成功と失敗
魔力を見るための訓練を開始してから――三日。
ソラは何度繰り返しても、魔力の流れを“視る”ことができずにいた。
クロは言った。
『魔力を見る訓練ができるようになるまでは、筋トレも走り込みも禁止だ』
それ以外の訓練は一切できない。
「強くなりたいのに……なんでだよ……」
どれだけ理由を聞いても、クロははぐらかすだけだった。
『必要だからだ。今は言えん』
そればかり。
ソラの心は焦りでギリギリに張りつめていた。
そして迎えた四日目。
夕方、訓練場の端でソラは目を凝らしていた。
白い霧……魔力……丹田……
見ろ、見ろ、見ろ……!
息を止めるほど集中したその瞬間だった。
――ふ、と。
周囲の人間の丹田から、白い湯気のようなものが浮かぶのが見えた。
「……っ! 見えた! クロ、見えた!!」
バッグの中からクロが顔を出し、満足げに頷く。
『よくやったソラ。そのまま維持しろ。できるだけ長く』
「わかった!」
だが――
魔力の霧は、視界に現れてからわずか三秒で消えかけ、
五秒たつ頃には完全に見えなくなっていた。
「くそ……! もう一回!」
そのあとも何度も挑戦したが、五秒を超えることは一度もなかった。
維持はできない
集中が切れる
視界が曇る
焦るソラとは裏腹に、クロは静かに言う。
『今日はここまでだ。焦るな、ソラ』
「焦るよ……こんなんじゃいつまで経っても強くなれない」
返事はなかった。
ソラの焦燥は、四日目の夜も晴れないままだった。
翌日、五日目。
授業を受けていても、ソラの心は重かった。
(なんでクロはこんな訓練だけさせるんだ……
なんで筋トレも走り込みも禁止なんだ……
これ、本当に意味があるのか?)
魔力視認の理由を聞いても、クロは何も教えてくれない。
『いずれわかる』
『今はやれ』
『必要だからだ』
そればかり。
(……わからない、全然)
考えても考えても答えは出ず、頭は煮詰まるばかりだった。
そして昼休み。
食堂へ向かう途中、ふいに柔らかな声が聞こえた。
「ソラさん?」
銀髪の少女――ユナだった。
「あ、ユナ……」
「これからお昼ですか? よければ一緒にどうです?」
ユナの声は落ち着いていたが、その瞳はどこか心配そうだった。
ソラは断る理由もなく、二人で食堂へ向かう。
食堂のテーブルにつき、ユナは食事を並べながら微笑んだ。
「入学してもう一週間以上経ちますが、すごく濃かったですね。
知ることも多くて……わたし、毎日驚いてばかりなんです」
「うん……そうだね」
ソラは相槌は打つものの、どこか精彩を欠いていた。
ユナはスプーンを置き、小さく首をかしげる。
「ソラさん……最近、元気がないように見えます。
何か悩み事……ありますか?」
ソラは思わず息を飲んだ。
(……魔力のことやクロのことは言えない。
でも……)
少しだけ、胸の奥につかえていたものを吐き出したくなった。
「……実はさ、今……難しい課題を出されてるんだ」
ユナは目を瞬かせ、静かに耳を傾ける。
「その課題が……ぜんっぜん上手くいかなくて。
毎日挑戦してるのに結果が出なくて……
焦ってばかりでさ」
「課題……?」
ユナは少し目を瞑った後、ゆっくり目を開いてソラを見つめて話出す。
「その課題を与えた人って――どうしてソラくんにその課題を出したんだろう?」
「……理由?」
「そう。なんでその課題なのか。
その人がソラくんに“何を望んでいるのか”。
それを考えてみるのが、いいんじゃないかな」
ユナの声は落ち着いていて、少しだけ優しい。
「答えがすぐ出なくてもね。
一度立ち止まって、自分なりの答えを探してみると……
案外、見えなかったものが見えてくると思うよ」
ソラは息を呑む。
胸に刺さった。
(なんで……クロは俺に、魔力を見る事だけをやらせてる?
なんで走り込みも筋トレも禁止なんだ?
あいつが求めてる“何か”って……なんなんだ?)
ユナは静かに微笑む。
「大丈夫だよ。ソラくんならできるって、わたしは思うよ」
ソラの胸の中に、少しだけ温かいものが灯った。
「……ありがとう、ユナ」
「うん」
銀髪が小さく揺れた。
その優しい笑顔を見ながら、ソラは心の中で決意する。
(……もう一度だけ、しっかり考えてみるか。
クロが俺に何を求めてるのか。
“魔力を見る”って、ただの視覚の問題じゃないのかもしれない……)
昼休みの喧騒の中で、ソラは静かに箸を進めた。
ユナの言葉が、胸の奥でずっと響いていた。




