32.これが今の実力差
「ネモ、エンデ先輩に取り次いで貰えないだろうか。」
またもや午前の授業終わりに魔法科の教室までやってきたジョシュ。
開口一番ダリオ先輩に取り次ぎの依頼とは、また唐突だな…。
「取り次ぎって、一体なんでまた。」
「ヒルデン、喧嘩でも吹っ掛けにいくの?」
横にいたキアラも怪訝そうな顔で尋ねる。
「喧嘩ではないが、エンデ先輩に手合わせを申し込みたいんだ。けれども、個人的に面識が無いからネモにお願いしている。」
「手合わせって、結局喧嘩みたいなもんじゃん。」
「そうではない。最近、教師から自分よりレベルが高い者と一戦交えてみなさいとアドバイスを頂いた。それでレベルが高い人といえばエンデ先輩を思い付いたんだ。ちなみにだが、一つ上の魔法騎士科の先輩方とは既に対戦済で、俺が全勝している。」
「おお、一つ上の学年の人たちに全勝…凄いね。でも、それならさらに学年が上の魔法騎士科の先輩方に模擬戦を申し込む方が先じゃない?」
何となくだけど、第一学年のジョシュが第五学年のダリオ先輩に挑むのは一般兵が総大将にいきなり突撃しにいくような無謀さを感じた。
「それも考えたんだが、一度トップレベルの人と闘って自分の実力が今どれだけのものか知っておきたいんだ。頼む。」
「ううん、まあ面白そうではあるんだけど…」
ちょっと二人が闘ってるところをみたい。
というか、ダリオ先輩の模擬戦をみたことが無いので、見てみたい。
「とかいって、本当はこの前ネモが先輩と出掛けたことを知って、その憂さ晴らしをしたいだけなんでしょ。」
「まあ、正直なところ、それが本音だな。つまり…何でもいいから一矢報いたい。」
「何だそれ」
私とダリオ先輩のデートはオーレリアさんの件で割と色んな人に知られることになった。どうやらジョシュの耳にも入ったらしい。
「一応今日の放課後に会う約束してるけど…」
「ネモ、たぶんだけど、その二人きりの時間にジョシュを連れてったりなんかしたら修羅場になる気がするから止めときな。昼休みだから第五学年も食堂にいるかもしれないし、アポ取りに行こう。ほら、ネモ、ヒルデン早く行くよ。」
「キアラめっちゃノリノリじゃん。」
「そうだな、早く予定を押さえねば。ネモ、申し訳ないが食堂へついて来てくれ。」
結局、キアラの案に流されるまま、三人でダリオ先輩を探しに行くことになってしまった。
「午前中登校してるか怪しいよ?いなかったらまた明日にしよう。」
食堂に向かって歩きながら、キアラとジョシュに釘をさす。
第五学年になると履修授業の数が減るため、日によっては学園に来ない生徒もいたりする。ダリオ先輩は毎日学園に来ているようだけど、午後から来るときもあったりするから、正直今から行って食堂で会えるかどうかは分からない。
「どう、いる?前に魔法学科の第五学年の面々があの辺陣取って食べてたよね。」
食堂に着くや否や、当たりをつけながらダリオ先輩探しを開始する。
「うーん、いない…かなぁ。」
キアラが言ってた方面を見るが、それらしき人は見当たらない。食堂はここと、他の学科の棟にもいくつかあるので、そちらに行ってる可能性もある。
「おい、外のテラスのあの辺、第五学年っぽくないか?」
ジョシュが窓の外を見て指差す。確かに、体格的に上の学年だ。あ、シャノン先輩だ。でも肝心のダリオ先輩がいないな。
ダリオ先輩探しで熱心に見つめ過ぎたせいか、シャノン先輩がこちらに気付き、手を振ってくれた。
「シャノン先輩がこっちに気付いてくれたみたい。ちょっとに聞いてくるね、ここで待ってて。」
そう言い残して、テラスのシャノン先輩の元まで行くものの、上級生の中に一人で乗り込みに行くのは少し緊張する。
「やあネモ。どうしたの?」
「こんにちはシャノン先輩。ダリオ先輩を探してるんですが、後でこちらの席に来たりしますか?」
「いや、調べものをしたいって言ってたから、今は図書室にいると思うよ。」
「そっか、図書室か。ありがとうございます、行ってみます。」
ご飯を後回しにしてまで調べたいものってなんだろう。
卒研関連のことかな?
