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24.奇遇ですね



「ダリオの知り合い?」

「…ああ。」


…よりによって、こんなところでダリオ先輩に遭遇するとは。

そして、彼の隣にいる、このゴージャスな金髪の巻き毛の美人は一体誰なんだろう?





今日は学園が休みの日。


高等部に入ってから、休みの日は寮で勉強してるか課題をしてると言ったら、ジョシュが次の休みに出掛けようと提案してくれた。


これまでも友達からのお誘いはあったのだが、私は魔法科にギリギリ合格なだけあって、これまで本当に出かけるような余裕が無かった。普段の授業の予習、復習に加え、容赦ない課題の数々を休みの日にしないと追い付けない。けれども最近は要領を掴んできたのか、そこまで必死にならなくてもよくなってきた。これは自分でも本当に成長した部分だと思っている。


なので、ジョシュの提案に私は簡単に乗っかった。

しかも学園近くの流行りのカフェに行ってみたいことを話すと、快く付き合ってくれると言ってくれたのである。


そんな訳で、今は出かける準備の真っ最中だ。


「ネモ~、ネモの初のお出かけが私とじゃないなんて、悲しいんですけど~。」

 カタリナが不服の声をあげてくる。


「本当にごめん、その場のノリで決まっちゃったの。次の休みはカタリナの行きたいところに私も連れて行ってくれないかな?だめ?」

「別にいいけどさ~。今日の相手もエンデ先輩とお出かけなのかと思ったら違うみたいだし。この浮気者ー」

「いやいや、ダリオ先輩の貴重な休みに私と過ごしてもらうなんて、恐れ多くてできないよ。」

「…それ、絶対先輩の前で言っちゃだめだよ?わかった?」

「なにそれ。そんなこと言う機会もないと思うけど。」


はははと笑いながら、着替えを済ませる。久しぶりに制服以外の服に袖を通すかもしれない。入学前に買った淡い色のワンピースに、カーディガンを羽織る。靴も少しかかとのあるものを履いて、服に対して顔が浮かないよう、久しぶりに化粧もした。


