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36.選択外の世界線①



試験も一段落して、待ちに待った試験休みが来た。

といっても、三日間だけの短い休暇なんだけど。



「魔法薬科と魔術学科は今日も試験なんだね。」


「そうなの〜実技が無いから、その分試験期間は短いんだけど、魔法学科と休みが被らなかった…一緒に遊びに行けないね…」


残念そうに肩を落とすカタリナ。

私は休みだからまだ寝間着状態だけど、カタリナは今から学校だから、制服に着替えて登校準備をしている。

ちなみに私はベッドの上からカタリナに話しかけていたりする。


「試験最終日はどこか行こうよ。そこだけ休み被ってるよ。その日は午前終わりでしょ?」

「うえ、最終日だけ被ってるんだっけ!?うん!いこう!ぜったい空けといてね~!」

「わかった。」



カタリナはそのまま、じゃあ行ってくる、と元気に部屋を出ていってしまった。


カタリナを見送った後、そのままゴロンと横になる。

今日は特にやることもないし、寮食の朝ごはんはスキップして、二度寝しようかな。



「…違う違う。朝のうちにやっとかなきゃ。昨日貰った教科書どこやったっけ・・・」


ベッドから降りてゴソゴソと鞄の中を漁る。


今日こそあの魔法を試すときだ。第一学年の魔法科の生徒が、四属性の制御魔法の試験をパスした場合のみ扱っていいという魔法。メール便の魔法鳥バージョン。


これを使えば、寮を含む学園内にいる生徒のところまで直接手紙を送ることができる。普通のメール便と違って回収時間を待つことが無いので、ほぼリアルタイムで連絡を取ることができるのが利点。


ただ、相手の状況にかかわらず送れてしまうから、制約を色々と付与する必要がある。この制御魔法が難しいため、試験にパスした生徒のみ、という制限がついているらしい。



「まず手紙を書いて…それから制約条件を箇条書きで書いて…。」


・受取人が睡眠中、勉強中、実験中、学園外へ外出中の場合、受取人のデスク上に手紙を置くこと

・受取人の入浴時、排泄時は終了を待つこと


うーん、他に何かいるかな?でも色々書きすぎても大変だし、これくらいにしておこう。


第二学年になれば、声を届けることも出来るらしいが、今の私ができるのは手紙の伝達機能だけ。

でも、これだけでも十分だ。


「よし、じゃあ早速。」


両手をパンっと合わせ、教科書のページに書かれた呪文を丁寧に唱えていく。

緑の魔法の光が自分の両手の中からキラキラと溢れ、同じ色をした掌サイズの小鳥が手紙を咥える。が、咥えたまま、キョトンとして動かない。


あれ、飛んで行かない。


失敗した?


もう一度手順を確認してみるが、何も問題はない。

あ、宛先だ。書くの忘れてた。記述すると確実だけど、口頭でもいいらしい。


「届け先は、ダリオ・エンデ。じゃあよろしくね。」


今度こそ小鳥が窓の隙間から飛んで行ってくれた。


入学してから三か月経つけど、振り返るとこんな短期間で色々な魔法を使えるようになったと思う。まだテキスト無しでは使えないものも沢山あるけど。


魔術学科や魔法薬科に進んでたら、全然違う学園生活を送ってたんだろうな。

魔法練習なんか全くしなくてよくて、今実技に割いてる時間を全部机上の勉強に費してたのかな。もし私が魔法薬科に行ってたら、調合実験しまくりだったかも。机でガリガリする前に、実践して覚えたいタイプだから。


と、窓の外が光ったので視界を移すと、赤い炎を纏ったギラギラした鳥がこちらへ向かって飛んできた。



…もう返事が来た!



