第36章:そして、鍵は空へ還る
灰が消えた。
それは終わりではなく、始まりだった。
黒き鍵が砕けたその瞬間から、世界は「誰かに支配される運命」から自由になった。
塔も、設計者も、そして“定められた物語”さえも、もはや存在しない。
代わりに在るのは、ただ静かで澄んだ風。
初めて訪れた、本当の“自由な世界”だった。
1. 空に残った者
フィアはその場に立ち尽くしていた。
透明な羽を手に持ち、何度も空を見上げる。
「リオン……」
彼の姿は消えていた。けれど、どこかに“感じられる”。
ユノが肩に手を置く。
「多分、あいつは……消えたんじゃない。鍵としての役目を終えて、空の一部になったんだ」
「それって……悲しいこと?」
ユノは少しだけ笑った。
「さあ。でも、俺は“あいつが選んだ答え”を、後悔しないように生きるよ。
――生きて、見せる。あいつが切り拓いたこの世界の続きを」
2. 世界のかたち
世界には“変化”の兆しが広がっていた。
かつて灰に呑まれた都市も、森も、海も、新しい命で満ちていく。
争いを続けていた国家たちも、旧来の権力を手放し、小さな村のような共同体へと戻っていく。
魔法は静かに眠りにつき、代わりに人々の知恵と想いが“奇跡”を生み始めるようになった。
そして――
かつてリオンたちがいた小さな丘の上に、一本の木が芽吹いていた。
その枝には、黒でも白でもない、透明な実がゆらりと揺れていた。
3. 手紙
ある日、フィアは一通の手紙を見つけた。
差出人は、どこにも書かれていない。
だが、それは確かに“彼”の字だった。
「この世界に、もう鍵はない。
でも、お前の手には“扉”がある。
開けるかどうかは、お前が決めろ。
俺は、それでいい」
フィアは目を閉じ、静かに微笑んだ。
「また、どこかでね」
風が吹いた。
そして、その透明な実から、一枚の羽が舞い上がる。
それは、まるで新しい物語の始まりを告げるように――空へと還っていった。
――完。




