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赤の記憶

作者: 放映

普通の人間は生まれてからある程度たった頃、もうすでに好きな色が決まっているのではないだろうか。

現に私の弟は生まれて程なく黄色を好きになっていたことを私ははっきりと記憶している。

おそらくそのきっかけは常に弟のそばに置かれていたひよこのおもちゃが原因であろう。

しかし当の私は小学校に入学しある出来事に遭遇するまで好きな色が存在していなかった、

ここではその出来事についての話をしようと思う。

東京の端にある私の通っていた小学校は全校生徒が四百人、三十人で構成されるクラスが一学年に二つの都内にしては小規模な学校であった。

私はさほど積極的な人間ではなかったが、気の合う友人たちとのそれなりに楽しく日々を送っていた。

だが、私のクラスにはひとつ大きな問題があったそれは学級崩壊である。

一部の生徒の問題行動のために、後に聞いた話によれば私のクラスは二十年に一度の荒れたクラスと呼ばれていたらしい。

そのような背景もあり、そのまま公立の中学に上がるよりも私立の中学に行ったほうが良い、と言われた私は中学受験用の塾に通うこととなった。

 その塾は千葉県にあり、私の家から電車で十分ほどと通いやすい距離に位置していた。

距離が近いためか小学校の同級生も一人もその塾に通っており、塾側の計らいによりで同じクラスに入れてもらえることとなった。

その同級生とは女の子であり小学校では、私と同じようにあまり積極的ではなく目立つタイプの生徒では無かった、やはり私立の中学を受験するための塾に来ているのも私と同じような理由だったのであろう。

しかし、塾での彼女は、小学校での目立たない印象とは異なり生き生きとしたクラスの中心的な存在であった。

もちろん中学受験をするような小学生を集めた塾なので小学校のように問題児の多い環境ではない、という理由もあっただろうが私にとってその変化は驚くべきことであったと同時に彼女に興味を持つきっかけとなった。

 塾で彼女と一緒にいる時間が増えると共に、学校でも私と彼女の話す時間はしだいに増えていった。

今まで気づいていなかったことが意識して見てみるとどうしても気になるようになり、彼女の好んできている赤い服が、彼女の白い肌とよく似合っているとその時初めて思った。

そんなある日小学校の図画工作の時間に自分の好きな色を用いて、家の模型を塗るという授業が行われこととなった。

私はこのような色の指定がない絵や工作の場合適当に青や水色といった、いわゆる男の子の好む色(と私の学校では言われていた)を使い適当に作品を仕上げることが多かったと記憶している。

今回も適当な色を使って仕上げようと考えていた時に

「◯◯くんは、どんな色を使って仕上げるの?」

そういつの間にか私の作業机に近づいてきた彼女に聞かれた。

私は無意識的その声に答えてしまっていた。

「今回は赤い色でも使ってみようかな、赤も好きだから」

私はこの言葉を言ってしまった瞬間なぜ自分でもこんな言葉を発してしまったのか分からなかった、今までの自分であったら決して言わなかったであろうその言葉を。

しかし私はその言葉を言ったことを後悔しては居なかった、むしろこの言葉が言えてよかったとすら思った。

遂に私にとっての好きな色ができたのだから。

 私は彼女と過ごす日々が楽しかった、それはやはり私が彼女のことを好いていたからであろう、しかしその日々は卒業の日まで続くことは無かった。

彼女の家はとある有名企業の社宅であった、その企業は経営の不振のために社宅を閉鎖する決定をしたのだ、それと同時に彼女の一家は親戚の家へと引っ越しが決まった。

彼女の最後の登校日私は彼女と口を利くことができなかった。

なぜ彼女は行ってしまうのか?

これから塾ではどうすればよいのか?

そういった疑問が私に彼女と喋ることを躊躇わせたのかもしれない。

 学校が終わり塾の時間も隣に座った彼女とは挨拶程度しかかわさなかった。

そして帰りの電車の中

「◯◯くんどうしたの?」

遂に彼女の方から私に話しかけてきた。

「今日あんまり元気ないよね?」

私はその言葉に答えようと思った、いやむしろこのまま自分の思いを彼女にぶつけようとすら思ったのだ。

「いや、クラスのみんなからお別れの言葉を聞いてきてって聞かれたからさ、いろいろ考えていたんだ。」

結局私はこんな事しか言うことができなかった、彼女は私の問にどう答えていたであろうか。今となってはもう思い出すことはできない。

しかし優しかった彼女らしい言葉だったという事だけは覚えている。

だがそれは私が望んでいたはずの私だけに向けられた優しい言葉では無かったのだ。

そして彼女は別れ際にキーホルダーをくれた、やはりそのキーホルダーの色は赤だった。

これが私に好きな色、そして好きな人ができた出来事の全てである。

あれから七年の年月が流れた、あの日以来私は彼女に会ったことはない。

私はあの時どうするべきだったのだろうか?

あの時何か他のことを行っていれば何かが変わっていたのではないか?

もう今となっては遅いことだが今でも私はあの時のことをよく考える、あの赤いキーホルダーを見つめながら。


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