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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第百十九話 百人の英雄が選んだ贈り物

百人がそろう日、王都の宿はどこも満室になった。

ライアンの誕生日に、子供たちが贈り物を持ち寄るためだ。

以前の誕生日には百通の手紙を贈った。

今度は、手紙に書いた「父さんを一人にしない」

を、どう形にするかが話題になっていた。

ガイアは立派な剣の鞘、マリナは高価な食器、ノアは魔法の灯りを用意していた。

「父さんは喜ぶかな」

セーラは誰にも答えられなかった。

父親は昔から、子供たちが無事に帰ってくることばかり喜んでいたからだ。

集まった贈り物を並べると、部屋が一つ埋まった。

百人がそれぞれ父親を思って選んだ品だ。

だがライアンの家には、もう置く場所がない。

「贈り物のために倉庫を建てる?」

誰かの冗談に、皆が笑った。

しかしマリナは首を振った。

「父さんが困るものを、喜ばせるために渡すのは違うかも」

百人は初めて、贈り物を選び直すことにした。

何を渡すかではなく、父親が明日も笑って暮らせるには何が必要かを考えた。

百人は話し合いを続けた。

高価な品を贈りたい者もいた。

父親の好きな料理を作りたい者もいた。

意見がまとまらず、フィルは台所の机を叩いた。

「父さんが本当に欲しいものを、聞いたことがあるか?」

皆が黙った。

父親はいつも『お前たちが元気ならいい』と答える。

それを本音だと信じていいのか、誰にも分からなかった。

セーラは一つ提案した。

「一日だけ、父さんが何もしなくていい日にしよう」

だがガイアが笑った。

「父さん、絶対に鍋を触るぞ」

マリナは頷いた。

「じゃあ、触りたい時は一緒に作る。休ませるのを命令にしない」

贈り物は、百人が交代で食堂を支える約束に変わった。

掃除、買い物、料理、修理。

大げさな英雄の仕事ではない。

父親が二十年続けてきた日常を、これからは子供たちも分け合う。

誕生日の朝、ライアンは台所へ入って驚いた。

鍋の前にガイアが立ち、セーラが野菜を切り、マリナが食材を数えている。

「今日は俺の仕事を奪う気か?」

「違うよ、父さん」

フィルが笑った。

「一緒にやるんだ」

当番表を作る時、百人はそれぞれの仕事を持っていることを改めて知った。

国境にいる者、遠い村で治療する者、商会を支える者。

全員が毎週集まれるわけではない。

マリナは無理な予定を組まず、参加できる日とできない日を分けた。

「来られない人は、どうする?」

セーラが尋ねると、フィルは答えた。

「来られる時に来ればいい。父さんが俺たちにしてくれたのと同じだよ」

誰かが来られないからといって、家族から外れるわけではない。

ライアンはその会話を台所の入口で聞いていた。

二十年前、百人に平等にパンを分けようとして、腹の減り方まで同じだと思い込んだことがある。

今は子供たちが、互いの事情を聞きながら分け合っている。

誕生日の夜、ライアンは一人で皿を洗おうとした。

するとガイアが隣に立ち、何も言わず布巾を持った。

二人で皿を拭く時間が、ライアンには一番嬉しかった。

マリナは当番表を作り終えたあと、最後にライアンの名前を書いた。

父親にも休みたい日があり、働きたい日がある。

皆と同じように希望を聞くためだ。

ライアンは自分の欄を見て、照れくさそうに笑った。

ライアンは百人の顔を順番に見た。

誰も同じ道を歩んでいない。

それでも今夜、同じ食卓を囲んでいる。

それだけで十分だった。

食卓を片づける時、誰かが「来年もやろう」と言った。

ライアンは首を振りかけて、やめた。

来年も皆が無事で集まれるなら、それ以上の贈り物はないと思った。

贈り物を決める会議で、遠くの村にいる子から手紙が届いた。

『当番には参加できない。

でも父さんが困ったら薬草を送れる』。

