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10.魔王だらけ

 幼児らは中から出てくる気配はない。他の大きい子らは、それぞれ遊んだり話をしたりしている。


「魔王、あの黒い子の名前はなんて言うんだ?」

「ギルバードと名付けた」

「ギルバードか……鳥みたいで、覚えやすくて良いな」

「……」


魔王との会話は続かないし、幼児らが出てくるまで待つのも退屈だな。それに、こういう隙間時間も有効に使いたい。


「魔王、今、似顔絵を描いていいか?」

「突然似顔絵だと? 何故だ?」


 魔王は怪しむようにしかめた顔で俺に問う。


 俺はスゴロクのコマについて簡単に説明した。すると「僕も魔王の顔を描きたい」とこの場に残っていた子らが言うものだから、全員で魔王の顔を描くことになった。そして描いたらそれを使いたいとも……。


「じゃあ、それぞれがさっき描いた自分のコマの顔に、それぞれが描いた魔王の顔をお面のように貼ろうか」


 スゴロク本体も魔王、そしてコマのイラストも魔王……全てが魔王になり、どういうことだと思いながらも、全員が賛成したので決定された。


 幼児らが出てきた時に対応してもらうため、執事だけをこの場に残し、絵を描く道具が揃っている遊び部屋へ再びぞろぞろと移動した。


 部屋につくと、白くて小さな紙を配る。それぞれが好きなように描き出した。当の魔王はというと、壁に寄りかかり片足を折り曲げ、膝に手を乗せて無表情で動かずにいた。


――さて、俺も描こうか。


漆黒の長い艶髪、卵のような白い肌。凛とした瞳を初め、全てが整っている顔のパーツ。本人には決して言えぬが、本当に格好良いと思う。思わず見とれてしまう。


「おい勇者、さっさと手を動かせ」


 魔王の低い声に俺はハッとした。


「分かった」


 魔王っぽい色は、黒だなと思い、黒いペンを手に取った。まず、輪郭を描き、続けて髪の毛と顔を描く。身体を加えて完成。ふと子らに視線をやると、まだ描いていた。丁寧でカラフルだな。


――俺の絵、手を抜きすぎたか?


「我はそんなにふにゃふにゃしていないと思うが?」


 じろり絵を見下す魔王。


「真面目に描いたのだが……」

「それは、使えない。使いたくない」

「なんだと?」


 魔王の言い方がキツくて頭に血が上ってくる。魔王の表情も険しくなってきた。


「魔王パパ!」とそのタイミングで黒い鳥族の子が魔王に飛びついて、睨み合いは中断された。赤ん坊のホワイトを抱っこした執事と幼児らも中に入ってくる。


「皆様、リュオン様を描くのがお上手ですね」と執事が微笑むと「私も魔王を描きたい!」と、さっきは執事にコマを描いてもらっていた幼児らも言い、場は穏やかになった。


 魔王は執事に視線を向ける。


「おい、我のコマを作れ」

「わ、わたくしがですか?」

「そうだ」

「わたくしがリュオン様のお顔を描くなんて……絵の訓練などはしていませんし……」

「いいから描け!」

「か、かしこまりました!」


 執事は命令を受け、黒いペンを手に取るとすらすらと迷いなく顔を描いていく。魔王の顔を一切見ずにだ。しかも赤ん坊を抱えながら。


「すごいな……しかも、上手い」


 俺と同じように黒一色なのにそっくりで光と影もありリアルだ。続けて身体も描いていく。文句の付け所が一つもない。


「リュオン様、完成いたしました」


 オドオドした様子で執事は魔王に描いたコマを見せる。


「うん、良いな」

「ありがとうございます!」


 満足した様子の魔王に、執事の顔色が一気に明るくなる。続けて執事は、鳥族のギルバードと赤ん坊のホワイトを他のコマより小さな紙に描いた。描き終え、魔王のコマにはギルバードを、執事のコマにはホワイトを貼った。


 全員が魔王の顔を描き終えると、各自のコマの顔部分に魔王の顔を貼った。


 不思議なスゴロクだな――。


「執事は、執事のコマ用の魔王の顔は描かないのか?」と、俺は執事に尋ねた。

「わたくしは、貼りません。何故ならリュオン様の顔を貼った状態で負けてしまったら、リュオン様に大変申し訳なく、どうしようもない気持ちになってしまうので……勇者様はお貼りにならないのですか?」


 俺はさっき魔王にけなされた絵を見つめた。


「俺は、いい……」


 チート、ここでは発揮されなかったな。俺は周りにバレないように舌打ちし、悔しさをかみ締めながら自分が描いた魔王をゴミ箱へ丸めて捨てた。ちらっと魔王を見ると、魔王は目を細めながらゴミ箱を見つめていた。

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