5-2
朝も早くから家の前で凍った雪をガツガツと崩している方が居るので
起こされてしまい寝不足で目がチカチカします。
こんにちわ!生後1週間の若牛です。
名前は森山実留と言います。
母牛はモーモー言いますが僕は普通に話せます。
お父さんは獣人のムキムキです。
僕は牛です。
果して僕は両親のどちらに似てるんでしょうか?
外見は間違いなく母似ですけどねっ!
ギャリン。
剣が堅い外皮に弾かれて火花が散る。
魔法で作られた炎が飛び交い外皮を焼きボロボロにする。
そこに戦斧による一撃で決まり相手が動かなくなる。
今は絶賛戦闘中だ。
母牛は前衛で戦闘する。
大きな体を前面に押し出し戦斧で
苛烈な攻撃をお見舞いする。
他には長剣を巧みに操り遊撃する剣士の男。
遠距離攻撃の魔法使いの男。
弓で狙撃するシーフの女。
そして俺だ。
俺の役割は荷物持ち。
後ろを警戒しつつも手に入れた素材やら
何やらを持って歩く係りだ。
一応、剣や防具を装備しているが
基本的には自衛の為に使うのみだ。
見習いの立場なので直接の戦闘には参加していない。
母牛は迷宮冒険者として迷宮に潜り
糧を得ている。
現在は正式パーティーでは無く
臨時で組んでいる者達だ。
ミノタウロスなんて普通は信用できないと思うが
迷宮ギルドの管理官が勧めなの信用されているそうだ。
もちろんそれはジミーなんだけどな。
自分の奥さんを危険な迷宮に送り込む。
更に言えばギルド職員という立場もあるので
信用されているし実績もある。
確かに母牛の攻撃は目を見張るものが多く
迷宮の探索にも馴れている。
臨時なのに連携もソコソコ上手い。
大きくて屈強な体は壁役としても有能だ。
名指しで指名してくる者達もいるそうだ。
俺は戦闘終わった後に解体し素材を綺麗に確保していく。
その腕も認められた。
そりゃ経験が違うしな・・・とは思うモノの
良い評価なら問題なしとして"エヘヘ"と笑うだけにした。
迷宮に入る。
そう告げられた翌日に両親に連れられて街に出た。
歩いて来た方向が違うから分らなかったが
少しづつ見覚えのある場所になってくる。
どうやら目的地は迷宮ギルドのようだ。
俺はあの時の宿屋はどこだったかな?
アリスと食べた飯屋はどこかな?と
キョロキョロとしながら進んだ。
それを見て両親は和んだようで笑顔だった。
迷宮ギルドに到着すると
懐かしい思いが込み上げてきた。
まだまだ体は大きく無いが前は4足歩行だったので
やたらと広く感じたが視点が高くなったおかげで
以前より少し狭く感じた。
母牛と俺を待たせてジミーは受付に行き
何かを話した。
時折こちらを見る事から両牛の事を話しているんだろう。
そして手をあげて奥に入って行った。
俺は懐かしさもあってウロチョロし色々と見て
母牛は馴染みの方と会話してた。
しばらくしてジミーは誰かを連れて出てきた。
結構、上の方のようだ。
俺と普通の会話をした後に
「うん、これなら問題ないでしょう
ただしギルドとしては責任は持てない
ジェイク君の立場と名の元に自己責任としてください」
「はい、それはもちろん
すみません我儘を言ってしまい申し訳ないです」
「種族的な問題であれば仕方がない事でしょう
元々は迷宮の出入りは自由でしたが
危険性を考え当ギルドが発足したのですから
但し、カードは発行出来ませんし保障もしませんよ」
「えぇ、わかっています
母親と一緒に潜る事を許可して頂きありがとうございます」
最後に挨拶するとその人は奥に戻って行った。
話しの流れからすると俺は迷宮に入れるが
ギルドとしての保証はしないって事だろう。
つまりギルドカードは作れないのか。
う~ん、中で稼いだ分はどうすれば良いのか・・・。
そもそも何をするんだか未だに教えて貰ってないぞ。
その日は迷宮には入らずに
色々と買い物をして帰った。
生活用品の他には俺の装備品等だ。
まだ体が成長しきってないので
重い装備は無理だろうとの意見で
長剣と部分的に補強が入った革鎧にした。
ブーツと小手は鉄製だ。
多少は重く感じるかなと思っていたが
全くそんな事はなかった。
牛ボディすげぇ。
装備類は極々普通の一般品だが
作りの確かな信頼性の高い物を選んでくれたようだ。
そして翌日から俺は迷宮に潜る事になる。
最初は母牛と2牛で入るかと思ったのだが
迷宮管理官の依頼で
冒険者の護衛兼荷物持ちとして入る事になった。
この冒険者達は迷宮に入るのが初めてだと
