25.今の気分
短め。
「…」
「…」
モフモフ
「…」
「…」
くぅん
「…」
「…」
モフモフ…
先ほどから、ダリオ先輩と二人してクロを無言でモフり合っている。
ただ、休日に偶然会っただけだと言うのに、いつもはリラックスしてる状態のこの時間が、何故か緊張感を孕んで非常に気まずい。
「先輩」
「あ?」
無言に耐えれなくなって切り出すも、ダメだ、彼の機嫌が悪い返事に心が折れそうだ。しかし、ここは勇気を出して突撃する。
「気を悪くされたらすいません。先日、私と町でばったり会ったときに…一緒にいた美人なお姉さんは誰なんでしょうか?」
「…魔法科の卒業生。」
「ってことは先輩の先輩なんですね。」
「…」
先輩がクロを膝に乗せ、独り占めし始めた。それから小さな声で話始める。
「…おまえこそ」
「はい」
「一緒にいた連れは?」
「魔法騎士科の友達です。」
「…」
さらっと答えるも、私の返答がお気に召さなかったのか、黙りこんでしまった。
カタリナの言った通り、ダリオ先輩は私とジョシュが一緒にいたことに、私と一緒で、モヤモヤしているように見える。
クロを先輩の膝から掻っ攫い、自分の膝に乗せてギュッとする。クロ、勇気を頂戴。
「…ダリオ先輩、あの人は先輩の彼女さんですか?」
「まさか。サシャはシャノンの彼女だ。」
「へ」
シャノン先輩の彼女!?あのゴージャス美人が!?確かに、シャノン先輩ならあの美人と並んでも見劣りしないけど、あの一癖も二癖もあるシャノン先輩の彼女ってどんなんなんだ!?もはや興味しか湧かない。
「…おい、口から全部声が出てるぞ。」
「わ、すいません、おどろき過ぎて」
どうやら心の声がダダ漏れになってしまっていたようだ。
「でも、なんで二人でいたんですか?」
「あの人は今、軍の魔術部隊に勤めてるんだよ。仕事の話を聞いときたいと思って、時間を作って貰ったんだ。あの後遅れてシャノンも合流した。」
てっきりゴージャス美人とカフェデートを楽しんでいたのだと思ったら、OG訪問だったとは。
「…そうだったんだ。」
霧が晴れるように、心のモヤモヤが晴れた。
こちらがスッキリした気分でいると、次はダリオ先輩が私の手からクロを横取りする。
「で?ただの友達と、休日に食事デートか?」
「はい、ただの友達と休日に食事デートでした。先輩も今度行きましょう。めちゃくちゃ美味しかったです。」
あのとき食べた魚のソテーを思い出し、幸せな気分になる。願わくば、長期休暇に入る前に、また行きたい。
ふと先輩のほうを見ると、先ほどより表情を穏やかにして、こちらを見ていた。
「…あそこ、魚美味いよな。」
「ですよね!?私ランチに魚のソテー食べたんですけど、久しぶりにご飯で感動しました。」
ようやくいつもの調子に戻ってきた。
クロは私たちに取り合いされるのに飽きたのか、向こうに駆けていってしまった。
「休日の真月の曜日はデザートがオマケで付いてくるぞ。」
「ええ、そうなんですか?緑の曜日だったからデザートが無かったのか。次行くなら絶対真月の曜日にしよ。」
「他に行きたいところは?」
「観劇に行きたいです。最近近くの劇場の演目が変わってそれが評判らしくて。」
「チケットとっといてやるから、予定空けとけ。」
「はい!」
なんとなく心が弾んで、最近課題で覚えた花の魔法を唱える。
緑の光とともに、ポンポンとたくさんの赤い花が出てくる。
「なんだそれ。」
「今の気分です。」
「いいな。」
そう言って、ダリオ先輩も手を空中にかざしたと思ったら、そこから赤い光とともに、炎で出来た花が現れた。
「何これ!?」
見たことが無いキレイさに、思わず興奮する。
「今の気分。」
「いいなぁ〜!」
そうして帰るまでの間ずっと、互いに魔法で今の気分を伝えあった。
◇
「私の勝ち〜週末はタダ飯だ〜!」
今日ダリオ先輩の呼び出しがあったら週末にご飯を奢る約束をしていたのを、カタリナはちゃっかり覚えていた。
でも、奢ってあげてもいいか。そんな気分になった。