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1.変わらないことと変わったこと

本編から一ヶ月後くらいの話。


「は!?うそ!?付き合ってんの?いつから?」


キアラに先輩との仲はどうなってるか聞かれたので、付き合ってることを伝えたところ、めちゃくちゃに驚かれてしまった。


あれ、私キアラに言ってなかったっけ。言ってなかったのか。


「確か…一月くらい前から、かな。あれ、結構経ってるな…」

「一月前って!ちょっとー、なんで今まで黙ってたの!!!」

「いや、私キアラに伝えたつもりでいた。なんかごめん・・・」


意図して黙っていた訳じゃない。

とっくに伝えたものだと本気で思い込んでた。


「全然わかんなかったわ・・・ねえ、疑ってるわけじゃないけど、ネモの妄想じゃないよね?」

「いやあ、最初は私も私の妄想なんじゃないかって思ってたけど、ちゃんと付き合ってるよ。うん。」


気持ちが通じ合ったあの日、寝て起きたら実は夢だったんじゃないかなんて思ったりしたのだけども。翌日改めて本人に確認したら、夢じゃないって言われて安心したのを覚えている。


「ネモとエンデ先輩とがやっとくっついたか・・・ああ、これはヒルデンをからかいに、いや、慰めにいかないと。」

「・・・言い訳じゃないんだけど、言わなくても周りは勝手に気付いていくもんだと思ってた。」


だって今までちょっとしたことで散々噂になってきた。なぜか噂の出回るスピードも速いし、今回もとっくに知れ渡ってるんだと思い込んでいた。

それに、クラスメートでも、彼女が出来たって子はなんとなく雰囲気でわかったりする。私たちもそんな感じだと思ってたんだけど、どうやら違ったようだ。


「いやいや、言われないと気付かないから。てかクラスのやつは“彼女できたぜー!ウエーイ!”って馬鹿騒ぎしてるから気付かざるを得ないってだけ。ネモたちの場合、周りから見たら全然変わってないからマジで誰も気付いてないと思う。寧ろ付き合ってから何か変わったことってあるの?」


キアラに問われ、一瞬考えて、しばらく考えて、もうちょっと時間をかけて考えてから、気付いた。


「・・・・・・・・・・・・何も変わってない、かも。」

「やっぱり。」


あれ、おかしい。私たちは彼氏彼女という恋人関係になったはず。なのに、今までと会う頻度も変わらないし、会ったところでいつも通りだ。


放課後にちょこっと会って、クロをモフって、私が課題してるのを先輩が眺めて・・・


逆に世の中の恋人同士って何してるんだ?

そもそもお付き合いするってなんだ?


「ねえキアラ。彼氏と彼女の関係になった人たちって、恋人っていう肩書き以外に何か変わるの?私今まで彼氏いたことないから全然わかんないんだけど。」

「おお・・・そこからか。てか私はエンデ先輩が変わらぬ態度を貫いてるのも逆にびっくりだよ。」


確かに、先輩の方も何一つ私に対する態度が変わった気がしない。

呆れ交じりの視線を私に送るキアラだが、律儀に私の質問に答えてくれる。


「恋人になると何が変わるかって、まず、いい意味で遠慮がなくなる。」

「そうなの?」


といっても今までも先輩にそんなに遠慮してなかった気もするが。


「それから、甘えやすくなる。」

「ふむふむ。」


甘えやすい…そうなのか。もっと甘えていいのか。

いや、いいのか?鬱陶しがられたりしないのだろうか。


「遠慮がなくなると似てるかもだけど、物理的な距離感を気にしなくてもよくなる。」

「ぶ、物理的に…だと?」


パーソナルスペースを気にしないということ?先輩とは付き合い出してからも、付き合う前と変わらない距離感をお互いに保ってるのだけど。

むむむと悩んでいると、キアラは残念そうな子を見る目でこちらを見つめてくる。


「なんか…ネモのその反応見てると、マジで付き合う前と何も変わってないのが丸わかりだね…」

「う、うん…私も、改めてそう思った…」


恋人同士になったのに、今の状態はただの先輩と後輩のまま何も進展していない。

この一ヶ月、一体何してたんだ…


「たぶんなんだけど、エンデ先輩も相当な奥手な気がするから、ネモのほうから何かしら行動を起こしてみたら?」

「ええっ、私から?例えばどんなの?」

「例えば…いつもより積極的にベタベタひっついてみるとか?ちょっとは恋人らしい甘い雰囲気が出るんじゃない?」

「ベタベタ…」


先輩にひっつく。うわ、なんか響きが……考えるだけで顔に熱が集まってきた。


「ネモ、想像だけで顔赤くするのやめな。」

「ご、ごめん。」


全くうまくやれる気がしないけど、勇気を出してやってみようかな…





「というわけで、今日は私から先輩にベタベタします。」

「何がというわけでなんだよ。毎度唐突だな、ほんと。」


いつもの森で先輩と二人の放課後タイム。

早速キアラに言われたことを実践してみることにした。

…したのだが、何をやればいいんだろ。


「で、どうする?」

「ええと…」


ぐぬぬ。先輩、完全に私を見て面白がってるじゃないか。

今に見てろ。私だってやれば出来る子だってところをみせてやる。


「じゃあ、目を瞑って座って下さい。」

「?わかった。」


先輩は素直に目を閉じてその場に屈んでくれる。

よし、準備はオーケー…うう、なんだか緊張するなぁ。


呼吸を落ち着かせて、ゆっくりと先輩の背後に回ってから、エイヤっと全力で背中を抱き締めてみた。


「うわっ」


勢い余って先輩が前にバランスを崩しそうになる。が、なんとか踏ん張ってくれたので、二人とも転倒せずにすんだ。あ、あぶなかった、彼の体幹が良くてよかった。


「おまえなぁ…いくらなんでも勢い良すぎだろ。」


先輩が後ろから抱きついてる私に、振り向きながら文句を言う。


「すいません、慣れないもんで…」


やらかした。恐らく優しく抱き締めるのが正解だったのだろう。これでは想像してたような甘い雰囲気など皆無だ。


と、思いきや、


あれ、思ったより顔が近いぞ。


「で、後ろから抱きついて、これで終わり?」


そこはかとなく悪い笑顔を浮かべる先輩。


ひっ、こんなお互いの息がかかる距離で喋りかけないで欲しい。私の本能が警笛を鳴らしてる。今すぐ離れなければ、何だが嫌な予感がする。


「ちょっと、私にはまだハードルが高かったようです…」


そう言ってさっさと降参宣言をして身体から手を離そうとしたのだが、先輩は逃がすまいと言わんばかりに私の腕を掴み、自身の方へと顔を引き寄せた。


「わ、ちょっとせんぱ、」


言い終わる前に、口にフワリとした感触がする。

まさにあっという間の出来事。


え、今、私、先輩とキスした?


「煽っておいて逃げるのは卑怯だろ。」


「待って待って待って。先輩、いまの、キス!」


「うん」


「うん、じゃなくて、」


「ベタベタするんだろ?」


「言いましたけど。」


「じゃあやってみろよ。何されても抵抗しないから。ほら。」


「ええー…」


私が先輩を抱き締めていたはずが、いつの間にか私が彼にガッチリと抱き締められてる。


なんだこれ…こんなの想定外だっ!!!



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