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迷宮は話が書きやすい。
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迷宮に入ったアリスです。
ここ凄いですよ!空気が濃いんです。
でもあまり美味しくないんですよね~。
魔力は満ちているんですが重いんですよ。
そとの世界よりは満腹感が得られますが。
まぁぶっちゃけ魔力なんかより一番は食べ物ですね!
入口からの坂を下り続けると
少し広い部屋に出た。
魔法の光が灯り。
部屋は明るいが空気には緊張感がある。
兵士の詰所の様な場所もあり
ここがポーラスの迷宮の最初の場所だと判る。
少し先には赤い魔法陣らしきものが
描かれている場所もある。
到達済の階層に飛べるようになるのか。
お値段は1階層で1銀貨だそうな。
この部屋から先が迷宮の始まりだ。
緊張しながら通路を進む。
迷宮内は暗いと言う事はなく
どちらかと言えば明るい。
昼間のようとはいかないが
十分に足元が見える位はある。
それなのに先を見れば見通しは良くない。
光源も良くわからない。
うん、謎仕様だ。
仕方ない迷宮だしな。
幅も高さも戦う分には問題なさそうな広さだ。
魔力感知と嗅覚をフルに併用に
曲がり角に辿り着く度にドキドキながら進む。
幾つかの曲り角を過ぎ。
何も出会うことなく進んだ。
そこに部屋への入り口を見つける。
嗅覚には饐えた臭いを感じる。
魔力感知では生命反応が3体。
入口で様子を伺うと何かを咀嚼している音がする。
グチャグチャ。
きっと中はロクでもない事になってんだろうな。
迷宮での初戦闘に緊張するも
体に力を溜めて意識を尖らせていく。
よしやるか・・・・。
全身のバネを使い一気に部屋の中に躍りこむ。
お食事中の方々が気付く前に≪大声≫発動。
どうやらゴブリンらしい。
不意打ちと大声で戦闘態勢に入れないうちに
1体の首に噛付きそのまま食いちぎる。
残る2匹はやっと武器を手に取り構えを取る。
革鎧とスモールシールドを身に着け
手にはそれぞれ棍棒と片手剣を装備している。
全てがボロボロで今にでも壊れそうだ。
「■■■■■っ!」
何かを叫びながら向かってくるものの
動きは単調で遅い。
軌道予測(簡易)を使えば間違いなく動きは判る。
余裕を持って躱し爪と牙で怪我を負わせていく。
動きが鈍くなった所で1体(棍棒)の首を噛みちぎり倒した。
最後の1体は試したい事があったので残す。
死なない程度に攻撃を加え体力を削る。
さて実験開始だ。
フラフラになりながらも片手剣を振ってくる。
それを肩口で受ける。
ギャリン。
そんな音がし怪我は無いが少し痛い。
毛も少しパラパラっと舞い落ちる。
≪毛皮硬化≫は効果あるみたいだな。
ここぞとばかりに何回も何回も試す。
体の場所を変えて試す。
顔で受けるのは流石に怖かったぜ。
≪大声≫も試す。
至近距離から遠くから前後左右から試す。
しばらく時間を掛けてスキルを試した後は
片手剣を正面から受け止めそのまま握り手を食らう。
ゴリゴリ。
お、意外に美味くね。
何と言うか固い肉ではあるんだけど
噛めば味が出てくる。
それ以前にさ片手剣の柄も一緒に食べちゃったんだけど。
俺って鉄とかも食えるの?
