4-22
週2回程度は更新して行きたい所存です。
元母親に遭遇した森山実留です。
いや複雑な家庭環境とかではなく実際に元母親なんです。
もちろん血は繋がってませんよ。
以前は繋がってましたが今は違います。
いや、本当に複雑な家庭環境じゃないんです。
父親は血がつながってるとか継母とかじゃないんです!
「母犬にオスにメスじゃんっ!」
思わず口から出てしまった。
その一言が場をざわつかせる。
「おい、貴様・・・・我らを呼び捨てるとは
どう言った了見だ・・・・」
オス君から明らかな怒気が発せられる。
やべぇ、弟に殺される。
それが明確なイメージを持ってしまうぐらいに
強烈なプレッシャーが圧し掛かる。
「まぁまぁ、兄様落ち着いてください
我々の名前を呼ばれただけではないですか
そんなに怒る程の事ではありませんよ」
おぉ、メス子は冷静だ。
こっちは話が出来そうだ。
「それでも母様の名前を気安く呼んだのは許せませんね
事と場合によってはこの場で殺しましょう」
駄目だぁぁぁ。
こいつも切れてんじゃねぇかぁぁぁ。
表に出してないだけで凍てつくような殺気が駄々漏れだ。
熱過ぎる怒気と凍てつく殺気。
この兄妹は何なんだよっ!
おっかねーよ。
「ミノル・・・お前は何て失礼な事を・・・・」
教官が驚きの顔で俺を見る。
引きつった表情で固まったままだ。
「む・・・・・・むぅ・・・・」
1号さんは余りの事に何も出来ないでいる。
名前を叫んだだけで何で此処までなの?
「貴様もたかが集落の出身で名を持つようだが
我らの名は偉大な兄上から頂いた尊いモノだ
それを母上の前で呼び捨てるとは・・・・やはり許せん」
「そうですわね・・・・
我々の名は尊き名・・・・
やはり殺しますか」
オス君とメス子がギラギラした目で一歩を
踏み出そうとした時に母犬が声を発した。
「まぁ、待て・・・・・その者よ
近くに来るが良い」
そう母犬は静かに告げた。
一瞬の間が開いた後に猛烈に兄弟が反対する。
「母上っ!何を言っているんですか
こんな素性も分らぬ者を近寄らせるなんて!」
「そうですわ
精々、1集落で成り上がっただけの者です
そこまでする必要はありませんわ」
母犬の予想外の一言に更に激昂する兄妹。
俺、このまま殺されるんじゃねって勢いだ。
「少し静かにしろ」
一言で場が静まる。
それでいて冷やかな空気にはならない。
何だか不思議な声だ。
魅了する声と言っても良いかもしれない。
これがカリスマって奴か。
そういや"クイーン"とかなってたな。
領主ならオス君の"ロード"なんじゃね?
ここらも謎だな。
くっそー、前からステータスが視れてたらなぁ。
転生時に神に聞く事も出来たのに。
またはハレンさん辺りなら詳しそうだ。
鑑定スキル持ちの人とかでも良いけど。
「どうした?近くに来い」
おっと考え事をしてボーっとしてたようだ。
兄妹が俺を見つめてくる目が怖いが1歩を踏み出す。
向けられる威圧感が半端ないが母犬を信じて更に1歩。
1歩毎に濃密になる威圧感に耐えながら
俺は母犬から数歩の所まで辿り着いた。
兄妹の目は俺が少しでも変な事をやれば
即座に攻撃するぞと言わんばかりだ。
無言で俺を見つめてくる母犬。
無言で俺を睨みつけてくる兄妹。
後ろでは教官と1号さんがオロオロしてるのが分る。
どれ位、母犬と見つめ合っただろうか。
数秒か数分か・・・・。
ふと母犬の表情が少しだけ和らいだ。
「妖精はもう居ないのか?」
俺の体に衝撃が走った。
「今・・・・なんと・・・?」
「以前に紹介してくれた妖精はもう居ないのか?」
「は・・・・え?・・・・えぇ?」
「何を驚いている
お前は我が息子のミノルだろう」
母犬がいきなりの問題発言をぶっ放した。
兄妹が慌てだす。
「母上!何を!何を言っているんですか!
