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逢 -Meets- 4

そして―――三日後。


ラウレストは、こうして袴田の元を訪れていた。





「要件は何だ。」


ラウレストは、袴田を睨み付ける。


「まぁそう焦るな。先日は、うちの秘書が失礼をしたね。

代わりに私が詫びよう。許してくれたまえ。」


袴田は差し出していた右手をスッと下げると、自身の席へ戻る。

有動がごく自然に椅子を引くと、その椅子に腰を下ろした。


ラウレストはその様子を静かに見ている。


「だが、私も忙しいものでね。

焦るなと言いながら、じっくり説明してあげる時間もないのだよ。」


置いていた葉巻を手に取り、一服する。


「君に尋ねたいことが二つある。」


袴田が鋭い眼差しをラウレストへ向ける。




「君は本当に秋月の契約者なのか?」




ラウレストは黙ったまま、袴田を見据える。


「契約主と契約者の関係は、各々の能力に比例する。

うちの秘書はね、SSCを契約者としているんだが…。

君もSSCなのだろう?コレと、あの秋月が同程度の能力をもっているとは考えがたくてね。」


袴田が有動を見上げる。


有動も、袴田と視線を合わすように振り返り、少し首を捻る。


「…。」


ラウレストは何も答えない。


袴田は葉巻を灰皿へ押し付けながら、ラウレストへ向き直る。


「もちろん、君たちに同じ刻印があることは承知している。

まぁ…歳を取ると、どうも疑り深くてね。」


袴田と有動の視線がラウレストに集中する。


ラウレストは、静かに口を開いた。


「契約主と契約者の能力値が比例するなら、俺とマリアの能力と同等に、秋月とヤツの能力に差があって当然だろう。」


その言葉に、有動が反応する。


「では、あなたはマリアと同じSSCでありながら、マリアには及ばない自覚がある…ということですか?」


皮肉を込めた有動の言葉に、さして動揺することもなくラウレストは答える。


「マリアは、俺がSCに所属していた頃から、すでにSSCとして勤めていた。

それから今まで、マリアの座は入れ替わらない。

それがどういうことか、貴様らにもわかっているだろう。」


有動はおどけたような表情をして、ラウレストをからかう。


「随分あっさり認めるのですね。

しかし、その程度と自覚があるのなら、あなたの力では『姫』を守るナイトにはなれない。

それも、わかっていらっしゃる…と?」


「…。」


ラウレストが有動を睨み付ける。


「おや?何か気に障ることでもありましたか?」


有動は更にラウレストを煽る。


「やめないか、有動。」


ラウレストと有動のやり取りを黙って聞いていた袴田が口を開いた。


「まったく…。」


ため息をつきながら、新たな葉巻に手を伸ばす。


「刻印がある以上、我々がどう言おうと、君たちが契約主者であることに変わりはない。」


「だったら、言いたいことはハッキリ言え。」


ラウレストが袴田を睨む。

だが、袴田は吸い込んだ煙を大きく吐き出す。


「…話を変えよう。」


部屋の中を一瞬の静寂が包む。




「ラウレスト。奏楽と共に、私の元へ来ないか?」




袴田の言葉にラウレストは、目を細めた。


「我々にとって彼女は非常に大切な(・・・)存在だ。」


袴田は言葉を続けながら、葉巻を吹かす。


「君もわかっているとは思うが、彼女は『普通の死神』ではない。」


ピクッ。


ラウレストが袴田の言葉に反応する。


「彼女自身も少しは気づいているようだが、本来の能力はあんなものではない。

秋月の周りにも能力者を集めてはいるようだが…奴らの手には負えんよ。」


吸っていた葉巻を灰皿でつぶしながら、袴田は続ける。


「今の時代だ、彼女のような能力を持つ存在が知れたら、客寄せパンダのごとく物見に使うよりも、己の私利私欲のために利用しようと考える輩の方が多いだろう。」


その瞳は、ラウレストには飢えた獣のようにギラギラと厭らしく映る。


「しかし、彼女はまだ……『覚醒』してはいない。」


袴田は確信があるように断言する。


「我々は…そんな彼女を保護し、しかるべき道を指し示すべく日々研究を続けている。」


袴田は静かに立ち上がる。


「ラウレスト。

お前が、あの死神に特別な感情を抱いていることは知っている。」


袴田はラウレストの隣へ肩を並べるように立つ。


「このまま秋月の元で好きにさせておくつもりか?」


ラウレストの表情が俄かに曇る。


「我々も、君と同じだよ。」


袴田の口が卑しく笑う。


「彼女が……欲しいんだ。」


ラウレストが袴田を掴みかかろうとした瞬間―――


ガシッ!


「!!」


ラウレストの腕を止めたのは有動だった。


「また、先日と同じことを繰り返すおつもりですか?」


握られた腕に更に力がこもる。


「……何度も言わせるな。」


普段のとてもにこやかな有動からは想像もできないほど険しい顔で、ラウレストを睨み付ける。


袴田は、ラウレストから少し離れる。


「お前も同じだろう。

秋月から奪いたい。自分のモノにしたい。」


「くっ!」


ラウレストは有働の腕を振りほどく。


「何をいきり立っている?同じだよ。

掲げてる言葉が違うだけだ。彼女にかけてやる台詞の問題だよ。」


袴田は、はははっと冷やかに笑う。


「大切だと言えば満足か?守りたいと言えば満足か?

必要だと、欲しいと、愛しているとでも言えば満足か?」


袴田は、尚も馬鹿にしたように高らかに声を上げる。


「そんな言葉はただの詭弁だ。

どれも意味は同じだよ。結局は、自分の手元に囲いたいだけ。」


ラウレストは夥しい気配を纏い、袴田を威嚇するように睨む。


「少なくとも、今の彼女から見れば…人間も、悪魔も、死神でさえも同じだよ。」


「!!」


ラウレストには、袴田の言葉を理解できた。

だが、そんな自分が許せない悔しさに、少しだけ身を震わせた。


「まぁ、答えを急いでいるわけではない。ゆっくり考えたまえ。」


袴田の声で、我に返ったラウレストは出口へ向かって歩き出す。

だが、それを呼び止める声。


「待て、ラウレスト。」


有動がラウレストに呼びかける。


「お前…『Lost』するつもりだろう…。」


ドアノブに手をかけ、立ち止まるラウレスト。


有動は続ける。


「我々が研究しているのは、奏楽のことだけではない。

我々と共に来れば、お前はゴブリンに堕ちなくとも『Lost』が可能になる。」


「!?」


二人に背を向けたまま、ラウレストの瞳が見開かれる。

ラウレストは己の耳を疑う。


袴田が口角を少し上げ、ラウレストの背に語りかける。


「そういうことだ。良い返答を期待している…。」


ラウレストは、そのままゆっくりと扉を開けると、無言で部屋を後にした。









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