5.友人に話を聞いてもらう
◇
気付けば昼休みが終わるギリギリになっており、慌ててクロを連れて座学クラスの教室に戻った。
私が席に着くと、魔法科で一番仲の良い友人のキアラがこちらに向かってやってきた。
魔法科は第四学年の長期遠征があったり普段の課題が多かったりと過酷と評判のため、圧倒的に女の子の数が少ない。私たち第一学年に至っては、私とキアラのたった2人だけしか女子がいなかった。
「ネモ。遅かったじゃん、テキストあった?」
「うん、やっぱり演習室に置き忘れてたみたい。」
そう言ってテキストを見せる。
「見つかって良かった。で、その腕の生き物は何か聞いてもいい?」
キアラの視線は私の腕の中の真っ黒の子犬に向いている。
だよね、そりゃツッコむよね。
「ええと」
そういえば何なんだろ、この子・・・幻獣名も特性も何も知らないや。
「クロって名前の犬だよ。」
とりあえず名前を答えてみた。
「いや、犬っぽいのはわかるけど、明らかに従属契約してるじゃん。」
クロの首には金属の首輪のようなものが付いている。この首輪は契約の印であり、色は契約主の瞳の色となる。クロの首輪は私の瞳の色である深い緑色をしていた。
「なんかよく分からないままに、契約しちゃったみたい。」
「何その他人事感。後で契約届出しなよ。」
「あーうん、今日が終わったら提出するつもり。」
「あのね、さっきエンデ先輩に会ったんだ。」
キアラに先程の話を聞いて欲しくて、話を振ってみた。
「うっそ!?あのネモがずーっと恋焦がれてきた先輩?そっか、今日から戻ってきたんだね。」
「恋焦がれてた訳ではないんだけど…」
「で?どうだった?ネモのこと覚えててくれた?」
「いや、まったく。」
誰だてめえと言われメンチまで切られるとは思っても無かった。
「なんか別人レベルで変わってた。」
「どういうこと?爽やかイケメンなお兄さんだったんだよね?」
「どっちかというと、やさぐれ兄貴って感じだったよ。」
「何それ。ネモが思い出の彼を美化しすぎてたってこと?現実見ちゃってガッカリしてるの?」
そんなことはない。あの森で会った彼は、確かに人当たりのよいお兄さんという感じだったはずだ。
そして先ほど会った彼は、眼光が鋭すぎて関わりたくない感じのお兄さんという感じだった。
「てか、さっきから何口にくわえてるのさ?」
「ああ、飴だよ。さっきエンデ先輩からもらったやつ。」
「ちゃっかり餌付けされてんじゃん。」
これは餌付けなどではなく、私を泣かせてしまった詫びに頂いたものだとはとても言えない。
言ったが最後、先輩のところに何友人を泣かせてくれてるんだと、キアラなら突撃しかねない。
あのジャックナイフに直情型の彼女をぶつけるのは恐ろしすぎた。
「むしろ口止め料だよ…」
と、そこまで喋っていたところで講義の時間となり、私たちはお喋りを止めた。