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クラス全員の寿命が見える僕と、残り30日の君

作者: Null Light
掲載日:2026/06/21

もし、大切な人の寿命が見えてしまったら。


これは、そんな少し不思議な力を手に入れた高校生の物語です。


最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

今日から、みんなの頭の上に数字が見えるようになった。


 理由は分からない。


 朝、教室のドアを開けた瞬間からだった。


 白く光る数字が、クラスメイト全員の頭上に浮かんでいる。


 ゲームのステータス画面みたいな数字だった。


 最初は寝不足だと思った。


 目をこすった。


 瞬きをした。


 でも消えない。


 担任の先生の頭上には、


 18342


 前の席の田中には、


 26491


 後ろの席の佐藤には、


 30782


 そして教室の一番後ろ。


 窓際に座る山本の頭上には、


 1


 たったそれだけだった。


「……なんだよ、それ」


 思わず声が漏れた。


 山本はいつも通りだった。


 友達と笑っている。


 元気そうだ。


 病気にも見えない。


 その日は数字の意味が分からないまま終わった。


 翌日。


 山本は学校に来なかった。


 ホームルームが始まる。


 教室は少しざわついていた。


「寝坊かな」


「珍しいな」


 誰かが言った。


 すると担任が教室へ入ってきた。


 顔色が悪い。


 そして静かに告げた。


「残念なお知らせがあります」


 教室が静まり返る。


「山本くんが昨夜、交通事故で亡くなりました」


 誰かが息を呑んだ。


 僕の心臓は大きく跳ねた。


 昨日。


 山本の頭上には。


 1


 が浮かんでいた。


 偶然じゃない。


 あれはきっと。


 寿命だ。


 人が生きられる残り日数なんだ。


 震える手で隣を見る。


 窓際の席。


 葵が何も知らない顔で教科書を開いていた。


 その頭上には。


 30


 という数字が浮かんでいた。


 僕の背筋を冷たいものが走る。


 あと三十日。


 もし僕の考えが正しいなら。


 葵はあと三十日で死ぬ。


 その日から僕は、葵を観察するようになった。


 事故に遭いそうな場所はないか。


 体調は悪くないか。


 危険なことをしていないか。


 毎日気になった。


「最近変だよ」


 ある日の放課後。


 葵が言った。


「ずっとこっち見てる」


「そんなことない」


「あるよ」


 葵は笑った。


 その笑顔を見るたびに苦しくなる。


 残り時間が見えているのは僕だけだ。


 数字は減っていく。


 30。


 29。


 28。


 27。


 そして。


 20。


 10。


 5。


 数字だけが容赦なく減っていった。


 葵は相変わらず元気だった。


 だから余計に怖かった。


 残り三日になった日。


 僕はもう耐えられなくなった。


 放課後の教室。


 夕日が机を赤く染めている。


「葵」


「ん?」


「信じなくていい」


「うん」


「でも聞いてほしい」


 葵は黙って頷いた。


「僕にはみんなの寿命が見える」


 言ってしまった。


 普通なら笑われる。


 でも葵は笑わなかった。


「それで?」


「君の数字が三日なんだ」


 静かな教室。


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて葵は窓の外を見ながら言った。


「そっか」


 それだけだった。


「怖くないの?」


 思わず聞く。


「怖いよ」


 葵は少し笑う。


「でも、本当は明日死ぬかもしれないのって、みんな同じじゃない?」


 言葉が出なかった。


「だからさ」


 葵が立ち上がる。


「残り三日なら、一緒に帰ろうよ」


 その日から。


 僕たちは毎日一緒に過ごした。


 帰り道。


 コンビニのアイス。


 河川敷の夕焼け。


 くだらない会話。


 笑い声。


 数字は減る。


 2。


 1。


 そして。


 0。


 最後の日が来た。


 僕は朝から震えていた。


 でも。


 葵はいつも通り登校した。


 授業を受けた。


 昼休みに笑った。


 放課後になった。


 それでも何も起きない。


 事故も。


 病気も。


 何も。


「……なんで」


 僕は呟く。


 すると葵が首をかしげた。


「何が?」


「君、生きてる」


「失礼だな」


 葵は吹き出した。


 その時だった。


「そういえば」


「え?」


「言ってなかったっけ」


 葵は鞄を肩に掛ける。


「来週、引っ越すんだ」


 時間が止まった。


「……え?」


「親の仕事」


 葵は困ったように笑う。


「遠いところだから、もうこの学校には来られない」


 その瞬間だった。


 頭上の数字が消えた。


 先生も。


 クラスメイトも。


 葵も。


 全部。


 消えた。


 そして僕は理解した。


 数字は寿命じゃない。


 その人と一緒に過ごせる残り日数だったんだ。


 山本は死んだから。


 数字が終わった。


 葵は死なない。


 ただ。


 僕の前からいなくなるだけだった。


 それだけなのに。


 胸が苦しかった。


 引っ越しの日。


 駅のホーム。


 電車が来る。


「元気で」


 葵が言う。


「うん」


「また会えるかな」


 気付けば聞いていた。


 葵は笑う。


 いつものように。


「会えるよ」


 ドアが閉まる。


 電車が動き出す。


 僕は小さく手を振った。


 その時。


 一瞬だけ。


 葵の頭上に数字が見えた。


 3652


 十年。


 再会までの日数なのか。


 ただの見間違いなのか。


 僕には分からなかった。


 でも。


 さっきまで見えていた0より。


 ずっと希望のある数字だった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


実はこの作品では、凪と葵の性別を意図的に明言していません。


読者の皆様が思い描いた凪と葵が、この物語の正解です。


友情として読んだ方も、恋愛として読んだ方も、あるいは別の関係として読んだ方もいるかもしれません。


この物語が少しでも心に残れば嬉しいです。

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