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世界が平和になり、子育て最強チートを手に入れた俺はモフモフっ子らにタジタジしている魔王と一緒に子育てします。  作者: 立坂雪花


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12.成長の証

 通りすがりに虹色のわたあめが売っていたから、赤ん坊のホワイトとギルバードを除く分を購入した。そして大きな噴水前にある芝生に執事が敷物を準備すると、座ってそれを食べる。そのわたあめは、大人の俺の顔の大きさよりも大きい。小さい子らは頬にわたあめをつけながら必死に食べていた。


「みんな、静かだな……」


 少し遠くで走り回っている見知らぬ幼子らの声と、鳥のさえずりしか聞こえない。 一瞬で食べ終えた俺は、苦戦しながら食べている子のわたあめを小さくちぎって食べさせたりしながら、ずっと眺めていた。


 平和を感じながら――。


「わたあめ、美味しかったか?っていうか食べたの初めてか?」

「うん、初めて食べた!」

「美味しかった!」


 今食べたわたあめのような虹色の笑顔を見せながら子らは次々に感想を述べていく。俺は頷きながら温かい気持ちになった。食べさせることができて良かったな――。


「ところで、壁、補修しても不自然な部分が残りそうだけど、どうしようか?」

「みんなで壁に絵を描きたい!」

 

 意見を言ったのは、普段おとなしい中等部のバイオレットだった。


「じゃあ風が中に入ってこないように壁を補修してから、大きな紙をそこに貼ろうか? そしてそこに全員で好きな絵を描こう」

「良いですね。それでは大きな紙を買い、あと絵の具も少なくなっている色を買い足して……大きな筆も必要ですね。あっ、リュオン様は壁に絵を描くことについては、どう思われますか?」

「……うん、良いと思う」


 ということで意見は纏まり、文房具屋で必要な材料を買うと魔王城に戻った。



 魔王城の中に入るとすぐに白いローブのフードを脱ぎ、ハーフマスクをため息つきながら外した魔王。そのため息はまるで、息苦しさを解放したようだ。


「こっちの魔王の方がイケメンで好き」

「私も! もう変身しないで~」


 変装を解いた魔王を眺めながら子らが次々にそう言った。


「……そうか。もうやめようかな」


 魔王はフッと小さな声をだして微笑んだ。魔王の呟きを聞くと、ずっと言いたくて、でも言えなかった言葉が溢れてきた。


「変装なんて、やめたらいい! 最初は周りの視線が気になりすぎると思うけど、すぐに慣れる! 思っているよりも周りは自分を見ていない。周りの目なんて気にしすぎるな!」


 なんて言い切ってしまったけれど、実際に俺は世間から隠れて生きたことはないから分からない。それに魔王がすぐに周りから浴びる視線に慣れるとも限らないし、正体がバレた状態で街中を歩くと傷つけられることを誰かに言われるかもしれない。余計な発言をしてしまったなと頭の中でグルグル考えを巡らせている時だった。魔王の口が動いた。


何を言ったのかが分からなくて俺は「今、何か言ったか?」と問う。すると魔王は俺から目を逸らしながら「ありがとう」とたしかに言った。しかも僅かに微笑みながら。


――俺に向かって、微笑んだのか?


予想外の言葉と微笑みに対し俺は「お、おぉ……」と小刻みに頷きながら不自然な動きをしてしまった。魔王の微笑みが、こびりつくようにずっと頭の中からしばらく消えなかった。



 過去に魔王と対決した部屋、つまり壁に穴があいた部屋へ全員で向かう。


「えっ?」


 ドアを開け、先に入った子らは壁をじっと見つめながら動きが止まっていた。俺も同じ場所に視線を向けると驚く。予想外の状況になっていたからだ。


 完全に壁の穴が塞がれていて、何も無かったかのように綺麗になっていたのだ。しかもよく観察するときちんと特殊な魔王加工がされていそうなダイヤモンドもキラキラと輝いている。


「どういうことだ?」


 全員が外へ出ていて留守だった。全員? もしかして――。ふと、暗殺集団の朝食の件を思い出す。


「もしかして、壁を元通りにしてくれたのか?」


 俺は天井に向かって叫んでみた。すると前回と同じように天井辺りからコツンと音がした。


「ありがとな!」とお礼を言った。今後もしも直接会う機会があれば、きちんと真正面からお礼を言いたい。


「じゃあ、お絵描きのお話はなかったことになっちゃうのかな……」と、絵を提案したバイオレットが悲しそうに呟いた。賑やかだった空間が静まり返る。


「いや……」


 この場合はどうするべきか。

 俺は魔王の顔を伺う。

 

 すると「予定通り、実行しよう」と、魔王が壁を見つめながらそう言った。静まり返った空間は再び騒がしくなる。俺はバイオレットと目が合うと微笑み合った。


「じゃあ、まずは壁に紙を貼ろうか?」

「場所は予定通りで良いか?」


 グリーンが言うと、ブラックが紙を手に取り、ふたりで背伸びをしながら紙を貼る。


「小さい子も描くから、もう少しだけ下でも良いのかも」


 バイオレッドが場所を確認する。


 中等部の子らが中心となり、パレットに絵の具を乗せたり、作業はどんどん進んでいく。


――大人が指示を出さなくてもこうやって、作業を進めることはできるんだな。


 少し寂しくもあるけれど、嬉しくもある。これが親心のようなものなのか? 初めての気持ちに胸の辺りがじわりとした。


 魔王と執事も手を出さないほうが良いと思っているのか、部屋の隅でそっと見守っている様子だった。


 どんな絵が完成するのだろうと眺めていると、最初は丸や星などの模様を描いているだけだったのが、幼児のイエローが紙に背中をつけてよりかかり、初等部のオレンジがイエローの輪郭を黄色い絵の具を使い、なぞっていた。「何やってるんだ?」と声をかけそうになったが、真剣な眼差しだったから声をかけずに見守り続ける。その作業は連鎖していく。やがて左から小さい子の年齢順に、それぞれの色で輪郭が並んだ。


「これで完成で良いかな?」と、グリーンが問うと、喜びの声が部屋を満たした。


「全員、顔と服が絵の具だらけだぞ、片付けたら綺麗にしろよ!」


 そう、普段服が汚れないように気をつけていた子でさえ、全身が絵の具だらけになっている。洗濯が大変だなと一瞬頭の中でよぎったけれど、喜びで満たされた子らの表情を眺めると、そんなのはどうでもよくなった。片付け終わると、子らは「風呂にお湯を沸かして洗濯もしてくる」と張り切りモードで部屋から出ていき、きちんとできるのか心配した執事も子らの後を追った。


 魔王は真正面で完成された絵を眺めていた。

 俺も魔王の横に並び、一緒に絵を眺めた。


 カラフルな丸や星の模様の中に、リアルな子らと同じ身長の輪郭。きちんと顔のパーツも描かれている。子らの表情は全員が幸せそうな笑顔だ。それぞれ名前と同じ色のワンピースを着ていて、色違いの四葉ブローチもきちんとつけられている。


「いつか、というかすぐにこの絵よりも全員大きくなるんだろうな……」

「……あぁ」

「そして自立していくのか……想像したら嬉しいことなのに寂しいな」

「……あぁ」


 魔王の声が少し震えている?

 魔王をチラりと見ると――目頭をぎゅっと押さえていた。


「魔王、大丈夫か?」

「……」


 しばらくすると魔王は目頭を押さえたまま、部屋から出ていった。


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