5-3
最近は暖かいですね。
陽がポカポカで気が緩みます。
先日の大雪では大変だったのに・・・・。
姉さん事件です!
あぁ・・・姉さんは居ません。
居るのは妹ですね。
いやいやそんな事はどうでも良いんです。
ピンチです!ヤヴァイです。
森山実留です。
あっ、アリスはまだ出て来ません。
事前情報と一致する外見から
目の前に現れたボスの名は"ロッドロドリス"。
ここより更に深層に不定期に出現するボスクラスの魔物だ。
外見は鰐の足を少し長くして数を増やし。
胴体はびっちりとした強固な鱗で覆われ。
顔は鰐の顔を細く短くしたような寸詰まりで
頭は山羊のような角が生えている。
悪魔や竜と言ったようなイメージを受けるが
系統は違うそうだ。
なんにせよ目の前の奴の名前なんかはどうでも良い。
肝心なのはコイツが20階で出会っちゃいけないような
相手だって事だ。
反応を見る限り冒険者3人じゃ明らかに役不足。
母牛でも単独じゃ厳しいだろう。
俺はまだスキルや魔法を使った戦闘を
新しい体で試していないのでどこまでやれるかが不明だ。
単純な身体能力だけなら瞬殺されるだろう。
部屋の出入り口に現れたが中に入ってくる様子は無い
こいつは徘徊タイプで理由は不明だが通路から
入ってくる事は無いようだ。
"入れない"のか、"入らない"のかは別としてだ。
「ど・・・・どうする?
このままじゃここで力尽きるしかないじゃないか」
「今の所は部屋までは入ってこないようだけど
それがいつまで持つかよね」
「モーモー・・・・モモモー」
「・・・・そうだな
あんたの意見が正しいだろうな」
相変わらず俺以外は母牛の言葉が分る様で
肝心な内容はちっとも入らない。
「だが?その子はどうする?」
「モーモブモー」
「そんな事が上手く行くかしら?」
「ブモブモー」
「・・・・・まぁそれしかあるまい」
全く会話は理解できないが母牛が言っている事はなんとなくわかる。
これでも親子なんだしな。
つまりは母牛が何となするからその隙に走り抜けろって事だろ?
俺を含めての短めの作戦会議で裏付けは取れた。
付け加えるのであればジラが全力の魔法攻撃をした上での
母牛を先頭に突撃って事だけどね。
「お母さん、それじゃお母さんが危ないよ」
「モモーウ・・・モウモウ」
「皆で力を合わせれば!」
「モッ!モモー!モウモウ」
「何言ってるかわかんないよ・・・」
まぁ最後の台詞は小声で届いてないけどさ。
そろそろピローンとスキルGET出来ても良いんじゃないかと
思うんだがどうなっているんだ。
きっと何処かで笑いながら見てる奴が居るんだろうな。
それでも母牛の言いたい事は何となくだが理解できた。
依頼人を守ってこそだってな。
突撃の順番は母牛、タオ、ジラ、俺、マッディの順だ。
先頭と殿の戦闘職に負担が掛るが仕方ないだろう。
「おっと、こいつを忘れてた」
そういってマッディが宝箱に歩いて行った。
ゴタゴタしてたから俺も忘れてたぜ。
どうせ突破するなら持って行った方が良い。
中には4個のアイテムが入っていた。
短剣が1個、指輪が2個、宝石が1個だ。
それぞれ品質も良いし高く売れるだろう。
自分で使うのにも良いな。
普通は依頼者が全て取得しその中の決められた割合を
報酬として貰うのだがマッディは一番高く売れそうな
宝石を母牛に渡した。
「こんな事になっちまってすまん
この宝石だけで相当な値段になるはずだ
ヴィクトリアさんとミノル君への詫びとして
気兼ねなく受け取ってくれ
それを換金する為にも無事に戻ってくれよな」
そう言ってタオとジラにも次に売れそうな指輪を
1個づつ渡す。
そして自分は短剣を腰に差す。
マッディは良い奴なんだろうな。
「さて!行くか!
