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26.不機嫌になった理由



「ごめん、ちょっとお腹いたい。五限までには戻ると思う!」

 そう言い残して、バタバタとキアラは教室を出て行った。


 五限までの空き時間、練習室が空いていたので、キアラと次の実習で使う魔法の練習をすることになったのだが、着いて早々に彼女のお腹の調子が悪くなり、練習前に去ってしまった。



仕方がない、一人で練習するか…



いや、その前にモフモフタイムだ。魔力消費は大きいが、今日は五限で終わりだから、実習で余程のことをしない限りは余裕である。心の中でクロを呼ぶ。


「きゃん」

 足元に黒い子犬が姿を現した。


「あー今日も可愛いねえ。」


 尻尾を振ってブンブンこちらを舐めまくるクロ。ああ癒し…

 と、急にクロが私から離れ、教室の入り口の方を見て威嚇し始めた。


グルルルルルル…



「え、どうしたの?何かあった?」


 私がクロと契約してから、この子がこんなに威嚇をするなんて、アージュン先輩がケロリンを呼び出したときにしか見たことが無い。


そして白い光がカッと光ったと思うと、目の前に私より大きな凶暴な様相をした真っ黒の毛並みな狼が現れる。


勝手に成体になった!?


「なに、クロどうしたの!?」


〈主よ、アイツが来る!〉


「アイツって誰?!」


クロが成体の形をとってして戦おうとする相手って、どんなヤバい奴なんだ。鉄壁の守りを持つ学園に、そんな人が侵入してる来るなんて。


〈来た!〉


誰かが部屋に入って来ると同時に、クロがその人物に凄まじい速さで飛びかかる。が、結界に弾き返され、後ろに後退する。

私を守るように前に立ち、姿勢を低くして唸るクロ。

そこに、





「やだなーめっちゃ熱い歓迎じゃん。そんなに俺に会えて嬉しいの?」



シャノン先輩がいた。



〈主よ、全力でやり合ってもよいか?〉

大惨事になるとしか思えない発言である。


「いやいやいや、ダメだよ。一回戻って、ごめんね。」

そう言ってクロを帰し、シャノンに挨拶する。


「こんにちは、シャノン先輩。クロと仲良くないって言ってたのは本当だったんですね。」


クロが消えたと同時に彼も結界を解き、教室の中に入ってくる。


「俺は好きなんだけどねー。まあ、成体で対峙してくれるくらい向こうも俺のことを認めてくれてるんだとポジティブに考えてるよ。」


なんとも素敵な思考である。


「ここで何してたの?練習?」

「はい、友達と次の授業で使う魔法の予習をしようとしてたのですが、訳合って私一人になってしまって。練習前にクロと遊ぼうとしてた所です。」


彼が来たことで遊びは一瞬で終わってしまったが。


「そうだったんだ。俺は息抜きにここに来る練習する生徒の冷やかしに来たんだけど、ネモに会えたからちょうど良かった。」


どんな息抜き方法だ、というツッコミを口に出しそうになったが我慢する。


「ほら、そこ座りなよ。練習前にお喋りに付き合って。」

「あ、はい。」


二人とも近くの縁石に腰かける。


「先週末、町では惜しかったね。俺がもう少し早く合流できてれば、…面白い場面に遭遇出来たのに…」

「面白くないです。ああ、でもシャノン先輩があの場にいたら、彼女さんを紹介してもらえたのか。」

「サシャね。魔法科のOGだから、ネモにとっても先輩だよ。また機会があったら紹介するね。」

「いくつ年上の方なんですか?」

「二つかな。俺が第一学年のとき、第三学年だったから。」

「お付き合いされた時期もそれ位?長いんですか?」

「いや、彼女が卒業するときに付き合い始めたから、今で大体二年くらいかな。」

「そうなんだ〜」

 あのゴージャス美人とシャノン先輩の馴れ初めは大いに気になる。なんとなくだけど、シャノン先輩がゴージャス美人の外堀を埋めてサシャさんを陥落させた気がする。


「まあ俺のことは置いといて。デートしてたんだって?魔法騎士科の期待のホープと。」

「彼、期待のホープなんですか。」

「団長の息子ともあって有名だからね。少なくとも俺ら魔法科の第五学年と魔法騎士科の第五学年は長期遠征で団長と多少絡みがあったから余計ね。」


そうだった、ジョシュは騎士団団長の息子なんだった。


「彼とのデートは楽しかった?」

「楽しかったですよ。友達同士のただのお出掛けです。」

「友達同士の…。あの後、俺が合流してからのダリオの機嫌の悪さは、ネモに契約獣を取られたとき以上だったよ。」

「それは…」

なんとも恐ろしい。


「俺とサシャにイジられ倒して、さらに機嫌を損ねていく様子は、ここ最近で一番楽しかったな。」

「こわいこわい。サシャさんもシャノン先輩と一緒で悪ノリするタイプなんですね。え、機嫌を損ね捲ったダリオ先輩は爆発しなかったんですか?」

「最終的にわざわざ校舎の演習室まで転移して、三人で魔法でやり合って、物理的にスッキリしてたよ。」

「なんと…」


ストレスの発散方法のスケールが違う。


「ネモはデートの彼と付き合うの?」

「いや…まだそこまでの感情は無いです。」

「そっか。ダリオとは?付き合おうとか考えないの?」

「ダリオ先輩とはただの先輩と後輩です。それに先輩は…最近は私のことを仲の後輩と思ってくれてるんだとは思いますが、それだけです。」

「それってネモがダリオのことを勝手に想像してるだけだよね?」

「それは、そうですが」


私にとって、ダリオ先輩は憧れの先輩。ずっとそう思ってきたから、これからもそうあるべきと思い込んでいた。


だからこそ、向こうが私を後輩としか見てないのなら尚更私は今の関係を壊してまでどうこうしたいとは思わない。


ただ……先輩が私とジョシュのデートで機嫌を損ねたと言われると、少なからず期待をしても良いのだろうか。



「私は…」


そう口を開きかけたとき、



「いた!」

入り口から声がした。



「おいシャノン!こっちは実験に付き合ってやってんのに、どこで道草くってんだよ!おまえの息抜きは毎度長げーんだよ!」

怒鳴り込んできたのはダリオ先輩だった。



「タイミング最悪だな。今俺はネモと休憩してる最中なの。邪魔すんなよ。」


「あぁ?シバくぞてめぇ。」


「ダリオ先輩、連れて行って貰って大丈夫です。シャノン先輩も、まさか実験途中で抜けてきてたなんて、早く戻ってあげて下さい。」


「残念だね。」


「残念じゃねえよ。じゃあ回収していく、邪魔して悪かったな。」


「いえ、気にしないで下さい。」


ダリオ先輩に連れられ渋々歩いていくシャノン先輩。

何だか嵐のようだ。

と、ドアの前でダリオ先輩がこちらを振り向く。


「ネモ、五限終わりに迎えに行くから。」


「…はい!」



残りの授業も頑張れそうな気がした。




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