第十一章:創造の遺言
《記述階層適応》の光に導かれ、リオンたちは書架の最深部――「無綴の間」へと足を踏み入れた。
そこには、本も巻物も碑文もなかった。ただ、無音の空間に浮かぶ六つの光球。
それがこの世界の“設計者たち”の残した意志だった。
◉問いかけ:誰のための世界か
「来たか、継承者たちよ」
六つの光が、異なる声で語りかけてきた。男の声、女の声、老いた声、幼い声――だがそのどれもが、人格とは断絶された意志だけの存在だった。
「お前たちは問う。“この世界は誰が創ったのか”と。
だが正しくは、“この世界は誰のために再び創られるのか”だ」
リオンが問い返す。「……どういう意味だ? 俺たちは、ただ壊れかけた世界を――」
「その“壊れかけた”という定義すら、設計されたものだ」
六つの光のうち一つが淡く震えた。
「この世界には“継承者”と呼ばれる者が周期的に現れる。
鍵を与えられ、選択を強いられ、“理想の再構築”という名のもとに世界を塗り替える」
ユノの眉がひそめられる。「じゃあ、私たちは……利用されてるってこと?」
「否、意志を試されているだけだ。
ただしその“意志”すら、純粋なものかどうかは――まだ、見極めの途中だ」
◉暴かれる“最初の継承”
光は一つの幻影を投影した。
そこには、かつてリオンたちが存在する遥か昔、“最初に鍵を与えられた者”が映っていた。
彼はこう叫んでいた。
「これは救済じゃない! 選ばれた者の“偏った理想”だ! こんな世界、認められるか!」
結果、彼の選択は否定され、鍵は剥奪され、記録から抹消された。
ゼル=ヴァリエと同様、記憶から消された“継承失敗者”だった。
セレナの言葉が蘇る。
「記録は残酷です。意志が弱ければ、容赦なく“世界ごと塗り潰される”」
◉リオンの選択
リオンはゆっくりと前に進み、六つの光の中央に立った。
「俺はもう、何が正しいかなんてわからない。
でも、それでも選ぶことはできる。自分自身の意志で、誰かのために」
鍵が青白く輝き、六つの光が一斉に振動する。
「その言葉が真実ならば――お前たちに、最後の階層の門を開けよう」
「次に待つは、最後の継承。世界の命運をかけた“再記述の間”だ」
◉終わらない選択
扉が開いた。その先には、完全に空白な空間が広がっていた。
何も描かれていない世界の原稿。
そこに、リオンたちは一行ずつ、自分の意志で書いていくことになる。
選び取った過去。守りたい今。築きたい未来。
その全てが、この空白に刻まれる――“創造の遺言”として。