マリナはその手紙を皆に読んだ。

百人が同じ形で恩返しをする必要はない。

家族を思う気持ちは、住む場所や仕事によって違う形になる。

ガイアは当番表に余白を作り、できない日は無理に埋めないことにした。

誰かを休ませるための贈り物が、別の誰かを追い詰めてはいけないからだ。

贈り物の当番表には、百人の名前が並んだ。

遠くの町に住む子は毎週来られない。

病人を診る子は急な呼び出しがある。

マリナは最初、均等に割り振ろうとして手を止めた。

公平にすることと、全員へ同じ負担を掛けることは違う。

できる時にできることを持ち寄ればいい。

誕生日の朝、ガイアは野菜を切りすぎ、ノアは魔法で火を強くしすぎた。

セーラが「父さんのやり方を聞こう」と言うと、ライアンは笑って台所へ入った。

「結局、俺が作るのか」

フィルが首を振った。

「教えてくれればいい。俺たちが覚えるから」

ライアンは包丁を受け取り、切り方を一度だけ見せた。

あとは子供たちへ渡した。

夕食の席で、百人は一人ずつ父親へ感謝を伝えようとしたが、十人目でライアンが止めた。

「全部聞いてたら夜が明ける」

皆が笑った。

感謝の言葉は、今日一日で言い尽くさなくていい。

これから何度でも、食卓で伝えればいいのだ。

当番表を決める会議で、一人の子が手を挙げた。

「遠くに住んでいるから、毎月は来られない。俺だけ何もしないみたいで嫌だ」

マリナは表を閉じた。

「無理に来れば、今度はあなたの家族が困るでしょう。遠くにいる人には、遠くでできる仕事がある」

「でも、父さんの顔を見たい」

ライアンはその声を聞いていた。

「会いに来るのを仕事にしなくていい。帰りたいときに帰ってこい」

しばらく沈黙したあと、ガイアが当番表の見出しを書き換えた。

『父さんを支える義務』ではなく、『手伝える人の予定』。

誰かが欠けても責められない仕組みにして、ようやく百人は贈り物を渡すことができた。

贈り物を渡す直前、ガイアは当番表の空欄を指さした。

「ここは誰の担当だ?」

マリナは答えた。

「空欄のまま。父さんが一人で過ごしたい日もあるから」

百人は顔を見合わせ、笑った。

助けたい気持ちが強すぎれば、父親の自由まで奪ってしまう。

ライアンは空欄を見て、「よく分かってるな」

と嬉しそうに言った。

食卓の最後に、ライアンは百人を見回した。

遠くの仕事で来られない子の席には、手紙が置かれている。

全員が同じ日にそろわなくても、気持ちは届く。

ライアンは一通を開き、「今度帰ったら皿を洗います」

と書かれた文字を読んだ。

思わず笑い、手紙を大切に畳んだ。

百人の贈り物は、今日だけの祝いではなく、これから続く約束になった。

誕生日の夕食は、豪華な料理ではなかった。

百人が少しずつ手を出したため、野菜の大きさも味付けも揃っていない。

ガイアが焦がした鍋の底を、フィルがこっそり削っていた。

「父さん、味はどう?」

セーラが尋ねる。

ライアンは一口食べ、真剣な顔をした。

「……少し塩が多いな」

百人が一斉に笑った。

マリナは帳面を開き、来週からの当番表を見せた。

本人の予定も確かめ、手伝いを強制しないこと、急な欠席には代役を決めることが書かれている。

全員が無理なく参加できるよう、遠くに住む者は物資の手配や連絡を担当する。

誰か一人が欠けても続けられる形にした。

ライアンは当番表を見つめた。

「こんなこと、頼んだ覚えはないぞ」

「頼まれなかったから、気づくのが遅れたんだよ」

ガイアが答えた。

食後、百人は贈り物を一つだけ渡した。

古い鍋の取っ手を修理した、小さな木の道具だった。

握ると、手に馴染む。

「まだ俺に料理をさせる気か?」

「もちろん。一緒に作ろう」

ライアンは笑い、目を拭った。

世界最強の軍団が選んだ贈り物は、父親の仕事を奪うことではなかった。

父親が一人で背負わなくていい明日だった。

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