最後の1体は我ながら可哀想な事になった。
全身齧られてたからな。
「いやぁ、実留さん鬼ですね
生きたまま食べるなんて!踊り食いですね!」
「俺も行けるかな~って思ったんだけど
普通に美味しかったぞ」
「そ、そうですか・・・」
スキル検証したところ
食事を強く意識すると≪捕食者≫が強く作用し
攻撃を意識すると≪噛付き≫が強く作用するらしい。
刀身だけとなった片手剣に≪噛付き≫をしても
硬くて手ごわいが
食べる事を意識してみると≪捕食者≫でサクサク食える。
これも意志の力なんだろうか。
実際には戦闘中に食事を強く意識する事は
難しいので≪噛付き≫で削った分を≪捕食者≫で
食べる位しか出来ないとは思うけど。
≪噛付き≫よりも≪捕食者≫の
方が段違いで威力が高いのが残念だ。
心の奥底から食事を意識すれば
神だって食いちぎれるかもしれん。
流石はユニークスキルといったところか。
片手剣はサクサクしてクッキーのようで美味しかった。
さて小鬼君達が食べていたのは冒険者のようだ。
若い男の子2人組で駆出しだったんだろうな。
迷宮で死ぬと死体は魔物に食われる。
そうでない場合は迷宮に喰われる。
アイテム類は残るが大抵は魔物が拾っていく。
誰かが拾ったらその人の物としていい。
迷宮カードはギルドに届けるのがモラルとの事だ。
二人の迷宮カードを取得し黙祷を捧げる。
落ちているアイテムは収納鞄に放り込んでいく。
ゴブリン2匹はそのまま格納した。
後で腹が減ったら食べよう。
部屋も探索したが特段何も無かった。
まだ1階層だしな。
こういうのは下に行けば行くほど良い物があるはずだ。
生活魔法も使ってみたが直接の攻撃には弱すぎた。
それでも色々と有用ではあったが。
「腹が減ったから飯にしよう」
「え~、ゴブリン生噛りですか・・・ちょっと・・・」
「いやいや、アリス君
今の俺には魔法があるんだよ
フハハ見ておくがいい」
まずゴブリンを出す。
≪噛付き≫で適当な大きさにする。
「それじゃいつもと変わらないんじゃ」
「ここからが本番だぜ」
石を組み合わせ竈を作る。
収納鞄から冒険者からGETした
短剣を2本取り出し鉄板代わりにする。
要は下に落ちなければ良いのさ。
そこに肉を置く。
続いて調味料を取り出し
瓶を口に咥える。
≪生活魔法(風)≫発動。
無詠唱で風魔法を使う。
サワサワ・・・・・塩を微風で肉に振る。
≪生活魔法(火)≫発動。
短剣の下に火を起し焼く。
「こ・・・これは!」
「ふはは、そうアリス君
これは簡易的ではあるものの焼肉だよ!」
「すっ、凄いです実留さん」
「フハハハハハ、犬でも料理は出来るのさ!フハハハハ」
「でも塩振るのは私でも出来たんじゃ・・・・」
「え?肉要らない!
なんだそうならそうと言ってよ~」
「いえ!何でもないです!
何でもないです!
肉をください
肉プリーズ」
そんなやりとりをしつつ二人でモリモリと
全部食べちゃいました。
あっ、アリスは普通にゴブリンを食べたので
聞いてみたら肉の生噛りが苦手なだけだそうです。
でも料理としての生肉は平気だそうな。
よくわからない線引きだ。
それから2時間程の探索をし
何回か戦いを経験した。
そんな時に下に続く階段を見つけた。
「ここで戻るか?」
「そうですね、下に降りれば次は2階層目から
探索できるみたいなんで降りちゃいましょう」
「そうだな」
注意しながら下に降りると
少し広い部屋だった。
そこには赤い魔法陣がある。
「ひょっとしてこれに乗れば帰れたりする?」
「そうかもですね」
緊張しつつも魔法陣に乗る。
ピローン
> 開始地点に戻ります。
> Yes ・ No
お、何か出たぞ。
Yesを選択すると体が光に包まれる。
気が付くと迷宮の入口部屋だった。
これは何て便利な。
一度、魔法陣から出て再度入りなおす。
ピローン
> 移動階層を選んでください。
> 2
まだ2階しか選べないのか。
でも銀貨は何処で払うのだろうか
使う前に調べないとな。
今日の所は宿に帰ろう。
坂を上り外に向かう。
外に出ると日は少し傾き夕方より少し前となっていた。
受付によるとジミーが居たので話しかける。
「おうおう、無事に帰ってきたみたいだな」
「はい、ドキドキしましたが何とか無事でした」
「初めての迷宮はどうだい?」
「外で戦うのとは違いますね
緊張感が段違いです」
「その分、経験も多く手に入るけどな」
「それで・・・あの・・・これを・・・」
収納鞄から迷宮カードを2枚取り出す。
「ん?あぁ・・・・」
そういって受けとったジミーの顔は
少し悲しみが滲み出ていた。
「こいつらはどこで?」
「1階層の小部屋でした」
「そうか、ありがとうな」
そう言ってジミーは無理に笑っていた。
迷宮カードは迷宮に出入りする際には
受付で提示する必要がある。
もちろんそこにはログ確認をし
不正防止の意味合いもある。
もちろん俺は今回何もしてないので確認だけで終わりだ。
アイテムの換金はブタ子にお願いする事にして宿に向かう。
「ブタ子はどうなったかな?」
「今日の夕食はなんでしょうね?」
そんな会話をしながら犬と妖精は夕方の街を歩いて行った。
少しは強くなってきたみたいです。