「待って、もしかしてダリオを探してるのって、向こうでこっちを見てるネモのお友達に関係してる?」
シャノン先輩が窓越しにこちらの様子を伺ってるジョシュを見て言った。あれ、キアラがいない、どこいったんだあの子。
「そうです、あの魔法騎士科の彼が、ダリオ先輩と手合わせがしたいとかで。」
「何なに、一年がダリオに挑むの?」
「めっちゃ面白そうじゃん。いつやるの?見たい。」
私とシャノン先輩とのやりとりに静観していた友人たちが、手合わせと聞くや否や話に食い付いてきた。
「いやぁ、ちょっと、まだダリオ先輩がOKするかもわからないんで。」
「たぶん断りはしないと思うよ。俺も別の意味で見に行きたいけど、手合わせに関しては一瞬だろうから、いいかな。」
「一瞬でしょうか?挑戦しようとしてる彼、第二学年の先輩たちにも勝ったらしいんですが。」
「ダリオは戦闘実技において負け知らずだよ。その辺の教師より強いんじゃない?」
「負け知らず…知らなかった…」
炎魔法の扱いについてはトップレベルだとかいうのは聞いていたけど、戦闘実技もトップレベルなのか。それは軍からスカウトが来るのも納得だ。
「じゃあ、彼の健闘を祈るよ。」
「はい、ありがとうございました…」
キアラたちの元に帰りながら頭を抱える。
これは、無謀だから止めときなってジョシュに伝えるほうがいいのかな?でもなぁ、やっぱり二人が戦ってるところは見たいなぁ。うん、よし、余計なことは言わないでおこう。
「ネモ、どうだった?いた?」
「あ、ううん、図書室にいるかもだって。」
「図書室か。じゃあすぐに向かおう。」
「はい、これネモの分も買っといたよ。食べながらいこ。」
ほら、とキアラがサンドイッチを手渡してくる。どうやら先程姿が見えなかったのは購買に行ってたからだったようだ。
「ありがとう。」
有り難く受け取ったものの、これは、また昼休み返上パターンかな…午後の授業に間に合いますように。
◇
学園の図書室は一つの棟になっている。
この図書室というか図書棟にはあらゆる種類の本が所蔵されており、自習スペースもあらゆる学科の学生たちが勉強できるよう充分に広い。そのためダリオ先輩を探すのに苦労するかと思ったが、思ったよりすぐに見つけることができた。昼休みの利用者が少なかったこともあるが、最近自覚した私の恋愛フィルターのせいか先輩の周りだけ光ってみえた気がした。割と重症かもしれない。
三人で彼の元に近付いていくと、先輩は中央にある勉強机が並んでるエリアに本を山積みにして、何やらメモを取っていた。集中してるところ、邪魔しづらいな…
私が声を掛けるのを躊躇っていたところ、視線を上げたダリオ先輩と目があった。あ、ちょっと驚いてる。これまで図書室で会うことなんてなかったもんなぁ。
「…よお、珍しいな。おまえも調べものか?」
「こんにちは。調べものじゃなくて、先輩を探してたんです。」
「俺?」
「はい。正確には、私の友達が。」
先輩が私の後ろの二人を見て顔を顰める。
が、キアラとは異学年交流授業で面識があったため、気さくに挨拶をする。
「久しぶりだな。」
「ご無沙汰してます、エンデ先輩。」
対して、街ですれ違ったときを除けば、ジョシュとは初対面である。で?おまえは?という表情でジョシュの方を見やり、察したジョシュが自己紹介はじめる。
「こんにちは、はじめまして。俺は魔法騎士科のジョシュア・ヒルデンといいます。突然ですが、今日は貴方に手合わせをお願いしたくてネモに取り次いで貰いました。お忙しい中、申し訳ないのですが、少しお時間を頂けないでしょうか。」
「手合わせ…?いつ?」
「もしご都合がよければ今日にでも。放課後などお時間はありませんか?」
さっき教室で今日の放課後は私と約束があるって伝えたのに、敢えてその時間を指定するジョシュ。わかってて言ったな…
先輩は何て返すんだろ。いいよ、って言ったら何かやだな。
「放課後は都合が悪い。ついでに明日からは時間が取れそうにない。本当は昼休みのうちに調べもんを終わらせときたかったが…やるなら今だな。」
良かった、放課後は回避してくれた!
