5-42
気持の良い時期になりましたが
週末の雨はイカンなぁ。
魔王領で迷子になった森山実留です。
見知らぬ土地をウロウロとしていたら昔の知り合いに会いました。
どうも最近は知った人に会う事が多くなってきた気がします。
何かの力が動いているんでしょうか・・・・。
あれは間違いなくブタ子だ!
そう確信はしたものの護衛に指示されて奥に引っ込んだ。
「ちょ!ブタ子っ!」
「狙いはボスかっ!
ここで阻止するぞ!」
「「「ハイッ!!」」」
一層の泥沼に嵌ったようだ。
襲いかかってきた護衛達の腕は確かで連携も良い。
だが正直に言ってしまえば圧力が弱い。
攻守共にバランスの取れてはいるが
俺よりも相当に格下だ。
1対1ならまず負ける事はないし
今の様に複数人に囲まれた状況でも負けるつもりはない。
だがそれは相手を傷つけても良い。
殺しても良いと言う条件が付けばだ。
流石に手加減して全員を無力化するのは難しいだろう。
アリスとムーブは上空に退避させ念の為に周囲の警戒をしてもらうが
距離もあるし問題なさそうだが馬車を守る護衛から
弓や魔法で攻撃されている。
『アリス
攻撃が当たるとは思えないけど注意してくれ』
『了解です
私もルーブちゃんも結構余裕ですから
気にしないでください
周囲の警戒はお任せを!』
『わかったっ!
助かるよ』
俺の強化と共に身体能力が向上したアリスと
子供とは言え迷宮ボスの子供であるルーブが
あの程度の攻撃密度で当たるとは思えないけどね。
スッと遠ざかって行くのを見ながら頭を動かす。
とりあえず・・・・どうすっかな。
相手を傷つけずに圧倒できるような方法・・・・。
そういや使ってないスキルに良いのがあるじゃないか。
効果がどの程度かよくわからないので
保険の為に身体能力を上げるだけ上げて魔力も高める。
≪竜血脈≫も露出部が明らかに変化しない程度に上げる。
俺から発せられる圧力が増大した事により
護衛達に緊張が走る。
う~ん、なんかここまで強化すると
手加減しても普通に勝てそうだけど・・・・ま、いっか。
≪王者の眼光≫を発動させる。
その瞬間に目の前に居た護衛の1人が「ヒィ」と
情けない声を上げて腰が引け攻撃が止まった。
全身が小刻みに震えて歯がカチカチと鳴り
明らかに顔色が悪く恐怖心が張り付いている。
おぉ、予想以上の効果だな。
それから周囲を見回して1人1人を視界におさめていく。
どうやら視界内に入れば効果は適用されるようだが
視線を合わせると更に効果的なようだ。
隊長は視界に入れただけだと効果は薄く若干引けた位で
仲間を鼓舞して奮いたたせていた。
どうにも効きが弱いみたいだな。
それだけ隊長の格が他に比べて上って事だろう。
仕方が無いので距離を一気に詰めて覗き込むように
視線を直に合わせたら同じようになった。
寧ろちょっと酷い位だ。
もう膝がガクガクと笑っていて顔色も青を通り越して白くなっていた。
手に持っていた槍も落としちゃったし。
「あ・・・が・・・・まだ・・・ここで・・・
負け・・・る・・わけに・・」
それでもまだ戦意を喪失してないらしく
気丈にも剣を構えるも剣先が明らかに定まってない。
仕方が無い更に駄目押しだ!
「"ちょっと待てって言ってるだろうっ!
こっちは戦意ないんだってわかんないのかなっ?"」
全力の≪大声≫を発動する。
結果どうなったかと言うと・・・・・。
護衛どころか視界内に居た馬も崩れ落ちた。
慌ててスキルを解除する。
どうやら恐慌状態だった所に止めを刺す形になったようだね。
視界外に居た馬や人は≪大声≫だけでも相当にビビッたようだし。
うん、どうやら外傷はなくとも
この商隊は壊滅状態にあるようだ・・・・。
護衛が乗ってた馬も数頭が何処かに走って行っちゃったし。
残る護衛もガタガタしながらこっちを見てるだけで
逃げる事も出来ないようだ。
『実留さん・・・・どうするんですかこれ?
それにボスって呼ばれてたのブタ子さんでしたよね?』
『あぁ・・・なんか雰囲気が少し変わってたけど
間違いなくあの身体つきはブタ子だな
それにあんな種族で商人してる奴なんて他にいねーだろう』
『居ないとは言いませんが・・・まぁそうでしょうね
あんな薄着でいる方もそうそう居ないでしょうし・・・』
なんにせよ状況を打開する為にはブタ子の協力が必要だ。
敵意がない事を示す為に倒れている護衛達を
並べてちゃんと寝かせる。
武器なんかも側に置く事でアピールし
各種スキルを解除し≪竜血脈≫の稼働率も落としておく。
更に俺は武器どころか防具まで外した。
時間にして10分位で後処理は終わった。
その頃には残った護衛達も何とか立ち直ったが
馬は興奮したままだし隊長達は気絶したままで
逃げていいかどうかの判断が出来ないようだ。
チャンスは今しかない!
隊長達からも離れ馬車とも距離をとって両手を上げる。
「こちらに敵対する意志は無い
護衛の方達は仕方なく無力化させて貰ったが
全員意識を失ってるだけで無事だ
この商隊のリーダーに話がしたい」
残った護衛達はザワザワとするが
先程、コールと呼ばれていた人物が俺に対応する。
「・・・・こちらに選択権はないのだろう?
