【超短編小説】おしまい
光あれ。
その時に世界は一片の影も許されなかったのだろうかと考えながら、ぼくら二人はぼんやりと屋上から街を眺めていた。
屋上と言えども大した高さのないマンションだから、街の全体が見渡せる訳でもない。
ただそこから見える景色に視線をだらしなく投げ出していたに過ぎなかった。
だらしなく投げ出していた視線と同じように、手の中にある煙草もいつのまにか半分以上は灰になっていたし、缶コーヒーもいつの間にかぬるくなっている。
人生の怠惰さを凝縮したような瞬間だなと笑うが、その人生もそろそろ終わろうとしているので、それも仕方のないことだろう。
それがどうやって終わるかは分からないけれど。
でも人生に限らず、この世に存在するものは何となく始まって何となく終わる。
学校のチャイムやスポーツ競技のホイッスル、格闘技のゴングだとかって言うのは単なる目安に過ぎない。
その前から始まっているし、その後も何となく続いている。
ぼくの独り言に、きみはようやく反応した。
「死はどうなの?」
「すでにどこかで死んでるんだよ。医学的な死なんてのは単なる目安のひとつだ」
きみはふーんと言うと、少し考えてから言葉を置いた。
「忘れられて記憶から消えた時にまた死ぬ、みたいな?」
「それよりもっと前、むかしは出来たことが出来なくなった時にひとつ死んで、そうやって徐々にゆっくり死んでいくんだ」
そう、ぼくたちには無限の可能性とやらがあったらしい。今では数えるほどしかないけれど。
人生よ終われ、全ての光と共に!
ニコチンだとかカフェインと言う緩慢な自殺をここまで続けてこられたのなら、それはそれで生ききったと笑って良いのだろうか。
「最期は何が食べたい?」
「ここ1週間、毎日それだな」
「無意識に食べられるくらいなら作りたくないもの」
「この煙草とかコーヒーみたいに?」
「覚えてないならやめたらいいのに」
「そりゃそうだ」
心臓よ止まれ、世界は美しい。