いう事なので護衛と案内を兼ねての依頼だった。
最初は手間取ったものの低階層はゴブリン程度しか出ない。
馴れればどうという事はないので冒険者達も動きが良くなってきた。
半日掛けて数階層を潜って終了。
俺には危ない場面は特になかった。
時折、すり抜けや脇からの攻撃で相手が
向かってきたことがあったがスンナリと倒す。
安全が確認出来たらサクッと使えそうな素材や
アイテムを集めて収納鞄に放りこんで行く。
これはギルドからのレンタル品だ。
母牛の戦闘力と荷物持ちの俺(鞄無償レンタル)がセットって事だ。
解体&剥ぎ取りはいつも通りの感じでやってしまったが
冒険者達はそれが普通だと勘違いしてくれたようだ。
母牛は少し先行しているので見られてない。
何回かやって馴れてコトにすれば良いだろう。
それからは毎日潜った。
中に居る時間は半日から約1日までの日帰りだ。
母牛の圧倒的な戦闘力と俺の剥ぎ取り技術は
ギルドでも少しづつ評判になっていった。
特に俺の剥ぎ取りは収入に影響が出る程に
状態が良かったので戦力外の者が
着いて行く事に文句を言う者は居なかった。
そんな訳で唐突に迷宮に入る事になり
迷宮生活に染まって行ったが
それ以外は両親と共に買い物をしたり遊んだりするので
荒んだ日々と言う訳でもない。
今はヘルプだけなので深い階層に潜るわけでもないし
10階層までは犬時代に経験済な上に俺単独でも楽勝だろう。
数日が経ち役割も立ち振る舞いも馴染んできた頃に
10階層よりも下に行く事になった。
目標階層は20階層で依頼人は3人の冒険者。
バランスの良い組み合わせだが前衛の1人が抜けてしまい
戦力が足りないという事での依頼だ。
転送陣は使わずに確認しながら行きたいとの事だ。
10階層までは飛ぶがその先は確かめながら下りて行く事になる。
下に行けば行くほどに1階層に掛る時間は多くなるので
日帰りでは無く数日間の契約となっている。
最初、ジミーはこの依頼を渋った。
母牛は問題ないが俺の事が心配だったからだ。
それでも今迄の実績と母牛の大丈夫だろうとの判断で
GOサインを出した。
そんな訳で俺は今、15階層目を探索している。
戦闘が終わり俺が剥ぎ取っている間に
剣士がざっと装備類や怪我をチェックする。
魔法使いは魔力回復の為、意識を楽にする。
俗に言う瞑想って奴だな。
シーフが周囲を確認し母牛が警戒だ。
「ふぅ、それにしても10階層とそれ以下は
強さがグッと変わるな」
これは剣士のマッディ。
若いのに経験を積んだ良い腕をしてる。
「そうね
ここの迷宮は5階層毎に強くなるようよ
そうよねジラ?」
シーフのタオに話しかけられた魔法使いが反応する。
「・・・・・あぁ、そうだな
厳密には1階毎でも強くなってはいるがな
だが・・・まだ余裕だろう」
「そりゃな
ギルドから派遣されたヴィクトリアさんも
居るからまだ余裕だけどよ」
「そうね
思ってたよりも強いわ
これはラッキーね
それにこの子の評判も噂通りね」
「・・・・あぁ・・・・良い腕をしてる」
そんな会話をしながらも更に深く潜って行く。
20階層までは幾度も戦闘になったが
危なげなく辿り着いた。
迷宮ギルドで地図を購入していたので
ある程度の部分は把握できている。
それを読みながらタオが進路を決める。
「う~ん、この先の分岐を幾つか行くと
降りる階段があるわね
そこまで行けば転送陣で帰れるわ
その辺りに幾つか小部屋があるから
チェックしてから帰りましょう」
「そうだな
何か良い物が見つかれば良いな」
「・・・・あぁ」
あくまでも護衛と荷物持ちである
俺達に契約期間内の方針についての決定権は無い。
請われれば意見する事もあるが
考えたり決めたりするのは依頼者達だ。
それにこれで終わりだって言うなら
最後に小部屋で収穫があるかを確認する手間は惜しくない。
そう判断し5人は慎重に歩を進める。
階段前の最後の小部屋には箱があった。
所謂、宝箱って奴だな。
迷宮には幾つのタイプがあるがこれは自然発生したやつだろう。
罠等のリスクは高いがそれなりの物が入っている可能性もある。
それが判っているんだろうタオも緊張してる。
「どうする?開けてみる?」
「・・・・罠はどうだ?」
「ん~っと・・・・ある・・・・と思った方が良いわね
どうも今一つわからないんだけど・・・・
多分、ある・・・・いや・・・・絶対あるわ」
「結構高レベルの罠っぽいな
解除は可能か?
