激 -War- 7
「奏楽様は、戦闘には参加してはならないのです。
まぁ、ご自身の能力の限界も知りませんしね。」
その後、朱雀は笑いながら言った。
「能力の制御を見誤ってしまえば、この地球ごと消えてなくなってしまいますからね。」
-------------------------
キースを見つめていた朱雀が、戒に向けて話す。
「このままでは、二人とも殺られます。」
「!!」
「リミッターを解除した彼を、先ほどまでと同じと思わないほうがいい。
彼ら《悪魔》が抑制している理由は、その強大な力のせいで、自我の精神を長く保つことができないからです。」
「自我の精神…。」
『そういうコト。だから長くは遊べないんだよねぇ。
素直に殺られてくれると助かるんだけど?』
キースは構えた剣を戒と朱雀に向ける。
「クッ!」
戒は、キースに向けて構えなおす。
「戒。あなたは、奏楽様の元へ。」
「!! 朱雀!!」
「ここで二人が犬死してしまっては何の意味もありません。」
先ほどからキースの一挙一動に苛立ちを表に出してしまう戒。
対照的に、朱雀はとても落ち着いた声で話す。
「お前が言ったんだろう!!目の前には、本気の奏楽がいると思えって!」
「だからです!!!」
朱雀は大きな声を上げる。
「!!」
「だから私も本気で殺らなければ、こちらが殺られてしまうと言っているんです。」
朱雀は左肩を押さえながら立ち上がる。
「戒…いつものあなたに戻ってください。今日のあなたは、己に負けている。」
「…。」
戒は黙ったまま何も答えない。
朱雀は大きく息を吐くと、
「このまま本気で戦えば、あなたが居ては巻き込んでしまいかねない。
そこまで気が配れるほど、今の私に余裕はない。わかりますね?」
戒は、キースに剣を向けたまま、背中に居る朱雀へ問いかけた。
「…勝算は?」
「そうですね…八割…。片腕、失くしてしまいましたからね。」
朱雀はすこし微笑みながら答える。
しばらく考え込んだ戒は、剣を下ろし朱雀へ振り返る。
「アイツ相手に八割か…。悪い数字でもないね。」
ふっと口角を上げる戒。
「いつもの…僕ねぇ…。確かに…ちょっと焦りすぎた。」
戒もまた、自嘲気味に笑い朱雀を見つめる。
「今の、戒の判断では…どうですか?」
朱雀は戒を見つめなおす。
戒は振り返り、再びキースを睨む。
朱雀も戒の隣に立ち、キースを見る。
「同感だね…。八割なら問題なしクリア。
ただ…。」
戒は、焼きただれた朱雀の左肩に手を伸ばす。
「クッ…!!」
触れられた痛みに、朱雀は顔を歪める。
「コイツは俺の責任だ。残るなら、俺が残る。」
「戒ッ!!!…何を!!?」
戒は、朱雀の言葉を制するように続ける。
「朱雀が言ったんだろう。いつもの僕に戻るように。」
「戒…。」
朱雀は黙って戒を見つめる。
「焦ってたのは事実だけど、この腕見てたら逆に戻ってきたよ。
無茶するのは、真の役目。フォローするのは、僕の役目。」
戒は、朱雀の腕を見つめながら顔を歪ます。
「だったはずなのに、相手にのまれすぎて…。
僕は何をしていたんだか…こんなやり方でないと、僕を止められなかったんだよね…。」
「戒! それは違う!!」
「いいんだ。だから…ここは僕が引き受ける。」
戒は朱雀へ微笑みかけ、
「ってか、そのくらいやらせてもらえないと、また真に怒鳴られるし。
そらちゃんにも顔見せできないしね。
で、何よりこのままじゃ僕の気がすまない。」
「戒…。」
戒は、自身の腰に巻かれていた腰布をはずすと、朱雀の焼けた肩へ宛がい巻きつける。
「この腕で八割なら、僕で十分カタはつく。それより、さっきのアイツの言葉。」
「言葉…?」
巻き終えた戒が、再びキースへと視線を移す。
「アイツは、これをゲームだと言いやがった。
そらちゃんを連れ帰るのがゲームのラストミッションか?
だったらこんなところで僕たちと、こんなにゆっくり遊ぶはずがない。」
「!! まさか!!」
「恐らく、アイツの目的はそらちゃんを連れ帰ることじゃない。
だとしたら、アイツ以外にもそらちゃんを連れに来ているヤツがいるはずだ。」
その時、キースの口元は微かに微笑みを浮かべていた。