4-38
日差しが温かいですね。
昼寝には最高です。
こんにちわアリスです。
皆さんは魔法が使えますか?
ふふふ、私は使えるんです。
使えるようになったんです!
もう無駄飯食いとは言わせません!
立派な戦力になりますよ。
喰らいなさい我が究極魔法"鳴り響く終焉の鐘っ!!"
アリスさ・・・・今なんかチャイムみたいの鳴らなかった?
あれ?何で泣いてるの?どうした?アリス。
領主の一言で襲い掛かってくる亜人達。
全てが"隷属の首輪"なるものを付けられているようだ。
領主は一瞬の隙を見て亜人達の群れの中に逃亡した。
「おい!レイニー!
どうするんだ?」
「いやぁ
これは困った事になったね」
武器や防具は身に着けていないが
元々が人族より身体能力は上だし
ここに居るのは所謂レア種だ。
つまりは通常種よりも何かしら秀でている
上位種や派生種が殆どとなる。
それ以外となると珍しい種族とかになるが
基本的には人族よりも秀でた戦闘能力があるだろう。
魔法を使ってくる者もいるし攻撃は苛烈間違いなしだ。
それでも亜人達は操られているだけだ。
殺したりするのはどうすれば良いのかが悩む。
レイニーも剣を鞘から抜かないまま防御に徹している。
「レイニー守ってばっかじゃ辛いんだけど!
倒しちゃ駄目なの?」
「ここに居る者達の殆どが不正な手段で
連れてこられたんだよね
出来れば帰してあげたいんだ
でもまぁ仕方がないね
やり過ぎない程度で無力化してもらえるかな
後で治療出来る程度でお願い」
そう言って受け身だったのを止め
相手の急所に鞘のまま攻撃を入れ気絶させた。
目の前の相手が倒れた事により空いたスペースに
身を飛び込ませガンガンなぎ倒していく。
レイニーが居なくなったという事は1人分の
スペースが空いたという事だ。
そこに亜人達が流れ込んでくる。
「少し位は状況を説明してけ!
つうか俺が死んだらどうすんだコラッ!」
そう文句を言うも俺が襲われている状況は
何も変化しない。
死ななきゃ平気・・・だよな?
ちょいと話について行けずにイライラしていたので
多少加減するもののストレスを解消する事にした。
階段の方に戻り左右と後ろからの襲撃を防ぎ
前方だけに限定させた。
そこから"衝風撃"を連発する。
そう連発したんだ。
階段から少し出る位に位置取りをし
前方180度に連発しまくった。
室内という閉じられた空間での衝撃波は酷いものだった。
反響するわ逃げ場がないわで
衝撃波で吹き飛ぶ亜人達。
それでもまぁ死にはしないだろう。
魔力がそろそろ危険域になるなぁと
言う位にドンドンぶっ放したら部屋で動いているのは
数人になっていた。
俺とアリスとレイニーだけだ。
アリスは俺の後ろに居たしレイニーは
盾を掲げて防御姿勢だった。
顔は若干引きつっているが気にしないでおこう。
亜人達は殆どが意識を失っているか
そうでなくても動けない状態だった。
念の為に拘束をした上で手当てをした。
その際にレイニーが首輪に何か細工をする。
外す事は出来ないが一時的に命令を
受け付けなくする処置らしい。
次に領主とその仲間達だが
領主は亜人の下敷きになっていたんで拘束した。
仲間達・・・と言っても首に着けていたのは"奴隷の首輪"と
呼ばれる魔道具で主人の命令には逆らえなくなる物が
付いてる事からまぁ奴隷なんだろうとの事だ。
"隷属の首輪"と違うのは自由意思はあるし行動も出来る部分だそうだ。
ちなみに5人程居たが1人を除き全員が死亡していた。
亜人種達の攻撃に巻き込まれたようだ。
こういった魔道具は同一の契約者であれば
通常はセーフティーがあるので同士討ちは
無いんだけどな・・・そうレイニーは呟いた。
領主はこんな時の事も考えてあえてそうしていたんだろう。
作業自体は待機していたレイニーの仲間が
裏口から入って来て作業し遺体は丁寧に処置し運び出した。
