9.課題を手伝ってもらう
「ほら、課題やるんだろ、見せてみろ。」
「うぇ、はい。ただいまお見せします!」
この日の課題は、前回からの続きで温度調整を目的としている。つまり私が苦手とするものだった。
大き目のビー玉を最大火力で熱して溶かし、形を変えて作品をつくるのだが、冷却の過程をいかに調整できるかがポイントだ。
エンデ先輩がパンと手を叩いて、周囲に燃え移らないようにするため結界を張ってくれる。
第五学年になれば詠唱なしにこんなこともできるのか…いや、自分が第五学年になってもできる気がしない。
「よし、それじゃいっぺんやってみろ。」
「はい!」
結界もはってもらった手前、断ることなんてできない。
一発でできる気はしなかったが、試しにエイやでやってみる。奇跡よ起きてくれ。
とまあ、奇跡が起きるわけもなく、結果は予想通り。
ちょっと熱くなったかな?という程度にしか表面を熱することができず、ビー玉は全く溶ける気配がない。
入学して約三か月…
薄々気付いてはいたが、私は炎の魔法が苦手だった。
「…うまくいきません。」
「…」
エンデ先輩のほうを見ると、頬に手をあて何か考え込んでいた。
「おまえ、怖がってるだろ?」
「え?」
「炎の魔法は恐れがあると失敗する。…気合でガツンとやれ。もし怪我したりしたら、俺が治してやるから。」
図星を付かれてびっくりした。魔法を習いたての頃、炎の魔法でやけどして以来、私はこの属性の魔法を使うのが苦手になっていたのだ。
憧れのあの魔法は炎を使った魔法だというのに、苦手としているとはこれいかに。
「ほら、固まってないでもう一回やってみろ。」
「はい!」
再度詠唱してビー玉に炎を向ける。
怖くない怖くない、きっとエンデ先輩に怒られたときのほうが最大級に怖いから、炎がどれだけ熱かろうと怖くないんだ!
すると、ビー玉がゆっくりと融解していく。
できた!
「止まんな、次だ。そのまま集中して、ゆっくり形を思い浮かべろ。」
そうだった、溶かして終わりではない。型も何もないこの溶けたガラスを、自分で調整し新たに形作らなければいけないのだった。
「形は決まってるのか?」
「はい、星型にするつもりです。」
右手をゆっくり動かし、針をひっぱり出すように、一つずつ形作る。慎重に慎重に…
「そろそろ温度を落としていけ。ゆっくりだ、急速に温度を下げると割れるぞ。」
先輩の言葉のとおり、ゆっくりと温度を下げるように調整していく。
「時の魔法は使えるか?」
「はい、つい最近授業で習いました。」
「じゃあ温度調整を止めてそのままガラスの時間を進めろ。急ぐなよ。」
言われたとおりに時の魔法の詠唱をして、ガラスの内部の応力を取り除いていく。
「そろそろいいぞ。」
その言葉とともに、魔法を解除する。
コロンと星型のキレイなガラスのオブジェが地面に転がった。
で、できた。
「…っ先輩!!できました!一発で!!私入学してからこの方、こんなに早く課題が終わったの初めてです!ありがとうございます!!!」
興奮から、いつもより大きな声が出た。
アドバイスに従っただけなのに、これほど簡単に課題がクリアできるとは思ってもみなかった。
「そうか、そりゃ良かったな。」
そう言って薄っすらと笑うエンデ先輩。
…あ、この感じ、思い出の中のエンデ先輩と似てる。
私がじんわり懐かしんでると、エンデ先輩は第五学年の講義がまだ残ってるということでそそくさと校舎に戻っていってしまった。
結局何がしたかったのかよくわからない感じになってしまったが、課題も終わって私はほくほくで寮に帰ったのだった。