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34.恐れてたことが起きる①

放課後のモフモフタイム。

一週間ぶりに顔を合わせたダリオ先輩に、この前貰ったブレスレットが消えて無くなったことをカミングアウトした。


「テメー、フザケンナー」


酷い棒読みで、酷いセリフを吐くダリオ先輩。


「先輩、心がこもってません!もっといつもの感じでお願いします!」


「待て、おまえの中のいつもの俺ってこんな感じなのか?というか、何やらせてんだよ、なんなんだよこの茶番。」


「せっかく頂いた御守りを一日で発動して無くしてしまったことを責めて貰ってます。」


そう、カミングアウトしたついでに、どうか私を罵って下さいと、私が用意したセリフ付きでお願いしたのだ。


「どんな嗜虐思考なんだよ…いいよ、防護魔法が働いたってことは、それなりにピンチな状況だったってことだろ?」

「はい、制御魔法の試験の最中に野良の幻獣に襲われそうになりまして。」

「は、なんだそれ、どこにそんな野良がいたんだ?」

「学園の敷地の境界にある湖です。カラフルなお魚の形をしていました。」

「あぶねぇな…下手したら死人が出てるかもしれない案件じゃねえか。」


ダリオ先輩の言う通り、かなり危険な状況だったことはサイラス教諭から聞いた。そもそも学園には敷地内全体に結界が張られているため、幻獣の類は外部から侵入できないようになっている。それを越えて来たということは、相当なレベルの幻獣だったと推察できる。


「でも、先輩の防護魔法が発動したおかげで、お魚は幻獣界へと帰還していったみたいです。」

「…」


あれ、先輩がもごもご何か言ってる。危うく別の被害を出すとこだったとか威力を調整しなければとか…

どうやら、結果的に幻獣相手に魔法が発動して正解だったようだ。



「てか、クロ、おまえはどうしてたんだよ。こういう時の契約獣だろ。」


ダリオ先輩がクロの顔をわしゃっと両手で挟んで問いかける。


<前にも言ったと思うが、今の契約上、主の呼び出し無しには一切手出しできないことになっている。>


「ああ…そうだったか。じゃあ、契約条件を書き換えに行くか。」

「そんなことできるんですか?」

「召喚士なら可能だ。早速アージュンのとこに行くぞ。」

「え、まだ学園に残ってますか?帰宅してるんじゃ。」


もう空は夕焼け色に染まりかけている。学園に残ってる生徒自体、少ないだろう。


「この時間なら、まだ図書室にいるはずだ。召喚科は今試験前だからな。」

「いやいや、試験勉強の邪魔をしてまでやってもらうことじゃないです!試験後に改めてお願いしに行きます。」

「でもそれだと大分期間が空くぞ?魔法学科は再来週から本格的に試験期間に入るだろ。」

「大丈夫、危険な野良幻獣に会うなんて珍しい経験は直近でそう何回もありませんよ。それに、私が咄嗟にクロを呼び出せたら済む話なんですし。」

「そう言われてみりゃその通りだけど…じゃあモフモフしたいときだけじゃなくて、身の危険を感じたときには遠慮なく呼び出すようにしろよ。学園内でも契約獣の呼び出しに関する制約は特に無いからな。」

「はい、了解です!」


なんとかアージュン先輩の試験勉強の邪魔をすることは避けられた。


先輩に言ったとおり、お魚幻獣レベルの幻獣に会うことなんて滅多にないだろうし、警戒していたオーレリアさんとは今のところ接触はない。


クロとの契約条件の書き換えなんて大層なことをしなくても、どうしても助けが欲しいときは、クロに来てもらうよう意識したら済む話だ。


ひょいとクロを抱き上げて、視線を合わせる。


「頼り過ぎないようにしようと思ってたけど、今度からは、遠慮なく喚ばせてもらうね。」


〈もちろんだ。〉


クロはそう言ってペロリと私の頬を舐めた。





「ネモ、演習室の予約空いてた?」

「ううん、ダメ。今週いっぱい全部予約で埋まってた。第二、第三演習室も同じ。」


魔法科の棟にある演習室の利用は、基本はフリーで利用可能だが、貸し切りたいときは30分単位で予約を入れることができる。特に実技試験前は学年関係なくみんなこぞって予約を入れるので、利用できるのは激戦となる予約を勝ち取ったもののみ。


魔法科は再来週が試験なのだが、実技試験に向けて、二週間前あたりから演習室で練習を始める人が急増する。

今日はキアラと二人、試験課題の魔法を練習しようとしていたのだが、演習室の予約開始時間の五限終わりにダッシュで向かったにも関わらず、枠を取ることが出来なかった。


「演習室が使えないとなると、他の科の棟に行くか、それとも屋外でやるかだけど、どうする?私あっつい中、結界張りながら練習するのなんて勘弁だから、他の科の演習室に行きたいんだけど。」

