未来で歩んできた道
班のテーブルには、淡い緑色に輝く小瓶が五つ。
教師が完成見本として見せたポーションと同じ色――いや、光の当たり加減ではそれ以上に澄んだ輝きを放っていた。
ソラは瓶に貼り付いた薬草の細かい粉を指先で払いつつ、胸の奥を静かに落ち着かせる。
(……ここまで手が覚えてるとは思わなかった)
前の人生で嫌というほどやった作業だ。忘れられるわけがない。
周りの班はまだ薬草を刻んでいたり、
焦げ付いた鍋を悲鳴を上げながらこすっていたり、あるいは失敗を認めて座り込んでいたりする。
ソラたちの班だけが早々と完成させ、静かに片付けを終えた状態だった。
「ソラ、すごいな……。本当に初めてなのか?」
ボッケが腕を組み、信じられないという顔で尋ねる。
リンはというと、まだ緊張したままではあるが、興味津々に瓶を手に取っていた。
「こ、これ……光ってます……。なんで……?」
マルコは片眉を上げてソラを見つめ、口角を少し上げる。
「キミ、やるじゃないか。才能ってやつかな? いや、隠してただけか……?」
そしてファラは、完成したポーションを覗き込みながら、ぱあっと顔を明るくして言った。
「ソラ、すごイ! ポーション、きれイな色デ……しかも、かすカに光ッてる! こレ、ホンモノっぽイ!」
四人に囲まれ、ソラはたじろぎながらも曖昧に笑う。
「いや、あの……ちょっと本で読んだことがあるだけで……。たまたまだよ」
本当のこと――
前の人生で何百本もポーションを作っていた、
など言えるわけがない。
ぼかしつつ、困りつつ、それでも答えられる範囲で質問に返していく。
すると、四人はさらに勢いづいた。
「ソラ、なんで薬草を見ただけで見分けがついた? 普通、分からないぞ」
「そ、ソラくん……あのっ……家で練習してた、とか……?」
「ソラ、なニ食べたラそんな速ク走れるノ? ファラも速クなりたイ!」
「そうだ、普段から鍛えてるんだろう? 体つきは普通だけど、動きは軽いし……」
まるで質問コーナー。
ソラは冷や汗をかきながら、なんとか答え続けた。
(……やばい。うっかり前世のことを言いそうになった……)
そこへ、教師が前へ出て声を張った。
「――皆、静かに。そろそろまとめに入るぞ」
助かった、とソラは胸をなでおろす。
「ごめん、先生が話すみたいだからいったん静かにしよう」
と小声で告げると、四人は素直にうなずいた。
「まタ話そウ、ソラ!」
ファラが満面の笑みで手を振る。
「う、うん……」
四人との約束に、ソラは内心焦りつつも少しだけ嬉しかった。
教師は教卓の前に、各班のポーションを並べていた。
そして重々しく口を開く。
「今回の実習だが……残念ながら、ほとんどの班はポーションとしての基準に達していなかった。色が濁っているもの、まばらな混ざり具合で安定していないもの、……理由はいろいろだ」
多くの生徒が肩を落とす。
だが、
「しかし、一つだけ――非常に完成度の高いポーションを作り上げた班がある」
そう言って教師が手に取ったのは、ソラたちのポーションだった。
淡い緑色の液体は光に当たるとまるで内側から輝き、細かな粒子が均一に溶けている。
「これは……すぐにでもギルドへ卸せるレベルだ」
教室がざわつく。
「だれが作ったのかは言わないが、成功した班は自惚れず、さらに研鑽を積むように。失敗した班も次は成功できるよう努力してくれ」
実習はその言葉で締めくくられた。
片付けを終え帰ろうとすると、
「ソラ君、少しいいか?」
教師に呼ばれ、ソラは思わず背筋を伸ばした。
(もしかして……なにかやらかした?)
しかし、教師の表情は柔らかい。
「さっきのポーション、君が中心になって作ったんだろう?
色、その混ざり具合、温度管理……
どれも素晴らしかった」
「そ、そんな……みんなで作りました」
「謙遜しなくていい。君の手つきを見ていた。
あれは素人のそれではない。
一つ提案なんだがギルドに卸してみないか?
もちろん、売上は全額君のものだ」
ソラはその申し出に一瞬惹かれた。
――だが。
「……すみません。今はシーカーとして強くなりたいんです。ポーション作りに割く時間が、たぶん足りません」
教師はしばらくソラを見つめ、やがて穏やかに笑った。
「いい目だ。ならば強くなれ。個人的に応援しているぞ」
深く頭を下げ、ソラは教室を後にした。
だが教室の少し離れた場所。
帰り支度をしていたカイトは、教師とソラの会話を聞き、苦々しい顔をした。
(……あいつがポーションを作れた? しかもギルドに卸すレベル?僕以上に優秀な存在だと?)
胸の奥に小さなざわめきが生まれる。
それは、カイトが生まれて初めて感じる感情。ソラに向けられた――
「ライバル視」 という感情だった。
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