整う。
「よし、各種準備も完了だ
強制送還を発動するぞ」
キリル、リースは何とか自立出来る位には回復したし。
魔王は魔力が空っぽのままだそうだ。
容量が多いと大変だな。
少しぐらいは回復してると思うが。
神の御業の最終仕上げと言う事で少し距離を置いてだが
4人共に食い入るように見つめる。
老人神を覆っていた複雑な幾何学模様の魔法陣が光を放ちだす。
「ふふん
これでアイツも終わりだ
手間取らせやがって」
ファーバンが最後とばかりに何かを呟くと展開されていた魔法陣が
複雑に変化しながら少しづつ収束していく。
携帯にも推移状態が表示されるのか確認しつつ「いいぞ!」と連呼してた。
魔法陣の収束が老人神の背丈まで進むと足元が一際強く発光し
フイイイイイィイイィイィと空間自体が震えるかのような音が鳴り響く。
何か違和感を感じた。
「あれ?・・・何か変じゃね?」
「おい!何かおかしいぞっ!」
どうやら魔王も同じようだ。
先程まで押えられていた神気が猛烈に溢れ出してきていた。
「おい!ファーバン!」
「え・・・?!
処理自体は問題無く進んでるしエラーも出ていないぞ」
「大丈夫なのか?
なんかヤバそうだぞ」
「だ・・・大丈夫だ!
もう最終工程で転送が始まってしまえば問題ない」
携帯を確認しつつ転送がついに始まるが
空間の鳴りもだんだん大きくなっていく。
もう大丈夫だとドヤ顔した次の瞬間、バリンと
何かが壊れる音と共に老人神が使っていたロープが
魔法陣を突き破ってファーバンに巻きつく。
「クソっ!不味い!もう最終・・・」
鳴りが大きくなりファーバンの声も途中で聞こえなくなる。
それと同時にその体も光りに包まれ・・・・老人神と共にファーバンも一緒に消えた。
リーマン神が消えたのは予想外だが老人神も消えたのは気配で確信できる。
なのに・・・。
「神の気配は消えたが神気は漏れている・・・のか?」
「非常にマズイ気がするんだがね・・・ミノル君」
老人神の気配は無いのに神気の漏れは止まらない。
受ける圧力は極端に低くなってはいるがそれでも神気だ。
魔法陣の輝きも鈍くなってくると共に嫌な予感がビンビンと強くなる。
現状はまだ抑えが効いてるようだけど・・・・。
「転送が終わったのに神気が漏れてるって
間違いなく無事にすみそうもない雰囲気だな」
「全員、動けるか?」
「自分とリースは何とか動けます」
「私も・・・動くだけなら何とかなりそうだ
魔力の回復も追いついてないし手は無さそうだな」
「今の内に逃げるぞ
良いな?」
「あぁ本体は居なくなったんだ
これ以上は瘴気が広がる事も無いだろう
私が本調子なら何とかなったがな・・・・まぁ仕方がない
吹き飛んだとしたら被害が小さい事を祈るのみだな」
俺達は慌てて駆け出す。
キリルがリースを抱え走りだし魔王が続く。
一番余力があるので殿は俺だ。
それでも回復した魔力は2割程度なんだけどな。
全員が最後の体力を振り絞って駆けだす。
時間的猶予がどれだけあるか分からないが逃げるしか手が無い。
だが時間はそれほど残されてはいなかったようだ。
キリルが上に続く細い通路に入った辺りで後方からバチンと何かが弾けた音がした。
駄目だと分っていても振り向いてしまうのは仕方がないと思う。
そこには老人神の顔だけが張り付いた黒い靄のようなモノが居た。
「GU・・・・・・GAAAAAAAAッ!!!!」
それが咆えたと同時に弾けた。
ように思う。
咄嗟に≪竜血脈≫を限界上限まで上げ翼を展開し通路を塞いだ。
残りの魔力で全力で障壁を展開する。
「グ・・・・・お・・・・・あぁ・・・・・・!」
全身に叩きつけられる強烈な爆風。
全身を炎で焼かれ高圧の水が全身を切り刻む。
雷が傷口に走り毒が体を蝕む。
竜の鱗が酸に侵され皮膚も溶けだし氷の槍が突き刺さる。
光りの線に貫かれた部分は闇に浸食されて崩れていく。
様々な属性の力が荒れ狂い掛って来た。
翼が腐り落ち右手首から先が切り落とされ左肩が凍りつき砕けた。
ガンっと体に衝撃が走り視線が下がる。
きっと足が闇にでも喰われたんだろう。
「そっか・・・・これはあの老人神が喰った力達なんだろうな」
徐々に視力も奪われて俺の意識は深い底に落ちて行った。
あぁ・・・・皆・・・逃げれたのかな・・・・・。
み、みのるくんがーーーー!!