少し面倒くさそうな顔をしつつも、今からだと受けてくれるらしい。
けど、本当に今からやるの?昼休みってあと半刻くらいしかないのに。
ジョシュのほうを仰ぎ見ると、それで構わないようだった。
「ありがとうございます!では早速演習室へ移動しましょう。」
ジョシュが興奮を隠しきれない様子で演習室へと足を向ける。まさかこんなに直ぐに手合わせが実現すると思ってなかったのだろう。
対するダリオ先輩はまた戻ってくるつもりなのか、資料はそのままに席を立った。
◇
幸いにして、演習室は誰も利用しておらず直ぐに手合わせ…布取り戦だが…ができそうだった。
めちゃくちゃダルそうな顔をしたダリオ先輩。
「正直死ぬほど面倒だし作業を中断されて苛ついてるが、俺に挑戦するその心意気は買ってやる。医務室行く準備しとけよ。」
「必要なのは先輩のほうかもしれませんよ?」
売り言葉に買い言葉。
ジョシュも挑発なんてやめればいいのに。
「で、ハンデは何がいいんだ。」
「ハンデなんていりません。」
「そういうわけにはいかねーだろ。一瞬で勝負がつくのは目に見えてんだから。」
「っなにを、「はいはーいっ!!!じゃあ私から提案です!エンデ先輩は炎属性の魔法禁止!それから、ジョシュと同じ魔法剣で戦うでどうでしょう!?」
興奮するジョシュの言葉を遮って、キアラが中々のハンデを提案してきた。でもさすがに、炎属性禁止は厳し過ぎるのでは?
「ん、了解。」
いいのか。大丈夫なのかな…
私何気にダリオ先輩の魔法で炎以外を使っているところを見たことがないかも。学校案内のときの破壊魔法も炎属性っぽかったし。さすがに他属性を全く使えないということはないだろうけど、なんだかハラハラする。
「じゃあ早速始めましょう。…キアラ、審判をお願いしてもいいか?」
「ほいさ!」
ジョシュとキアラの二人は最近手合わせを頻繁にしてることもあって、こういったことを気軽に頼める仲になっていた。
二人が定位置に着く。
「開始前に武器を準備してください。」
キアラがそう言うと、先にジョシュが呪文を唱え、雷属性を付与した魔法剣を出現させる。この前キアラと布取り戦をしたときと同じものだ。
対して、ダリオ先輩は少し悩んだ様子を見せた後、合わせた手から赤い閃光を散らしてジョシュと同じ雷属性を付与した魔法剣を出現させた。
おお、炎以外のダリオ先輩!しかも魔法剣!レアだ、レア。それでいて、雷属性でも無詠唱なんですね…本当になんでもできるな。
魔法剣の準備ができた二人が、同時に構えあう。
「それでは、…はじめっ!」
キアラの掛け声で布取り戦がスタートした。
開始後二人は睨み合ったままで、どちらとも仕掛ける様子はない。ああ、なんか見てるこっちが緊張してきた…
ゴクリと唾を呑み込んだ瞬間、先にジョシュが足を一歩踏み出した。
すると、
ガキンッ
彼の一歩が合図となり、ダリオ先輩が地面に剣を突き立てる。その瞬間、ものすごいスピードで赤い閃光の稲光がジョシュめがけて地面を這っていき、一拍遅れてバチンっと爆ぜる音がした。
その音の大きさに比例して、ジョシュの身体が後方に激しく吹っ飛ぶ。うわぁ、あれは痛そう!
