光 -Treasure- 1
神魔
魔界の支配者であり、すべての悪魔を統べる王。
別名 熾天使。
神に仕えし天使は、試練を与え「妨げる者」。
穏やかに流れていた時間は突如動き出す。
神に牙を剥いた人間と血に飢えた悪魔。
その双方が欲する『力』。
死神として生まれし者。
神魔となる。
「そうですか。お話には応じていただけませんか。」
広間の中心では背広を来た男が3人。
机を挟み向かい合わせで、和服姿の男が2人。
話し合いをしている最中だ。
背広を着た1人の男が、眼鏡を直しながら息交じりにつぶやく。
中央に座る和服姿の男は、袖に両腕を入れたまま向かいの男達を見据え、目を反らすことなくゆっくりと話す。
「我々は、この国のために汚れた仕事は全て背負ってきた。
だが、それは昔の話。我々本来の仕事ではない。
秋月さん。何度もご足労いただき申し訳ないが、お引き取りください。」
背広姿の男達は無言のまま立ち上がり、部屋を出ていく。
秋月と呼ばれた男が扉の前で立ち止まり振り返る。
「我々も、共存できる道を望んでいることをお忘れなく…。
また……来ます。」
「……」
足音が遠ざかったのを確認し、隣に座るもう1人の和服姿の男が口を開いた。
「薫様……。」
薫と呼ばれた男は、机の上に置いてあったキセルに手を伸ばす。
深緑の着物がよく似合い、キセルを吹かす仕草には哀愁が感じられる。
煙を吐きながら、大きなため息をつく。
「フーッ……。
本心では死神という存在を怖れ、疎み、消し去りたいのだろう。
仲間として引き入れることで得たい望が共存…か。」
その男。
神宮 薫。
現・神宮総家当主。
「我らが静かに暮らすことは許されないのかね…。」
手に持ったキセルに手を見つめ、消え入りそうな声でつぶやいた。
《神宮一族》…一族は、『死神』である。
彼ら死神の役割は、天界を統べる神々より命を受け
死を迎えるはずの生物が、魂だけの姿で現世に彷徨うのを防ぐこと。
そして、もう一つ。
悪霊となった魂を埋葬すること。
本来、生物の魂は天界へ昇り初めて「死」として確立される。
その後、神々より審判を下され、それぞれの死後の世界へ旅立っていく。
しかし、何らかの事情で行き場を無くした魂は、時間が経つと悪霊となり他を襲う。
悪霊となってしまった魂は、天界へ昇ることを許されず、消滅するまで彷徨い続けなければならない。
だが自然に消滅するはずもなく、悪霊は人間や動物を襲い、大地を汚し、闇を広げていく。
彷徨う魂を天界へ送ること
悪霊となった魂を埋葬すること
これらが、『死神』本来の仕事だ。
人間達の気づかないところで、この世界を守ってきた。
だが、いつの時代にも裏の顔とは存在するもの。
彼ら死神も例外ではない。
その昔、その力を用いて人間達の世界へ大きく干渉することとなる。
一度激しい争いが起これば、災害や病気など生態系への影響は計り知れない。
人間の醜い感情、悲しい・辛い・憎いなど、負の要因は全て悪霊の力の源となる。
増え続ける悪霊は次第に勢力を増し、対向している死神の数は減少していった。
その状況を打破するため、各地の死神は人間と同盟を結んだ。
死神は各々の力を駆使し、進むべく道を指示してきた。
時代の先駆者と呼ばれた者たちは死神の助言を受け、時代の流れは死神と人間の手により造られていった。
だがそれは、死神側の思想とは異なった。
人間たちは、己の欲望のため死神を利用するようになる。
もちろん死神達も、人間に利用されていることに気づかないほど馬鹿ではない。
時代の流れと共に諸外国との流通が出来あがってくると、各地に降り立っている死神達は一斉にその姿を消した。
だが、死神としての役割が終わったわけではない。
彼らは「死神」としての姿を消し、「人間」としてこの世界に関わっているのだ。
いつの時代も歴史の陰に死神は存在している。
戦争や震災など、一つ大きな事件が起これば彷徨う魂の数も激増する。
その度に、死神達はこの世界を守っている。
神宮一族は、その死神である。
しかし影を潜めて生活をしていても、人間達の中で死神の存在を知る者がいる。
秋月という男のように…
『己の知る死神』を雄姿として語り、世の変革を望もうと。
彼らは再び死神と協同し、国を統治するコトを望んでいるのだ。
現代の死神一族の中で、最も強大な力を持つ『神宮』を利用して…。
「この世は…まだ戦火を望むのか……」
薫は、秋月たちの出て行った扉を睨む。
「先代達の選択とて、誤ってはいなかった…。
だが、人間たちは何度同じ過ちを繰り返したッ……。」
「薫様…。」
薫は煙りを吐きながら立ち上がり、着物の裾を正す。
窓辺に近づくと、夜空を見上げた。
「我々には、住みにくい世の中だ…。」
その瞳は…とても切なく、果てしなく遠いドコかを見つめる……。
「フーッ……まぁ良い。朱雀……奏楽を頼むぞ。
奴らも、『奏楽の存在』に気付き始めているかもしれん…。」
「承知しております。」
「…頼むぞ。」
薫はもう一度、同じ言葉を呟く。
「御意。」
朱雀は深く頭を下げた。
初めまして、柊ちさとと申します。
そしてついに!初投稿!!
始まりました、神魔(SATAN)ですが、皆様いかがでしたでしょうか?
まだ始まったばかりですけど…。
この話は、これから登場人物がかなり増えていく予定です。
ですので、もう少し進んで来たら『人物紹介』的なところも用意しようと思っています。
まだまだ謎だらけのお話ですが、よろしければおつき合いください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。