逃げきればこっちの勝ちだ」
「そうね!ジラの魔法とヴィクトリアさんなら
突破口は拓けるはずね」
「・・・・任せておけ」
「モォォォォォォ!!」
それぞれが威武して気持ちを高めていく。
これが危ない橋だってわかっているんだろう。
爆発力を抑え貫通力を重視した炎の渦が
ロッドロドリスに叩き込まれる。
着弾と同時に母牛が予備の槍を投擲する。
そのタイミングで一気に突撃し
母牛が戦斧を振りかぶり全力で叩きつける。
「ヴモォォォォォォォ!」
重い音が鳴り響くが構わずに全力で押し込む母牛。
更にジラの追撃で体制を崩す事に成功する。
ロッドロドリスの軸がズレると
一気に押し込んで道を作った。
「今だ!行けっ!」
マッディの号令と共に全力で駆け出す。
階段までは直線で僅かだ。
ロッドロドリスの脇を走り抜け母牛に続く。
通路にも幾つかの魔物の姿が見えるが母牛が蹴散らして進む。
母牛が階段に辿り着き振り返る。
横をタオが駆け込みジラもあと少しだ。
マッディは雑魚の追撃を対処しているが
ロッドロドリスからは距離がある為、問題ないだろう。
ジラが残り数歩の所で背後からデカい反応をキャッチ。
魔力が急激に立ち上がって行く。
「まじか?あんな姿で魔法攻撃ありかよっ!」
ジラは後ろを気にしながらも階段に駆け込む
俺は後ろを確認するが
マッディはまだ気が付いてない。
クソッ!
その場で急反転し雑魚の対応に追われている
マッディの腕を掴む。
「おい!何をする?!」
パニくるマッディを無視しスキル全開で能力を上げ
母牛にブン投げる。
「ブモ?」
急に飛んできたマッディをキャッチした母牛の
体勢が崩れた所に"風撃"を叩きこみ
階段に二人を押し込む。
2人が落ちたのが見えた瞬間後ろから膨大な魔力が押し寄せる。
咄嗟に"闘気"を纏い床に伏せた上で岩を作りだし体を覆う。
直後に体を揺さぶる激しい振動を感じ
俺は意識を手放した。
・・・・イツツ。
目を開けると何処かの部屋の中に居た。
生命反応は小さなモノが幾つか確認出来るが
周囲に大きな反応はない。
ロッドロドリスは居ないようだ。
「ここはどこだ?」
見渡すと小さい部屋のようだ。
入口というか小さな崩れた穴がある。
ここは隠し部屋的なあれか?
怪我は幾つかあるが時間を掛ければ
"自動回復"で問題ないレベルだ。
俺は周囲を確認してから何時もの行動を取る。
> ナビゲーションアプリを起動します
> 転生後の初回起動の為、調整を行います・・・・。
光の粒がフワフワと集まって
少しづつ大きな塊となり人の形を作って行く。
輪郭が整うと一際強く光り・・・・。
「ふぅ!やっと出れましたね~
実留さ~ん
ん?なんですかこの牛さんは?
そりゃ牛さんは美味しいですけど
なんか・・・・顔だけ!顔だけ牛って!
ププププププ
アハハハハ
牛!牛が2本足で!
これ!これは美味しそうじゃないです!
ププププププ」
ゲラゲラ笑ってるアリスにちょっとイラっとして
指先で頭を掴みキリキリと力を入れる。
「痛い!痛いです!
何ですか?!この牛さんは!」
「アリスく~ん
もう何回目かな?このやり取りは?