演習室の壁に全身を叩きつけられ、その衝撃でジョシュの剣が宙に投げ出される。
ダリオ先輩は態勢を立て直す隙を与えず、ジョシュまで一気に駆け抜け、剣先を腰布に向けて振りかぶり布を斬りつけた。
はらり、と布が裂け、地面にひらりと落ちる。
「やっぱり一瞬で終わった。」
ダリオ先輩はつまらなそうな顔をして、首を鳴らす。
室内が静まりかえった。
なんというか、圧倒的な力の差を見せつけられてしまった…
ジョシュだって決して弱くないはずなのに。先輩は彼に攻撃の隙すら与えなかった。
ジョシュ本人も、何が起きたのかわからないという様子で呆然としている。
一緒になって呆然としているキアラに目配せして、終了の合図を促す。
「しょ、勝負あり〜!エンデ先輩の勝ちー!」
「いまのは、なんだ・・・?」
まだ状況を飲み込めず、倒れ込んでるジョシュに、ダリオ先輩がしゃがんで話しかける。
「これが今の実力差だ。ちなみに、こんな俺でも、お前のお父上には瞬殺されたからな。長期遠征の初日、第五学年の魔法騎士科と魔法学科の生徒は、ヒルデン将軍に叩きのめされるという精神的屈辱…いや、指導を受けた。」
「父上が、あなたを瞬殺…」
「さすが軍部のトップだよな。ほら、肩。おまえこの後も授業あんだろ?さっさと医務室行くぞ。」
ダリオ先輩がジョシュの肩に手を回し、彼を立たせて医務室へと向かう。
ジョシュは全身を強く打っており、酷く痛そうな表情をしていた。うーん、骨までいってないと良いけど…
「ネモ、キアラ、付き添いは大丈夫だ。俺が責任持ってこいつを医務室まで連れてくから、予鈴までに教室戻れよ。」
「ええ、でも、大丈夫?」「うん、心配だし私たちも一緒に行くよ。」
「エンデ先輩の言う通り、二人とも先に戻っててくれて構わない。」
「ほら、本人がこう言ってるんだから、まあ…察してやれ。」
ジョシュの顔を顎で示す。ジョシュは身体的にというよりかは、矜恃を傷つけられたことで苦い顔をしているように見えた。
「わかりました、ほら、ネモ行こ。ヒルデン、お大事に!」
「うん…ジョシュ、またね!それじゃあ先輩よろしくお願いします。」
私たちの言葉に二人はそれぞれ手を振って教室を出て行く。
二人が完全に去った後、残されたキアラと私は互いに顔を見合わせた。
「感想言ってもいい?」
キアラが私に向かって言う。
「いいよ、私も言いたい。」
「…一方的過ぎてビビった。」
「激しく同感。」
「たぶん、ヒルデンは今ボロボロだね。主に自尊心が。一矢報いるつもりが、触れることすらできなかったなんて。」
「確かに、あれは暫く落ち込みそうだね…」
「そんでエンデ先輩はやっぱり凄い人だったわ…あの一撃も凄かったけど、実力差がわかりきってるのに、手を抜いてやらないんだから。男前が過ぎるっていうか…」
「うん、だよね。本当に全てが格好良かった。」
やっぱり先輩は誰よりも優しい。忙しい中時間を割いてくれて、ジョシュへの気遣いも忘れない。
「ヒルデンには悪いけど、私、エンデ先輩の株が爆上がりしたかも。」
「ダリオ先輩の良さをキアラがわかってくれて嬉しい。」
「誰目線なの、って、そうだった。ネモはエンデ先輩の古参のファンだもんね…」
何故か生温かい目で見られながら、演習室を後にした。
◇
「あの後ちゃんと授業は間に合ったか?」
放課後、約束通りいつもの森にて、モフモフタイムをしながら先輩が尋ねてくる。
「はい、勿論です。彼の方はどうでした?五限の授業に間に合ってました?」
「ああ、なんとか向かってたよ。本格的な治癒が必要なのに、応急処置だけの状態だったけど。…思ってたよりも派手に壊れてたらしい。」
「壊れてたって、明日登校できるのかな…」
この言い方だと、やっぱり、骨までいってたんだ…
いくら治癒魔法をかけても、短時間では表面の傷しか治ってないだろうに。五限が実技でなかったことを祈ろう。
