5-34
朝と夕方は涼しくなってきました。
夏も半ばが過ぎましたね。
神の手先として魔に切り込んでいく森山実留です。
聖騎士として邪悪なる者を倒して弱者を守り光の教えを説くのです。
そういえば邪悪なる者って誰なんですかね?
魔王も強烈でしたが邪悪ってのも違うような?
どちらかと言うと勇者の方が強烈だった気もしますけどね。
魔族全般を敵と教義しているようですが
魔族にも色々といるぞ?
≪聖戦闘衣≫を身に着けてから数週間が経過した。
クソ騎士Aは約束通り俺を中級5位に上げてくれた。
「いやぁ、まさかこんなに早く修得できるとはな
私が見込んだだけはある」
と高笑いしながら満面の笑顔だったが
頭の中ではパチパチと算盤を弾いているに違いない。
階位も上がりデスクワークもある程度覚えれたので
本庁での業務に外の見回りも増えた。
流石に都市外に出る事も多いので昼前に終われない事もあり
午後の戦闘訓練が免除された。
流派の熟練度を上げたいので時間を見つけては参加しているけどね。
最初の数日は地理や顔合わせを兼ねて先輩の聖騎士について回った。
まぁ先輩と言っても階位が俺よりも下だから微妙だったんだけどさ。
そこで色々と教えて貰ったんだが聖騎士の見回りエリアは基本的には狭い。
狭いと言うか限られた場所を巡回しているに過ぎない。
と言うのも基本的には首都を守る警備隊も国営の騎士達が居るからだ。
本職の方々の方が母体の規模も違うから人数も圧倒的に上だし
聖騎士が周るのは聖神教に関連する施設やスラムや裏町、病院や墓地等の
衛生面が不安な場所や助けを求める人達がいるような場所だ。
それらを見て回って神の教えと共に治安や環境を改善していく。
勿論、回復魔法や祈祷を行うのには見回りの聖騎士の能力にもよるが
幾ばくかの謝礼は必要となるが格安ではある。
それ以外にも話を聞き布教活動をするのがメインだ。
いざって時に戦闘が出来る巡回神官といったような立場と
言えば概ね間違いないだろう。
あえて環境が悪い所を回り市民達からの
信頼を少しづつ獲得しているので
聖騎士の見回りは国営騎士や警備隊に比べて受けが良い。
見回りエリアも通常の大通りや商店街等の大きな場所から
外れるので他の巡回と上手い具合に分担が出来ている。
実際には国からの支援も受けているので役割分担が
キッチリと決まっているって事なんだけどね。
そんな訳で聖騎士全体の評判は高く偉ぶらない上に
加減や限度はあるものの直接の支援までしてくれるんだから
市民の味方というポジションを手に入れている。
なので街内部に居る分にはそう危険性は多く無い。
普段は酔っぱらいの喧嘩に巻き込まれたり
チンピラに絡まれたりする位だ。
襲ったり敵対しても旨味が少ないので
裏方の連中も聖騎士達には手を出してこない。
そう言った理由もあり≪聖戦闘衣≫を習得していなく
戦闘力に不安がある者達は本庁や各地の主神殿のような
大きな場所での行動に制限され身の安全をある程度は保障されている。
そうは言っても下級騎士でもそこらの兵士よりは強かったりするんだけどさ。
だが郊外となると話は別で様々な危険が発生する。
その中でも聖騎士がメインに任されているのが墓地や洞窟等の監視だ。
生物が多く住む場所の近くには普通じゃない状況の場所が発生しやすい。
とある学者によれば意識の集まりは力を呼ぶらしく
人が多く訪れる場所等では通常は霧散してしまい問題は無いが
環境が悪く吹き溜まりになりやすい場所には
悪意と言うか負の力が貯まり易くなり"悪しきモノ"が現れると言うのだ。
つまりはゾンビやレイス等のアンデットや悪霊の類だ。
他にも瘴気に侵された獣等も発生しやすい。
これは≪聖属性適性≫や≪聖戦闘衣≫を持つ聖騎士の方が適任なのは間違いない。
≪聖戦闘衣≫は対人では制限されているが人外のモノへの対処時に
危険だと判断した場合は任意での発動が認められている。
そんな訳で今はレイスに囲まれてる最中だ。
こいつ等は物理攻撃が効かないが魔法は効果がある。
更に言えば発生したてのレイスなんかは弱い。
弱いんだがレイスには一つ厄介な事があるので注意しなければいけない。
それは人間や動物に憑依するんだ。
そうなると祈祷等で追い出さないと本体にもダメージがある。
本体毎、ぶちのめせば問題ないっちゃ無いんだけども。
何が良いたいかと言うと・・・・。
「あの人は何がしたいんですかね?」
「俺に言われてもなぁ・・・」
「ピィ~、ピィ~」
アリスと俺が疑問を感じつつルーブが威嚇している相手は
レイスに憑依されユラユラと歩き回ってるロイラだ。
「聖騎士ってああいった事に耐性あるのでは?」
「そうなんだよなぁ
でも俺達の事を認識してるけど襲っては来ないんだよなぁ」
ルーブが一生懸命に威嚇しているのが効いている
・・・かどうかは不明だがロイラは
奇妙な動きをするだけで襲ってはこない。
でも明らかに顔色は悪く涎をダラダラと出しながら
足を引きずるように歩くのは憑依されている証拠だろう。
それにロイラの周囲を幾つものレイスが飛んでいるので
確実に間違いないとは思う。
その周囲のレイスも襲ってこないのが異様だ。
「なんであの人はいつもあんな感じなんです?
