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魔力の感覚について

夕暮れの橙が街並みに落ち暗闇に空が染まった頃頃、ソラは訓練場をあとにして静かな住宅街へと歩いていた。


 風が頬を撫でるたび、さっき魔力視に成功した瞬間が思い出される。


 何回も失敗してが最後の一回は確かにはっきりと成功した。


 胸の内に残る興奮を抱えつつ、自宅のアパートへと戻る。

 鍵を回し、小さな部屋の灯りをともすと、ほんのり温かい安心感が広がった。


「ふう……ただいま」


 靴を脱いで部屋に入ると、バッグの中からクロがひょこりと顔を出した。


『おかえり、ソラ。今日の成果は悪くなかったな』


 褒めてくれるのは嬉しいが、クロの声音はどこかくすぐったいほど軽い。

 ソラは思わず苦笑してバッグを置く。


「悪くなかったどころか……俺にしては大進歩だよな? 」


『ふむ、まあ見えたのは成功したのは事実だ。だが――』


 クロはわざとらしく尻尾を揺らしながら言った。


『想定よりだいぶ遅かったな』


「……やっぱり言うと思った!」


 ソラが肩を落とすと、クロはくっくっと笑った。

 しかしそのあと続いた言葉は、今までとは違う温かさを帯びている。


『でも、魔力を“動かす”という考えに辿り着いたのはよくやったぞ、ソラ』


「……ありがとう」


 素直に言われると、胸の奥からじんと熱が広がる。

 ソラは座り込み、水を一口飲んでから、ぽつりと呟いた。


「でもさ……俺1人じゃ絶対に無理だった。ユナの言葉があったから、“何でこの訓練なんだろう”って考えられたし……クロのおかげでここまで来れたんだ。だから……改めて、ありがとう」


 ソラの視線がまっすぐクロに向けられる。


『……ソラ』


 クロの金の瞳が、わずかに揺れた。

 普段なら茶化すような返しをするところだが、今のクロは真剣だった。


 ソラは一歩踏み込むようにして、ずっと胸の内にあった疑問を口にする。


「なあクロ。どうしてそこまで俺に手を貸してくれるんだ?

 クロの本当の目的って、なんなんだ?」


 しばし沈黙が落ちた。

 静かな部屋に時計の音だけが響く。


 やがてクロは目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。


『……今はまだ、お前には明かせない』


「……そっか。やっぱり……」


『だが、ソラ』


 クロは顔を上げ、強い意志を宿した瞳でソラを見た。


『ソラが“真の意味で”強くなったとき、わたしは必ず目的を伝える。その時まで、わたしはできる限りの手を貸すし、お前を強くする。これは約束だ』


 その言葉は不思議な重みを持っていた。

 嘘や誤魔化しではなく、確かな“誓い”のように響く。


 しかし、納得と同時に胸の奥にひっかかる感情もある。


「……話してくれないのは、やっぱりモヤっとするけどさ。

 でも……俺が強くなれば教えてくれるんだよな?」


『ああ。必ず』


「……わかった。信じるよ」


 ソラは微笑む。

 クロも、満足したように小さくうなずいた。


 そこでソラは、ずっと気になっていた疑問をぶつける。


「そういえばさ……ここ数日、魔力視の訓練だけで筋トレも走り込みも禁止だったろ?

 あれ、なんでなんだ? 今日走ってみて分かったけど、体が軽くて調子よかったんだよ」


 するとクロは、呆れたように肩をすくめる。


『理由は簡単だ。それが“本来のソラの状態”だからだ』


「本来……?」


『普段のお前は訓練で体を追い込みすぎている。

 ただでさえ前の人生の癖で節約しすぎて食が細かったのにさらに体を酷使しては回復が追いつくわけがない』


「……っ」


 痛いところを突かれた。

 ソラは思わず視線をそらす。


『そこに、因縁の相手――カイトとの遭遇だ。

 負けまい、追いつこう、追い越そうと過度に気を張り、さらに訓練に熱を入れていた。完全にオーバーワークだ』


 図星だった。


 クロは続ける。


『訓練をすれば力はつくが、体を壊してしまえば元も子もない。

 強くなりたいなら、“鍛えること”と同じくらい“休めること”も必要なのだ』


 その言葉は、ソラの胸に強く刺さる。

 

 クロはさらに穏やかな声で続ける。


『だから今回は、魔力視以外のトレーニングを禁止した。

 そしてもうひとつ――魔力視について、わたしがほとんどアドバイスをしなかった理由だが……』


「理由?」


『ソラ自身に“考える力”を身につけてほしかったからだ』


 ソラは息を呑む。


『戦いの場では状況が一瞬で変わる。わたしが助言してから動くのでは遅い。

 どんな状況でも自分で考え、判断し、動く――その力を育てたかった』


 クロの目的……その一端が見えた気がした。


「……クロ、お前って……本当にすごいよな」


『当然だ』


 クロは胸を張るが、どこか照れているようにも見える。


 ソラは立ち上がり、小さく深呼吸をした。


「よし……今日はもう休むよ。

 でも明日からは、魔力視をもっと長く維持できるように頑張る。

 それに……俺は強くなるよ。クロが教えてくれる“目的”を聞けるくらいにさ」


『期待しているぞ、ソラ』


 ソラはその言葉に背中を押されるようにして、ベッドへ向かった。


 身体を横たえると、すぐにまぶたが重くなる。

 今日だけで、心も頭も使い切った気がした。


(強くなる……絶対に)


 最後に浮かんだのは、クロの金色の瞳。

 そしてユナの優しい笑顔。


 静かに、ソラは眠りへ落ちていった。

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