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世界が平和になり、子育て最強チートを手に入れた俺はモフモフっ子らにタジタジしている魔王と一緒に子育てします。  作者: 立坂雪花


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18.星空と共に

「魔王、待てよ!」

「……」


 魔王は待たずにそそくさと脱衣所で浴衣を脱ぎ捨て、浴室の中に入っていった。俺も急いで中に入る。魔王は浴槽の中に入った。


「魔王、体を洗ってから浴槽の中に入れって書いてあるぞ」

「……そうだった」


 魔王は出てきて体を洗う。ふたりは体を洗い終えると浴槽に入った。


他には誰もいなく、流れる温泉の湯の音だけが響いている。エウリュの話を聞いてから、魔王に対して変に意識してしまっている。


「なぁ、魔王……」

「なんだ?」

「なんでもない」

「そうか」

「いや、なんでもある!」


 このまま聞かずにいたら今夜は眠れない。確認しようと決心した。


「魔王、さっきのエウリュと俺の会話を聞いたか?」

「エウリュとは誰だ」

「魔法使いの、今、廊下ですれ違った女だ」

「……いや、聞いてはいない。聞こえてはいない!」


 魔王は怒鳴ると露天風呂へ行ってしまった。


 そもそも会話を聞かれたことを確認するだけなのに俺は何故躊躇していたんだ? エウリュと俺が魔王の悪口を言っていたと勘違いされるのが嫌だったからか? 


――それとも、本当に俺がラブとして魔王に惹かれているから?


 いやいや、そもそも何故魔王は突然怒りだしたんだ。イラッとしてきたから文句を言おうと魔王を追い、露天風呂に向かった。


 露天風呂への扉を開くと、仁王立ちしている魔王がこっちに背中を向けて星空を見上げていた。魔王の背中を見ると、胸がギュッと締め付けられ痛くなった。


 俺が魔王を切りつけた時の傷が、まだ痛々しく背中に残っていたからだ。スラッとした体型だからか、その傷は余計に目立っていた。謎の怒りをぶつけられたせいで発生した苛立ちは一瞬でなくなった。今すぐに謝りたい――。


「魔王……」


 謝ろうとした時、魔王が何かを呟いた。


「魔王、今なんて言った?」

「この星空、子供たちに見せたかった――」


 俺も魔王の横に並び空を見上げた。

 たくさんの星が空にちりばめられている。雲一つなく、全ての星がはっきりと見えていた。


「本当だな。特にキラキラが大好きなオレンジやピンク辺りが喜びそうだな。あと、ホワイトは星に話しかけそう」

「あぁ、そうだな。バイオレットは後から星の絵を描きそうだ」

「イエローやスカイ、ギルバードは星を捕まえようとしそう……ブラックは、あんまり興味を示さなそうかな」

「そうだな。ブルーが何個星があるのか数え出したら、レッドがどっちが正確に数えられるか勝負を挑むだろう」

「その騒いでいる弟と妹たちの風景をグリーンは優しい眼差しで見守りそうだな」


 魔王と目が合うと、ふたり同時に口角を上げた。俺らは今、いい雰囲気だ。


今日謝るのはやめよう。傷の話をしたら、雰囲気がどんよりして暗くなりそうだ。温泉旅行は始まったばかりだ。まだ一週間ある。旅行中に魔王には謝ろう。


「魔王、ありがとな」


 謝る代わりになんとなく、お礼を言った。


「何に対してのお礼だ?」

「何に対してだろう。魔王城から追い出さずに、雇ってくれていること?」

「追い出しはしない。こっちは色々助かってるからな」

「俺は魔王に嫌われているから、すぐに追い出されるかと思っていたぞ」


 しばらく返事をしない魔王。


「……我は別に、嫌いじゃない」


 張り詰めていた糸のようなものが緩んだ気がした。俺はきっと、その言葉を魔王から直接聞くのを待っていた。魔王は正直に言うだろうから、嘘ではないだろう。嘘ではないと信じたい。


「嫌じゃないのか、そっか。じゃあ、これからも一緒にいたい。近くに俺がいても、大丈夫か?」

「あぁ、我の傍にいればいい」

「いや、魔王と一緒にいたいのは、子らのためだからな!」

「分かってる!」


 しばらく魔王と空を眺めていた。

 チラリと魔王を見ると、魔王の目が輝いているように見えた。


* 


 温泉旅行、二日目の朝。


「おはようございます」と、優しくささやく執事に起こしてもらい目が覚めた。寝起きで目が開かず見えないが、続けて子らも起こしている声がする。少し経つと全員起きた。起きた瞬間から子らは元気に動き回っている。魔王が見当たらないなと思っていたところ、魔王が部屋の中に入ってきた。