早い。そして、私のその辺にいる小鳥と違ってまるで本物の幻獣のような立派な鳥だな…


その鳥は閉まっている窓を通過し、私の前に止まり羽根を休める。そして嘴をパカリと開き、見た目に反して低いダミ声を発した。



『明日午後なら空いてる。それと、差出人の名前くらい書いとけ。』



それだけ言って、炎となって消えてしまった。

いけない、うっかり自分の名前書くの忘れてた。けれどこうして返事が来たということは、私だと分かってくれたらしい。


ふふ、よかった。明日の午後空いてるんだ。勇気を出して誘ってみるもんだな。


実は自分から先輩を呼び出すのは初めてだったりする。

卒論や卒研で忙しい時期だろうけど、この前オーレリアさんに発破をかけられて焦ってしまった。


『魔法練習と告白はお早めに。』


あの言葉が頭から離れない。

明日はきっと、私にとって決戦日になるはずだ。


「今から緊張するなぁ…」


敢えて言葉にして緊張を解してみるが、気持ちがソワソワする。


よし、やっぱり寝てるだけなのも勿体ないし、気分転換のためにも着替えて朝ごはんを食べに行こう。





寮の食堂はいつもと違って人がまばらだ。

普段より遅い時間だから、今ここにいるのは一限が無い生徒と、試験休みの私だけなのかも。


「あれ、おはようネモ!私服じゃん。今日休み?」


トレーを受け取ったところで同じ第一学年の友達のバースィマが声をかけてきた。


「バースィマ!そうだよ、今日から試験休み。召喚科は一限休み?」


召喚科も魔法科並に課題が多いので、課題に追われた遅い時間の夕食組として仲良くなった子だ。

今日は茶色のフワフワした長い髪をハーフアップにしている。彼女はいつもお人形さんのように可愛いらしい。


「うん、この曜日は一限休みだよ。しかも今日は先生の都合で午前授業が全部午後にスライドするんだ。まあその分、終わりも遅いんだけどね。」

「終わりが遅いなら得したのか損したのかよくわからないね。」

「ほんとそれ。あ、あっちの席座ろ。」


食事を受け取ってから、窓際の席に移動する。


「ネモは今日この後予定あるの?」

「なんもない。昼寝するか、買い物行くか迷い中。」

「1日昼寝するっていうのも背徳感があっていいねぇ。」


他愛ない話をしながら二人でダラダラ食べ進めていく。


昼寝か買い物か、どうしようかな。試験休み中は課題も出てない。そんな休みはかなり貴重だから何をしようか迷ってしまう。

と、バースィマがスプーンの手を止めた。


「午前中になんも予定がないなら、ちょっと演習室に付き合ってくれない?最近面白い子の召喚陣を覚えたんだー。見てってよ。」


「面白い子?何それ、気になる。でも午前中から召喚術なんて使っちゃって大丈夫?午後魔力バテしたりしない?」


幻獣の面白い子って、興味しかわかないんだけども、それよりも魔力消費の激しい召喚魔法を朝から使ったりして授業に支障はないのかな?


