休みの日
魔力視にようやく成功した翌日、ソラは昼近くまでぐっすり眠っていた。
学校が休みという安心もあったが、何より――
クロが昨日言っていた「休息も大事な一部だ」という言葉が心に響いていたからだ。
精神を極限まで張りつめて行った魔力視の訓練は、筋トレのように身体を酷使していないにもかかわらず、頭の芯に重さを感じるほど精神を消耗していた。
だからソラは、自分でも珍しいほど素直に布団に倒れ込み、そのまま深い眠りに落ちていったのだ。
そして――昼前。
「ふぁぁぁ……よく寝た――!」
寝起きのソラは大きく伸びをした。
身体が軽い。心も軽い。
まるで、これまで抱えていた重しのいくつかが取れたようだった。
そんなソラの様子を見て、クロが尻尾をゆっくり揺らしながら言う。
『うむ、それでいい。今のお前は本来の調子に戻っただけだ。昨日までのほうが異常だったんだぞ?』
「そうなのか……」
『ああ。オーバーワークの極みだった。まぁ昨日の夜、お前も理解しただろう? 身体を追い込むだけじゃ限界がある。休息も鍛錬のうちだ』
「……うん」
ソラは素直に頷く。
昨日クロに言われたこと――そして、昨日自分がつかんだもの――
そのどれもが、ソラの中で確かに結びつき始めていた。
昼食を軽く済ませた後、ソラはクロとともにギルドの訓練場へ向かった。
今日は学校が休みだからか、訓練場にはシーカーだけではなく学生もチラホラ混じっている。
剣を振る音、掛け声、走り込みの足音が入り混じり、活気に満ちていた。
『ソラ、今日からは魔力視以外の通常のトレーニングも解禁だ。やる気はあるか?』
「もちろん!」
ソラの返事は力強い。
昨日、自分で掴んだ感覚がある。魔力は確かに“感じることが出来る”。
それだけで、心が前向きになっていた。
十分にストレッチを済ませた後、クロが言った。
『今日のメインは“体術”だ』
「体術……戦闘に?」
『そうだ。魔力視に成功した以上、次の段階に進むべきだろう』
クロは訓練場の一角、拳闘用のサンドバッグが吊るされた場所へ歩いていく。
『そのサンドバッグを殴ってみろ』
「パンチすればいいのか?」
『そうだ。お前の今出せる全力で拳を繰り出せ』
「……わかった!」
ソラは一歩前に出て、足を開き、腰を落とす。
そして――気合いを込めて右ストレートを叩き込んだ。
バンッ!
軽快な衝撃音。
サンドバッグはそこそこ揺れた。
(おお……前の人生を含めても、これは結構いいパンチじゃないか?)
ソラが内心で少し誇らしげになっていると――
『ダメだ』
「ダメなの!?」
『今のは普通のパンチだ。わたしが求めているのは“魔力を拳に集めたパンチ”だ』
「魔力を……拳に?」
『ああ。百聞は一見に如かずだ。まずはやってみろ』
昨日、魔力視の成功とともに“魔力を目に集める”ことに成功した。
あの感覚を今度は拳に向ける――それが今日の課題らしい。
ソラは目を閉じ、呼吸を整える。
(魔力は……丹田から流れる……水のように)
昨日掴んだイメージをそのまま持ってくる。
丹田から、細い水の流れが右腕へ――
指先へ――
拳へ――
スッ、と魔力が右手に移動する感覚が来た。
『よし、いいぞ。今のうちに殴れ、霧散する前に』
「いける!」
ソラは地面を蹴り、一気に拳をサンドバッグへ叩きつけた。
ドンッッ!!
まるで鈍い雷の音のような衝撃。
サンドバッグはほぼ横向きになるほど大きく揺れる。
「な、なにこれ……!? 全然ちがう……!」
これが魔力の力なのか。
拳に集めるだけで、ここまで攻撃力が跳ね上がるなんて。
「クロ! なんで魔力を集めただけで、ここまで威力が変わるんだ!?」
興奮した声でソラが聞くと、クロはあっさり答えた。
『簡単なことだ。これは“筋力上昇”系のスキルを使ったのと同じ効果だ』
「え……? スキルと、同じ……?」
『そうだ。スキルというのはな、無自覚のままでも必要な場所に必要な魔力を自動で送り込んでくれる。だから筋力上昇なら、筋力に関係する場所に魔力が送られる』
クロは尻尾をゆっくり揺らして言葉を続けた。
『だが、お前はその魔力を“自分で感じて” “自分で集めて” “自分で操作した”
つまり――スキル無しでもスキルの力を扱えたというわけだ』
「……っ!」
スキル無しで、スキルと同等の効果。
これは――
シーカーとして、戦う者として、どれほどの可能性を秘めているのか。
ソラは自分の拳を見下ろし、震える息をひとつ吐いた。
『強力な力をもたらすスキルは確かに便利で強い。だが、“魔力を自分の意志で操れる者”はその強力なスキルよりも強くなれる。それはわたしが保証する』
クロの瞳が細くなる。
『ソラ、今日からは魔力操作の訓練を本格的にやっていくぞ。』
「うん、クロ……! よろしく頼む!」
こうして――
魔力視に成功した翌日。
ソラは自分の力で魔力をコントロールするという、新たな一歩を踏み出したのだった。
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