4-29
来週前半の更新が出来なそうなので
土曜更新してみました。
雄1匹旅立ちの森山実留です。
旅立ちには様々な問題があります。
最初は産んでくれた者(母犬)との殺し合いでした。
次は生まれた体(骨)とのお別れでした。
最後は生まれた場所(魔王領)からの追い出しでした。
碌な事がありません。
それでも前に進まないと行けないのです!
出発を数日後に控えた昼間。
オス君とメス子と戦う事となった。
母犬は多分心配なんだと思う。
俺がやって行けるかを。
まぁ前回はバッチリ死んでるけどね。
目の前にオス君とメス子に意識を集中する。
さて同時に相手取る事が可能なんだろうか?
以前よりも大幅に身体能力は上がってはいるが
それでもまだまだ向こうの方が上で
単純な力だけなら勝ち目はない。
オス君とメス子の連携は元々高レベルだ。
更にここでの訓練により精度が向上している。
魔法も甘い部分が多いが以前のような大雑把な感じではない。
いやいや、これ普通は勝ち目無いって・・・。
「3人共、準備は良いか?
武器は使えぬが全力を出し悔いのないようにな」
「兄上、出て行かれるのは残念ですが
ここを任せても大丈夫という事を教えてあげましょう」
「大兄様、寂しくなりますが強くなった私の
全てを受け取って貰います」
「あぁ、俺も全力で行かせて貰う
多少の怪我は覚悟しろよ」
3人共が微笑みを浮かべていた。
これから全力で戦うのにだ。
「では・・・・・・始めっ!」
母犬の合図と共に俺は距離を詰める。
この2人相手に距離を取っては駄目だ。
オス君もこちらに走ってくるのを見ながら
自分の背中に向かって暴風を当てる。
当てると言うのは間違いか。
荒れ狂う風を局所的に集めて体を押し出す魔法。
俺の新しい魔法の"瞬動"だ。
これにより急激な加速を得た体は一気に距離を稼ぐ。
オス君の姿勢が整う前に襲撃する。
俺の急加速に驚いたオス君・・・・・だが
直前になって大きく横跳びをする。
なんだ?と思う間もない。
目の前から炎の塊が飛んできたからだ。
これはメス子か?!読まれてた?
「フハハ、兄上は先手を取ってくると思ってましたからな」
誇ったような顔をしたオス君の顔も気に食わないが
それよりも魔法の方が不味い。
咄嗟に風魔法で炎の進行方向を逸らし瞬動で横に回避する。
念の為、薄い水の障壁を作って緩衝する。
水障壁が泡立つ音を聞きながらギリギリで炎を避ける。
やるなぁ2人共・・・・前の俺なら魔法展開が間に合ってなかったぞ。
オス君に"衝風撃"を叩きこむ。
"爆音"をアレンジした魔法で
指向性を持たせた衝撃波を発する新魔法だ。
オス君が吹き飛ぶのを感知しながらメス子に駆け寄る。
魔法を躱されるとは思ってなかったんだろう。
少し驚いたような顔をするが迎撃の構えを取る。
俺はそこに無造作に拳を繰り出す。
今迄の訓練で防御を覚えたメス子は
単純な動きの拳を読み切り受け流そうとする。
俺は黒毛を起動し硬化させメス子に殴り掛かる。
その拳を受け流すメス子。
俺はそのまま流れに身を任せ背中側を取られる。
多分、メス子はニヤっと笑っているだろう。
だがしかしここで更に瞬動で体全体を加速し
鉄山靠っぽい感じにメス子に肩から突撃する。
攻撃体勢に入っていたのかカウンター気味に決まるも
無理矢理なんで威力も足らずメス子は耐える。
っが、それも予想通り。
一歩踏みだし拳をメス子の胸に密着させる。
そのまま全身のバネを使い寸打を撃ちこむ。
「ガハァッ」
大したダメージは通らないが問題なし。
寸打といっても身体能力に任せて
密着してから撃ちこんだだけだしな。
「"まだまだぁ"」
近距離から≪大声≫を発動しつつオス君に牽制で炎の矢を大量に放ち
まだ硬直から抜けていないメス子の腹部に貫手をぶち込む。
もちろん毒粘液も追加するのを忘れない。
メス子なら多少の毒でも大丈夫だろうし
ある程度の強さがないと無効化出来ないってのもある。
指先までしか埋まらなかったがダメージは与えた。
そう思った瞬間に手首を掴まれた。
もちろんメス子にだ。
口の端からは少し血が出ているが顔は笑っている。
「大兄様、捕まえましたわ
さぁ、今です!お兄様」
オス君が炎の矢の弾幕を強引に突破して突っ込んでくる。
所々は焦げているが流石の魔法防御。
俺は逃げようにもメス子にガッチリとホールドされている。
「兄上、覚悟ぉぉぉぉぉぉっ!!」
雄叫びを上げながらオス君が突っ込んでくる。
メス子も更に片腕で俺を引き寄せて逃がさない様にする。
「はは!やるな!