「全員、こっちに来い」と子らを呼ぶ魔王。魔王の手には甚平とフリフリしたデザインやスッとしたデザインの浴衣があった。


「可愛い~」

「かっこいい~」


 騒ぎながら着替え始めた。宿の中にある店で魔王が選んで買ってきたらしい。全員着替え終えるとまじまじと眺めた。


「魔王、センス良いな。全員似合ってる」


 それぞれの名前の色をした和服を着た子らは、全員満足したような笑みを浮かべながら朝食を食べていた。食事を済ませてからは、昼食の時間まで近隣を散歩してみることにした。そして昼食後に再び全員で外に出ると、宿の者と思われる若い男に手招きされる。庭に連れて行かれた俺らは不思議な光景を目にした。


 広い庭の入口に『おまつり』と書かれた旗が立っている。進むと、たこやき、わたあめ、型抜き、射的、わなげ、くじの屋台があったのだ。子らと戦士ゼロス、魔法使いエウリュが群がると、屋台にいる者が対応した。小さい子らを見守るため執事も参加する。


「ラレスも参加してみればいいじゃない。案外楽しいわよ」

「そうだな、参加してみるか。魔王も行かないか?」

「我はいい。待っている」

「そう言わずにさ、ほら!」


 腕を組みながら眺めていた魔王にも楽しんでほしくなり、気がつけば魔王の手を握り庭の中へ入っていった。


「魔王はお腹すいてないか? たこやきあるぞ」

「いや、気にはなるが、食べたばかりだからお腹は空いていない」

「じゃあ、射的はどうだ? 魔王得意そうだな。お兄さん、ふたり分をお願いします」

「ふたり分ですね」


 魔王にやらないと断られる前に、勝手に決めた。


「魔王、勝負だ。俺が先にやる」


 紙で作られた色々な動物が数字を持っていて、ずらっと並んでいる。十点までの数字があり、大きい数字になるほど的は小さくなる。ひとり五回チャレンジができるらしい。銃を持つと、十点の的に意識を集中させた。撃つとすれすれのところで当たらなかった。


「お客さん、惜しいですね」

「悔しいな。剣だったら余裕なのに」


 二回目は何とか十点に当たった。五回続けたが二回当たらず。合計点数は三十点となった。


「次は魔王だ」

「あれ、もう五回やりましたっけ?」


 俺が持っていた銃を魔王に渡そうとした時、店の男に尋ねられた。


「やったぞ。俺が倒した的は起こさないのか?」

「はい、今起こしますね」


 銃を受け取った魔王は片目を瞑ると一瞬で十点に当てた。続けて全て十点に当て、満点だった。拍手が起こり振り向くと、いつの間にか子らが集まっていて、魔王を眺めていた。そして「魔王、やり方教えて~」と魔王は囲まれていた。


 様子を眺めていると、足元を誰かが叩いてきた。いたのはイエローだ。


「勇者、たこやき食べたい。一緒に食べる」

「いいぞ、もらいに行こうか」


 たこやきの屋台へ行くと若い女が慣れていない様子でたこやきを焼いていた。そういえば、さっきの射的の男も少しぎこちなかったような? まぁ、気にしなくてもいいか。


「たこやき、ひとつ。いや、やっぱりふたつください」


 もう一パックは魔王にもたこやきを味見してほしいから、後で魔王と一緒に食べよう。



 あっという間に夕食の時間になり、食べ終えると温泉に入る。それが終わると眠る準備をした後に全員で外に出た。そして全員で空を見上げる。今日も星がはっきりと見えた。


「きれい~」

「いいね~」


 それぞれ一言二言呟いた後は、ずっと静かに空を見上げていた。


「魔王、子らの反応、昨日露天風呂でした想像と違ったな」 

「そうだな」


 俺と魔王も一緒に空を見上げた。


 しばらくすると「またここに来て、みんなで一緒に星を見られたら良いな。星にお願いしとこう」とグリーンは上を向きながら目をギュッと閉じた。


 俺は頷く。本当に来れたら良いな。誰一人欠けてほしくはないけれど、もしも誰かが遠くに行ってしまって来れなくなっても、同じタイミングで星空を見上げられれば。元気な姿で――。


 そう、ずっと元気でいてほしい。

 心から楽しみ、日々笑って過ごしていてほしい。


 子らがずっと幸せでいられますようにと、俺も星に願った。


 はしゃぎすぎて疲れたのか、部屋に戻り布団に潜ると一瞬で俺と魔王以外が寝た。


「魔王、後でたこやき食べないか?」

「おまつりのたこやきか?」

「そうだ。魔王のために誰にもバレないように隠しておいた」


 魔王は何故か俺の顔を見ると、ふっと笑った。

 

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