アンタなら・・・・残った者達を・・・皆殺しに出来るだろうに・・・」
「いや、最初から敵対するつもりは無いんだ
隊長と呼ばれた人の早とちりだと思うけどね」
「だが・・・こんな場所で魔族に遭遇すれば
友好的な訳は無いだろう」
「こっちの都合も聞かずに襲ってきたのは
そっちなんだがね
俺は迷子だってだけなのに
それに魔族じゃないし・・・・」
「こんな場所で単独で迷子になってるってだけで
魔族以外に有りえないし
十分に危険人物だろうがっ!」
「う~ん
そこらも良く分らないんだよなぁ
ここって危険な場所なの?」
「ここが危険かだって?
よくもそんな白々しい事が言えるもんだ
魔族領で整備されて無いような場所は
基本は何処も危ないだろうが
特に今は嫌な空気になってるしな」
「ほう・・・それは如何いった事で?」
「それはだな・・・って説明する必要はないだろう
ってなんでこんな会話してるんだかね・・・・俺は・・・
まぁ敵対する意志は無いってのは信用出来ないが
どうせこちらに選択肢はないんだ・・・・
おい、ボスを呼んできてくれ」
何処か諦めたような達観した顔をした
コールはボスを呼びに行かせ自分の武器を手放した。
「俺はここの副長の1人だ
隊長と他の副長がアンタの近くで伸びてるから
まぁ今は俺が商隊の護衛代表と思って良い
アンタの指示に従うし俺は武装解除するが
他の者は許してくれないか?
流石にこんな場所で全員の武器を
手放す訳には行かないんでな」
そう言いながら両手を上げてその場にドカッと座った。
「別に武装解除までは望んでいない
寧ろ不安ならそのままで居てくれていい
俺はその商隊のボスとやらに話がしたいだけだ」
「アンタは何故、ボスの事を知っている?
何処から情報を得た?」
こいつは困った。
どう説明すればいいのやら・・・・。
と言うか説明する必要ないか。
俺はニヤリと笑いかけ一歩前に出る。
「それを説明する必要があるのかい?」
「いや!良いんだ!
待て!待ってくれ!
事を荒立てようって気は無いんだ!」
どうやら思ってたよりも効果覿面だったようだ。
ちょっと効き過ぎてコールがガタガタしてるし。
待つ事、5分位でブタ子が出てきた。
少し歳は重ねているが特徴ある外見は間違いなくブタ子だ。
身に着けている物は以前より高価と言うか
質が良い物のように見えるが露出が高いのは相変わらずだな。
危険が多い場所なのに腹出すなよ。
つうか肌を晒すなよ。
そんな懐かしさがこみあげてくる。
「魔族の方が私になんの用です?」
ここは何て言えば良いのか。
最初は犬で次は中性的な混血、今は人族ってか魔族に見えるのか・・・。
下手な事を言えば周囲から怪しまれてしまう。
敵対してもどうとでもなるとは思うが
一緒に行動したい俺としてはなるべく避けたい。
よし!ここは直球勝負!
「ブタ子!俺だ!実留だ」
「・・・・・・ミノルさん?
何か証拠はあるんですか?」
「アリス!アリスも居るぞ!」
呼ばれたアリスが飛んできてブタ子に近づこうとすると
スっと手をあげて動きを制する。
近寄るのを止められたアリスが寂しそうな顔をした。
「それ以上は近づかないでください
幾つか質問しても良いですか?」
「あぁ構わない」
「答えは端的で結構です
貴方の家族は?」
「妹が1人」
「私との出会いは?」
「森脇の街道で襲われてるのを助けた」
「それだけですか?」
「デンベルグの酒屋」
「そこで関わった事は?」
「特産品の開発」
質問を回答する度にブタ子の顔がちょっとづつ崩れる。
「アリスさんは食いしん坊ですか?」
「店のメニューを全制覇する勢いでな
って前も同じ事を説明したな」
ちょっと泣きそうになってる。
「・・・・・本当にミノルさんですか?」
「あぁ・・・・俺だ
何ならワンワンって鳴こうか?」
急に黙り込み俯くブタ子。
体を震わせたかと思うと足元が爆ぜた。
「み"の"る"ざぁ~ん」
ブタ子が全力でダッシュしてきたんだ。
その機動力は目を見張るものがあり
尋常じゃない瞬発力がそれを可能にしたのだろう。
結果。
俺はブタ子の全力の突撃を食らい吹き飛んだ。
地面に叩きつけられゴロゴロと転がり止まったら
追いついて来たブタ子に無理矢理起こされて抱きしめられた。
万力でギリギリと絞めつけるかの如くの強烈な圧力が俺を襲う。
「ボ、ボスっ!」
「実留さん!」
「ピー」
意表を突かれ身構えてない所にコレだ。
忘れてたぜ・・・・ってかこんなに力強かったか?
ちょいと身体能力を強化する・・・・が追い付かない。
あれ?
体中からミシミシと絞めつけられる音がし
世界が暗くなってきた。
やばい!
更に強化をするが相手の力の入れ位の方が速い。
あれ?
ミキミキ、グキグキと人体からすると不味い音が聞こえ始め
遠くなる意識にブタ子の泣き声がいつまでも響いていた。
万力再び!