馬鹿と言うか何か壊れてませんか?
前にもボロボロになって降って来たりしましたし」
「あぁ、あれなアレはビックリしたよな」
見回りの為に俺が街道を歩いて少し離れたポイントに向かっていると
上空を大きな影が過った。
その数日前から大型の鳥型魔物が現れたとの情報が入っていたので
情報に合った魔物か?と
空を見上げると上空に大きな影が見える。
この距離であの大きさだと相当に大きいぞ。
太陽を背にしているので詳細は不明だが逆に輪郭はハッキリしてた。
大きな翼を広げて悠々と飛んでいく。
「あれ?実留さん
あの鳥さん何か掴んでませんか?」
「ん、ちょっと待って・・・・
おお確かに何か掴んでるな
人・・・・かな?」
スキルで視力を向上させ≪暗光耐性≫で影の部分を補正する。
「教われた方なんでしょうか?
どうしますか?」
「距離があるから詳しくは見えないが・・・・
襲われて攫われたのか
女性かな・・・・息があるかまではちょっと分からないな
でも肌が見えてるから襲われたんだろうなぁ」
上空を旋回するように飛んでいるので
今なら対処は出来るがどうした物か。
飛んで行って助けても良いが誰かに見られると面倒な事になりそうだしな。
聖騎士は混血を嫌う・・・と俺は思っている。
部隊の中には亜人も混血も居るし大っぴらに公言してる者は
今の周囲には居ないが前回の事もある。
それにクソ騎士Aは間違いなくミックス否定派だったはずだ。
俺も混血だが見た目は人族と変わらないので問題は発生していない。
それが翼と鱗が生えたとなるとな・・・・ちょっとヤバそうだ。
となると撃ち落とすか・・・・もマズイよな。
仕方が無い上がって行くか
飛ぶよりは機動力は格段に落ちるが空を"跳べない"訳じゃ無い。
こんな事もあろうかと組み立てていた魔法があるのだよ。
"力場"
密度を高めた結界を展開し足場として利用できる。
"力場"は展開速度を限界まで上げて即座に生成出来るように組んである。
強度はソコソコだが面積は小さく維持時間も極短で
魔力量も少なく連発が効いて多発しても邪魔にならない作りだ。
色々と応用が利くと思う。
それを使って跳べばいいさ。
最悪の場合でも翼を出してしまえば墜落の心配は無い。
「いざゆかん!大空に!」
大きくジャンプした瞬間にアリスが大声をあげる。
「実留さんっ!落ちました!」
「何っ?!」
良く見れば鳥の魔物は得物を放り出したようだ。
それはまるで砲弾のような速度で
放り出したと言うよりは射出に近いような勢いだ。
慌ててそのまま着地し受け止めようと考えるが
自由落下よりも遥かに速度が高く
あんな高度から投げ出された衝撃に
此方も相手も無事でいれる訳がない。
「"エアークッション""エアークッション""エアークッション"
"エアークッション""エアークッション""エアークッション"
"エアークッション""エアークッション""エアークッション"」
とりあえず弱めの威力で魔法を連発し
勢いを削ぐことが先決だ。
「くそ!なんで勢いが衰えない!」
更に魔法を連発するも効果が見られない。
「実留さん、何か変ですよ」
「あぁ・・・何かがおかしい・・・・・
あれ?・・・・・・なんだ・・・・・・?」
エアークッションを多重発動させ空気の層を
作り出しているのだが落下してる人物に当たる直前に霧散してるようだ。
「魔法がキャンセルされてる・・・の・・か?」
「実留さん!アレはロイラさんでは?」
距離が縮まった事により人物の顔が見えたが間違いなくロイラだ。
肌が見えていたのも何時もの服装の所為だ。