「うん、賛成。最近本当に暑くなってきたもんね。」


もうすぐで本格的な夏が来る。ローズ王国の夏は湿気が多く、実際の気温よりも体感は暑い。

その点、演習室はひんやり冷たい石壁でできており、しかも結界を張らずとも自動修復機能が付いているので、結界を張らずともやりたい放題できる。


「魔法騎士科は明日まで試験だったはずだから、今日は空いて無さそうだね。」

「召喚科は今週末から試験だって言ってたから、こっちはこっちで空いて無さそう。」


演習室は試験前から試験最終日までが利用のピークのため、試験が終了している学科に行くのがねらい目。魔術科と魔法薬科には演習室は無いから、となると残すは…


「じゃあ、幻術科に行くか。幻術科の子が昨日『試験が終わったからやっと遊びにいけるー』って喜んで帰ってるの見たわ。あ、でもネモは幻術科の先輩と一悶着あったから、学科棟にも近寄るの避けてるんだっけ?」

「ん-そうなんだけど、でも試験が終了したってことは、今日から幻術科は試験休みに入ったってことでしょ?たぶん演習室で会うことは無いから大丈夫。」

「よし、じゃあ早速向かおう。同じこと考えてる子が他にもいそうだし。」

「了解。」


駆け足で二人、幻術科の棟へと向かう。

水属性の制御魔法の実技試験は、先週の野良幻獣事件を持って完了し、風属性の分は昨日終わった。残すは火属性と土属性の制御魔法の試験のみ。


火属性は私が苦手、でも土属性は得意、土属性はキアラが苦手、でも火属性はそこそこ得意ということで、今日はお互いの苦手部分を教えあうという予定だった。


幻術科の第一演習室に着くと、幸いまだ利用者はおらず、今のうちだ、と急いで教室前にある予約表に名前を書き込む。


「よし、1時間枠確保!」

「じゃあ最初に火属性からやろうか。ネモはまだうまくいって無いんでしょ?先に片付けちゃおう。」


キアラの言う通り、今回の試験課題となっている火属性制御魔法の呪文がイマイチうまくいかない。

途中までいい感じなのに、最後になって言うことを聞いてくれなくなる。最悪、捨てでもいいか…と半ば自棄になっていたくらいだ。


「ありがとう、じゃあ私からね、見てて!」


まずキアラがお手本を見せる。

最初に基本呪文を唱え、掌サイズの炎を出す。それから、制御魔法でその炎を上下左右に動かし、最後に自分の身体の周りを上から下まで一回転させて終わり。

キアラは何も難しいことは無いと言わんばかりに、なんなくやり遂げる。


基礎中の基礎の試験内容なのだが、これが絶妙に難しい。炎なので、揺れるし、大きさの調整も難しく、下手をしたら火傷する。私は上下左右に動かすところは、なんとかなるのだが、身体の周りをぐるぐる一回転させるところで毎回身体の一部に炎があたってしまい、同席している担当教諭やクラスメートに消火してもらっていた。


「じゃあ次にネモ、やってみて。どこで躓いてるのか見ててあげる。」

「わかった、いくよ…。」


まず基礎魔法を展開。炎の大きさも、大きく小さくもない掌サイズ。

次に制御魔法の呪文っと。よし、これで上、下、右、左…


「うん、ここまで何も問題はないように見えるよ。」


そう、ここまでは毎回うまくいくのだ。問題はここから。


次に、再度自分の上部まで炎を移動させ、徐々に下に降りて行きながら自分の周りを一周…


「ネモ、髪!燃えてる!」


「ぎゃー!熱い!水っ!」


慌てて魔法を解除し、水属性魔法で消火する。


「ひー先っぽが焦げた!!!やだー焦げた!」


髪の先っちょの方がチリチリになっている。最悪だ…寮に帰ったら一目散に毛先を整えたい。


「うーん、なんていうか、「雑、に見えるね。」


キアラのセリフを奪う形で、扉付近から声がした。キアラと二人、声のしたほうを振り向く。


「…こんにちは、懐かしい魔法を見させて貰っちゃった。あなたは早く終わらせようと、制御魔法の微妙なバランスの注意を欠いてるように見えたんだけど、あってる?」


さっきの私の魔法に対する感想と助言を述べながら教室の中へと足を進めてくるこの人は―


「オーレリアさん…」

「ちゃんと挨拶するのは初めてだね、ネモ・フィリアスさん。私もネモって呼んでもいい?」

「お好きにどうぞ、です。」



まさかの人物に遭遇してしまった。



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