5-46
朝起きると部屋の温度がヤバい事に・・・・。
Tシャツと短パンの限界が来たか・・・・クッ!
何かと迷宮に縁がある森山実留です。
犬とコボルド以外は迷宮に関わってますね。
そう思うと犬系の時は入ってないのかぁ・・・・。
うーん、何か因果関係があるのかな?
俺は翌日から迷宮に潜る事を決め
ブタ子には各所への連絡や段取り等の処理を頼み準備に入った。
準備・・・と言ってもそんなにある訳じゃ無いが
食料を補充しておいた。
食料自体は自給出来るので問題はないけど
やはりその土地の名産品をハズす訳にはいかないからな。
まぁ美味しいかどうかは別として食事が楽しみってのは良い事だ。
それに迷宮内と言えども自生している品種もあるので
色々と食える物はある。
そんなのを見つけるのも楽しみの一つだな。
もっとも≪捕食者≫で何でも喰える俺だからの考えで
普通の奴ならちゃんと準備をしないと命取りになりかねない
毒や幻覚症状が出るようなのもあるからね。
夜に武具と荷物の最終チェックをしていると
シュラベントが訪ねてきた。
迷宮入りの事がブタ子から伝わったのだろう。
廊下で話すのもアレなんで部屋に通す。
「ボスから聞いたが迷宮に入るんだってな」
「あぁ、当初の予定よりも魔核水晶が足りないみたいでな
時間も無いから直に取りに行ってくる」
「そうか・・・
俺が言うのはお門違いかもしれないが
迷惑かけてすまんな」
「ブタ子を助けるだけだ
アンタが気にする事はないさ」
「うむ・・・そうか・・・・
その・・・厚かましいとは思うが・・・・1つ頼みたい事がある」
「俺に頼みごとなんて・・・・どうしたんだ?」
「いやな・・・・コールの事なんだが・・・・
あいつ・・・・あいつを・・・
連れて行って貰えないだろうか」
「理由は?」
「あいつに経験を積ませたい
才能はある・・・・と思うんだが
如何せん色々な経験が足りていない」
「経験を積ませたいと?
その為に危険に晒すと?」
「今回は深階層まで潜るつもりはないんだろう?」
「入手した情報によればここの迷宮は
階層が広い作りで中階層には複数の中ボスが確認されている
そこら辺を周回する予定だけどさ」
ついでに言えば現在、魔核水晶の供給が減っているのは
単純に迷宮に潜る人数が減っているからだ。
最近は魔物や魔獣の被害が多発しており
そちらの駆除にギルドから人を回しているのが原因との事。
ブタ子曰く
「多分、今回の瘴気溜まりの影響と思われます
ここは割と近いですし
物理的や肉体的な影響は出てないハズですが
好戦的になる程度は影響が出てるんじゃないかと・・・・」
との事だ。
なので寧ろ、直接取りに行けるのであれば
迷宮内での取り合いは少ないと思われる。
つうかもうそんなに影響が出てる状況なんだな。
「だけど・・・その分だけ危険が高い
内部で討伐が進んで無いって事だしな」
「わかってる
魔物湧きが発生しているかもしれないって事だろ?」
「あぁ、それに徘徊型の中ボスも間違いなく居るだろう」
「それでもだ・・・・・
寧ろそれが狙いかな」
「なんでそんなに危ない目に合わせる
ジックリと育てれば良いだろう」
俺の質問にシュラベントはコールの事を説明してくれた。
友人から預けられた息子で鍛えている最中なんだそうだ。
その友人も親の色目を除いても才能はあると思う
だがやはり甘えが出てしまうのでシュラベントに預けたと。
「そんな訳でな俺が面倒みてるんだけどな
どうにも甘えが抜け切らねぇ
厳しい環境に放り込むのも手だなと」
「それが迷宮に放り込むって事か?
今だって魔族領の護衛だろ
安全な旅って訳じゃない」
「あいつはこれぐらいじゃまだまだだ
今は人数も居るし俺も居る
全力を出さずに済む状況なのさ
もっとも全員が全力を出す状況なんだ
護衛としては御免だけどな」
「もっと危機的な状況に追い込みたいと?」
「まぁ簡単に言えばそうだな
それにアンタの戦闘力なら
ここの迷宮の中階層までなら余裕だろ?」
「まぁ・・・・否定はしないな
ポーラスの迷宮を踏破した事もあるし
ここはポーラスよりも難易度は下だ」
「正直に言えばあんたの事はまだ信用してねぇ
それでもボスを裏切るような真似はしないハズだ
確かに気に食わねぇ事もある・・・・が
俺も戦いに身を置く者だ
あんたの強さだけは信じてるさ
それに・・・裏切るならこの場面じゃないだろ」
シュラベントはニヤッと笑う。
まったく・・・・やれやれだ。
「フォローはするが子守はしないぞ?」
「それでいい」
「コールが死んだり二度と戦えなくなるような事になっても恨むなよ」
「そうなりゃそこまでの男だったって事さ
あいつの親父にもそう言われている」
シュラベントの目は本気の様だ。
「連れて行くのは1人か?」
「あぁコールだけで良い」
「これは貸しだからな
後でちゃんと返せよ」
「あぁ、受けた恩は必ず返す
こう見えて信用が大事な商売だからな」
「わかったよ
んじゃ荷物持ちに連れてってやる」
「助かる
単純な強さだけならコールは既に俺を超えているハズなんだ
後は足りないのは経験だけさ」
「本当は俺とブタ子を離した際に邪魔者を排除したいんだろ?」
「ば・・・・・馬鹿にするなっ!