この者が兄上のハズがありません
兄上はこんな下位種のままな訳が!
それに臭いが!臭いが違います」
「そうですわ!
それにこの締りのない顔や立ち振る舞い!
大兄様はもっと気品のある気高い方です
こんな臭いじゃありませんでした」
おいおい、どんだけ美化してんだよ。
元々そんな感じじゃないだろ?!
それにハイコボルドで下位種ってお前らはどんだけ上なんだよ。
それに臭いって・・・・・臭いって・・・・。
情報を確認したいが今はそれ所じゃない。
『アリス、母犬って俺の事認識してるのか?』
『どうやらそのようです』
『そして兄弟がすげぇ怒ってるんだけどっ!』
『どうやら偽物だと思ってるようですよ』
兄妹は母犬を問い詰めるかの勢いだ。
おいおい、大事な大事な母様じゃなかったのか?
『そりゃまぁ、向こうからしたら
尊敬する兄貴がひょっこりと自分よりも弱い種で
出てきたら偽物だと思うだろうさ
それに臭いって言うけどさ・・・・
魂は一緒でも肉体は違うからそりゃ違うしなぁ』
『それで・・・どうするんです?
なんか母犬さんは堂々と何言ってるんだ?みたいな顔してますが
あの兄弟の戸惑いが怒りに変わったら・・・』
『おう、サクッと殺されそうだな
フフフ、だがなアリス君・・・俺には秘策があるっ!』
『おぉ、なんと頼もしい言葉!
それはどのような手ですか?』
『ふははは
俺にはこんな時の為のスキルがあるじゃないかっ!
そう≪転生強制認識(任意)≫がね』
『今の今まで忘れてましたよね?』
『・・・・・はい
だって・・・使う機会無かったんですよ・・・』
『そうですか・・・良いんですか?
早く使わないで?』
『ん?なんで?』
『え?だって兄妹さん達が既にこっちに怒りを向けてますよ』
『え?』
アリスとの会話に夢中で気が付かなかったが
オス君は剣を抜きメス子は槍を構えて俺に向けていた。
「ちょっまてよ!」
そんなセリフを言ってしまう程に事態は急を要している。
今にも切り掛って来る気満々の目だ。
そんなに酷い事を俺はしたのだろうか・・・。
「さて、兄上の名を騙る不届き者よ
死んで詫びるが良い」
「そうですわ
さっさと死んで頂けると助かります」
「ちょ、こえーよ
何でいきなり死ぬとかの話になってんのさ
それに俺が自分で兄だって言った事ないしっ!」
俺もテンパり過ぎて敬語もへったくれもない口調に
なりながらも時間稼ぎをしスキルを使うタイミングを伺う。
母犬は何も言わずに静かに俺を見つめている。
あれは俺が何とかするって信頼の証なのだろうか?
見守ってないでこの兄妹を止めてよ!
ジリジリと寄ってきた兄妹が数歩の所まで近寄った。
もう攻撃の間合いだ。
「さて、最後の言葉を聞いてやりたいが
まぁ兄上の名を騙る愚か者の最後なんぞ
どうでも良いな」
そういってオス君は剣を振りかぶり
後ろではメス子も俺を逃がさない様に
フォローに入る動きだ。
おおう、こんな時まで良い連携だ。
だがしかし俺は殺されるわけにはいかないんだ。
俺は右手を差し出し2人に向かって叫ぶ。
「≪転生強制認識(任意)≫発動っ!」
む?何も起こらない。
だが攻撃されてもいない。
兄妹を見るとキョトンとした顔でこちらを見てる。
そしてふと我に返ったようになると・・・・。
「兄上っ!」
「兄様っ!」
急に態度が変わり武器を捨てて抱きついて来た。
もちろん2人は俺よりも上位種で力も強い。
結果として俺は吹き飛び2人の下敷きになる。
思いっきり抱きしめられ窒息するかもと危機を感じていると
母犬がうっすらと微笑んでいるのが見えた。
うむ、いつも見透かされている気がするなぁ。
兄妹が俺を兄と認識してくれたので
そこからは話が早くなった。
どうも強制認識を行うと都合よく認識してくれるようだ。
余計な言い訳をしなくて良いのが素晴らしい。
流石は神様謹製スキル。
ただ、掛けられた方に問題が出ないかは不明だが
そこらへんは抜かりないんだろうなきっと。
ただ、教官への説明は難航したが
最終的には生まれ変わりだと言う事を納得してもらった。
警備さん達は適当に誤魔化した。
「そうか・・・領主様の息子であられるか
それならば強いのも当たり前ですな」
教官が謎の言葉使いになったので慌てて止めて貰った。
俺は教官と離れて別室に通されてオス君と話している。
教官は説明の為にメス子と話しをしているようだ。
母犬は領主の仕事に戻った。
「それで兄上は何故にハイコボルドで?
