2.誕生日のおはなし
「やっと二人付き合いだしたんだってね。おめでとう。」
「えと、おかげさまで…ありがとうございます。」
シャノン先輩と図書室でばったりあったところ、ダリオ先輩と付き合ったことをお祝いされた。
「じゃあ、今年のダリオの誕生日は二人でお祝いするのかな。毎年寮の皆で祝ってやってたんだけど、今回は別日でやるかぁ。」
「え?誕生日?」
「あれ、聞いてない?今週末、あいつの誕生日なんだけど。」
「き、聞いてない・・・!」
今週末だと!?
プレゼント用意する暇ないじゃん!なんで先輩は事前に教えてくれなかったんだ!
「シャノン先輩、私プレゼントとかなんも用意してないんですが、あの人何が良いんでしょうか。何したら喜んでくれると思います!?」
親友のあなたならわかるでしょう、この付き合い立てほやほやの私に助け船をお願いします!
「うーん、なんだろ。俺らも毎年何かあげてるわけじゃないしな・・・あ、魔法が好きだから魔法で何かお祝いしてあげたら?」
「それ一番苦手なやつ!」
初級魔法しかまともに使えないへっぽこの私にそれを言うか。
「まあ何でも喜んでくれると思うよ。こういうのは気持ちが大事っていうし。」
「あげる側としてはそういうのが一番困るんですよ!」
何でもいいといいつつ、外したときのガッカリした顔。自分の兄の誕生日に、なんでもいいというから似顔絵を描いて渡してあげたら、一瞬固まったのちに、ぎこちない笑顔でありがとうと言われ、あのときの気まずさは強く記憶に刻みこまれている。これじゃない感の表情は見ていて非常に切ない。
本当にどうしよう。。。これは部屋に帰って作戦会議だ。
◇
「カタリナ。私、ピンチ。」
「んーピンチなの?なんで?」
「先輩の誕生日が今週末らしいの。ド平日。プレゼント買いに行く暇もないし、何すればいいかわかんないんだけど・・・なんかいいアイデアない?」
「ええ~・・・また急だね。べったべたに"私をプレゼント"でいいんじゃない~?」
「やだよ!寒すぎるよ!」
おまえマジか、とドン引きされる顔が目に浮かぶ。
「付き合って初めてのお祝い事ってかなり印象に残りそうじゃない?はずしたくないんだよー」
「そう言われても~。私エンデ先輩のことネモ伝いにしか知らないしなぁ。まあ、こういうのって気持ちが大事っていうから、なんでもいいんじゃない?」
「それ今日の放課後に聞いたセリフだよ!」
だめだ、何も思い浮かばない。これはサプライズとか狙わずに本人に聞くしかないか。。。
◇
「先輩、今週末が先輩の誕生日って聞きました。」
「え?ああ、そうだけど。シャノンが言ってたのか?」
「はい、シャノン先輩から聞きました。何でもっと早く言ってくれなかったんですか?それから、その日何かしたいことありますか?」
教えてくれなかったことに不満を言いつつ、立て続けにやりたいことを直球で質問してみる。
「単純に忘れてたってだけなんだけど。そうか、俺、週末誕生日か。」
この反応だと、この人本気で自分の誕生日を忘れてたんだな。
自分の誕生日にこんなに興味がないのってもっと年取ってからじゃないの?
「やりたいことねえ・・・今んとこなんも思いつかねぇな。」
「もっとやる気出してください!学校終わりに私お祝いするので!夜は空けてて!」
「ん、わかった。」
よし、予定の確保はOK。
でもノープラン。
昼は学校だし・・・夜、夜か~・・・
「あの、めちゃくちゃベタなんですけど、星見塔で夕日が沈むのでも眺めませんか?」
召喚科のある星見塔は学園回りの眺望を楽しむことができる。休日は一般の人にも公開されているので、定番のデートスポットになっている。
付き合い立ての私たちには持ってこいなのでは、と思って提案してみた。
「いいな、そうしよう。今の時期だと日の入りは遅いけど寒くないしな。」
お、良かった、好感触だ。
「じゃあ、軽食用意しておきます。先輩、ケーキ食べる?」
「いや、外だしいいかな…」
「了解です!」
よしよし、大分整ってきた。あとは当日に準備するだけだ。
◇
そして迎えた誕生日。
授業が終わると大慌てで寮へ戻り、寮食をランチボックスに詰めてもらう。
本当は街まで買いに行きたかったけど、買って戻って来るには絶妙に時間が足りなかった。先生の都合で休講になった授業の振替が、今日に限って六限まで詰まっていたのだ。ついてないにもほどがある。
でも、「今日彼の誕生日をお祝いするの」と寮の食堂のおばちゃんに伝えると、すこし豪華なおかずをたくさん詰めてくれて、簡単なデザートまで付けてくれた。ありがたい。
ランチボックスをカバンに入れたあと、外出届を寮母さんに提出し、待ち合わせ場所の星見塔へと急いだ。
(…げ、もういる!早い!)