だかな!まだ終わらんよっ!」
範囲内にオス君が入ったのを確認すると魔法を発動する。
「爆音っ!」
限定された範囲内で音が荒れ狂い衝撃波が3人を襲う。
耳を中心に目や粘膜もやられる。
オス君とメス子も大半はレジストしてるようだが
ダメージは通ったようだ。
実際に食らってみるとこれはキツイのだろう。
俺は・・・・・闘気を身に纏い影響を抑えた。
ただ高ぶる心を押えるのが大変だ。
このまま解き放てば最悪2人を殺してしまう。
魔法を耐える一瞬だけ展開したが
高ぶる気持ちは収まらない。
まだまだ完全に制御するのは難しいな。
ふらつくオス君に"炎の爆槍"を連続で撃ちこむ。
これは槍をアレンジしたもので刺さると爆発し
刺さらなくても爆発するという極悪仕様だ。
精密な狙いが出来ないが数で勝負。
こちらへの爆風は空気を遮断し防ぐ。
叫びながら吹き飛んでいったが死にはしないだろ・・・・多分。
間髪入れずにメス子を全力で蹴り飛ばしオス君と更に引き離す。
あくまでも連携は絶対に阻止する方向だ。
吹き飛んだメス子に追撃で更に"爆音"をお見舞いする。
もう死ななきゃ良いレベルで追い込む事にしよう。
耳と鼻から血を流し目も真っ赤になっているメス子の
腹部に更に追撃する。
先程の傷口を押し開くように限界まで強化した黒毛蹴をぶち込む。
更に吹き飛んだメス子に"炎球"を連続で放つ。
ここまでやれば大丈夫だろう。
オス君に意識を向けると傷だらけになりながらも
こちらに向かってきている。
ナイス闘志だっ!