もっと上位種だと思ってましたが」
「いや、だから生まれ変わったばかりなんだよね
お前の方が凄いじゃん」
「そうでしたな
でも兄上ならきっと直ぐに追い抜いて行きますよ」
「そうかな?
だって数年でそこまで行ったんだろ?」
「えぇ、母上とメス子と共に兄上の教えを守り
狩って食べる日々を過ごしていたら辿り着きました」
ふむ、そんなもんか?
進化ってそんなに頻繁にあるものなの?
先程は確認出来なかった種族やスキルを確認する。
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≪デュークコボルド≫
コボルド種の最上位クラスに位置する種族の一つ。
強靭な体と武器を使いこなす器用さと
魔法を操る高い知性を併せ持つ。
単体でオーガを凌駕する戦闘力。
近年では余りの能力値にコボルド種とは
別系統なのでは?とも言われている。
個体数は余り確認されていない。
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なにこれ?
超強いんですけど・・・・。
俺じゃ勝てなくね?
つうかハイコボルドから何段階上なんだよ。
まだ上があるようだけど。
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≪知恵を授かりし者≫
説明:想像出来るという事は知識があるという事
知識がなければ想像も出来ない
異世界の知恵を授かりし者の証
効果:思考力、成長力にプラス補正
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なにコレ?
すげーじゃんっ!
もう一度言おう!
なにコレ?!
このスキルのお陰で成長力がUPしたこその進化なのかね。
うむん?
でもコレって俺が犬時代にアレコレ教えた事が
元になってるんでしょ?
・・・・・俺じゃ手に入らなくね?
弟を喰うわけにもいかんしなぁ・・・・。
喰っても手に入るかわからないようなスキルだし。
色々と聞くと元の住処は大型の魔獣に
襲われて廃棄したそうだ。
その後は3人で定住を作らずに獲物を狩る旅を
続けてコボルド種に進化したらしい。
何時の間にか森で拾ったコボルド達を引き連れる事になり。
ここに居を構える事になった。
すっごく簡単に纏めるとこんなだ。
ふむ色々と突っ込みたい所とか
詳しく聞きたい所ではあるが・・・・一つだけ気になる所がある。
「なぁ・・・この森ってさ名前なんて言うの?」
「以前に会った行商の者はセイスの森と呼んでいましたが」
「そっかぁ・・・・以前の森じゃないのか・・・・」
以前の森なら実里まで近かったのになぁ。
「いや以前の森とは違いますが
地続きで続いている森です
途中に多少の自然が減る場所もありますが」
「ん?どういうこと?」
「ここは国が違います」
「あぁ、成程ね
国が違うから名称も違うのか
それで多少の緑が疎らの部分があるが
概ね森としては繋がっていると」
「そうなります」
「ここは何て国なの?」
「グリンバーグと呼ばれる国です」
「ふーん、グリンバーグねぇ・・・・
な、なんだってーーーー」
どうやら勇者の国に転生してたようです。
実留君の小物臭が強くなってきたのは何故なんでしょうか・・・。
兄妹達に大きく差をつけられてしまったからなのか。