領主も連れて行かれ亜人達も丁寧に運び出された。
部屋にある物は全て持って行った。
その手際は素晴らしくあっという間だ。
最終的に残ったのは俺とレイニーとアリスだけ。
館自体も閉鎖され監視が付くようだ。
上の使用人も私兵も全員連行された。
「ふー、何とか終わったね」
「あぁ、何だかよくわからんままに全員居なくなったけど
これで良かったのか?」
「証拠も証人も当事者も全て確保出来たからね
協力してくれてありがとう」
「それは構わないんだけど
ちゃんと説明してくれよ」
レイニーは後片付けと最終点検の為に館中を
隈なく歩きながら説明してくれた。
冒険者ギルドの公認は本当で
それでいて例の機関にも所属している事。
領主については下調べは完了していた事。
詳細に色々と話してくれた。
俺の件も領主を追って商人ギルド内部の
調査をする過程で浮かび上がってきたらしい。
領主を捉え証拠も揃っているので
母犬の件も含めて解消してくれる事になった。
国王からの召喚状は本物だそうだ。
最初から処罰する為に呼び寄せるつもり
だったそうだが今回の件でスムーズに進みそうだと言っていた。
何故あのタイミングで出て来れたのか?
については元々が領主の行動を伺って
外に待機していたらしい。
それが大きな音がしオーガが壁を突き破って出てきたので
緊急で踏み込んだって事だ。
俺が拉致られたのは知っていたので
状況からみて領主絡みだと判断されたようだ。
周囲に顔を売りながら商人ギルドに向かったのが
良かったようだ。
全てを見終わり取りこぼしがないかを確認し
後を任せて館を出た。
今の館の場所はバイツグルからは更に離れている。
森の中に囲まれた別邸と言う場所だ。
強い獣や魔物は居ないが一般市民が気軽に来れるような
場所でもないようなエリアだ。
特に目ぼしい産物も無いので狩人等も余り来ない。
つまり人気が殆ど無い場所だ。
亜人種を囲うには丁度いい立地だったんだろうな。
外に出ると館には予想以上の亜人種が居たので
輸送の為に馬車は全て出てしまっていた。
散歩がてら歩いて帰る事にする。
とは言うモノの普通に歩いたら半日以上は掛る距離だ。
迎えの馬車は向かってくるハズなので途中で捕まえるって事だ。
トコトコと歩いて行く。
始まりが早朝だったが色々あったので
既に昼を大きく回っている。
腹も減っているし結構疲れたな。
「ミノル君、ちょっと悪いんだけど
お腹空いちゃったんだ
遅くなったけどご飯にしないかい?」
「歩いて帰ろうだなんてそれが目的かよ」
「あはは
でも馬車は当分来ないのは間違いないよ」
「仕方が無いか・・・・
でもあんまし食材無いからなぁ」
「それなら僕が何かを仕留めてくるよ
ミノル君は準備をしててよ」
「わかったよ
水辺みたいのは近くにあるのかい?」
「あぁ、少し森に入った所にあるよ」
森に入って進むと小川が見えてきたので
そこを陣取る。
レイニーは何かの肉を狩りに行き。
アリスは小枝を拾う。
俺は仕込みだ。
竈を作り簡単なスープを作った。
残っていたクズ肉と野菜を適当に入れて
アクを取りながら煮ただけだ。
小麦粉と牛乳を味を調えながら炒めながら練って
ホワイトソースモドキを作ってシチューにする。
俺が準備してると離れた所でレイニーの
反応が急に強くなったが獲物が居たんだろう。
あの反応の強さから見て相当に大きな獲物なのかな?
シンプルに塩焼きにしたいところだが
塩が残り少くなくなってきた・・・謎調味料を使うしかないか。
アリスが味見と言うには少し量が多いんじゃないか
と思われる行為を眺めながらレイニーを待つ。
少しして手には中型犬位の大きさだが
丸々として美味しそうな獲物を持って戻って来た。
「待たせたかな
獲物を狩って来たよ」
「いや大丈夫
皮と内臓を処理して適当な
大きさに切って串焼きにしよう」
これはそんなに手強かったのだろうか?