「めっちゃ気合い入ってるじゃん。」

「そんなことないよ。私は女友達と出かけるときのほうが気合い入れるタイプだよ。」

「そうなの?じゃあ、来週は期待してるからね。約束ね。可愛いネモを私に頂戴。」

「了解。」


カタリナと軽い会話を交わしながら、部屋を出て待ち合わせ場所に向かった。 





時間通りに待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでにジョシュが待っていた。

「ごめん、待たせちゃったね。」

「いや、そんなことはない。・・・今日のネモは、なんというか、かわいいな。」

「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいよ。ジョシュも制服のときと違ってかっこいいね。」


ド直球に褒められて、私もストレートに自分の感情を伝える。

今日のジョシュの服装も、制服のローブとは違って、ラフな格好をしており、体格の良さが活かされている格好をしていた。


「…ありがとう。」

何故か口元を手で隠し、私と反対を向いて答える。

よくわからないが、いったん無視することにする。


「私、カフェに行くのが楽しみ過ぎて、朝ごはんほとんど食べてないんだ。もうお腹ぺこぺこだよ。」

「楽しみ過ぎる…だと?」

「うん!早くいこう!」


待ち合わせ場所はカフェのすぐの近くを設定したため、歩いてそれほどかからないはずだ。

二人で並んでお店まで歩き始める。


「今日は朝から鍛錬?」

「ああ、そうだな。平日も休日も変わらずしている。」

「ルーティンを崩さずにできるってすごいよね。私、休日は朝遅く起きて夜更かししちゃうタイプだから、尊敬するよ。」

「…当たり前にしてることだから。そんな褒められることじゃない。」

「当たり前にできるのがすごいんだってば。あ、着いた。」


学園の近くにあるこのカフェは、平日のお昼の方が学生たちで賑わって混んでいたりする。そのため、休日の今は並ばなくても入れるくらいの混雑ぶりだった。

店に入ると、すぐに席に案内され、待つことなく座ることができた。


「ジョシュは来たことあるんだっけ。」

「ああ、でも休日に来るのは初めてだ。」

「休日と平日ではランチメニューが違うらしいから、きっと新鮮な気持ちで食べれるね。」

「新鮮な気持ちか。確かにそうかもな。」


 そこでいったん会話を終了し、二人で真剣にメニューを選ぶ。

「私この魚のソテーのランチにしよ。」

「俺は鶏の煮込みランチにする。大盛で。」


 普段聞くことのない"大盛"という言葉に敏感に反応した。

「やっぱり魔法騎士科の人ってたくさん食べるの?」

「そうだな、人にもよると思うが、授業の大半は体力を使うものだから、食べないと持たないっていうのもあるな。」

「魔法科の男子なんて、私より食べないよ。『今日は草だけでいいわ』ってサラダ食べてる。」


取り留めもない会話が続く。なんだろう、カタリナと部屋でだべっているときのような心地よさが、ジョシュにはある。

二人であれこれ喋っている間に、注文した品が届く。


「…映えも意識しているおしゃれな盛り付けで、見た目だけで美味しそう…いつも寮食か学園の食堂のごはんしか食べてなかったから、食べる前から幸せかも。」

「はは、大げさだな。でも本当に美味そうだ。冷めないうちに食べよう。」


ナイフとフォークでソテーを切り分け、ソースを付けて一口頂く。・・・優勝だ。見た目の期待を裏切つことなく、美味しい。

いつもの寮食や食堂のごはんももちろん美味しいのだが、それとはまた別の繊細な味付けが口に広がる。ジョシュの方を見ると、キレイな所作であっという間に平らげていく。魔法科の草食男子たちとは全く異なる様子に目を奪われる。

「ん?ああ、一口いる?切り分けてあげよう。」

物欲しそうにしていると勘違いされ、鶏の煮込みを一口分切り分けてくれた。お返しに私も魚のソテーを一口切り分けて彼の皿に装ってやる。

貰った煮込みも飛んでもなく美味しかった。ここの店が流行る理由がわかる。



「はぁ・・・幸せ。」

完食。私は今日の仕事はやり切った。なんなら晩御飯もいらない、あとは寝るだけでいい。


「そんなに喜んでもらえるなら、こちらも連れてきた甲斐があった。」

「ううん、こちらこそ付き合ってくれてありがと。」



お店を出て、二人で連れだって歩いていると、すれ違いざまに聞き慣れた声がした。



「…ネモ?」


「え?」



振り向いた先に、驚いた様子の赤い目がこちらを見ていた。


「…エンデ先輩。」

隣にいたジョシュが小さく呟く。


「ダリオ、知り合い?」

「…ああ。」

私がジョシュと一緒だったのに対し、ダリオ先輩はゴージャスな金髪の巻き毛をした美人と二人だった。


…ダリオ先輩の私服姿、初めて見たかもしれない。ワイルドさが魅力の彼のスタイルにあっていて、制服のときとはまた違って恰好よく見える。そして、彼の隣にいる美女も容姿が素晴らしく整っており、二人並ぶととてもお似合いに見えた。


「奇遇ですね。おでかけですか?」

「…ああ。」

どこかそっけない返事のダリオ先輩。


「そうですか、ではよい週末を。」


お連れの方を待たすのも申し訳ない。それだけ言って、彼らと反対の方に歩いていく。

二人から距離が離れたところで、ジョシュがソワソワした様子でこちらに問いかける。


「あっさりした感じだったけど、よかったのか?」

「?うん、向こうもお連れの人がいたし、邪魔しちゃ悪いでしょ。」


その言葉に、ジョシュは一人でぶつぶつ言っている。

「…ネモにとって、あの人はその程度の存在なのか…?」

「?」

私に話しかけてるわけではないので、そっとしておく。


そうこうしている内に、女子寮まで着いた。実家から通っているジョシュとは帰り道が反対方向だったのだが、寮まで送ると言って聞かなかったので、寮の前まで一緒に来てもらっていた。


「今日はありがとう。とっても楽しかったよ。」

「こちらこそ、楽しかった。…また誘ってもいいだろうか?」

「うん!また遊んでね。それじゃ。」


そうして、私の姿が見えなくなるまで手を振ってくるジョシュに、こちらも何度も振り向いて手を振りながら、寮の部屋まで戻った。



「美味しかったし、楽しかった。」

「良かったじゃん~」

一日部屋にいて私の帰りを待っていたというカタリナに、早速今日の感想を伝える。


「ダリオ先輩に会った。」

「えええっ、何それ、え、大丈夫?浮気現場見られちゃってるじゃん~」

「浮気どころか付き合ってないから。先輩も美人連れだった。…彼女かな。」

「うっそ、女連れ?妹とか、姉じゃないの~?」

「先輩は年の離れた弟と妹がいるらしいけど、どう見ても先輩と同い年か年上の人だったから、違うと思う。」

「え~でも、エンデ先輩に彼女がいるって聞いたことないけどなぁ。」

「…」


なんだろう、このモヤモヤは。せっかく楽しい時間を過ごしたのに、最後に台無しにされた感じだ。


「なんか、モヤモヤする。」

「そりゃするでしょ。…お互いに。」

「お互いって?」

「エンデ先輩だよ~!ネモだって、ヒンデル君と一緒だったんでしょ?きっと向こうもモヤモヤしてるよ~」

「うーん、先輩に限ってそんな。」

「じゃあ、明日先輩から呼び出しがあったら、次の休みにネモがご飯おごってよね~。」

「もし呼び出しが無かったら?」

「普通に割り勘。」

「なんか私だけ損してない?!」






そして、休日が終わったその日、カタリナの言う通り、ダリオ先輩が、私の元に会いに来たのだった。




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