ポーション作成
班分けが終わり、
班ごとの実習テーブルにぞろぞろと移動した生徒たちの前で、魔法薬学の教師が前へ進み出た。
白衣の袖を整え、一呼吸おいてから口を開く。
「――では、
今日は基本ポーションの調合を行う。
今から手本を見せるから、よく見ておくこと。これは基礎中の基礎だが、
基礎を馬鹿にする者は決して一流にはなれないぞ」
そう言うと、教師は薬草の束を取り上げ
スッと手際よく選び出し、薬研に移した。
ゴリゴリと均一にすり潰していく動きに無駄がない。
粉にした薬草を温めた湯へと三度に分けて投入し、一定の速度でかき混ぜる。
焦げ付きを防ぐための底返しも丁寧で、見ているだけでも熟練を感じさせた。
最後に布とザルで丁寧に漉し、ガラス瓶へと注ぎ入れる。
淡い緑色のポーションが完成するまで、微塵の淀みもない完璧な流れ。
「――以上だ。では各班で作成を始めろ」
教師の合図と同時に、教室のあちこちで
「じゃあ私切るね」「混ぜ係よろしく!」
など声が飛び交い、実習室は一気に活気づいた。
だが――
ソラたちの班だけ、ぽつんと沈黙が落ちていた。
全員が同じテーブルの周囲で互いの顔をうかがい、手も動かさないまま固まっている。
(あ…やばい。誰も動かない……)
ソラは内心で焦る。
仲のいいクラスメイトなど作ってこなかったツケがこんな形で回ってくるとは思いもよらなかった。
沈黙を破ったのは、仏頂面の大柄な男子だった。
「……我々も始めないと後れを取る。私はボッケ。協力し合おう」
その言葉をきっかけに、他のメンバーも慌てて自己紹介を始める。
「わ、わたし……リン、その……よ、よろしく……」
前髪で目が隠れた、か細い声の女子。
「ワタシ、ファラ。コノクニノ言葉マダまだ下手、デスけど……ヨロシク、お願いする」
隣国からの留学生で、明るく人懐っこい女の子。
「俺はマルコ。女性の手は荒れさせたくない主義だ。力作業は任せてくれていい」
妙にキザっぽい物言いの男。顔も声も無駄に濃い。
最後に、全員の視線がソラに集まる。
「えっと……ソラです。よろしくお願いします」
ようやく全員の自己紹介が終わり、班の空気が少しだけ動き出した。
「では薬草を粉にするところから始めよう」
ボッケが薬草の束を手に取った、その瞬間。
「ちょ、ちょっと待って!」
ソラは思わず声を上げた。
ボッケは手を止め、怪訝そうに振り向く。
「どうした、ソラ殿?」
「薬草……全部使う前に、選ばせてほしいんだ」
そう言って、ソラは薬草の束を手に取り、一つひとつ表裏を確かめるように丁寧に見ていく。
茎の色、葉のしおれ具合、小さな斑点――細部まで見逃さない。
リンが恐る恐る聞く。
「そ、ソラくん……なんでそんなことを……?」
「同じ薬草に見えるけど、中にはポーションに向かないものが混じってるから」
ソラは言葉を選んで伝える。
「例えばこれ。茎の途中で切られてるけど、
これは採取のときに雑に扱われて薬草の効果が少し抜けてるんだ。
で、こっちは――採ってから時間が経ちすぎてる。色がわずかに薄いだろ?」
4人は揃って目を見開いた。
「お、おお……確かに色が違う……」
「ワタシ、まったく気づかなかったデス」
「見ただけでそこまで分かるのか……?」
「まるでプロのようだな、ソラ殿!」
驚きが混ざった視線が向けられる。
ソラは少し照れながらも、必要な薬草だけを選び終えると、ボッケへ差し出した。
「これだけ使おう。粉にするの、お願い」
「任せてくれ」
ボッケが薬研で薬草を潰し始めたのを確認し、ソラは残りの3人に声をかけた。
「じゃあ、お湯を沸かそう。温度は……リン、温度計見ながら68℃前後に保ってくれる?」
「わ、分かった……! が、頑張る……!」
「ファラとマルコは漉す時に使うザルとガラス瓶を持ってきてくれる?」
「了解デス!」
「任されよう!」
3人が動き出したのと同時に、ボッケが粉状になった薬草を持って戻ってきた。
「できたぞ!」
「ありがとう。じゃあ、入れていくよ」
ソラは粉を丁寧に鍋へと投入し、ゆっくりと底をさらうようにかき混ぜる。
ボッケが素朴な疑問を口にした。
「ところで、なぜ68℃付近で温度を維持する? それに粉を分けて入れる理由は?」
ソラはかき混ぜながら答える。
「薬草には効力が最も引き出される温度があって……この薬草の場合は60~70℃に保つと安定するんだ。
粉を分けるのは――一気に入れると濃度のブレが大きくなってしまうから。均一に混ざるように段階的に入れる必要があるんだ」
説明を聞きながら、4人は息をのんだ。
「お前……本当に詳しいんだな……」
「か、かっこいい……」
「ソラ、調合のプロみたいデス!」
「僕も女性の手は荒れさせたくないが……この場合、ソラの手際の美しさには勝てないな」
キザ男のマルコですら感嘆している。
ソラは曖昧に笑ってごまかした。
心の奥底で、胸が少しだけ痛む。
(……カイトの雑用で、嫌になるほど作らされたからな)
前世での記憶がふっと蘇る。
低品質だと怒鳴られ、寝る時間を削ってまで品質を上げるための勉強と実験を繰り返した日々。
どれだけ努力して最高品質のポーションに近づいても、最後はギルドが開発した新型ポーションに全てを奪われ――そして、自分は追放された。
(でもまあ……今はもう関係ないか)
その思いを胸に押し込め、作業に集中し続ける。
20分後。
ザルで丁寧に漉し、瓶へと注ぎ終えた瞬間――。
「――す、すごい……!」
リンがぽつりと声を漏らした。
瓶の中で揺れるポーションは、確かに緑色ではあるが……
光を受けて、どこか淡く煌めくように見える。
「光ってる……ように見えるデス」
「本当に……俺たちが作ったのか?」
「ふむ、これは教師殿のものより美しいな……!」
4人の目が期待と驚きに輝いていた。
ソラはその様子に、ほんの少しだけ胸が温かくなる。
(……無駄じゃなかったんだな、あの努力も)
そんな小さな達成感が胸に宿った。
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