そろそろワザとやってるんじゃないかと思うんですけど~」
「ごめんなさいごめんなさいちょうしにのりました」
「絶対に分かってやってるだろ・・・・・」
苦笑と共に指を放す。
「いや、本当に最初は分からないんですよ
数秒も経てばハッキリするんですけど」
「ふむ、そういうもんなのかね」
「そういうものなんですよ、きっと」
もう一度、部屋を確認し危険がない事を確かめてから
壁の穴を魔法で塞ぐ。
とりあえずアイテムボックスから食料を出して
食べる事にする。
と言ってもこっそりと残しておいた野菜だけだけど。
「あれ?野菜だけですか?」
「おう、なんか家だと野菜しか出ないんだ
ミノタウロスって草食なの?」
「どうなんでしょうか
というか今回はミノタウロスなんですね」
「おう!母譲りの牛顔だぜ
それに父親はジミーだ」
「ジミーさん・・・・・ん?
ポーラスの受付のムキムキの?」
「そうだな
ちなみにここはポーラス迷宮の20階層だ」
「えーー?
どんな状況ですか?!」
傷の回復を待つ間に今迄の事を説明する。
アリスにも野菜を別けてあげるが
2人でモシャモシャと食べるのは
何かとても切なさを感じた。
ちなみに収納鞄の中には迷宮内で狩った肉類もあるが
依頼者の所有物となるので手をつけてはない。
鞄ごとアイテムボックスに放り込んである。
「それで今からどうするんですか?」
「とりあえず近場にロッドロドリスの反応は
確認出来ないから階段まで行って転送陣で帰ろう
母牛も心配してるだろうし」
「私はどうすれば良いですか?」
「ん~、今回は転生については話さないでおこうと思う
何とか"誤魔化し"で押し通そう」
「了解です
実留さんのスキルと会話力に期待しています」
「おう!」
その後、部屋を詳細に見て回ったが
特段何も残されていなかった。
誰かが使った様な跡があったので元々は
小部屋の1つだったのだろう。
その出入り口を塞いだ為に発見されて無かった
と言う所だろうか。
多分、先人が同じような感じで何かから逃げたんだろうな。
無事に脱出したのか・・・迷宮に食われたか・・・。
壁の一部を取り除き通路に出る。
周囲に反応は無し。
やっぱり先程の場所だ。
隠蔽された小部屋が無かったらと思うとゾッとするな。
周囲を確認しつつ慎重に階段に向かう。
僅かな距離と言えども気を抜いたら駄目だ。
1歩づつ確認しながら歩き階段に辿り着く。
「ふぅ、ここまでくれば安心だ」
大抵の迷宮で階段は安全地帯だ。
魔物もここまでは追って来ない。
緊張を解いて階段を下りる。
階段の先は通路になっているが生命反応は無い。
周囲を確認しながら進む。
少し進むと部屋になっており。
そこには見慣れた転送陣があった。
人影は無いので俺以外の者が全員戻れたんだろう。
「ふぅ、無事に帰れそうだな
帰ってアリスを紹介して肉食おうぜ」
「実留さんの料理食べたいですね
それ以前に牛さんは肉を食べれるんですか?」
「牛言うなー!
まぁ身体的に無理でもスキルで何とか何じゃね
少なくとも俺自身は食べたいと思ってるんだし」
「あはは、それもそうですね
無機物すら食べれるのに心配は要りませんね」
「そう言う事だな
よし!帰るぞ!」
俺はアリスを肩に乗せて転送陣に入る。
ピローン
何回も聞いた起動音が響く。
> ギルドカードが確認出来ません。
あれ?
転送陣に入りなおす。
ピローン
> ギルドカードが確認出来ません。
入りなおす。
ピローン
> ギルドカードが確認出来ません。
入り・・・
ピローン
> ギルドカードが確認出来ません。
転送陣はギルドカードが無いと起動出来ませんでした。
「まじかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
母牛と離れてしまった実留君。
どうなることやら。
収納鞄に収納鞄を入れれば荷物を増量できますが
そんな事が出来るのはブルジョワジーな階層の方だけです。