空中を泳ぐようにワタワタと動きながら
俺の魔法をキャンセルしてるようで口元がモゴモゴと
動いているように見えるから
何かの魔法を使っているのかもしれない。
ロイラはまるで空中遊泳を楽しんでいるかのようだ。
その姿はスカイダイビングをしている様にも見える。
もっともその姿は何時ものボロ布でパラシュート的な物は一切見当たらないけど。
「あれって何か考えがあってやってるのかねぇ」
「ひょっとしたら鳥さんに捕まってたのも
ワザとなのかもしれませんね」
「あぁ・・・・あの人なら何でも有っぽいもんな」
あと少しで地上といった所でロイラは器用にクルンと廻り
足から着地するような体制を取った。
「おお、やっぱり楽しんでたんだな
流石は特級騎士ともなると空中遊泳を楽しむ力が・・・・
「ドグゥアアァァァァンッッッッ」」
盛大な音と共に土煙が巻き起こり小石と土が吹き飛んでくる。
「・・・・実留さん」
「なんだいアリス君」
「ロイラさん・・・何もしないで着地しませんでした?」
「うん・・俺もそう見えたし魔力も感じなかった」
「物凄い音がしてましたよね?」
「うん・・・なんか色々と飛んできたしな」
「じゃぁ任務に行きましょうか!」
「おう!・・・・・って無視出来るかっ?!」
現場に向かうと軽いクレーターが出来ており衝撃の凄さが伝わってくる。
その中心にロイラは居た。
足は半ばまで地面に突き刺さり両手は変な方向に向いている。
全身がボロボロで無事な所を探すのが難しい。
皮膚も裂け血が大量に流れている。
・・・・・これは死んだか?
どう見ても駄目な感じが漂う中。ロイラの目はパチっと開いた。
「あはははは、空を泳ぐの楽し~」
それだけ言うと意識が飛んだのだろう
ガクッと首が下がりピクピクと痙攣しだす。
慌てて駆け寄ると怪我は想像以上に酷く出血も続いている。
回復魔法を連発し手持ちの回復薬をジャブジャブと使う。
地面から強引に引っこ抜いた足はそりゃもう酷い状態だった。
回復魔法が効いてるハズなのに治りが悪い。
何かが阻害している感じがするが原因を探る時間も無い。
担ぎながら回復魔法を使い続け走って街まで戻った。
「でも次の日には元気になってましたね
と言うか鳥さんにまた捕まってましたね」
「あぁ・・・うん・・・・飛んでたな・・・
と言うかアレってロイラの使い魔なんじゃね?」
「そうかもしれませんね
何か言う事を聞いていたっぽいですし」
「そういやあの後も落ちたのかな?
いや、落として貰たのかな」
「多分・・・・そうなんでしょうね
話は聞いてませんけど・・・」
「危険な遊びだよなぁ」
「遊び・・・なんですかね
それ以前に何であの怪我が翌日に治ってるんですか?」
「それも異常だけど
良く考えたらあんな上空からあの勢いで落下して
何で生きてるんだろうな?」
「そういえばそうですね・・・・
まぁ何かの神の加護かなんかじゃないんですかね」
「そりゃそうなんだけどなぁ・・・・・
まぁ気にしても仕方が無いさ
とりあえず今をどうするかだよな
考えは無くはないけどな」
「ほう?それはどんな方法で?」
「ん?まぁ方法と言っても単純なんだけどさ
ロイラって頑丈じゃん?」
「非常識な程に」
「だからさ・・・・纏めて吹き飛ばしちゃえばいいかな~と」
「・・・・・マジですか?」
「・・・・・いやいや
冗談だよ・・・・冗談・・・・・ハハハ」
見つめ合う俺とアリス。
その少し後にボロボロになった少女を背負った
妖精と子竜を引きつれた者が歩いているのを目撃した人が居るそうな。
ロイラさんパネーっす。




