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一歩進んで

訓練場の地面に座り込んだソラの肩が、ゆっくり上下していた。


魔力を右手に集めて殴る

――その作業を繰り返すだけなのに、

息は荒く、汗は背中を伝い、筋肉にまで重さを感じる。


「はぁ……はぁ……っ。ぜぇ……なんで、こんなに……疲れるんだ……?」


バッグの上で座っていたクロが、すっと跳び下りる。


いつもの落ち着いた金の瞳でソラを見つめ、当然だと言わんばかりに口を開いた。


『魔力操作というのは、今のお前にとって

“全身を使う”行為だからだ。

魔力視と同じで、集中力がいる。

二時間近くやれば息が切れるのも当然だ』


「集中……だけで、こんなに……?」


『当たり前だ。魔力を集めることに失敗している間も、ずっと意識を張り詰めていただろう?

普通は一時間で集中が切れてくる。

二時間も保たせたのだ、よくやったほうだ』


褒められ、ソラの表情がほころびかける――が、クロはすぐに厳しい現実を突きつけてきた。


『だが。集中はよかったが、魔力操作はお粗末だ』


「ぐっ……お、お粗末……?」


クロは尻尾を揺らし、淡々と続ける。


『片手に魔力を集めるのに五分かかるようでは、実戦で使い物にならない。

魔物はお前が魔力を溜め終わるまで待っていてはくれんぞ』


「……それは、確かに」


『強くなりたいのなら、戦闘中でも反射的に魔力を流し、瞬時に力へ変換できなければならない。

今のお前のやり方は、準備運動を五分かけてやっているようなものだ』


ソラは苦笑するしかない。


あらためて言われると、まったく反論の余地がなかった。


「じゃ、じゃあ……魔力操作のコツとか、アドバイスは……?」


クロは目を細め、静かに首を横に振る。


『それは、教えられん』


「えっ!?なんで!?」


『魔力というのは、感じ方も扱い方も人によって大きく異なるからだ。

水のようだと感じる者、糸のようだという者、煙のようだという者……さまざまだ。

わたしの感覚を押しつければ、逆にお前の成長を妨げることになる』


「……なるほど……」


『だからこそ、魔力視のときもアドバイスはしなかった。

お前自身の感覚を育てなければならんからだ。

魔力操作も同じ。地道に、自分の魔力の感覚と“性質”を理解していくしかない』


クロの言葉には、揺るぎがなかった。


ソラは深く息を吐く。


魔力視に成功して、調子に乗っていたのかもしれない。


自分は特別なんじゃないかと

――ほんの少しだけだが感じていた。


だが現実は、まだ“第一歩を踏んだだけ”。


魔力を感じられるようになったというのは、ただのスタート地点に立ったにすぎない。


「……よし」


ソラは立ち上がった。

足はまだ少し震えていたが、その顔には覚悟が宿っている。


「地道に、少しずつ……だな。

五分が四分になって、四分が三分になって……

いつか、瞬時にできるようになるまで積み重ねる」


クロは満足そうに頷いた。


『それでいい。それしかない。

焦らず、だが止まらずにやれ。

魔力を扱えるということは、戦い方の幅が無限に広がるということだ』


「うん。分かった。ありがとう、クロ」


『礼なら結果を出してから言え。

わたしは甘やかさんぞ』


ツンとしたように見えるが、尻尾がわずかに嬉しそうに揺れている。


ソラはそれを見て、小さく笑った。


クロはいつもこうだ。厳しいが、必ず背中を押してくれる。


「よし、今日はもう帰るか。

 オレ、汗でぐっしょりで……なんか体中が重い」


『当然だ。風呂に入り、栄養を摂り、今日は早く寝ろ。

次に魔力を集めるときは、五分をもっと短くしてみせろ』


「わかった!」


ソラはバッグを肩にかけ、訓練場から家までの道を歩き出した。

夕暮れの街が優しい風を運んでくる。


疲れているはずなのに、足取りはどこか軽かった。


魔力を“視る”ことができた。

魔力を“動かす”ことにも一歩踏み出せた。


次は――もっと速く、もっと正確に。


ソラは胸の奥に、ゆっくりと火が灯るのを感じていた。


そして歩きながら、小さくつぶやいた。


「よし……今日より明日、絶対に強くなる」


クロはソラの肩のバッグの中で、そっと笑った。


『そうだ、それでいい。

わたしは、お前のその気持ちを何より評価する』


夕陽が落ちていく。


その光が、まるでソラの決意を照らすかのように、鮮やかに輝いていた。




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