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♯17

 CDを作ったのだからライブを積極的に入れた方が良い。

それはもっともな考えだったけれど、僕らはあえて次のライブまで時間を置くことにしていた。

十月は曲作りに力を入れ、そして十一月初めに聴いてくれた人達の反応を見ようと、そう決めていた。 そしてその間、曲を聴いてくれた人達の興味を逸らさないようにと、マスターの力を借り、今まであった簡単なほとんど名ばかりのホームページにも大きく手を加えた。   

 曲の試聴やライブ映像の視聴、聴いてくれた人達がコメントを書き残せる掲示板。生まれ変わったホームページは僕らのことを実際以上にアピールした。

 お陰で日を追うごとに掲示板に書き込みが増え、それに伴ってアクセス数も上昇した。

 僕らは書き込まれたメッセージ一つ一つに返信した。

 ライブ活動もこういったホームページの作成も同じPR活動。音と真剣に向き合うのと同じように、パソコンの画面を睨み、キーボードを叩いた。

 

 投稿者――S.M

 『夢の中でも聴いています。素敵な曲をありがとう!」 


 すぐに世羅からの書き込みだとわかった。

 返事を書き込もうとしたところ、すでに他のメンバーが返信をしていた。

 

 Re: 

 投稿者――さとし

 『S.Mさんへ。僕も夢の中であなたのスウィートな声を聞いています。Thanks!』


 ……。

 

 ………。


 悟史らしいメッセージだった。

 これを見た世羅が一人で笑っている姿が目に浮かんだ。

 僕はそんな世羅の姿を想像し、パソコンの前で一人笑った。


 ライブは予定通り十一月の初めの土曜日に入れた。

 マスターに頼んだところ、「ちょうどイベントがあるからそこに出ると良いよ。若い子達のイベントだから」と、あっさりと決まった。

 ライブが決まると、回収したアンケート用紙にメールアドレスを書いてくれた人達にライブの日程を書いたメールを送信した。嬉しいことにメールを送信したその日のうちにチケットの予約をしたいというメッセージが掲示板にポツポツと浮かんだ。

 

 CDの売れ行きも順調だった。

 当初掲げた百枚という目標を簡単にクリアーし、更に百枚追加した。

 僕はまたひたすらCD―Rに音を焼き続けた。

 そして作り続けている曲の中の三曲が新曲として仕上がった。

 アレンジされた曲は、僕が想像していた出来とは全く違っていた。

 僕が作った原曲からは考えられないほどクールでスタイリッシュな曲に変わった。

 

 前進している。

 

 そんな感覚があった。

 

 一日一歩かどうかはわからないけれど、夢までの距離が少し縮まったような気がした。

 

 「この感じならまたすぐにでもCD作れちゃうね。今度はさ、アルバムにしない? 十曲入りとかの」

 

 「んじゃあよ、限定版とか作っちまおうぜ。ステッカーとか入れてよ」

 

 「いや、もっと嬉しいものにしようよ。例えば、CDの最後に僕らからの愛のメッセージが入ってるとか、そういう感じの」

 

 「俺だったら、最後にそんなの入ってたら速攻で捨てちまうけどな。お前、女ばかりが相手じゃねえだろ。男だっているだろ。アイドルじゃねえんだからよ」

 

 「そうだね~。学がいたら僕らアイドルになれないね」

 

 「てめえ……」

 

 リズム隊のやりとりはやっぱりコミカルで、そしてそうと知っていても僕と祐介はやっぱり笑ってしまった。

 僕らは僕らのままだった。

 このままずっとこんな僕らのままなんだろうな。

 そう思うと、可笑しくて笑わずにはいられなかった。

 僕はまた笑った。


 


 「確かに学君はアイドルって感じじゃないよね。うん。目つきは鋭いし、体格はがっしりしてるしね。爽やかって印象は受けないよね」

 

 夢の中のベンチは現実のベンチよりもゆっくりとくつろぐことが出来た。

 最近は座っているだけでも大変だった。

 日増しに風は冷たくなり、カイロ代わりにホットコーヒーを手で転がしながら僕らは話しをしていた。

 その点、夢は有り難い。

 目の前には真っ青な夏空が広がっている。

 僕らはこののんびりとした時の中で平和に話しをしていた。

 珍しく世羅は何も壊していなかった。

 登場も至って普通だった。気付いたら僕の隣に座っていた。

 こんなときもたまにはなくては困る。

 体のためにも、心のためにも。

 

 「そんな遠回しに言わなくても大丈夫だよ。不良っぽいって感じでしょ?」

 

 「まあね。そんな感じかな?」  

 

 「学は今ではあんな感じだけど、ライブに来る中学の友達とか見ると、ああ、やっぱりね、って思うよ。みんな気合い入ってる感じだから」

 

 「うん、わかるよ。初めてライブ見に行ったときに学君が金髪のツンツン頭の人と話してるの見たから」

 

 「そうそうそうそう。そんな感じのね」

 

 「うんうん」

 世羅は頷いた。

 

 「それでね、学はいつも」「あのね、話しの途中なんだけど」

 

 僕らの言葉は重なった。


 「…あっ、うん? なに?」


 「ああ、えっ。かぶっちゃったね」


 「良いよ、世羅から。どうぞ」

 僕は世羅に向けて掌を広げた。


 「それじゃ、いい? 真樹君にどうしても聞いてもらいたいことがあって。ごめんね。話しの途中だったのに」


 「良いよ。聞くよ」


 「それじゃ……」 


 世羅はそう言うと、ベンチから立ち上がり、自動販売機の方へと歩き出した。

 スタスタと迷いのない足取りだった。

 そして自動販売機の前で足を止めると、振り返り大声で叫ぶように言った。


 「学校が決まったの~~っ!」


 ガシャアアァァン!


 声と同時に自動販売機が弾き飛んだ。


 ハイパワーな右ストレートだった。


 「今度はね、今よりもすごくうるさい学校なんだって。規則もたくさんあって。でもね、良い学校なんだって」


 ガッッシャアアン!


 隣のもう一台の自動販売機も破壊された。


 「はああぁ。なにが良い学校よ! まったく!」


 ………。

 

 聞くよ、と言った自分の発言には間違いがあった……。

 見ててあげるよ、この言葉が正解だった…。

 世羅は最後に鉄のゴミ箱を蹴り飛ばすと、また僕の隣に腰を下ろした。

 

 「ごめんねっ! このことが胸に溜まってて。すぐに話したかったんだけど、夢が始まって早々こんなことしちゃうのも良くないと思って。でも、ああぁ、すっきりした~!」

 

 両腕を伸ばし、世羅は思い切り伸びをした。


 「………」


 「ん?」


 「あっ、いや……」


 「なに?」


 「お疲れ様です…」

 僕は胸の前で拳と拳を合わせ、世羅に向かって礼をした。


 「なにそ――――」


 景色が歪み、色が抜けていった。


 「も――なん――――終わっちゃ――」

 

 平和そうな背景を舞台にした激しい夢だった。

 結局はいつも通りのそんな夢だった。 

 

 

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