「今日は調べ物してる中で、急に取り次いでしまってすいませんでした。」
「あー、別に。突然ふっかけられるのには慣れてるから。」
「え、そうなんですか?」
「ああ、俺が下級生だった頃は上級生から休み時間だろうと、移動時間だろうと挑戦を叩きつけられたもんだ。何だったら昼メシ食べてるときに直接攻撃が飛んできたりとか。今の学園は平和だな。」
「なんて恐ろしい。」
私、先輩の世代じゃなくて良かった。
「ねえ先輩。もし私が先輩に布取り戦申し込んだら、先輩はどういう風に戦いますか?」
「…」
あれ、黙ってしまった。
「私に全力で炎属性の魔法使ってくれる?」
「やるかよ。消し炭になるわ。」
「ちぇ。私、先輩の全力の炎がみたい。」
「全力なんて戦場だけでいい。…おまえが入学前のことだけど、演習室で創作した攻撃魔法を思いっ切りブチかましたら、辺り一面焼け野原になったことがある。怪我人はいなかったけど、おかげで一週間謹慎と三ヶ月の労働奉仕が課せられたんだ。こっちが100%悪いけど、散々こき使われて二度とやらねぇって心に誓った。」
「え、だからあそこ一帯他の校舎より新しいんですか?」
「そうだ。俺のやらかしのおかげであそこだけ建替えたんだよ。感謝しろ。」
「先輩、やんちゃですね。」
「言わなきゃよかった。」
掘り出せば他にも飛んでもないやらかしが沢山でてきそうだ。
けどきっと機嫌を損ねるだけだから、ここで止めておく。
「ところで、これやるよ。」
「?」
ぽいっと何かを投げられ、両の手のひらで反射的に受け取る。なんだこれ?
「ブレスレット?」
赤橙と緑の紐を組み合わせて編んだデザインの細身のもので紐の両端には大きなビーズのようなものが付いている。見たところ腕や足首などに括り付けて着けっぱなしにするタイプのものだ。
「ブレスレットというか御守りだ。対魔法の防護機能を付与してある。しばらくつけとけ。」
「ええ、何で急に。」
「前みたいに不意打ちで襲われたらたまんねぇだろ。」
前とは、オーレリアさんのときのことか。
私の中では既に過去のことになっていたのだが、先輩はずっと気にしてるようだった。彼女の謹慎が解けてからは特に。
「もしかして、先輩の手作り?」
「まさか。既製品に魔法付与をつけただけだ。」
でも、魔法付与は先輩自らが施してくれたらしい。物質への魔法付与は魔法体系が異なるので、うちの学園では本格的に学ぶことはできないのだけど、さすが先輩。
「私の目の色と髪の色だ。」
「そこは狙った。」
「えへへ、嬉しい。ありがとうございます。」
わざわざ私を心配してくれたことが嬉しい。
嬉しいついでに甘えてみることにする。
「早速つけたいんですが、先輩つけて。」
「ん」
先輩に向けて利き腕の右腕を差し出す。先輩は器用にそれを巻いて固結びをしてくれた。
「実技授業なんかでは反応しないようになってるから。」
「細かい設定も入れ込んでくれたんですね。」
「さすがに苦労したけどな。でも着けっぱなしにしといて欲しかったから、なんとかしてみた。」
腕についた御守りを見る。初めてのプレゼントだ。
嬉し過ぎて、幸せな気持ちがジワジワと込み上げてくる。
「ありがとうございます、先輩。大事にします!」
「ああ、防護が発動しないことを祈る。」
「うん、発動させてなんかやらない。ずっと付けてたいから。」
どうしよう、笑顔が止まらない。見上げた先の先輩はこちらを見て何故か何とも言い難いような表情をしていた。
「どうかしました?」
「いや…なんでもない。」
「先輩、本当にありがとうございます。大好き。」
「おまえの好きは軽いよな…」
勢いで気持ちを伝えてみたものの、流されてしまった。
まあ、今じゃなくてもいい。卒業までまだ時間はあるのだから。