「この前カタリナから貰った試薬の回復薬使うから大丈夫。」


「え!?私貰ってない!ズルい!」


「ネモは魔力量多いからいらないって思ったんじゃない?それに召喚科は魔力切れで倒れる生徒多いからさ。心配してくれたみたい。」


「言うほど多くないよ〜!放課後にクロを呼び出したら、夜はカラカラだよ。」


「夜まで魔力持ってることが凄いんだって…」


バースィマが呆れた顔をこちらに向ける。

カタリナの回復薬、試薬といえどよく効くんだよな〜…貰えたバースィマが本当に羨ましい。


「じゃあ、30分後に共用棟の練習室ね。召喚陣準備しとく。」

「りょうかーい。」



一度部屋に戻って歯を磨いたり色々しているうちに、気づけば約束の時間になっていた。

慌てて練習室に向かって中に入ると、既にバースィマが召喚陣を描き終えていた。


「ごめん、待った?」

「ううん、ちょうど準備終わったとこ。ちょうどいいタイミングだったね、早速だけど、喚んじゃっていい?」

「うん、よろしく!」


バースィマが複雑な模様の召喚陣の前に立ち、呪文を詠唱し始める。さらに、宙に向かって指で文字のようなものを書いていき、それらが淡い光を放つ。


アージュン先輩がケロちゃんを喚び出したときも思ったけど、召喚術は絵心が無いと相当に厳しそうだな…

私が真似してやったところで、何も起きないで終わりそうだ。


詠唱が終わったと同時に、陣の中から立派な長い2本の巻角を持った牛サイズの黒い羊の全身が姿を現した。


な、なんて魅惑的な羊毛…!!!!



「じゃじゃーん。どう!?このモフモフ!クロちゃんにも負けてないでしょ?レディラムっていう名の幻獣だよ。」


「負けてないどころか、」


いや、クロが嫉妬したらいけないから言わないでおこう。けれど、レディラムさん、クロ以上の見事なモフモフっぷり。触りたい触りたい触りたい…


「ほら、遠慮せず触って。戦闘用の子じゃないから、気性も穏やかだよ。」

「い、いいの!?」

「いいってことよ〜私らモフ友でしょ?」


モフ友…


クロを散々モフモフしてることから、フワフワしたものに弱いってバレていたらしい。


「じゃあちょっと失礼します…」


思いっきり抱きつきたい気持ちをなんとか抑えつつ、優しくその頭を撫でる。


うわー!!!極上!


モフモフモフモフ…


「ごめん、一生触ってられるかも。」

「でしょ!?でもこの子の面白いところは感触だけじゃないの。」


そう言いながら、バースィマも私と一緒になってモフモフしだす。


「元々状態異常を回復してくれるのに特化した子なんだけど、対象者の不安なんかも食べてくれたりするんだ。よく治療院とかで契約獣として活躍してるみたい。」

「へ〜!本物のアニマルセラピーだね。あ、でも私試験終わったばっかだし、今のところ不安なことは無いから、あなたが食べられるものはあげれそうにないなぁ。」


試験前だとお腹いっぱいにさせてあげれたかもしれない。実技試験の前は緊張で頭がいっぱいだったから。


頭のあたりを撫で続けていると、レディラムが気持ち良さそうにして目を閉じる。


「顔も癒しだねー」


あれ、頭の上にある大きな巻角が淡く光ってる?


「なんか角光ってる?」

「あ、本当だ。なんだろ。」


なんだかその様子が気になってしまい、光に向かって手を伸ばす。


「あ、ネモ、ダメ。この子角を触られると、」


バースィマが止める前に、角に触れてしまった。

途端、淡い光が閃光となって弾けた。




「ネモ、大丈夫?ごめんね、暴走させちゃったみたい…。」


結論から言うと、目の前が光に包まれたあと、慌ててバースィマがレディラムを還したので私たちは何の被害も受けずに済んだ。


「ううん、大丈夫。ごめんね、角は触っちゃダメだったんだね。」

「伝え忘れててごめん。あの子の角は魔力溜めになってて、触られると攻撃してくるの。攻撃っていっても、それまで食べてきた不安や良くない感情を相手にぶつけて精神異常を引き起こすっていうだけなんだけど。」

「だけって…地味に嫌な攻撃だね…でも、バースィマが咄嗟に還してくれたからか、被害を受けずに済んだよ。ありがとう。」


目の前が光ったときはとうなるかと思ったけど、何もなくて良かった。最近幻獣運が良くないな…


「あ、そうだ、さっき()()()()()()()()()()、使わせてもらうねー。」


ん?私から貰った?


「へ、カタリナから貰ったんでしょ?私が魔法薬なんて作れるわけないじゃん。」

「そっちこそ、何言ってるの?魔法薬科のネモが作らずして誰が作るのさ。毎日放課後に実験繰り返して、また材料無駄にした〜!って叫んでるじゃん。」



…え?



私が魔法薬科だと?








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