闘志には敬意で応じなければならない。
俺もオス君に向けてダッシュする。
歩数にして10歩程で激突するだろう。
接近しながら俺は水を玉状にし連続で射出する。
同じ攻撃を食らってもメス子よりオス君の方が無事だ。
オス君の方が身体能力は高いのだろう。
それは本人も理解しているらしく
腕を体の前でクロスし突っ込んでくる。
多少の被弾は気にしないと言わんばかりだ。
それは俺相手には愚策だぞオス君。
水球の中身は粘液だ。
しかもすっごいヌルヌルの奴だ。
もちろんバランスを崩したオス君は転んだ
勢いのままに俺に向かってくる。
そこに≪カウンター≫と≪重撃≫で蹴りをお見舞いする。
ボキバキボキャブキャと何かがポキポキする音が
伝わってくるが気にせずに蹴りぬく。
色々な場所が変な方向に曲がったまま飛んで行くオス君。
地面に激突し勢いが無くなると・・・・立ち上がってきた。
「ぐ・・・ふふ・・・・
兄上・・・まだ・・・終わっ・・「爆音っ!」」
容赦なく魔法を叩きこみ追撃する。
メス子もピクピクしていたので両方に炎球を御馳走だ。
そこまでしても2人は立ち上がってきた。
オス君は右手と左足が折れている。
メス子は腹部から結構な血を流している。
そして2人共に全身が焦げ各所から血を流すも
戦意は消えていないようだ。
ギラギラした目で俺を見てくる。
「ぐふぅはは、兄上・・・・流石ですな
こうも手も足も・・・出ないとは」
「ええ・・・大兄様・・・・カハッ・・・
でも・・・まだ・・・・終わり・・・ません・・わ」
「あぁ、魔法でボロボロにするのも飽きたな
2人で同時に掛ってこいや!」
≪挑発≫を発動すると2人が同時に駆け寄ってくる。
オス君なんて片足が壊れてるのに何てスピードだよ。
そこからは2対1で目まぐるしい攻防が始まった。
ボロボロの状態で今の俺とどっこいの速度なんだから
最上位種の名は伊達じゃないな。
俺は今迄に培ってきた防御技術で躱し逸らし受ける。
小刻みに≪カウンター≫を入れてダメージを蓄積させていく。
流石に2人同時なのでこっちも被弾すると
元々の能力の差で結構辛い。
それでも無理矢理にスキルと魔法で修復し
身体能力を底上げして戦う。
最後の方は笑いながら殴り合っていたが
最終的に立っていたのは俺だ。
膝が今にも落ちそうだし魔力も体力もギリギリだ。
これは単純にスキル等の差だろうな。
逆を言えば素の状態でそこまで行けた2人が凄いのか。
「ぐはは・・・・兄上には・・・・勝てないですな」
大の字になってゼイゼイと息をしている
オス君が清々しい笑顔で満足そうに言う。
「ほん・・・と・・・大兄様は・・・凄いです・・・わ」
腹部の治療をされながらもメス子も満足そうだ。
最後の魔力を治療に使ったので
俺も尻からドタッと落ちて肩で息をする。
「お前達も頑張ったな
正直駄目かと思ったよ」
「はは、何を言います
兄上はまだまだ奥の手があるのでしょう」
「いや、そんなもんはないぞ・・・
少なくとも2人に使えそうなのはな」
「うふふ、大兄様・・・優しいのですね」
全員がボロボロになりながらも
笑いあって戦う事が出来た。
母犬も満足そうな顔をしているので
これで旅立ちの試験は終了したかな。
まぁ何だかんだと言ってもこれは俺の勝ちだろう。
「うしっ!完勝っ!」
俺は清々しい顔でアリスにサムズアップをするが
アリスは苦々しい顔でペチペチと拍手していた。
ん?何か間違えたか?
あれか笑い合って殴り合ったのが駄目だったのかな?
兄妹で殴り合ってから1週間が経ち旅立ちの日になった。
装備品と準備をしっかりとし親子と衛子と弟子夫に
伝えれるだけの事は伝えた。
戦馬鹿も泣いて喜ぶ位にボロボロにしてやったので
体が覚えている限り今よりももっと強くなるだろう。
皆が付いて来たがったが冒険者の問題を何とかしない限りは
まだ戦力が足りて無いので何とか説得した。
オス君、メス子、母犬は今まで通りだ。
俺が教えた事を修練していけば周囲で
敵う者は居ないレベルになるはずだ。
そしてラースは・・・・一緒に行く事になった。
目的の一つにラースの母親の事をギルドに報告に行くと
言ったら同行するときかなかった。
それにコボルド種の住処に
ずっと居るのもちょっと可哀想だったし。
魔法の扱いは上手くなり以前よりも強くなった。
笑顔も少しは出るようになったし
たどたどしい話し方もチョッピリは良くなった。
いずれラースも独り立ちする事があるのだろうか?
そんな思いを抱えながら俺とアリスとラースは
母犬からの2度目の旅立ちをした。
いよいよ旅立ちです。