可能なら中身は期待出来そうだが」
「どうだろう
ギリギリで判定出来てるから
解除は可能だと思うけど・・・・
確実って保障は出来ないわ」
「・・・・・罠の種類は?」
「爆発系って事は無いわね
毒なんかも違うわ
多分、アラーム系じゃないかしら」
「となると最悪は魔物がワラワラと寄ってくる
事になるのか」
「そうなるわね
解除に失敗したらだけど」
「・・・・・諦めるか?
無理に危険を冒す必要もあるまい」
「いや、まてよ!
此処まで来て」
アラーム系の罠と言うのは定番の中でも悪質な奴で
周囲の敵をおびき寄せるモノだ。
これらの知識はジミーが丁寧に教えてくれたから助かっている。
最終的な意見としては降りる階段までの安全を確保し
最悪の場合は急いで階段に向かうって事で決着だ。
この小部屋が階段まで極近くってのもポイントだな。
20階層の魔物なら強引に突破出来るだろう。
「じゃぁ行くわよ・・・・・」
そう言ってタオは慎重に箱に触る。
外側を入念にチェックし丁寧に扱う。
少しづつ力を入れ蓋を開けていく。
その際に何かを見つけたようで解除する。
無事に箱を開けきると中には幾つかのアイテムが入っていた。
「ふ~、何とか失敗しなかったわ
中身は・・・・悪くないわね」
「はは、お疲れさま」
「・・・・・良くやった」
タオが緊張から解放され中身に手をつける。
ピーピーピーピーピー。
電子音に似てるが明らかに違う音が部屋に鳴り響く。
とても・・・・とても嫌悪感を感じる嫌な音だ。
「まさか!2重トラップ?」
「おい!そんな事はどうでも良い!
逃げるぞ!」
母牛が先頭に立ち部屋の入り口に駆け寄る。
全員が箱を見向きもしない。
階段まで急げば10秒程度。
音が鳴って数秒も経っていない。
急げば間に合う。
「・・・・不味い
止まれっ!」
ジラが異変を察知し大声で抑制する。
咄嗟の大声に全員が立ち止まり
同時に部屋の出口付近の床が淡く光だし魔法陣が現れる。
「そんな!転送系アラーム?」
「おいおい・・・・変なの出てくんなよ」
転送系とはアラーム系の罠でも運が猛烈に左右するタイプ。
迷宮内の何処からか1体ないし複数体の敵を召喚する奴だ。
もちろんゴブリン1匹の時もあればそうじゃない場合もある。
・・・・・・・感じる反応は・・・・最悪に近いな。
「はは・・・・はははっ
なんで・・・・こんな奴が・・・・」
「う・・・・そ・・・・・で・・・・しょ?」
「・・・・・如何な」
言葉を発していないが母牛も状況の悪さを感じているようだ。
そこには此処よりも更に深い層階に居るとされる。
ボスクラスの魔物が現れていた。
収納鞄をさ無料で貸し出すから頼むよっ!
ジミーのそんな声が聞こえそうです。
だがそれはギルド所有物の私的利用ではないのか?!