待ち合わせ場所は星見塔のてっぺん。日頃鍛えてるわけでもない私の息はきれ、足はガクガクだ。
呼吸を整えてから、先輩に向かって呼びかける。
「すいません!遅くなりました。」
「いや、俺が早めに来てただけ。ここ全然来たことなかったけど、ほんと眺めいいな。」
「わ、ほんとうだ。私もてっぺんまで登ったのは初めてです。」
頂上から見下ろす眺めは、予想以上に壮大だった。
塔の麓には学園の校舎が整然と並び、森を隔てた奥には中等部の校舎も見える。
反対側には街並みが広がり、その外れにはぽつりぽつりと住宅が点在していた。
「先輩ここまで登るの疲れなかった?私、いま足が棒なんですが。」
「いや、別に。」
「私だけか…日頃からもうちょっと運動するかな…」
先輩もそんなに運動しているイメージは無いのに、なんでだ。
あ、違う、肝心なこと言うの忘れてた。
「あの、誕生日おめでとうございます。」
「ん、ありがと。そんなめでたくもないけどな。」
「先輩は誕生日に興味なさすぎですよね…」
「たぶん家族で祝う習慣がなかったからだろうな。俺の母親、年取るのが嫌だって言って、家族の誰の誕生日も祝おうとしなかったから。」
「おお…それは…」
めずらしい。なんとなく、母親のほうが誕生日とか記念日を大切にするイメージがある。うちの母親も、私と兄、それから父の誕生日は必ずお祝いをしてくれた。エンデ家のママは独特の感性をお持ちのようだ。
「でも毎年寮のみんながお祝いしてくれたんですよね?シャノン先輩が言ってました。」
「あーお祝いっていうか、ただ誕生日に託けて騒いでるだけっていうか…」
「それでも、祝ってくれてることに変わりないですよ。」
「そうだな。それに今年はおまえにも祝ってもらってることだし。嬉しいよ。」
そう言って優しい笑顔を見せる先輩。やめて、照れる。そして惚れる。
「えええと、先輩今日でいくつになったんでしたっけ?私より四学年上だから、もう21歳でしょうか?大人~!」
なんとなく気恥ずかしくなり、矢継ぎ早に話しかける。
「は?何言ってんだよ。今日でやっと18になったんだけど。」
ん?18歳?何言ってんだはこっちのセリフなのだが。魔法に打ち込み過ぎて自分の年齢も計算できないのだろうか。
「先輩、計算できない人・・・」
「残念なものを見る目で見んな、計算くらいできるわ。言ってなかったか?俺、学園に早期入学してるんだよ。」
「え」
早期入学。
まさか、その制度を使う生徒がこんな身近にいたとは。
うちの学園の中等部は12歳になる年に入学するのが一般的で、高等部の入学は大体15歳か16歳の年齢層が多い。外部受験組だと、別の学校の履修を終えてから入学する人もいるので、もっと年上の人も在籍していたりする。
ただ、中等部には早期入学という制度があり、一通りの読み書きができ、ある程度の身体付きとなる年齢の9歳から受験が可能となる。
大体の生徒は小等学校の履修を終えてから中等部を受験するため、制度はあるが使う人なんていないと思っていた。まさかまさかである。
そうか、だからか。ダリオ先輩が仲間内からいじられてるのをよく目にするのだが、あれは弟的なポジションでみんなから可愛がられてたってことなのか。
(というか見た目が大人っぽいから全然気が付かなかったけど、え、昨日までこの人まだ17歳だったってこと?あんまし私と変わらないじゃないか。)
「先輩はそんなに先輩じゃなかったんですね・・・」
「待て、年も学年も上だから。ちゃんと先輩だから。」
「まぁまぁダリオくん、そうカッカなさんな。」
「誰だよ、なんの真似してんだよ。」
その後、夕日が沈むタイミングで二人でご飯をつまみながら、先輩の魔法をみたときのような綺麗な夕日に、二人して静かに沈んでいく様子を眺めた。
どちらともなく手を重ねて、互いの体温を感じ取る。こうして二人で同じ景色を並んで見れるなんて、出会った当初は考えもしなかった。
そして日が完全に沈んだとき、土属性と光属性の合成魔法を施した光る花をプレゼントした。
「まさかの彼岸花…」
「彼岸花じゃないです、完全オリジナルです。先輩をイメージして作成したらこうなりました。」
赤とオレンジの光は先輩の炎をイメージしてみたのだが、伝わっただろうか?
「めっちゃ複雑だけど、うん、おまえらしいな・・・ありがとう、ネモ。」
辺りはもう真っ暗で、光る花が足元を照らす。
先輩が私を自分の傍へと引き寄せ、そして。
その後のことについては、濁しておくことにする。
本編で触れて無かった年齢について明確にしてみました。




