第六章:未来を記す者
《ミル=カンラ》の地下階段は、まるで世界の底へ向かって続いていた。
石壁には古い魔術の痕跡があり、触れるたびに微かな記憶の残響が耳に流れ込んでくる。
階段を下りきった先、扉があった。
それはまるで「誰かを閉じ込める」ためのものではなく、
**「誰かが自ら閉ざした」**もののようだった。
「リオン。開けるのは……あなたの役目よ」
ユノが静かに言った。
リオンが黒鍵を扉の中心に当てると、かすかな反応が起きた。
鍵の先が青白く光り、第三の封印がゆっくりとほどけていく。
◉部屋の中:円環の書庫
中は静寂に包まれていた。
本棚が天井まで積み上がり、中心には古い木の机。
その机に、ひとりの少年が座っていた。
年齢はリオンと同じくらいか少し下。
白いローブに身を包み、長い銀髪が肩を流れている。
顔立ちは中性的で、目元はどこか“リオンに似ている”ようにも見えた。
「……やっと来たか」
少年は顔を上げると、微笑んだ。
「僕の名前はノエル。
“未来を記す者”であり、**この世界の記録者〈クロノ・ライター〉**だ」
☁ 会話:記録者の言葉
ノエルは、静かに語った。
この世界には、かつて「過去」「現在」「未来」を記す三つの意志があったという。
過去を記す者――それが“灰の王”。
現在を記す者――それが“継承者”。
そして未来を記す者――それがノエルだった。
「……でも、灰の王が“過去”を独占したとき、僕の“未来の記述”も歪められた。
それを正すために、僕は自らを封印したんだ」
ユノが問いかける。
「あなたが持っているのが、第三の鍵なのね?」
ノエルは頷く。
「そう。でも……この鍵は、“まだ渡せない”。」
「なぜ?」リオンが問う。
ノエルの目が、一瞬だけ暗くなる。
「この鍵は、“未来を再構成する力”を持っている。
だが、それはすなわち――この世界を“書き換える”ことができるという意味だ」
「だから、試す。君たちがそれを“託すに足る存在か”を――」
◉試練:未来の幻影
ノエルの指先が、空中に文字を描くと、空間が揺れた。
床が消え、リオンたちはどこか別の場所に転送される。
そこは、まだ来ていない“未来”の記憶だった。
☁ 未来の幻影
――村が燃えている。
――灰の霧が戻ってくる。
――ユノが倒れ、カレドがその亡骸を抱えて泣いている。
「これは……!」リオンが声を上げる。
ノエルの声が響く。
「これは“ありうる未来”の一つ。
君が選ぶ道によって、世界は何度でも滅ぶ」
「未来を記す鍵は、選んだ未来に応じて形を変える。
もし間違った選択をすれば――君自身が、“新たな灰の王”となる可能性もある」
幻影の中のリオンが、廃都の玉座に座っている。
目は濁り、黒い霧を背負っていた。
「……そんな未来、絶対に選ばない!」
リオンが叫ぶ。
「選ばないだけじゃ足りない」
ノエルの声が鋭く響く。
「未来は“意志”ではなく、“行動”で決まる。
君が本当に未来を守る覚悟があるなら、証明してみせろ」
幻影のリオンが動く。
黒い霧を纏い、真の力で襲いかかってくる。
◉ボス戦:影のリオン
これは単なる敵ではない。
リオン自身が心の奥で抱えている、最悪の自分――その具現。
彼の剣は重く、正確で、すべての攻撃が“未来を奪う”力を持っている。
カレドが倒れ、ユノが膝をつく。
リオンは傷だらけになりながら、それでも立ち上がる。
「……お前がどれだけ強くても、俺は俺を裏切らない」
「未来は……奪われるものじゃない。創るものだ!!」
黒鍵が光を放ち、幻影の剣とぶつかる。
衝撃が走り――そして、“影のリオン”は霧散した。
☗☗☗
気がつくと、再び書庫の中にいた。
ノエルが、微笑んでいた。
「……君は、まだ不完全だ。でも、可能性を見せた」
彼は、胸元から光る小さな鍵を取り出す。
「これが、第三の鍵――**“未来の記録”**だ」
リオンがそれを受け取ると、鍵は淡い白金の輝きを放ち、
リオン・ユノ・ノエルの三人の紋章が一瞬重なった。
カレドが小さく言う。
「これで三つの鍵が揃った……だが、旅は終わらんぞ」
ユノが頷く。
「次は、“世界の真の記録”――
この世界そのものの設計図を探しに行く」
ノエルが静かに言った。
「その場所の名は――《始原の図書館》」