まぁ腹も減っているので早速調理だ。
ササっと捌いて串に刺し調味料を振り掛けていく。
謎調味料は怖いので半分位にしておいた。
ドンドン作ってバンバン焼く。
焼けた順から食べて行く。
「ん~~~~~美味しいぃ
この肉美味しいですね!
それに味が素晴らしいです!
肉の美味しさを引き出すかのような
奥深い旨味が!」
アリスが絶賛してモリモリと食べ始める。
どうやら謎調味料は良い感じのようだ。
牢屋で使った時は苦い草をすり潰したような
味になりやがったからな・・・・。
レイニーは黙って食べている。
なんか何時ものテンションと違うな。
雰囲気も何処となく・・・・なんだろう?
何にせよ食事が美味しいのは良い事だ。
スープも体が温まり気分が落ち着く。
「ふむ・・・・君は料理が上手いんだな
元々は料理人か何かだったのかな?」
レイニーがふとそんな事を呟く。
相変わらず肉とスープを淡々と食べながらだ。
「急に改まってどうした?
俺はコボルド種だぞ
そんな事があるわけないだろう」
レイニーの冗談で俺とアリスは苦笑する。
「そうですよレイニーさん
コボルドの村から出てきてここまで
一緒じゃないですか
実留さんは料理が得意なだけですよ」
「いやまぁ得意って言う程じゃないぞ
凝った物は作れないしな
簡単な男料理だけだ」
「ふーん、そうか・・・・
ならアレだな君がコボルド種になる前の事かな?
生まれ変わりと言う奴かな?
それとも元々がコボルド種のままこっちに来たのかい?」
俺とアリスがバッと立ち上がり身構える。
レイニーは何も気に留めず食事を続けている。
「急に立ちあがったりしないでくれよ
食事は落ち着いてしてくれないかな」
「・・・・・・お前は誰だ?」
俺がそう問いかけると
肉を片手にフラっと立ち上がる。
「嫌だなぁ
僕は僕だよ
君の友達じゃないか」
そう話すレイニーは何も変わってないかのようだ。
何時もの笑顔に何時もの声。
ただ何かが違う。
雰囲気が違うとしか言えないが。
「実留さん・・・・レイニーさんの目が・・・」
言われてから気が付いたが目の色が違う。
普段は薄い青の綺麗な目だが今は金色だ。
全てを見通すような奥深さを感じる瞳だ。
「違う・・・・レイニーじゃない
お前は・・・お前は・・・誰なんだ」
そういってニヤリと笑う。
と、同時にレイニーの反応が急激に高まる。
先程感じた強さをも軽く凌駕する反応だ。
皮膚がヒリつく感覚。
圧倒的な力を感じる。
これは魔王レベルか?
いや・・・・そこまでじゃない。
流石にあの絶望的なまでの圧力は感じない。
くそ・・・・一体何なんだ?
何が起こっていやがる。
「いやぁ抑えつけるのも面倒だったんだ
これで幾分楽になったぜ」
そんな気軽さで言ってくるも
魔王には及ばなくても俺よりは相当に格上だ。
俺は臨戦態勢に入る。
剣を抜き構える。
スキルも全開で闘気も纏う。
高揚感が湧きあがってくるハズなのに
本能的に相手を恐れているのか
高揚感すら湧かない。
「誰なん・・・・だ?」
やっとの事で絞り出した声は相手に届いたようだ。
にっこりとほほ笑みながら正体を告げる。
「あぁ、俺はこの国の主である
アミス・ロデアっつう者だ
俗に言う勇者って奴だな」
そう・・・・薄々そうじゃないかとは思っていたが
予想通りの展開だ。
俺は世界神の加護を持つ残された1人。
勇者に出会った。
ついに勇者に出会いました。