そそそそそそそんなななななな事はっっっ!」
顔を真っ赤にして怒るシュラベントを見ながら
これからの事と今回の事について考える。
ある程度の信頼は得られたって事なのかね・・・。
ヴィロウス迷宮と呼ばれる場所は
街の中心部からは少し離れているがそう遠くもない。
迷宮街として都市の一部に組み込まれている。
騒音や喧噪の元となる武具屋、飲み屋、鍛治屋なんかも
迷宮街に集中している。
中心部との隔離と防衛の点から見てもそれは都合が良く
きちんと棲み分けが出来ているって事だ。
確認されている階層は地下20階と
そう深くは無いが各階がかなり広い。
細かい道や小部屋が入り乱れた作りもあれば
直線の通路が長く続くような場所もある。
特色としては下の階への降り口が数年~数十年で変更になる事と
中ボスクラスに徘徊型が居るって事だだろう。
迷宮自体の規模は変わってないようなので成長はしてないようだ。
他には宝箱が割と多めなのと取れる素材に有益な物が多い。
全体的に見れば通路は広く作られており
戦い易いがそれだけ戦闘中の強襲や
他モンスターのリンク等も発生しやすいと言える。
転送陣等は設置されていないが各階段の位置が
割と近い為に上下移動については
そこまで時間も掛らないし難しくも無い。
その辺りも人気の理由の1つだろう。
全体的には稼ぎやすいが危険も多い迷宮って評価だな。
アクセスの良さと潜る人数の多さから難易度は中級扱いとなっている。
ちなみに中ボスクラスは浅層階からも出るので
初心者殺しとしても有名な迷宮だ。
もっとも浅層階の徘徊型中ボスは冷静に対処すれば
初心者数名でも倒せる程度なので
取巻き云々の話はあるが美味しい相手でもあるのだけど。
資料を読むと魔物の強さから判断して以下のような区分けとなっている。
1~5 浅階層
6~9 浅階層(ここから徘徊ボス有り)
10~15 中階層
16~20 深階層
6~9の徘徊ボスからも魔核水晶はGET出来るが
質はそれほどでも無く価値は高くない。
駆出しにとってはそれでも高価な部類になりはするらしい。
今回の目的は中階層をグルグルと周回する事になる。
コールとは迷宮前で待ち合わせた。
装備品の質が通常時よりも上がっている。
武器は小回りの利く短剣が2本に長剣が1本に盾。
それと短槍を背中に括り付けている。
魔獣で出来たハードレザーの鎧に要所を補強するように部分鎧を見に付け
機動力の低下を最低限に抑えつつ防御力を大幅に上げてきたようだ。
あれなら重量もそこまでじゃないので体力の消耗も何とかなりそうだな。
武器も鎧もなかなかの良品と見た。
特に短剣は若手が持つには少し良すぎる程だ。
確かシュラベントが使っていた物じゃないかな?
迷宮に潜る為に保険として借りてきたのだろう。
コールの得意武器は長剣だったハズだし。
他の武具も良いがあれだけは別格だ。
「本来は俺だけで迷宮入りするつもりだったのに
付いて来るって言うんだ
覚悟は良いんだろうな?」
「あぁ、隊長に言われたから行くんじゃない
俺自身の成長の為に行くつもりだ」
「そうか・・・自分の意志なら俺は何も言わない
・・・・言わないが・・・本当に大丈夫か?」
「これでも他の迷宮に潜った経験もあるんだ
足手まといにはなるつもりはない・・・」
「それは良かった
ブタ子とシュラベントさんに頼まれからには
連れては行こう
だが、フォローはするが守って貰おうとは考えるなよ?」
「・・・・わかってる
邪魔はしないし自分の事は自分で守る」
「そうしてくれ
迷宮内では自分だけが頼りだ
コールもいよいよヤバくなったら俺を置いて逃げろ」
「勿論そうさせてもらう
命あってこそだからな」
「目標は10階から15階を周回し魔核水晶を集める事
人が少ない今を利用して中ボスを集中的に狩る予定だ
多分、相当な戦闘ペースになる想定だ」
「望む所だ」
コールは真っ直ぐ俺を見てくる。
その目には自信が溢れ輝いていて
自分の能力を信じてる顔だ。
普段は抜けてるような甘えが抜けないのに
こんな時は自信満々なんだな。
いや・・・だからこそか?
まぁ良いさ。
俺は俺のペースで進むだけ狩るだけだ。
「うし!それなら行くか!
目標は・・・・3日で予定数クリアだな」
「おう!・・・・って!おい!
そんな日数で集めれる訳ないだろ!」
「だいじょーぶ!だいじょーぶ!
中ボスの再発生は数時間から半日程度って聞いてるから
連続で倒しまくればいいだけだ」
「え?は?」
「頑張って着いてこいよ」
焦るコールを無視してズンズンと迷宮の入り口に向かう。
コールも事前に迷宮入りの登録と準備は済ませておいたようで
特段の問題も無く迷宮に入る事は出来た。
さぁ中ボス狩りの始まりだ。
ヒャッハー!中ボス狩りの始まりだー!




