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29.友人同士の衝突


「ちょっと疲れてきたんじゃない!?こっとはまだまだ魔力が残ってるよ!」

「うるさい!そっちこそ威力が弱ってきたんじゃないか!?」


演習室にて、二人の男女が激しい攻防を繰り広げている。そしてその様子をのんびりと見守る私がいる。


あ、いけないもうすぐ退去時間だ。


「二人ともー、あと5分でここの使用時間終了だからねー!」

「「わかってる!」」


息がぴったりじゃないか。


模擬戦を繰り広げているのは、私の友人、キアラとジョシュ。キアラは得意の氷魔法で、ジョシュは雷の属性を付与した魔法剣で戦っている。

ちなみに模擬戦は傷つけあうようなものなんかではなく、彼らの腰に付けた布をとるか破いたほうが勝ち。別名布取り戦とも呼ばれているそれなりに平和な戦いだ。

昼休みの間、30分だけ演習室を貸し切らせて貰い、二人はかれこれ時間いっぱい戦い続けていた。


「今だ!」

「げ」


キアラが僅かに息をついた瞬間、ジョシュがそのわずかな間を見逃さず、キアラの腰の布を切り裂く。


「勝負あり~!」


「勝った!」

「負ーけーたーっ!!!!!」


二人とも息が絶え絶えで、満面の笑みで勝利を喜んでいるジョシュに対し、めちゃくちゃ悔しそうに頭を抱えてしゃがみ込むキアラ。そんな二人の元へ駆け寄って声をかける。


「お疲れ様ー、二人とも凄い拮抗してたね。」

「ああ、正直勝負がつかないまま時間切れになるかと思っていた。」

「私は自分が勝つと思ってたわよ!」


キアラはぐぬぬと言わんばかりの表情でジョシュを睨みつける。


「…まあ、負けたんだから、ネモの明日の放課後の時間はヒルデンに譲ってあげる。」

「キアラ~そのことなんだけど…」


なんでこんなことになっているかというと、それは今日の昼休みにジョシュが魔法科の教室に来たことが始まりだった。



「ネモ!明日の放課後空いてるか?」


午前の授業が終わり、さてランチに行くか、というところでジョシュが教室にやってきた。

この子、前もこの時間にやってきたよな。


「お疲れ様、急だね、どうしたの?」

「実は最近話題の舞台チケットが手に入ったんだ。良かったら一緒に観に行かないか?」


そう言いながら二枚のチケットを見せてきた。日付は明日になっている。

演目を見ると、この前の学校案内のお礼として、ダリオ先輩と週末に一緒に観に行くものと同じものだった。

別日の公演だから雰囲気も違って面白いのかもしれないが、最初はダリオ先輩と観に行きたい。申し訳ないけど、と断ろうとしたところ、


「まてまてまてーい!ネモは明日私と用事があるの!残念だけど、あきらめな。」


隣にいたキアラがカットインして私の代わりに断ってきた。ちなみに明日の放課後にキアラと予定なんてない。おそらくだが、キアラは私とダリオ先輩推しとずっと言ってるので、ジョシュが横から入って来るのを面白く思ってないようだった。


