クラス全員の寿命が見える僕と、残り30日の君
もし、大切な人の寿命が見えてしまったら。
これは、そんな少し不思議な力を手に入れた高校生の物語です。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
今日から、みんなの頭の上に数字が見えるようになった。
理由は分からない。
朝、教室のドアを開けた瞬間からだった。
白く光る数字が、クラスメイト全員の頭上に浮かんでいる。
ゲームのステータス画面みたいな数字だった。
最初は寝不足だと思った。
目をこすった。
瞬きをした。
でも消えない。
担任の先生の頭上には、
18342
前の席の田中には、
26491
後ろの席の佐藤には、
30782
そして教室の一番後ろ。
窓際に座る山本の頭上には、
1
たったそれだけだった。
「……なんだよ、それ」
思わず声が漏れた。
山本はいつも通りだった。
友達と笑っている。
元気そうだ。
病気にも見えない。
その日は数字の意味が分からないまま終わった。
翌日。
山本は学校に来なかった。
ホームルームが始まる。
教室は少しざわついていた。
「寝坊かな」
「珍しいな」
誰かが言った。
すると担任が教室へ入ってきた。
顔色が悪い。
そして静かに告げた。
「残念なお知らせがあります」
教室が静まり返る。
「山本くんが昨夜、交通事故で亡くなりました」
誰かが息を呑んだ。
僕の心臓は大きく跳ねた。
昨日。
山本の頭上には。
1
が浮かんでいた。
偶然じゃない。
あれはきっと。
寿命だ。
人が生きられる残り日数なんだ。
震える手で隣を見る。
窓際の席。
葵が何も知らない顔で教科書を開いていた。
その頭上には。
30
という数字が浮かんでいた。
僕の背筋を冷たいものが走る。
あと三十日。
もし僕の考えが正しいなら。
葵はあと三十日で死ぬ。
その日から僕は、葵を観察するようになった。
事故に遭いそうな場所はないか。
体調は悪くないか。
危険なことをしていないか。
毎日気になった。
「最近変だよ」
ある日の放課後。
葵が言った。
「ずっとこっち見てる」
「そんなことない」
「あるよ」
葵は笑った。
その笑顔を見るたびに苦しくなる。
残り時間が見えているのは僕だけだ。
数字は減っていく。
30。
29。
28。
27。
そして。
20。
10。
5。
数字だけが容赦なく減っていった。
葵は相変わらず元気だった。
だから余計に怖かった。
残り三日になった日。
僕はもう耐えられなくなった。
放課後の教室。
夕日が机を赤く染めている。
「葵」
「ん?」
「信じなくていい」
「うん」
「でも聞いてほしい」
葵は黙って頷いた。
「僕にはみんなの寿命が見える」
言ってしまった。
普通なら笑われる。
でも葵は笑わなかった。
「それで?」
「君の数字が三日なんだ」
静かな教室。
しばらく沈黙が続いた。
やがて葵は窓の外を見ながら言った。
「そっか」
それだけだった。
「怖くないの?」
思わず聞く。
「怖いよ」
葵は少し笑う。
「でも、本当は明日死ぬかもしれないのって、みんな同じじゃない?」
言葉が出なかった。
「だからさ」
葵が立ち上がる。
「残り三日なら、一緒に帰ろうよ」
その日から。
僕たちは毎日一緒に過ごした。
帰り道。
コンビニのアイス。
河川敷の夕焼け。
くだらない会話。
笑い声。
数字は減る。
2。
1。
そして。
0。
最後の日が来た。
僕は朝から震えていた。
でも。
葵はいつも通り登校した。
授業を受けた。
昼休みに笑った。
放課後になった。
それでも何も起きない。
事故も。
病気も。
何も。
「……なんで」
僕は呟く。
すると葵が首をかしげた。
「何が?」
「君、生きてる」
「失礼だな」
葵は吹き出した。
その時だった。
「そういえば」
「え?」
「言ってなかったっけ」
葵は鞄を肩に掛ける。
「来週、引っ越すんだ」
時間が止まった。
「……え?」
「親の仕事」
葵は困ったように笑う。
「遠いところだから、もうこの学校には来られない」
その瞬間だった。
頭上の数字が消えた。
先生も。
クラスメイトも。
葵も。
全部。
消えた。
そして僕は理解した。
数字は寿命じゃない。
その人と一緒に過ごせる残り日数だったんだ。
山本は死んだから。
数字が終わった。
葵は死なない。
ただ。
僕の前からいなくなるだけだった。
それだけなのに。
胸が苦しかった。
引っ越しの日。
駅のホーム。
電車が来る。
「元気で」
葵が言う。
「うん」
「また会えるかな」
気付けば聞いていた。
葵は笑う。
いつものように。
「会えるよ」
ドアが閉まる。
電車が動き出す。
僕は小さく手を振った。
その時。
一瞬だけ。
葵の頭上に数字が見えた。
3652
十年。
再会までの日数なのか。
ただの見間違いなのか。
僕には分からなかった。
でも。
さっきまで見えていた0より。
ずっと希望のある数字だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
実はこの作品では、凪と葵の性別を意図的に明言していません。
読者の皆様が思い描いた凪と葵が、この物語の正解です。
友情として読んだ方も、恋愛として読んだ方も、あるいは別の関係として読んだ方もいるかもしれません。
この物語が少しでも心に残れば嬉しいです。