「ネモの友人、その用事を別日にずらすことはできないだろうか?チケットの日程は変更できないんだ。」

「無理ですー前々から決めてたから無理ですー」


いつになく強い態度でキアラはジョシュを追い払おうとする。


「ちなみにその用事とは?」

「…」


黙った。おいおい、そこまで考えてなかったのか。

ここはキアラに乗っかって断りの理由を付けるとしよう。


「ええと、キアラと私は、」

「…しょうがない、ジョシュア・ヒルデン、私とネモの明日の放課後の権利をかけて勝負だ!!!」

「!ちょっと待ってキアラ、」

「よし、その勝負受けてたとう。しかしどうやって?」

「演習室に今から移動して模擬戦をしましょう。布取り戦ね。それで勝った方が明日ネモとお出かけできるってことでどう?」

「承知した。」

「ねえ、二人とも本人差し置いて勝手に話進めないでよ!」


二人とも全く人の話を聞こうとしない。

前々からキアラもジョシュも直情型で似てる雰囲気があるなとは思っていた。目標に向かって一直線な二人が揃うと、ある意味最強なのではないか。


あれよあれよと話が進み、演習室の使用許可まで取り付け、昼休みの間に二人は模擬戦をすることになったのだった。


その間にも明日は行けないと言おうとしたのだが、

「明日私、用事は」「用事はないんだよね、わかってる。」

「週末に同じ、」「同じ公演をやってるんだよな。知ってるぞ。」


こんな感じで全く喋る隙を与えてくれず、結局二人の模擬戦を見届けることになってしまった。



「…まあ、負けたんだから、ネモの明日の放課後の時間はヒルデンに譲ってあげる。」

「キアラ~そのことなんだけど…、私週末に同じ公演を観に行く約束があるから、明日は行けないの。ごめん、ジョシュ。それにキアラも。」


「「は?」」


だから、息ぴったりだな。


「ネ~モ~!!!!それを早く言いな!余計な気をまわしちゃったじゃんか!」

「ごめんー!」


でも話を聞いてくれなかったのはキアラの方なんだけど。


「そうか、週末に同じものを観るんだな…でもたぶん演者も休日と平日では違うと思うし、良かったら明日行ってみないか?」


ジョシュは残念そうな顔をしながら、こちらの様子をうかがってくる。


「本当にごめん、週末は初見で挑みたいんだ。」

「そうか…」


「あ、でもさ、せっかくだから、キアラと一緒に行ってきなよ!キアラもその舞台前から見たいってずっと言ってたじゃん!」


ジョシュは一緒に観に行く相手を探してる、私は明日は行けない、キアラは明日予定がない、じゃあキアラと行けばいいではないか、と頭の悪い三段論法を展開して提案してみた。


「いや、それは、」

わかってる、私と観に行くためにチケットを取ってくれたのであろうことは。今、私は悪い奴だという自覚はある。


けれど、そこにキアラが、「いいのっ!?」と食いついて来た。


「その舞台本当はずっと観てみたかったんだ!でも、全然チケットがとれなくて。私と行こうよ、ヒルデン。」


私の提案に躊躇っているジョシュに対し、キアラはめちゃくちゃ乗り気だった。


「キアラ前々からずっと観に行きたいって言ってたもんね。」


実はダリオ先輩と週末に観に行くとキアラに話してたとき、彼女は心底羨ましがっていた。それにさっき教室でジョシュがチケットを見せたときも、穴が開きそうなくらい凝視していたのを私は知っている。


「そうなのか。そんなに観たかったなら、一緒に行こう…、と言いたいところなんだが、条件がある。」


ジョシュがOKを出したと思ったら、条件を出して来た。


「?なに?」

「今日の放課後、もう一戦交えて欲しい。さっきの布戦はとても楽しかった。君の氷魔法の精度はずば抜けていると思う。」

「いいよ!私も楽しかった!魔法騎士科の人と闘うなんて初めてだったけど、魔法使い同士とは違って物理的に避けなきゃいけないから身体も思いっきり動かすしいい気分転換になるね。」


…なんだか、いい具合に意気投合したようだ。

似てる二人だから、ぶつかることさえ無ければ、きっと相性がいいのではないかと思う。


結局、使用時間を過ぎても演習室にいた私たちは、お昼ご飯を食べそびれてしまった。





「明日の放課後、週末に観に行く予定の舞台に誘われたんですが、断りました。」

「ふーん、平日もまた違った感じだろうから観に行ってもよかったんじゃねぇの?」

ダリオ先輩がクロを撫でながら私に尋ねる。私たちはいつもの森でクロとともに駄弁っていた。


「私は先輩と観に行くときに、先輩と初めての感動を共有したいんです。」

「…そうか。」

「先輩、私とっても楽しみにしてるんで、風邪ひかないでくださいね。」

「いや、こっちのセリフ。前日はちゃんと寝とけよ。課題で夜更かしして公演中居眠りなんかしたら最悪だろ。」

「はい!万全の体調で挑みます!」



といいつつ、ここのところ私は週末の予定を楽しみにし過ぎて睡眠時間が少し短くなっていた。

当日は万全の状態で挑みたい。ひとまず今日は早めに寝ようと心に決めた。







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